Inferior Stratos   作:rain time

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第15話 予想、そして・・・

 シャルロットが真実を語った次の日。兄さんは朝一に楯無さんの所に行き、シャルロットのことを伝えに行った。俺はシャルロットが女だと思われないように周りを警戒することになったが、皆そのような反応が無いし、クズも男だから関わってこない。そういう意味ではありがたかった。鈴や簪、あとのほほんさんには昼の時に屋上で伝えた。鈴たちも黙ってくれるようでシャルロットも安心していた

 で、放課後。今日は鈴と簪、そしてシャルロットとともに特訓している。兄さんはデュノア社の情報を得るために楯無さんと動いているが、俺はその力にはなれないため学年別トーナメントに向けて力をつけている。他の生徒もいるため、シャルロットではなく『シャルル』と呼ぶように気をつけないと

 ちょうど四人だったので1対1の模擬戦を二回やることになった。まずは鈴対簪、そして俺対シャルロットで戦うことに。初戦は簪が勝った。

 

「ああーーっ!!その形態変化(モードチェンジ)が強い~!!」

「戦闘スタイルが変わるからね。分かっていても攻略しづらいでしょ」

「トーナメントまでに攻略を考えないといけないわね・・・」

 

 向こうでは鈴と簪が反省会を開いている。今回鈴は初めて形態変化をする相手と戦ったため、簪の形態変化に対応できずに完敗した。簪もまだ単一能力を十分には使いこなせていないらしく、まだまだのようだ

 俺たちはというと・・・

 

「まさか『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』がこうもあっさり攻略されるなんて・・・」

 

 接戦だったが、俺はシャルロットに勝つことができた

 シャルロットの得意戦法の『砂漠の逃げ水』はどんな時であっても相手から一定の距離と攻撃リズムを保つ、ハイレベルで安定した戦い方だ。シャルロットの専用機『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』は装備格納数が20と俺たちの機体よりも倍近くあり、様々な武器がある。さらにシャルロット自身ができる『高速切替』で通常武器をコールするのにかかる時間のラグがほぼゼロとなるため、シャルロットの戦い方はかなりの完成度となっている。

 でも完成度が高くても完璧ではない。何事にも弱点というものはある

 

「シャルルの『砂漠の逃げ水』ってさ、相手に合わせて戦うのがメインだろ?俺が攻めなかった時戸惑ったでしょ?」

「うん・・・なんで来ないんだろうって思って動けなかった」

「いわゆる受け身の戦い方なんだよな。相手から攻めてきてもらって、相手を崩す。確かに強いけど、それは自分自身の土俵で戦うことをやめている」

 

 剣術にも後の先というものがあり、相手の攻撃に合わせて自身の攻撃を撃ち込む戦法もある。その戦い方が弱い訳ではない。だが、

 

「シャルルの場合、それ()()できないのが問題なことだと思う。実際、シャルルが後の先でしか戦えないと踏んだからそれに合わせたうえで俺の土俵に引っ張り上げられた」

「・・・そうだね。特に銃で間合いを離したから接近したのに、まさか銃で殴りかかるなんて想定外だったよ」

 

 でもこれは兄さんの技なんだけどな。銃を取り出して接近してきた相手を、実は銃型の鈍器で返り討ちにする戦法で俺も見事に引っかかった。意外と分からないものなんだな

 

「あとは安定した戦いってのも気になるな」

「え?でも安定しているほうが良くない?」

「確かにいつも高いレベルをコンスタントに出せるのはメリットさ。でも、こういう模擬戦の時は新しいことに挑戦するほうがいいんじゃないかな?不安定だからこそ時に強力な技とか生み出せるかもしれないし」

 

 常にリスクを減らしていくのも悪くはないが、時にはリスクを冒してリターンを求めるときがあるかもしれない。それにこれは模擬戦だからいくら負けても問題ないし。兄さんと模擬戦をするときお互いにリスクを冒しているから、どちらかがあっさり負けるときもあるし、時にかなりいい勝負をするときもある。俺はそう思う

 

「ま、俺の一意見だからさ」

「ううん、参考になったよ」

「さて、次はどうする?」

 

 次はどの組み合わせで戦うか決めようとしたのだが

 

「おい、遠藤一夏。貴様も専用機持ちとはな。ちょうどいい。私と戦え」

 

