Inferior Stratos   作:rain time

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第16話 誰がために

 フランスのとある街、そこは数多くの高層ビルが立ち並ぶ。その中特に大きなビルの前に自分たちはいる

 

「へ~え、ここがデュノア社か」

「思った以上に大きいな」

「・・・」

 

 自分たち三人はデュノア社の前にいる

 日本時間の木曜の昼にフランス行きの飛行機に乗り、時差をなくすために一日泊ってから乗り込むことに。泊まったホテルで()()()()()をして、デュノア社の前まで来た

 

「準備はいいな?」

「ああ、もちろん!」

「うん・・・」

「よし、じゃあ行こう」

 

 そう言って入り口に入る。そして、楯無さんが自分とデュノア社長との面会を約束してくれたため、それを受付嬢に伝える。受付嬢も自分のIS学園の制服と学生証から迅速に対応してくれた。どうやって伝えたかって?もちろんフランス語ですよ。会話程度なら英語以外でもやれたら面白くね、という中学の仲間たちによって覚えていたものがこういう時に役立つんだな

 数分後、受付嬢から面会の許可が下り、社長室までを案内してもらうことに。道中、自分や一夏を見下しているような女尊男卑の人間の目線もあったが気にすることなく最上階の社長室にたどり着く

 まずはノック。大企業の会社においてのマナーはよく分からないが、いきなり入るのは失礼だろう

 

「どうぞ」

 

 壮年の男性の声、しかも日本語で返ってきた。それはありがたい

 失礼します、と職員室に入る感じで社長室に入る。そこには二人の姿があった

 大きめの高級そうな椅子に座っているのがデュノア社の社長アルベール・デュノアだ。社長の貫禄があり、年相応の顔つきである。隣に立っているのがその婦人ロマーヌ・デュノア。こちらはやや若作りをしている感じがあり、高圧的な態度で自分たちを見ている

 

「はじめまして、私は()()()()()()・デュノアのクラスメイトで世界三番目の男性IS操縦者の遠藤雪広です。以後お見知りおきを」

「同じくシャルロットの学友で世界二番目の男性IS操縦者の遠藤一夏です」

「・・・私はシャルロット・デュノアの父、そしてデュノア社長のアルベール・デュノアだ」

 

 シャルロットと実名を出しても動揺してないのか・・・そもそもこの会談を社長自ら応諾したことから、楯無さんが言っていた通りになるかもしれない

 

「で、何の用かしら?生憎、私たちはあなたたちとは違って暇ではないのよ」

 

 ロマーヌは典型的な女尊男卑であり、自分たちに皮肉を込めて言っているようだが気にしない

 

「なら、単刀直入に言いましょう。シャルロットがすべて告白してくれましたよ」

「そうだろうな・・・つまり男性IS操縦者のデータは得られなかったと」

「ええ。その通りです」

「はあ、やはり無理だったか」

「ッ・・・!」

 

 シャルロットは奥歯を噛むようにしてうつむく。やはりこの人は私のことを道具としか見ていなかった、そう言いたげな顔だった

 

 でもな、多分違うんだよ

 

「デュノア社長、失礼かもしれませんが()()()()()()()()()()()()

「何?」

「本当はデータなんて取れないように仕込んだのでしょう?」

「え!?」

「なっ!?」

 

 シャルロットとロマーヌは予想外だったのか驚いている。それをしり目に自分はシャルロットから預かった機械を取り出す

 

「これ、あなたがデータを盗むためにシャルロットに渡したものですよね?」

「ああ、間違いない。それはISにつなげることでデータを盗めるものだ」

「ええ、それが本当かどうかハックして調べてもらいました」

「何だと?」

 

 こちらがそのプログラムです、と紙で見せる

 

「にしてもすごいですね、こうプログラミングをするとデータを抜き取って指定の端末に保存できるとは・・・相当いいプログラマーがいるのですね」

 

 ですが、と社長机にプログラムのある二か所を強調したデータの紙を置いたとき、明らかにアルベールは動揺した

 

