今回、ストーリーの進行により二度目のタグ追加をしました
またまた読者が離れる展開です。ご注意ください
「ふう・・・」
ふとため息が漏れてしまった。無理もない。今日は死ぬかもしれない経験をしたのだから精神的に疲れた。その後の報告は明日でよいと先生から伝えられたので、
部屋の前に着き、鍵を開いて中に入る
「お帰り、兄さん」
「ただいま・・・」
「遅かったけど、何かあったのか?」
「いや、やることをやっただけだ」
そっか、と返事を聞き自分はベッドに倒れこむ。五分経ったら声かけてと一夏に言って目を閉じる。五分経つ前に目を開けてベッドから脱出。少しはスッキリした
すると一夏が何かを聞きたそうにしていた
「・・・兄さんさ」
「うん?」
「ボーデヴィッヒを助けたの?」
「・・・」
「ほら、アイツは一応社会的弱者の部類に入るんじゃないか?それだったら兄さんは手を差し伸べるのかなって」
チビを調べたら、どうやらヤツは遺伝子強化試験体、つまり人工的に造られた人間だった。そんな環境がいいはずもなく、愛情なんてない生活だった。そんな人を、自分と同じかそれ以上のひどい環境で育った人を救いたいのが自分の小さな夢だ
「そりゃあ、もちろん・・・」
「う、ぁ・・・」
医務室で横になっていた
「気が付いたか」
その声にラウラは起き上がろうとする。敬愛している私の声に反応したようだ。だが、体が悲鳴を上げているのか、やっとの思いで起き上がる
「私・・・は・・・?」
「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある」
「何が・・・起きたのですか・・・?」
私はこれまでの経緯を説明することにした。ラウラのISにVTシステムが組み込まれていたこと、それが発動して大会は中止になったこと。そして、それを
「巧妙に隠されていた。操縦者の精神状態、そして操縦者の願望など、すべてがそろうと発動するようだ」
「・・・私が望んだからですね」
力を欲したことを、その力で織斑千冬が正しいことを証明したかったのだろう。だがそれだけではないようだ。何か迷っている。これでは私の思い通りに動くかわからない
「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれ、ラウラは驚きを合わせて顔を上げる。ここは喝を入れておこう。これからも私の駒として動かすために教育をしなければな
「無様だな」
「・・・え?」
「試合では旧型のIS二機に振り回され、単一能力すらも発動できず、パイルバンカーで決着をつけられる。そしてVTシステムで力を手に入れても暴走し、挙句の果てに遠藤雪広に助けられる始末」
「あ・・・」
「私は言ったはずだ、完膚なきまでに遠藤雪広を叩き潰せと」
だがラウラはかけ布団をぎゅっと握っておずおずと信じられないことを語る
「教官・・・遠藤雪広は、彼は強いです。私では倒すことが難しいです。それに・・・強いだけではないはずです」
「ほう?」
「暴走していた私を救ってくれました。敵対していたはずの、敵意を持っていた私を。・・・もしかしたら教官に反発する理由があるのではないでしょうか?」
「・・・」
「教官、一度彼と話してみてはどうでしょうか?彼はあなたが思ったほど悪い人間ではないかもしれません」
こいつは何を言っているのだ?あのクズ生徒に対して殺意が無くなったばかりか、話し合えだと!?私はブリュンヒルデ、世界最強なのだぞ!私の考えこそ絶対であり、コイツもそう思っていたのに
コイツには失望した
「・・・どうやら私はお前を買い被っていたようだ」
「え?」
「私の敵に対して、ここまで腑抜けるとはな。力を求め、私を慕っていた時とは大違いだ」
「あ、あの・・・」
「所詮はお前もその程度の、お前が見下していた連中と同程度だったというわけか」
「い、いえ!違いま・・・」
「いいや、違わない。前のお前なら、私のいう事に対して従順に聞いていた。だが、お前は今、私に楯突いたのだ」
「そ、そのつもりで言ったわけでは!」
「私に意見を言った時点で反抗したも同然」
踵を返す。この顔を見たくない、不愉快だ。飼い犬に手を噛まれるのはこういう事か
「もう私のことを教官というな。貴様に言われる筋合いはない」
「きょ、教官!待ってください!も、もう一度だけチャンスを!私に・・・」
「貴様のような腑抜けに用は無い」
保健室から出る。何か叫んでいるが耳障りだ。やはり所詮は試験体。私の駒にはならなかったようだ。やはり一春と箒、そして束以外はクズだな