 転校初日に兄さんを殺そうとしたボーデヴィッヒが来た。

 こいつのことも兄さんは調べていたらしく、ある程度の情報はある。どうやらドイツの軍属でIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長。織斑千冬のことを崇拝しており、俺たち、とくに雪兄さんは織斑千冬に対して反抗的だからという事で排除しようと思っているとのこと。全く、どこをどう見たらあのクズ教師を崇拝できるんだか。それ以上は時間的に無理だったということで、シャルロットの件が終わったら調べ上げるって兄さんが言っていたな

 で、兄さんがいないから俺を標的にしているわけか

 

「断る。敵に手の内を見せるわけにはいかねえし、何よりその態度が気に食わねえ」

 

 クズみたいに文句を言ってくるだろうが気にしないのが一番だ・・・

 

「そうか、ならば戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 いうが早いか左肩に装備された大型の実装砲が火を噴く。ってマジか!一般生徒もいる中でやるか普通!!模擬戦をするときはできるだけ周りに飛び火しないようにしていたというのに、こいつにはその配慮がない!!

 ま、問題ないけど。俺は実物シールドを展開し、無人ISから放送室を守る要領で地面に受け流す。地面ならどれだけえぐれようが大丈夫。よし、文句なしの受け流しだ

 

「やめようぜ?今のお前じゃあ俺たちを倒せない」

「何だと!?」

 

 俺たち四人ならこいつに負けることはない。と言っても守りに徹すればの話だが

 

『そこの生徒!何をやっている!』

 

 と、どうやら騒ぎを聞きつけた担当の先生がスピーカー越しに叫ぶ

 

「・・・ふん。今日は引こう」

 

 そう言ってアリーナゲートから出ていく。良識ある先生で面倒ごとにならずに済んだ

 

「凄いね、キレイに受け流すなんて」

「あ、あたし教えてほしいな・・・なんて」

「僕も教わりたいな」

「なら、私も!」

「わ、分かったから」

 

 どうやら、この後は受け流し講座になりそうだな。うまく教えられるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏たちが訓練をしているとき、生徒会室では

 

「もー!!こんなに仕事溜め込まないでくださいよ!!」

「だって溜まっちゃうんだもん」

「楯無さんがさぼっているからでしょう!全く!!」

 

 自分は楯無さんが溜めに溜めた仕事の消化を手伝っている。シャルロットのことで味方になってもらいたいのとデュノア社の情報を取ってほしいための対価として生徒会の仕事を手伝うことを自分から言った。だが、まさかここまで溜め込んでいるとは思わなかった。

 それだったら簪にお願いして簪のプロマイドとかにすればよかったかもしれないが、こればかりはしょうがない。早く、正確に書類にハンコを押していく

 30分くらいで楯無さんの言っていたノルマは達成できた

 

「ありがと♪また手伝ってもらおうかしら?」

「絶対ヤです」

 

 慣れないことを処理するのは疲れるし、それに今回はやることが他にもある

 

「で、どうですか。デュノア社の情報は」

「ええ、かなり調べられたわ」

 

 真剣になった楯無さんからデータを送ってもらい、それを見る。確かに自分が調べた以上に細かく記載がされていた

 

「でも一つだけ疑問があるのよ」

「奇遇ですね。自分も一つ気になるところが」

 

 そう言って取り出したのはデュノア社社長のことだ。本名アルベール・デュノアであり、もともとは中小企業だったデュノア社を大企業にした父が急死し、若くして社長に。その後現在の妻、ロマーヌ・デュノアとは資金援助のために結婚。二人の間に子供はいない。

 そして自分が気になるところ、それは

 

「なぜ黒い話が一つもないんだ?」

 

 シャルロットを使い捨ての駒にしているのに、全く黒い話がないという事だ。自分だけでなく、更識家の力を使ってまでも出てこないのは異常だ。ついでに調べた夫人のほうはわんさか出てくるというのに

 すると楯無さんから話しかけられる

 

「ねえ。雪広君」

「何でしょう?」

「シャルロットちゃんのいう事は信用できる?」

「ええ、嘘をついているようには見えませんでしたが・・・なにかおかしな点でも?」

「シャルロットちゃんがというよりも社長に対して疑問があるのよ」

 

 楯無さんは椅子にもたれかかるようにして疑問を述べる

 

