あの後担当の人が来て、自分がISを動かしたこと、束さん(仲良くなったのでさん付けで呼ぶことにした)がいたことでものすごくテンパっていたが、何とか落ち着かせた。そして、自分たちがISを動かせたということは内緒にしてもらうように何とか言いくるめた。
今、自分たちは束さんの極秘ラボにお邪魔している
そこで、自分たちはお互いの情報を交換した
束さんはISが学会で認められなかったこと、467個のコアを作って行方をくらましたこと、その間もいろんな団体に追われて一夏を探す余裕がなかったこと、・・・そして「白騎士事件」の真相も
「あの頃の私は子供だった、有意性を示せばいいと思って各国のミサイルをハッキングして全部迎撃すれば認められると思ってた」
「でも。兵器として認知されてしまった、と」
「うん・・・、しかも女性しか動かせないのも後で知って・・・」
「えっ、束さんでもわからないんですか?」
「わかってたらすぐにでもそのバグを直してるよ、いっくん」
女性にしか反応しないのはバグだったのか。運がないというか、自身の夢のためにやったことが裏目に出続けてしまうとは。束さんがISの最大の被害者なのかもしれないな・・・。
それだけじゃない、と束さんは言う。白騎士の操縦を織斑千冬、一夏を迫害していた張本人、に任せたことで死者が出てしまったことを嘆いていた。
「でも、白騎士事件での死者は0って」
「確かにミサイルによる死者は0だった。でも戦闘機とか軍艦とか、白騎士を捕まえようとした軍の人は・・・あいつのせいで・・・!」
「「・・・」」
「私がもっといろんな人と関わってれば、あいつじゃなくてもっと思いやりのある人に頼んでおけば・・・!」
束さんは手が白くなるほど固く握られていた。もっと違うやり方をすれば、ISは束さんの思い描いていたパワードスーツとなって、宇宙進出の手助けになっただろう。兵器とみられても、死人を出さずに済んだだろう。そうならなかった、間違った選択をしてしまったことに後悔しているのだろう。
でも、その選択が正しかった、間違っていたとはその時はわからない。人は予知する力なんてないのだから。神でもない限りその時に100%正しい選択をすることはできない。
ふう、と束さんは一息ついた
「ごめんね、みっともない姿見せちゃって」
「大丈夫ですよ。にしても意外とまともなんだなーって安心しました」
「・・・ゆーくんは私のことをどう思っていたのかな?」
「最初は一夏の敵、その後は痛い恰好のヤバいやつてきな?」
「結構辛らつだね!?キミ!」
いや、今時そんな恰好する人はいない。いてもコミケしかいないだろう?
一夏は必死に笑いをこらえている。どうやら自分の発言がツボったらしい
「いっくんもなに笑っているのさ!」
「い、いや、・・・痛い恰好って・・・その通りだなって・・・クククッ」
「いっくんも何気にひどい!!」
先ほどとは打って変わって束さんは頬を膨らませている。その姿はまるで小学生のようでその姿に俺たち二人は笑っていた。
よくわかった。束さんは才能があるがゆえに、友達に、仲間に恵まれていなかったのだ。相談できる人も誤りを正してくれる人もいなかったから間違った選択肢を選んでしまったのだろう。ある意味、自分たちと同じ、小さいときに味方がいなかった人間だったのだろう。そんな束さんに親近感がわく。
初めて会った時とは考えられないほど、この場は和やかだった。
その後いったん寮に戻り、その2日後、再び束さんの極秘ラボにおじゃました。これからどうするかの話し合いの続きをしている
結論として、自分と一夏が男性IS操縦者であることを一昨日公にした。研究所に送られる問題は、束さんがバックにいると伝え、自分たちの身に何かが起きたら容赦しないと束さんの声帯付きのメッセージでメディアに流した。つまり、自分たちはIS学園に入ることになる。束さん曰く、IS学園在籍ならどこの国も手出しがしづらいため、そのほうが安全らしい。
一夏を迫害していたクズたちがいるのは不安だが、一夏と同じ学校に行くことになった。その点は良かったと思う。
