Inferior Stratos 作:ユキ (旧 rain time)
チビのISが溶け、チビを包み上げる。そしてだんだんと人型に、いや、ISのようなものになった。だが、自分はこのISに見覚えがある
「雪広、これは・・・」
「『暮桜』に似ているな」
クズ教師が現役の時に使っていたISにそっくりだった。だがそんな風に変化することはあり得るのだろうか?
ふと、束さんとISについて話していた時に知ったシステムを思い出す
「VTシステムか?」
「VTシステムって、アラスカ条約で禁止されているあの?」
VTシステム。正式名称は『ヴァルキリー・トレース・システム』。モンド・グロッソ優勝者などの戦闘データを入力し、それをその通りに実行させるいわばデータ通りのコピーを生み出すシステム。だが束さん曰く、十全とは程遠く最低なシステムであるらしく、シャルロットの言った通り禁止されている。その時自分もそうなんだ程度にしか聞いていなかったので、詳しくは知らない。
まずはどんな状況なのかを山田先生から聞かないと
「山田先生、これはどういう状態ですか?続行ですか?」
『いえ、試合は中止です!ですが、教師部隊用の緊急用ピットがまたしてもロックされていて・・・最低でも10分はかかります!』
「分かりました。こちらもうまくやるので、お願いしますね」
最低でも10分か・・・相手がどう動くかわからない以上、何とも言えない。が、今のところはヤツが動く気配がない。できれば撤退したいが、まだ観客席には生徒が多数いる。ヤツが暴れられるとそこにまで被害が出るかもしれないため、引くにも引けない
「ねえ雪広。アレ、動かないけど?」
「下手に刺激させないようにしよう。でも気を抜くなよ」
「ああ、分かっ・・・」
「うおおおぉっ!!!」
選手用のピットから白のISが飛び出してきた。間違いなくあのクズの白式。クズはチビだったものに対してブレードを振りかぶろうとした。が、それより早くソレはロングブレードを振り、クズの胴体を横一閃に斬る。とんでもないスピードでクズは吹っ飛ばされ、壁にめり込み意識を失った。
まずいな・・・明らかにパワーもスピードもケタ違いだ。なんて思っていたら、こちらに標的を定めてきやがった!!
ヒュッ、ガキュ!!
「ぐおおおっ!」
なんつー力だ!鍔迫り合いにはなっているが、明らかに押されている。本当に余計なことをしてくれたな、あのクズ!!
きりもみ回転で剣を受け流し、態勢を立て直す
「シャルロット、とにかく回避だ!攻めなくていい!」
「ああ!時間を稼げばいいんだな!!」
「15分くらいは保てるように『ちょっ、織斑先生何を・・・おい、さっさと倒せ』」
突如管制室からクズ教師が言ってきやがる。何を言ってんだ、こいつは!!自分はアレの標的にされたようで執拗に攻撃してくる。それを避けるのに精いっぱいでしゃべられない
『アリーナに被害が出る。そうなる前に早く倒せ』
「だったら、早く教師部隊のほうを何とかしやがれ!俺らはてめえの駒じゃあねえんだよ!!」
『なんだ?所詮はその程度か?それともおじけづいたか?情けないことこの上ないな』
「なんだと!!!」
やけに煽ってきやがるな。残念ながら自分はその程度の煽りには乗らないんだよ。シャルロットは・・・今の状態だと乗りやすいのかもしれない。そうであってほしい
でも、なぜ今煽るか・・・煽る理由は相手を不快にさせる他、相手が痛い目に合うように誘導するためが基本。今回の場合は自分やシャルロットがアレに対して重傷、もしくは重体にさせるため・・・だけか?それだったらもっと早く、チビがアレになったときに言うはず。
・・・そうか。瞬間加速でアレにタックルした後、すぐ離れる。これでしゃべる余裕ができた
「シャルロット、撤退だ。ピットに戻るぞ」
『はっ!おじけづいたか!』
「ええ。だからそこに転がっているクズを囮にして撤退しますわ」
『なんだと貴様!!!』
激昂するところから確信した。クズに攻撃がいかないようにするため、自分たちを囮にしようとしたのだろう。教師部隊が到着したらすぐに保護されるだろうから、その時間稼ぎにしようとしたわけか。残念だったな、てめえの手の上に転がされるわけないだろ、バーカ
アレが迫ってくる。逃げながらクズ教師から情報を得なければ