「どうして()()()()()()()()()()って言ったのかしら?」

「それは自分の機体が第二世代だからなのでは?」

「そうじゃないわ。だって雪広君は()()()()()()()じゃない」

 

 ・・・確かにそうだ。よく考えれば形態変化をしているのは自分含め世界で三人しかいない。それでいて男性IS操縦者なのだから希少価値はより高いはず

 

「・・・形態変化を知らないって線は」

「無いわ。だって雪広君たちがやったクラス代表決定戦が記録に残っているからよ。デュノア社社長が見てないなんてことはまず無いわ」

「つまり、自分や一夏のデータのほうが織斑よりも価値があると」 

 

 断言できるわ、と楯無さんは言いきる。そうするとなぜ自分との接触を禁止したのかが余計に分からない。デュノア社社長は何を考えているのか全く分からない

 それに何かシャルロットに聞き逃していることがあったような・・・

 

「あんまり根詰めすぎるのはよくないわ。休憩しましょ」

「そうですね・・・ソファーに座っていいですか?」

「ええ、それ柔らかくて気持ちいいわよ」

 

 椅子から立ち上がってソファーに座る

 

「うはー、ふかふかー」

「いいでしょ?毎日来てもいいわよ?」

「仕事しなくてもいいという条件ならばですがね」

「・・・」

「図星ですか」

 

 いくら腑抜けていても隙は見せない。楯無さんはそういうのに長けているからなおさらだ

 

「にしても先輩ってこういう時()頼りになるな~」

「『は』じゃなくて『も』でしょ?」

「何言ってるんですか、いつもは簪のストーキングしているくせに」

「しし、してないわよ!いつもは!!・・・週3くらい・・・」

「してるじゃないですか!まったく!!」

 

 姉妹仲直ってるのになにしてるんだよ!

 

「そもそも初めてときは痴女かと思いましたからね!」

「だから痴女じゃないってば!!」

「どうみても裸エプロンは痴女ですよ!!それかハニートラップかと思ったりも・・・」

 

 ・・・あれ?

 

「?どうしたの?」

「ちょっと待ってください」

 

 そうか、そうだ!

 

「思い出しました!」

「な、なにを?」

「シャルロットに聞く質問です!なんで忘れていたんだ、自分!」

 

 昨日の時に聞くべきだったのに!

 

「どんな質問なの?」

「男性IS操縦者に対してハニートラップ・・・色仕掛けを仕掛けろ、と言われたかどうかです」

「・・・そういう事ね。つまりは男性IS操縦者の子種を取れれば・・・言い方は悪いけど研究につながる」

「それだけじゃありません。ヤったことを脅して自国に男性IS操縦者を取り込むこともできます。襲われたとか理由をでっち上げれば、女尊男卑である現代ならシャルロットの言い分が通るはずですし」

 

 シャルロットを駒としているなら絶対に命令するはずだ。データを盗む以上に強力だし、男装がばれても使える

 もっとも、命令されるほうはたまったもんじゃないが

 

「でも、もしも言われていなかったらデュノア社社長の魂胆が全く分からなくなる」

「・・・ねえ、もしかしたらなんだけど」

 

 楯無さんがある可能性を口にする

 

「もしかして社長は―――じゃないかしら」

「そ、そんなこと、ありえないでしょう!」

「でももしそうだとしたらほぼ全てにおいて辻褄が合わない?シャルロットちゃんを引き取ったのも、IS学園にいれたのも。雪広君への対応は分からないけど」

 

 辻褄は合う。それ以外のことは当てはまりそうにない。でも

 

「・・・まだ確定とは言い切れません。特にシャルロットからもらったあの機械の解析が分からない限り」

 

 ISのデータを盗むと言われているあの機械は楯無さんに預け、そのプログラムデータを解析してもらっている。パソコンのスペック上、楯無さんの所でやったほうが早いと踏んだため、それは楯無さんに任せている。明日には解析結果が出るとのこと。

 

「そうね、でもプログラムデータだけでいいの?私はそっちに精通してないから分からないけど」

「それに関しては自分が解読できるので大丈夫ですよ」

 

 ハッキングはプログラムを理解していなければできないことだし、大丈夫だ

 

「もしそのデータが機能してないことが分かれば・・・」

「十中八九、私の考えた通りになると思うわ」

「でも、そんなこと・・・」

「そんなに社長が気に入らないの?」

「っ・・・」

 