「さて、それじゃ二人には専用機を作らないとね」
「専用機ですか・・・」
「そう!持ってて損はないよ!」
「ですが俺たちは企業所属でも代表候補生でもありませんよ。無所属の男が専用機持ってると世間が文句言ってきません?」
そう、自分たちは無所属なのだ。基本的に専用機持ちは国の代表候補生、企業代表、そして企業のテストパイロットとなる必要がある。織斑一春も無所属と思いがちだが、ハッキングで得た情報では日本企業の倉敷研究所に属するように水面下で動いている。
「それなら大丈夫!実は既にダミーの会社を作っているのだ!」
「早いですね。それなら俺たちが企業代表になれば問題ないってわけか」
そういうこと!と明るく答える。企業所属ならそれだけで後ろ盾が付く。そして束さんのオーダーメイドの専用機があれば、学園でも上位に入ることができるだろう。仮に何者かに襲われた時もISで対応すれば間違いなく安全だろう。断る理由なんてない。
でも、
「束さん、申し訳ないのですが、辞退させてもらってよろしいですか?」
「「え?」」
一夏も束さんも自分の返答を予想していなかったのだろう。自分は寮に来た書類を二人に見せる
「実はこの企業からスカウトを受けていまして・・・」
「『ジレス社』?兄さん、どこの会社だ?」
「イタリアのIS企業さ」
「でもなんでそんなとこを?あそこはまだ第3世代ができ始めたくらいだし・・・わたしならそこよりも断然いいISを作れるんだよ?」
確かにそうだ。普通ならそうするし、自分も他の要因がなければジレス社のほうを100%蹴る。ただ、自分にはある思いがあった
「親父が昔ここで働いてたんだ」
「え!お、俺そんな話聞いてないぞ!」
「ああ、一夏が家族になる前にな、昔話で聞いた」
「でも、なんでそこまで固執するのさ?」
「・・・昔、親父がリストラされて途方に暮れていた時、そこのお偉いさんとばったり会って親父の力を見抜いてスカウトされたんだ。ってことは親父の命の恩人がその会社ってわけなんだ。そんな会社からスカウトされたんなら、そこに属してもいいかなってさ」
「そ、それだけのためにか?雪兄さん」
「わかってる、そんなことでその会社に入ることはばかげていることを。でも、それが今できる親父の・・・自分ができなかった親孝行なのかなって」
「!」
「ほんとだったら生きているうちにしたかったけど・・・返し切れない恩があるけど、返す前に逝っちゃったからさ。なら親父を助けてくれたこの会社に尽くすってことが、今できる親父への恩返しかな・・・って」
一夏も束さんもばかげていると思っているに違いない。そんなことはわかっている。我ながらいろいろと飛躍しているし、そのお偉いさんは今もその会社にいるとは限らない。普段の自分だったらあり得ない行為だ。これは単なるエゴだ。
反対されるに違いない。その時はあきらめよう。束さんのオーダーメイドの専用機を作ってもらおう。図々しいが。
そして、束さんが口を開く
「・・・そこは安全?」
「え?」
「その会社はホワイトか調べた?裏で問題を起こしていたり、犯罪に手を染めていたりしてない?」
「その点は大丈夫です。自分の得意なハッキングで得た情報では完全ホワイトです」
そうか、と束さんは納得したような顔で言った。
「私も調べたけど、あそこは悪いうわさがないし・・・、ゆーくんのしたいようにすればいいと思うよ」
「!」
「でも、困ったときとか何か欲しい武器とかあれば私に相談してね!いつでも聞いてあげる。」
「ありがとうございます・・・自分のわがままを聞いてくれて」
「いーのいーの、いっくんの味方になってくれた、本当の家族になってくれた私からのお礼だから」
情が深いというか、やさしいというか、やっぱり束さんはいい人なんだと改めて思う。
「でも、雪兄さんと一緒じゃないのは少し寂しいな」
「確かにそうだが、あんまりべったりなのもどうかと思うぞ」
「それもそうだな、それにこれなら本気で兄さんと競い合えるというわけか!」
「・・・そうだな!