「まずはここ、抜き取ったデータを保存する端末を指定するプログラムです。なぜ指定先が()()()()なんですか」

「・・・」

「それと、最後のほうにあるこの一文です。これは最後に()()()()()()()()()()()()()()ですよね?違いますか?」

「・・・」

 

 アルベールは沈黙を貫く。するとシャルロットが声を上げる

 

「ごめん、どういうことか全然わからないんだけど・・・」

「簡潔に言うと、この機械ではデータを盗むのは絶対不可能って事さ」

「!?」

「ちょっとどういうことよ!何しくじって・・・」

「お前は黙っていろ」

 

 一夏が威圧するとロマーヌは黙り込む。助かったぞ、一夏。いちいち反応されると話が終わらないからな

 

「つまり、これを渡している時点であなたにはデータを取るためにシャルロットをIS学園に入れたのではないという事が分かりました」

 

 それだけではない。社長の矛盾点を突いて行く

 

「そもそもですが、なぜシャルロットの母が亡くなったとき彼女を引き取ったのですか?あなたにとって問題の火種となる愛人の子供ですよ?」

「たとえ愛人の子供であっても殺すと世間が許さないだろう。そのほうが会社の損失が大きいと踏んだからだ」

「愛人の子供ですからもみ消すことくらいできるのでは?あなたみたいな大企業の社長ならそれくらい簡単でしょう?」

「・・・娘はISの適性が高かった。テストパイロットとしての利用価値が十分にあるから引き取った。生憎テストパイロットが人手不足だったのでな」

 

 それはダウトだ

 

「おかしいですね、シャルロットは引き取られた()ISの適性検査を行ったと聞いています。社長の言い分だと適性検査をする()からシャルロットは適性があると知っていることになりますが?」

「っ・・・」

「それに娘を道具のように思っているなら、どうしてハニートラップをしろと言わなかったのですか?」

「何だと!?」

「だってそうでしょう?機械は不良品でデータが盗めないなら、デュノア社として利益となる手段は『男性IS操縦者を会社に取り込む』、もしくは『男性IS操縦者の子種を持ってくる』。それ以外会社の利益として考えられる手段が私には思いつきませんでしたが?」

「・・・」

「気づかなかった、そういう考えもあります。ですが私はそうは思いません。あなたがそんなポンコツではないと私は思っています。実際にポンコツだったらとっくの昔に倒産しているのですから」

「・・・」

 

 それだけじゃない、シャルロットの口座も他のテストパイロットと同じ額の給料が毎月支払われていた。会社が経営難になっているのにどうでもいいと思う娘にまで正規の給料を渡すのもおかしな点だ。娘を蔑ろにしているとは到底思えない

 すると、黙っていたシャルロットが叫ぶ

 

「ちょ、ちょっと待って!だったらなんで僕をIS学園に入れさせたのさ!どうしてデータを取ってこいだなんて言って、男のふりして入学させたのさ!」

「それは・・・シャルロット、お前を救うためなんじゃないかな」

 

 え?とシャルロットは呆然とする。自分も最初はそう思ったさ。でも楯無さんが言う通り、これが一番つじつまが合うし、これ以上の正答はないはずだ

 

「これは推測なのですが・・・あなたはIS学園特記事項の第21項を使って守ろうとしたのでは?」

「そ、それはありえないって雪広が言っていたじゃないか!」

「ああ、確かに企業や国の命令から守ることはできない。自分もそう思っていた。でも違ったんだ」

 

 これは想像もつかなかったことだったからな。デュノア社長がここまでするのかと

 

「この21項は、例えばある代表候補生の国や所属企業が不祥事を起こしても、その代表候補生は守られるっていう使い方ができる。まあ、企業が不祥事を起こした場合、最悪は代表候補生の資格は剥奪されるかもしれないが、それでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ」

 

 つまり、と一呼吸してから楯無さんが予想していたことを言う

 

「アルベールさん、あなたは自身の人生を捨ててシャルロットを守ろうとしましたね?」

「!!」

「な!?」

 