「こちらの要求を飲まなければ、自分たちはここから撤退する」
『・・・』
「言っておくが、織斑の命は実質自分たちが握っているんだ。早くしないと愛しの弟がバラバラになって帰ってくるかもしれんぞ」
『クッ・・・』
すぐに返答するかと思ったが、まだのようだ。弟関連なら即答するかと思ったが、そうとう癪に触っているのだろう。少し遅れて返事が来た
『なんだ条件は』
「まずはアレを鎮静化させるまで、自分やシャルロットに責任を押し付けないでください。アンタならやりそうなので」
『・・・分かった』
「二つ目はアレについてわかることを話してください。それを参考にします。ああ、嘘はつかないほうがいいですよ。自分たちが死んだら、織斑が危険になるのでね」
クズ教師は舌打ちした後、説明する。やはりVTシステムらしく、おおよそは自分の知っている情報と合致していた。が、その危険性は初めて聞いた。どうやら身体に大きな負担がかかるため、神経断裂や組織の破壊、最悪は死亡するとのこと。言われればその通りだな、だから禁止されたのか
また、そのデータは第一回モンド・グロッソの優勝者、つまりはクズ教師のデータを基にしているとのこと。暮桜に似ていたのはそういうわけか
「なるほど。最後に一つ。最初と被っていますが、仮に自分たちでアレを制圧できた時、ボーデヴィッヒの生死について文句言わないでくださいね」
『なんだと!?』
「VTシステムによって死ぬことだってあるのでしょう?助けるのが遅くて死んでました、ってことになっても自分たちに責任を押し付けないことです」
『貴様ァ!!』
「いいんですよ、飲めなければ自分たちは撤退するのみですから」
『クソッ・・・・・・分かった。だが織斑は死なせるなよ?もし、貴様らだけが・・・』
「はいはい、わかりましたよっと」
通信を切断する。しっかりと記録してあるから、クズ教師がこの約束を反故にすることはできない。とはいっても織斑を見捨てたらさすがに世間体的にマズいか・・・
問題は偽暮桜をどうするかだ。ここは代表候補生に聞いて見る。もちろん偽暮桜から逃げ回りながら
「どうする?このまま逃げたほうが良さげ?それとも倒すなりしたほうがいい?」
「・・・このままじゃあジリ貧は確実。10分は持つかもしれないけど、それは教師部隊が来る最短の時間だし・・・」
「逃げ回っている間にチビが死ぬのを待つってのは?一応ISは操縦者がいること前提だから、中の奴が死んだら機能は停止するのでは?」
「でもVTシステムが発動してどのくらいたったら死ぬかわからないし・・・それに『システム』だから中の奴が死んでいてもシステムは動き続ける可能性が高い」
つまり話をまとめると・・・
「アレを倒す方が生き延びる可能性が高い、ってわけか」
「・・・どうする?はっきり言って勝てる見込み無いんだけど」
「ちなみにシャルロットのSEは?」
「あと2割くらい。
「こっちは8割近くある。だからメインは自分で行くしかない」
シャルロットの形態変化と単一能力はどちらもSEを消費する、かなりハイリスクなものとなっている。対して自分は今回形態変化せず、シャルロットの援護で遠距離から攻めていたため、SEはかなり残っている。もしもシャルロットがチビに負けたとしても、自分でとどめをさせるようにするためだ。決しておいしいところを取ろうとしたわけではない。断じて。
「でも雪広がアレとタイマン張るのはできるの?」
「だから形態変化する。それなら勝機はある」
でもそのためには、一度立ち止まって集中しなければならない。つまり完全に無防備となってしまう。その隙を偽暮桜は見逃すとは思えない。だから
「時間稼ぎ、任せてもいいか?」
「おっけー、やってやろうじゃない!!」
「・・・死ぬなよ」
「ふふん、デュノア社の意地を見せてやる!!」
シャルロットは偽暮桜に突っ込んでいく
雪広の時間稼ぎのためにも、俺は大鎌を手に持ち、偽暮桜に突っ込む。ヤツよりも速い速度で突っ込めれば相手を押し込むことができる。そうなるはずだった
ガッ!!
「嘘だろ!?」
形態変化でパワーが上がったとしてもこちらが押し負けているなんて、どんな力持っているんだよ!!ならば、影を回り込ませて挟撃するしかない!
