Inferior Stratos   作:rain time

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 いや、本当に難航しました
 シャルロットのお父さんの計画ってかなり穴があるんだと感想から知りました。言われればそうですね
 言ってませんでしたが、私は原作知識が8巻で止まっていますのでご了承を



第19話 ONE MORE CHANCE

 あの戦闘から翌日。あの場にいた全員がフランスで一番大きい病院に送られ、そこで夜を過ごした。それぞれ違う病室に入れられたため、自分は一夏と合流してアルベールさんの病室に行く。そこはアルベールさんがベッドに腰かけていて、彼以外誰もいなかった

 

「けがの具合はどうですか?アルベールさん」

「私は大丈夫といったのだがな・・・周りがそれでもというものだから。それよりも君たちは大丈夫なのかね?」

「まあ、動けているので大丈夫です」

 

 アルベールさんは肩に切り傷を負うだけだったが、部下たちの病院に行ったほうがいいという意見に折れ、一日入院したとのこと。自分たちは打撲こそ多数有れど、骨折はしておらず今日で一応は退院できる

 

「シャルロットはまだ目覚め無いのか・・・」

「脳は異常ないと言っていたので、そろそろ起きると思いますが」

 

 シャルロットは未だに眠っている。形態変化による弊害なのか、それともただの疲れなのかは分からない

 ちなみにロマーヌとその取り巻き達は応急手当てを受け、意識が戻った後に警察に連行されるとのこと。もう一生塀の中にいてほしいものだ

 

「そうか、なら娘が起きたときは・・・無事だったときは私に伝えてくれ」

 

 アルベールさんは立ち上がる。その言い方・・・

 

「アルベールさん、何処に行くつもりですか?」

「・・・君たちならわかるはずだ」

「・・・出頭するのですか」

「ああ。私は娘にスパイ行為をさせようとし、偽装入学させた。これは私が命令したのだから私が裁かれることだ」

「「・・・」」

「もう何も心残りは無い・・・娘もこれからは安心して暮らせられる。私が願っていた通りだ」

 

 今から自白すれば罪は軽くなる。でも本当にいいのだろうか、これが正しいのだろうか?アルベールさんは確かに罪を犯したが、娘の為であり個人的に裁かれてほしくない。だが、それを見逃すのもいいのか・・・と様々な思いが渦巻く

 

「兄さん・・・」

「これは、どうしようも・・・」

「ちょーっと待ったーー!!!」

 

 いきなり場にふさわしくない大声がして勢いよく扉が開かれる。そこにはいつもの姿(不思議の国のアリス)の束さんが立っていた。自分たち三人はあまりの出来事に驚く

 

「束さん、フランスに参・上!」

「ぷ、プロフェッサー・篠ノ之!?」

「束さん、どうしてここに?」

「それはいっくんたちがデュノア社で戦っていたのを人工衛星から見ていたのだ!それでこの病院に運ばれたから来たのだ!」

 

 だが何故ここにわざわざ来たんだ?お見舞いされるほどの傷ではないし・・・

 

「さて・・・ここに来たのはある目的があるの。アルベール・デュノアに会いに来た」

「「え!?」」

「わ、私ですか!?」

 

 どういうことだ?何の理由でアルベールさんと接触しようと思っているんだ?一夏も束さんの考えていることが分からないらしく、首をかしげている

 

「アルベール・デュノア、君の会社は第三世代の開発が滞っている、で間違いないよね?」

「はい・・・お恥ずかしながら」

「そこで、この束さんたちが協力してあげようと思うのだよ。条件付きでね」

 

 つまり、契約を結びに来たというわけか。だけどいったいどんな契約なのか。束さんがデュノア社から受けるメリットが思いつかないのだが

 

「して、その条件とは?」

「条件は二つ、一つは君の娘、シャルロット・デュノアが欲しいのさ」

「!?」

「おっと、言い方がマズかったね。正確にはシャルロット・デュノアのISのデータが欲しいのだよん」

 

 シャルロットのデータ?そこまでの価値が・・・あ

 

「ですが、それでよろしいのでしょうか?娘の機体は第二世代。自分自身で言うのもなんですが、いわば時代遅れの機体ですよ?」

「なに卑屈になっているの。私にとっては十分魅力あるものだよ。だって()()()()()()()()んだから」

「!!」

「実は束さんも詳しく分かっていなくてね。サンプルのデータが欲しいのだけど、あいにく数が少なすぎるんだよ。現在形態変化できるのはそこにいるいっくん、ゆーくんを含めて4人しかいないの。つまり希少価値は十分に高いから契約しに来たのだよ」