 気に入らないと言えば気に入らない。というより自分の一世代上の人間が信用できない。自分は親に・・・実の親に愛されなかったのだから

 

「そこに私情を挟むのはよくないわ。正しいことが見えなくなっちゃうもの」

「・・・そうですね」

 

 そうだ、それとこれとは別だ。なんだかんだで楯無さんはしっかりしている

 

「で、なんですが・・・チケットもろもろを三人分手配できます?」

「もうしたわ。乗り込むのよね?」

「はい、不確定なことも多いので本人から聞くのが手っ取り早いかと」

「・・・無茶はダメだからね」

「分かってますって」

 

 さて、あとはシャルロットに質問するのとあの機械の解析だ

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、夜。再び一夏にシャルロットをここに連れてくるようにお願いした

 

「で、どうしたの?雪広?」

「悪いね。一つ重大な質問をし忘れていた」

「じ、重大?」

 

 身構えるシャルロット。一夏も真剣に聞いている

 

「質問な。社長から『男性IS操縦者にハニートラップを仕掛けろ』的なことを言われたか?」

「えっ!?」

 

 するとシャルロットは顔を真っ赤にして慌てふためく

 

「ハニートラップって、その、えええ、エッチなこと!?」

「それ以外あるか?」

「だ、駄目だよ!僕たちまだ子供なんだから!!」

 

 ・・・あれ、なんで自分が怒られてるの?というより、あまりにもウブ過ぎないか?思春期の男女ならそういうことに興味を持つはずだろ?普通は。それとも男子中学校ならではのことなのか?

 っと、話が逸れた

 

「そういうってことは、言われてないと取っていいんだな?」

「あ、当たり前じゃないか!!」

「・・・なるほど」

 

 一夏は分かったようだ。この質問の意図が

 

「シャルロットを駒と考えているなら、そうするように命令するはずだと。でもそうじゃなかったってことは・・・」

「・・・信じがたいがそうなのかもな」

「な、何が?」

 

 シャルロットは落ち着きは取り戻したが話の展開についてきてないようだ。まあ、それとして・・・本題だ

 

「一夏、シャルロット。おおよそのデュノア社の・・・社長の考えが分かった」

「「!!」」

「そこで、本心を確認するためにデュノア社に明後日乗り込もうと思っている」

「明後日!?」

「急すぎないか?兄さん」

「急がないとマズいかもしれないからな」

 

 でだ、と一区切りつけた後にはっきりと言う

 

「お前らは一緒に来るか?」

「え!?」

「今回、他国の代表候補生たちが絡むと後々面倒になりそうだが、自分と一夏は国に縛られていないから大丈夫。シャルロットも当事者だし、行こうと思えば行けるのだが」

「・・・」

「俺は着いて行く。兄さんが暴走しないように見張んないとな!」

 

 やっぱり一夏は来るようで安心した。少し不安があったからこれは心強い。さて、シャルロットはどうするか・・・

 

「別に無理はさせない。色々と辛いかもしれないから」

「・・・」

 

 考えている。流石に酷か・・・

 

「行く・・・僕も着いて行く」

「!」

「もう待っているのは嫌、受け身の人生はもう嫌だ!社長たちの考えをこの目で確かめに行きたい!」

 

 出会った時とは思えない発言で戸惑ったが、いい成長じゃないか?自分の知らないところで何かあったのかもな

 

「分かった、明日にはフランスに行く手配ができるから準備してくれ、今日はこれでおしまい。夜遅くにありがとうな」

 

 こっちこそありがとう、と言ってシャルロットは部屋から出ていく

 すると、一夏が話しかける

 

「なあ、シャルロットに今の考えを言わないのか?」

「・・・実はシャルロットのことを完全に信用していない」

「俺は嘘をついているようには見えないけど・・・」

「自分もそう思う。でも万一の為もあるしな。それにまだ本当かわからないし・・・過度に期待させるのもどうかなと」

「そうだな。とにかく明後日だな」

「ああ、体調とかには気を付けてくれ」

 

 自分は明日までに情報をもう一度仕入れる。そして楯無さんからあの機械の正体を知る

 さて、覚悟しろよ・・・『お前』の人生はこれまでなのだから

 




 これ、シャルロットにとってめっちゃ濃い一週間になりそう

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