 図星のようだ。アルベールは目を見開く。シャルロットも自分の仮説に驚く。無理もないか、道具のように使われていたと思っていたら、実は守ろうとしていたなんて、普通は想像つかないだろう

 だが、こればかりは本当かわからない。本心は本人から聞くのが一番だが

 

「ど、どうして?どうしてそんな事するのさ!引き取られてから2年間録に合わないで・・・会社の道具のように僕を扱ってきたこの人が!!」

「と、あなたの娘さんは言っていますが、どうなんですか?これもあなたが考えている作戦のうちなのですか?」

 

 自分はその場から下がり、シャルロットとアルベールが向かい合う形になる。一夏はロマーヌをしゃべらせないように見張ってくれている。さて・・・口を割るのか?

 

「・・・もうずいぶんと前の話だ」

 

 ついにアルベールは白状をするようだ

 

「当時、私はこの会社の一般社員として働きながら社長としての勉強もこなしていた。父が急死し、私は若くして社長になったのだが、あまりに早すぎたのでな。うまくいかないことが続き、会社が傾きかけてしまった。そこで資金援助をしてもらう代わりにロマーヌと結婚することになった。だが、一つ懸念があったのだ。その時まで会社の従業員と付き合っていた」

「その人って・・・」

「お前の母親、クラリスだ。彼女とは愛し合っていたのだが、私の力不足のせいで彼女と別れることになってしまった・・・そしてある時クラリスは会社を退職したのだ」

 

 懐かしいような、それでいて悲しげな眼で過去を振り返るアルベール。

 

「その後なぜクラリスが退職したのかを調べて知ったのだ。子供を・・・シャルロットを身ごもったからだと」

「!!」

「それを知ったときはすぐに一緒に暮らそうと言った。社長の座を捨ててでも一緒になろうと何度も何度も。だがクラリスは断ったのだ。『それではあなたの部下たちが困ってしまう。私のことは気にしないで、あなたは会社の・・・皆さんのために尽くしてください』と言われてな。何度も振られた。子供はどうするんだと聞くと『私が大事に育てるから』と言って聞かなかったんだ」

 

 ただ、とアルベールはその言葉をかみしめるように漏らす

 

「『私の身に何か起きたら、その時はこの子をお願い』と頼んできたのだ」

「・・・」

「そしてクラリスが病に伏したとき、できる限りの援助をした。いい医療を受けさせたのだが・・・その甲斐もなくクラリスは・・・」

 

 アルベールは手を強く握る。痛いほどその気持ちはわかる。最愛の人を失う気持ちは言葉にできないくらいの悲しみだから

 

「そしてすぐにシャルロットを引き取ったのだが、問題が起きた。また会社が傾き始めたのだ。しかも以前よりも傾き方が早く、このままでは倒産してしまう。そうなると娘まで迷惑がかかってしまう。そんなときあるニュースが飛び込んできた。君たち男性IS操縦者が現れたというニュースが。そしてひらめいたのだ」

「男性IS操縦者のデータを盗む名目でIS学園に入れる・・・ですか」

「ああ、そうさ。だが、もしかしたらシャルロットは本当にデータを盗んでしまうかもしれない。そうなるとスパイとして罪を犯してしまう・・・だから必死に考えた結果があの機械のわけだ」

「そうですね、あれでデータを盗もうとしても『不能犯』が確実に適応されますね」

「不能犯?」

「不能犯というのは犯行をしてその結果を出そうと行動しても、その行為から結果を絶対得られない行為のことさ。具体的には人を殺そうと呪術を行っても、それで人を殺すことは絶対不可能だから不能犯になる。そして、不能犯は未遂犯と違って犯罪の危険がないから有罪・無罪以前の話で()()()()()()()()()()()

「!!」

 

 まさかここまで考えていたとは・・・そしてそれを読み切った楯無さんにも感心する。不能犯の知識は楯無さんから頂いた

 