 

 束さんの言う通り、形態変化できる人が4人、女で考えると二人目の存在。形態変化を解明したい束さんにとってはそのデータは十分に価値あるものだ。

 

「二つ目は、まだこれからなんだけど・・・宇宙開発用のISを作ってほしいと私が言ったら量産してほしい」

「宇宙用のISですか・・・」

「私の夢でもあるからね。それにもともとは宇宙開発のために作ったから。でも、いくら私が作っても世界に浸透しなければならない。だったら世界的に名のある企業に頼もうかなって」

「・・・ですが、なぜここですか?他にも有名企業ならあるはずですが・・・」

「君が宇宙に興味があるからだよ。大学でも宇宙を専攻していて、宇宙に興味があったのも知っている。それに私が初めてISの論文を出したとき、君は否定せずに意見を聞いてくれたよね」

「覚えていてくれていたのですか・・・ですが、結局私は何の力にもなれなかった・・・」

「ううん、とっても嬉しかったんだよ。その時のお礼もあるから君に頼んでいるの」

 

 束さんってかなり情に厚いからな。お気に入りの相手に対してはかなり好待遇してくれるから、アルベールさんにとっては天啓だろう

 

「私が協力すれば成果のある機体が作れる。そうなれば政府も資金援助をしてくれて会社も立て直せる。どう?悪くないんじゃないかな?」

「・・・そうしたいのはやまやまですが、生憎私はこれから捕まる身。その願いはお断りしま・・・」

「ああ、偽装入学やスパイ行為とかに関しては政府が目をつむるように束さんが説得させたから。警察の所に行っても意味ないよ」

「「「な!?」」」

「ま、フランス政府も厄介な女性権利団体を追い出せたから二つ返事でOKだったんだけどね。IS学園側も今回は大目に見るってことになったし」

 

 さらっと言っているが、自分たちは驚くしかなかった。これでアルベールさんが罪をかぶることはなくなった。にしても政府と学園を動かすとは・・・改めて束さんの影響力を思い知った

 

「ただ、束さんとしては偽装入学させたのは悪手だったかな~」

「どう悪手だったんですか?束さん?」

「偽装入学させたってことは学園の生徒ではない、つまり()()()()()()()()()()()ことになる」

「「「!!」」」

 

 それは盲点だった。そうか、偽装入学の時点でIS学園の生徒ではないから特記事項もクソもないことになるのか。そうなるとシャルロット自身も裁かれる可能性があったわけか

 

「社長の娘だからってIS学園に入れられるとは限らない。でも偽装してまでやるのはまずかったかな~。まあ、今回に関してはゆーくんがすぐに気づいたし、何より私が味方したってのが大きいから結果オーライだね!!」

 

 ほんとに結果オーライすぎる。というより思った以上にアルベールさんの作戦がガバガバだったのは自分も気づかなかった

 

「おやおやぁ?ゆーくん、その顔は気づいてなかったようだね?」

「そ、そうですね・・・盲点でした」

「ふっふーん♪まだまだ甘ちゃんだねえ」

「ソウデスネ、ショウジンシマス」

 

 煽ってきやがって。その憎たらしい顔を殴りたい

 と、束さんは煽り顔から一転して真面目な顔でアルベールさんに向く

 

「で、どうする?まだ断る理由がある?」

「・・・すべてはあなたの手の上でしたか」

「ギブアンドテイクだと言ってほしいな~」

「物は言いようですね」

 

 ははは、と笑いつつ束さんは右手を差し出す。その手をアルベールさんは両手でがっちりと握る

 

「これからよろしくお願いします。プロフェッサー・篠ノ之」

「もちろん!!契約成立だね!!これからよろしく!」

 

 そんな姿を自分たちはただ見ていた。なによりこの問題を解決した束さんが、なんとなくうらやましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これからどうするんです?」

 

 束さんが自社に戻った後、兄さんがアルベールさんに尋ねる

 

「そうだな・・・まずは臨時の会議でこのことを社員たちに伝えて・・・」

「いや、そういう事ではないです」

 

 言葉足らずですいません、と謝る。兄さんの聞きたいことは、シャルロットのことだろうな

 

「シャルロットとは・・・これからどうするつもりです?」

「・・・」

 

 アルベールさんは俺たちから目を背け、俯く

 