負けるつもりはないからな、というと、俺だって負けてたまるか、と言ってこぶしを合わせる。これまでも体術やゲームとかで競うことはあったが、どちらかというと先生と生徒みたいにどちらかが教えるという感じだった。そういう点では今回のように競い合えるのは初めてだ。
IS、動かせてよかったかもな・・・
兄さんがジレス社に電話をかけている間に束さんがどんなISがいいかを聞いてきた
「いっくんの要望通りのISを作るよ!なんたって束さんなのだから」
にゃっはっはー、と笑う。うさ耳なのににゃーなのか。
いけね、くだらんことを考えていた。真面目に考えないと・・・
「どんな要望でもいいんですか?」
「もちろんだよ!」
俺の要望は第2世代の機体であること、近接メインだが遠距離用の武装も欲しいこと、剣は少なくとも3本ほしいことなどを伝える。
そして、俺のもっともかなえてほしい要望で、たぶん却下されるだろう要望をいう
「それでですが、スペックは他の専用機とほぼ同じくらいがいいです」
「ふむふむ、スペックは同じくらい・・・はい?」
やっぱり聞き返すよな。普通だったら最高クラスのものを作ってほしいと思うだろう
「束さんの聞き間違いかな?もう一回言ってくれる?」
「スペックは今の世界にある専用機と同じくらいがいいです」
「・・・どうして?」
「さっき兄さんが『同じスタートラインで勝負できるな』って言ってたじゃないですか、たぶん兄さんは第2世代の専用機を持つ。でも俺が最先端の専用機を持つって不公平かな、と」
兄さんに似たのかな、こういう変なところに固執する癖が。
「まあ、いっくんの望みならそうするけど・・・いいの?他の代表候補生は訓練時間も多いし、勝負した時に勝てるかどうか・・・」
「今から入学までに死ぬ気で訓練を積み重ねていきますよ」
幸いにも俺はいろんな格闘技を習ってきた。基礎体力はあるから、まずはISに慣れ、その後今まで学んできたものを生かすようにする
努力するのは俺の十八番だ。それに最初は負けても次に生かせばいい
「・・・ゆーくんといい、いっくんといい、茨の道を行きたがるよね。そんなこと普通はしないよ」
「なんて言ったらいいんでしょうね?最初から強いものを持つと人は努力しなくなるんですよ」
実際にそういうやつはいましたし、というと束さんは気づく。わかってくれたようだ。織斑一春のことを言ってたのだ
「でもいっくんはアイツと違って努力し続けてるし、堕落するなんて思わないけど・・・わかった。いっくんの望み通りにするよ」
でも!と束さんは俺に指をさす
「あのクズよりもいい機体にはするからね!」
「それは俺も言おうとしてました。わかってくれて何よりです」
「そりゃあ、いっくんのことだもん!」
どこまで知っているのか少し怖いとこもあるが、それでこその束さんだ。
ああ、俺の人生は捨てたもんじゃないな。だったら、尽くしてくれた束さんの為にも、俺自身の為にもこれから頑張らないとな!
『男性IS操縦者、日本で新たに二名見つかる!』
『新たな男性IS操縦者、遠藤雪広はイタリア『ジレス社』、遠藤一夏は日本の『ラビットファクトリー』のテストパイロットへ!』
『新たな二人もIS学園へ!!』
俺様はこのニュースに苛立った。俺だけのハーレム生活に邪魔するものが現れやがった!しかも、この「遠藤一夏」は間違いなくあの出来損ないに違いない!あいつはなぜか束さんには好かれていたからな。まったく、束さんも見る目がないぜ
「一春、あの男、まさか」
「ああ、たぶん出来損ないだろう。まったく生きているなんてな」
「おとなしく死んでればよかったものを。私の弟は一春ただ一人なのだから」
まあいい、IS学園でもう一人もろとも踏み台にしてやる。そして、生きていることを後悔させてやるぜ
こっちには千冬姉がいるし、なんたって俺様は天才なんだからなあ!!覚悟しやがれ!!
やっとプロローグ終了です
こういうパターンの物語ではオリ主人公も一夏と同じところに所属しますが、あえて所属を分けました。男兄弟だからそんなにべったりだと変かなと。
ご都合主義なとこもありますが、それが私の世界なので
p.s.
悪役のセリフが難しい