「娘は真面目な子だ。だから私の命令通りにあの機械を使うようにすれば罪に問われることもない。そして、シャルロットがIS学園にいる間に私が罪をかぶれば娘は自由の身になる。テストパイロットとして給料を渡していたから生活にも困らずには生きていける。だが娘にはつらい思いをさせてしまった・・・」

「だから悪役に徹そうとしたと」

「全ては娘を守るために・・・したことだ」

 

 ここまでシャルロットのことを思って・・・いや、愛していたとは。共にいられなかった恋人のため、その娘のために自らを犠牲にしようとしてまで助けようとしたのか・・・

 そしてシャルロットの男装がお粗末だったのも納得がいった。早くにバレてほしかったわけか。それなのになぜクラスメイトは気づかなかったのか

 ふとシャルロットを見ると俯いている。いきなりこんな話をされても理解が追い付かないだろう。自分だったら納得できずに激昂してしまう。あとはシャルロット次第だ。突き放すもよし、和解するもよしだ

 だが、まだやることがある

 自分はロマーヌのほうに振り向く

 

「さて、こちらの話は以上だとして・・・ロマーヌさん。あなた何か隠し事はしていませんか?」

「はあ?何よいきなり」

「例えばデュノア社の横領の主犯であるという事ですよ」

「な!?冗談じゃない!!何でたらめをいうの、このガキ!!」

「いや~、でもデータはあるんですよね~。横領で引き抜かれた額がなぜかあなたの口座に振り込まれていましたよ。デュノア社の経営が悪いのに羽振りのいい生活をしているそうじゃあありませんか」

「な、なぜそれを!?」

 

 全部ハッキングで得た情報だ。この女は横領だけでなく暴行や詐欺など、裏を取ったら真っ黒だった

 それだけじゃない

 

「それに、男性IS操縦者のデータを取って来いと言ったのはアンタの命令だろう?」

「何言っているの!?そういうなら証拠を出しなさいよ!」

「証拠は・・・その機械のプログラムですよ」

 

 自分は先ほどのデータを盗めない機械を指さす

 

「何ですって?」

「さっきアルベールさんはシャルロットを守るために盗めない機械を作ったと言いましたが、それだったらこんなプログラムは作らなくていいはずです。わざわざこんなプログラムになっているのは明らかに誰かを欺くためだと予想しています。当初はアルベールさんを黒と思っていたのでアルベールさんを欺くためと思いましたが・・・あなたを欺くためですよね?アルベールさん?」

「・・・そうだ。お前が裏で何かをしていると感じてはいたが・・・横領の件まで絡んでいたとはな!」

 

 多分データを盗む案を出したのはロマーヌだろう。それを知ったアルベールさんはシャルロットにその機械を渡す前に短時間で誰かに書き換えさせたのだろう

 ま、もうコイツの人生は詰みだがな

 

「と、いう事でロマーヌさん。あなたのしてきたこと全てを警察に報告しておいたので、じきに来るでしょう。ああ、あなたをかばっていた人間は今頃牢の中なのでもうお終いですよ」

「!?」

「早いな、兄さん。やることが」

 

 これは楯無さんがやってくれたのだがな。さて、あとはおとなしく観念するのかだか

 

「冗談じゃないわ!こんなところで捕まってたまるものか!!お前ら、出てこい!!」

 

 そういうと社長室のドアが開き、8人の女がラファールを纏って入ってくる。さっき自分たちがすれ違った女尊男卑の人間達か。ロマーヌ自身もラファールを展開していた

 

「こうなったらこいつらを皆殺しにしてやる!!私に楯突いたことを後悔させてやるわ!!!」

「やはりこうなったか・・・準備はいいな、二人とも?」

「ああ、もちろん!」

「うん!」

「社長はできる限り安全なところに身を隠してください!」

「分かった、後は頼む!」

 

 やはり足掻くか。なら引導を渡してやる!!

 

 




 デュノア社長室は頑丈でまあまあ広いです
 そして、扉は一つで敵が近いため社長は避難できず、身を隠してもらっています

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