「・・・娘には辛い思いをさせてしまった。娘を守ろうとして冷たく接していたし、それに私の計画はあまりにも欠陥がありすぎた。偶然が重なったから娘も会社も助かったが・・・これでは娘を守ろうとしたなんて言う資格はない。そもそも私はクラリスを、シャルロットを捨てたのだ。いまさら父親面なんてできないさ」

「でもあなた、シャルロットが暴走した時は止めましたよね」

「あ、あれは無意識のうちに・・・体が勝手に・・・」

 

 ま、血の繋がった子供が殺人をする現場を見たら、誰だって止めるよな。普通は

 何気なく扉を見ると・・・あっ・・・

 アルベールさんはまだ気づいてないようだ。兄さんは・・・気づいているのかな?

 

「で、どうするんです?シャルロットとはやり直すつもりですか?」

「・・・いや、いまさらやり直そうとは思わない」

「どうしてですか!あの時、明らかにシャルロットはあなたを守ろうとしたじゃないですか!」

「先ほども言ったが、いまさら父親面はできない。おこがましいにもほどがある。シャルロットは私のことを・・・」

「そうなの?」

「!?」

「しゃ、シャルロット!?」

「いつからいたんだ?」

「束さんが出てきたときあたりから・・・ずっと扉の前で待ってた」

 

 兄さんとアルベールさんはやっとシャルロットがドアの前にいたことに驚く。本当に二人とも気づいていなかったようだ。というより、シャルロットはかなり序盤からいたことになるな。入ってくればよかったのに

 シャルロットは部屋に入り、アルベールさんの前まで歩く。兄さんは一歩下がってドアの前で立つ

 

「社長・・・本当のことを教えてください。僕のことをどう思っているんですか?」

「わ・・・私は・・・その・・・」

 

 言い淀んでいる。いろんな葛藤があるのだろう。娘として接したい。でも今までの行いが首を絞めている。それにシャルロットもどう思っているのか・・・

 

「・・・そんなに一緒にいたくないのですか?」

「そ、そんなことは!!」

「・・・だって僕のことを避けているように感じたので・・・」

「そ、それは・・・」

「「「・・・」」」

 

 どうするべきか、この沈黙。でも俺たちが口を出すべきではないはず。兄さんも見るに徹しているし・・・本人次第か

 

「もう嘘つかないで・・・」

「え?」

 

 するとシャルロットは怒るような、何かを訴えるかのように俯いて叫ぶ

 

「こんな時まで自身に嘘をつかないでって言ってるの!!」

「!」

「僕を守るためにしてきたんでしょ!?守るためにあえて突き放したんでしょ!!もうその必要はないだろ!!」

「シャルロット・・・」

「扉の前で聞いてたよ!本当だったら僕も捕まるかもしれなかったって、偶然が重なったからうまくいっただけだって!でも僕を助けようとしたことに変わりはないだろ!!」

「・・・」

「それに・・・僕を・・・僕をもう一人にしないでよ!!()()()()!!!」

「!!」

 

 シャルロットはアルベールさんに顔をうずめるようにして抱き着く。肩も震えている

 

「もう一人は嫌なの!!僕と離れないでよ!!!」

「・・・いいのか?」

「いいもなにも僕のためにしてくれたんでしょ?もう恨んでないから。だから、だから!うう~~~」

 

 シャルロットは強く抱きしめる。アルベールさんもシャルロットを抱きしめる。その目から涙がこぼれ落ちる

 

「すまなかった・・・今まで・・・すまなかったっ・・・!」

「お父さん・・・ううあっ・・・」

 

 良かった。これで本当に一件落着だ。もう親子仲がすれ違うことはなさそうだ。やばい、この光景を見ていると俺まで目頭が熱くなってきた

 目元を抑え、気分を紛らわそうと兄さんの方を見る

 

「・・・あれ?」

 

 兄さんがいない。もしかして部屋から出ていったのだろうか?空気を読んで出たのかもしれない。俺もこの部屋から出ると遠くに兄さんの背中が見えた。追いかけよう

 

 

 

 

 気づけば中庭のところまで来ていた。結構なスピードで歩いているからアルベールさんの病室からかなり遠ざかってしまったが、やっと兄さんに声が届くところまで来た

 

「兄さん!」

「・・・ああ、一夏か」

「・・・どうした?」

「なんでもない」

 

 嘘だ。明らかに不機嫌になっている。でも、何か癪に障ることがあっただろうか?