影の標的を偽暮桜に設定して、二対一の状態にした。だが偽暮桜は片手で俺たちをそれぞれ対応してきやがる。こいつ、一対多でも対応できるのかよ!影と連携を組んでいても受け止められるとどうしようもない。が、攻め続ける
ある程度した後、ヤツが俺に対し、剣を振り上げてくる。あまりの速度に躱せないと判断したため、大鎌で受け止めようとした。だが
ガンッ!!
「うわっ!!」
ヤツの攻撃に耐えられず大鎌を離してしまい、両腕が上がってしまった。まずい!今、無防備だ!ヤツは俺の胴に袈裟切りを仕掛けてくるのは分かっているのに、体が動かない!ならば、影を楯にするしかない!!
間一髪で影を俺の前に呼び寄せた。背に腹は代えられない。影の背を蹴り、ヤツの攻撃をギリギリで避ける。影は偽暮桜の袈裟切りで形を維持できなくなり、霧散してしまった。
でも時間は稼げたようだ
「ガアアアアアアア!!!」
俺の背後から咆哮が聞こえる。それと同時に俺は偽暮桜から距離を置き、
あとは任せたよ
黒い霧を切り裂き、偽暮桜と対峙する。シャルロットはクズを回収して離れたところに退避したようだ。偽暮桜はまだ動いてこない
これでもヤツのほうが機動力もパワーも上を取られているだろう。だが、こちらにはいい情報がある。ヤツが
ヤツとにらみ合いをする。動くべきか、待つべきか・・・攻めたい気持ちを抑えてここはあえて待つ。時間は稼げた方がいいからな。攻めの衝動を抑えていると、ヤツは痺れを切らして特攻する。クズやモップの比にならないスピードだ。
だが
「終いにしよう」
爪を呼び出し、構える。後ろにシャルロットがいるのを確認し一言二言伝えた後、ヤツを見る。俺もヤツも動かない
一分か、一秒か、一瞬か・・・時間が流れた後
「「・・・!」」
同時に動く。双方直線的に突っ込む特攻。だが、俺はそこから『八艘飛び』で右斜めに飛ぶ。クラス代表決定戦で一夏にやったのと同じやり方だ
ヤツはそれを見てからなのか、見越していたのか剣の軌道を変えて俺をとらえにかかる・・・かかったな
「これはタッグマッチだ」
刹那、ヤツは頭を狙撃された。想定外のようで上体が上がる。狙撃主はシャルロットだ
特攻前、シャルロットに狙撃のお願いをしておいたのだ。もしもの時に二人で練習しておいたことだったが、成功だ
「ウオラアア!!!」
右の爪の渾身の一撃を無防備な首に叩き込む
ザシュッ・・・
ヤツの頭が離れる。頭は地面に落ちると同時に粒子となって消え去った。これで終わった・・・
こともなくヤツはまだ俺に突っ込んでくる
「想定内だ」
システムで動いている以上、頭を吹き飛ばしてもまだまだ健在の可能性は十分にあった。もちろん対策はある。
頭を離すのと同時に脚部用ブレードを左足に呼び出し、ヤツの右下から斜めに蹴り上げ・・・切り上げる。一夏がやっていた『一閃二段の構え』の俺なりのアレンジ版だ。ヤツはかわすことができずに切り上げが直撃する
「ぎ、ギ・・・ガ・・・」
切り上げたところから粒子となって消えていき、ヤツは倒れる。残ったのはその場で倒れたチビだけ。一応息はある
IS反応もなし。という事は
「・・・終わった」
戦闘時間は偽暮桜になってからわずか8分。教師部隊が来る最速よりも短かったが、もっと長く感じた。自分もシャルロットもISを解除する。自分は集中力が切れて座り込み、こちらにシャルロットが来る
「お疲れ様。凄かったよ」
「いや、シャルロットのおかげさ。かなり負担をかけさせてしまったし・・・」
「そんなことないよ。雪広がいなければ、アレをどうにかすることなんてできなかった」
「そう言ってもらえるなら嬉しいよ」
自分もシャルロットも多少の怪我はあるかもしれないが、無事で済んだ。この2分後に教師部隊が到着し、事の経緯を説明した後ピットに戻った
こうして学年末トーナメントは幕を閉じた。
そろそろ更新速度が落ちそう