 

「なあ、一夏。やっぱり自分はさ」

 

 と兄さんは自販機の横に立ち、寄りかかるようにして吐き出す

 

「やっぱり、自分は・・・()()()()()()

「は?何言っているんだ。兄さんの暗躍があったからデュノア社は持ち直したし、アルベールさんだって・・・」

「そうじゃないんだ」

 

 兄さんは体の向きを変え、壁と向かい合うようにして立つ

 

「さっき束さんが言っていたこと、偽装入学のことだけどさ・・・自分も気づかなかった。束さんがいなけりゃあ、シャルロットもアルベールさんもデュノア社も助からなかった。自分のしたことなんて束さんと比べたら小さすぎる」

「いや、束さんと比べるのはやめたほうがいい。あの人は別格だから」

「まあ、そうなんだが・・・自分は自分のしたことで助けた気になっていたから、自分も楽観視していたことが情けなくってさ・・・」

 

 それだけじゃない気がする。兄さんの今の雰囲気は落ち込んでいるとかの感じじゃない

 

「それに、さっきの光景見てさ、なんとなく思ったんだ」

 

 ・・・分かってしまった。兄さんが何を言いたいのかも

 

「普通はさ、なんだかんだですれ違っていた親子の絆が戻って大団円!良かったとか感動したとか思うじゃん?」

「・・・」

「それなのに・・・それなのに()は・・・無性に腹立たしくなってさ。そんなことを思う自身に幻滅したというか、やっぱり最低だなって思っちまって」

「・・・」

「ホントさ・・・あの光景がなぜか腹立たしいし・・・そんな自分にも腹が立つ!!」

 

 ダン!!と自販機を叩く。

 兄さんは俺とは違って、実の親から虐待を受けた。だから親子の絆を題材とした絵や小説はかなり嫌っている。だからあの光景も兄さんの癪に障ったのだろう。でも女尊男卑の人間を制裁した結果、関係が修復されたという事もあり、ああなるように願っていたのも事実だ。なんて声を掛けたら・・・

 

「・・・ほんと、一夏には申し訳ないな。こんな最低な兄貴でよ・・・」

「・・・ッ!!」

 

 そんなことない!兄さんは立派だ!そんな卑屈になるな!って、言いたい。でも兄さんのことだ。下手に褒めると余計に落ち込んでしまう

 どうしようかと考えた結果、俺が導いた行動は・・・

 

「・・・そこのベンチに座ったら?少しは落ち着こう?」

「・・・ああ」

 

 俺は兄さんをベンチに座るように促した。こういうときは何もしないのがいい。ただ時が過ぎるようにすればいい。たまにはそんな時間(とき)が必要なのだから

 中庭では心地よい風が吹き、青空が広がっている。兄さんはベンチに座って空を見つめる。俺も隣に座って空を見る。言葉を交わすことなく、ゆっくりと時間は過ぎていく

 雲一つない空に小鳥が二羽羽ばたいていった

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「そういえばなんですが一つだけ気になる点があるんです」

 

 気分を落ち着かせて二人のいる病室に戻った後、自分はある疑問をアルベールさんに聞く

 

「どうして自分と関わるなとシャルロットに命令したのですか?織斑よりもデータの価値はあると思いますが」

「そ、それは・・・」

 

 なぜか言い淀むアルベールさん。何かあるのか?

 

「雪広君に対してある噂があってな・・・火の無いところに煙は立たぬというだろう?」

「どうせろくでもないか悪い噂なのでしょう?」

 

 女尊男卑の人間が流しているんだろう。自分たちの価値を下げようとするために

 

「で、どんな噂なんです?」

 

 どんな質の低い噂が流れているのか、気にはなる

 

「・・・『遠藤雪広はイギリス代表候補生を再起不能にするまで叩き潰した』とか『遠藤雪広は気に入らないイギリス国家を潰した』でな」

「「・・・」」

 

 ・・・・・・

 

「実際にイギリスはそのようになっているし・・・もしものことを思ったらそんな人間と接触はさせたくないと思ってな」

「・・・」

「まあ、噂は噂でしかなかったからな。噂に振り回されて申し訳ない」

 

 その噂は事実です。持ち上げないでください。

 一夏、そのジト目を向けないでください

 

「・・・なんて顔をすればいい?」

「笑えばいいさ」

「「?」」

 

 デュノア親子は真実を知らず、疑問符を浮かべていた




 シャルロットの家の問題はかなり難しいですよね。書く側だとここの処理が大変だと思い知らされました
 これでデュノア社問題は終わりです。次は説明回

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