と、思っていたが雪広を葬るための駒は欲しいところだな。その点ではボーデヴィッヒは最適。仕方ない、明日あたりで許してやろう。そうすればボーデヴィッヒは今まで以上に私の思い通りに動いてくれるはずだ。今度こそ奴ら兄弟を葬ってもらおう
さて、やることをやるために保健室に来た。ここにあのチビがいるのだろう。いや、いるようだ。声が聞こえる
「グズッ・・・ヒック・・・」
泣いているのか?何かあったのか?まあいい、とにかく警戒を怠らないようにしないと。その扉を開ける
「・・・誰だ」
「お前の敵さ」
「・・・そうか」
反応が薄い。それに殺意も感じない。これじゃあ拍子抜けだ
「何があった」
「・・・」
「・・・まあ、自分と敵対しているしな」
こんな奴にこの情報を言ってもつまらない。踵を返そうとした時
「・・・待ってくれ、話を聞いてくれ」
「ふーん」
こいつの心情が分からん。だが、今は敵意がなさそうだ。椅子を持ってきてチビが見える位置に座ると、チビはこれまでのことを話した。それだけでなく、自身の生まれなどもすべて話してきた。
こいつの出生や生い立ちは知っていたが、改めて織斑千冬がクズだと認識したわ。でも、クズ教師にとってコイツはいい駒だろうから、あえて厳しくしたってこともあり得る。と考えていると
「質問をしたい、お前はなぜ強い?」
「は?」
「私は強さだけを求めてきた。だが、お前は暴走した私を止めることができた。気になるのだ!どうやってその強さを得たのか」
VTシステムを止められたのはアシストがあったからなんだけどな。でも言うといろいろと面倒だから言わなくていいだろう。にしても強さか・・・考えたこともなかったな
「そうだな・・・守るためか」
「守る・・・?」
「そ。自分の命を守るためさ」
ヒーローとかは『他人を守るためさ!』という臭いセリフを言うだろうが、自分はそんな人間じゃない。自分の夢を実現するためにはまず生きていることが必要条件。
「時に人は自分以外の人を守りたくなるときがあるかもしれないけどな」
「・・・」
「ま、この質問は千差万別。正答なんてない。自分が正しいと思うことをすればいいさ」
「正しいこと・・・」
「そ。よーするに自分で考えろってことだ」
なんか希望を与えるようなことを言っているかもしれない。事実、チビの目に光が戻っている。良かった・・・
これなら効きそうだ
「それよりもお前に伝言。今すぐメールを見ろとさ」
「メール?」
「内容は知らんけど、ドイツのお偉いさんが見ろってさ。今確認すれば?」
チビは携帯を取り出してメールを確認する。目が動いている。しっかり読んでいるようだ
その目がだんだんと見開き、手が震え始めていく。顔も青ざめていくのがよくわかる
内容を知らないと言ったが嘘だ。そもそも伝言自体も嘘。でもコイツにメールが来ているのはハッキングして知っているし、もちろん内容も知っている。だからチビは恐怖しているのだ。
メールの内容、それはドイツ代表候補の剥奪、並びに本国への帰還命令だ。理由は男性IS操縦者である自分への殺害未遂。音源もしっかりと残っており、代表候補生として、そして軍人としてあるまじき行動をしたことへの処罰なのだろう。
実際はVTシステムの責任をチビに押し付けるためではないかと思う。IS条約で禁止されているものを公にされるよりも代表候補生の不祥事のほうが軽いと思っての行動だろう。要はこのチビは囮にされる
「どうしたんだい?」
自分はあえて知らないふりをしてチビに聞く。さあ、どう行動するか。絶望か、逆ギレか、精神崩壊か。逆ギレしたなら速攻抑えて、楯無さんに突き出す。いつ襲ってきてもいいように身構えるが・・・
「そんな・・・う、嘘だ・・・」
放心している模様。現実を受け入れられないようだ。なら甘い誘惑を醸し出してやろう
「どうしようもない時は誰かに頼るのも強さの秘訣だぞ?」
「!」
とは言っても無理だがな。いくら織斑千冬が出しゃばったとしてもどうにかなる問題ではない。確かにヤツには『ブリュンヒルデ』という絶大な人気はあるが、あくまで
と思っていたのだがチビは意外な行動に出た
「お、お願いがある・・・私を・・・助けてほしい・・・」
「は?」
何を言ってんだコイツ?なぜ敵対している自分に助けるんだよ?
「頼む・・・もうお前しか・・・遠藤雪広しかいないんだ・・・教官にも見捨てられて・・・もう・・・」
「・・・」
「図々しいのは承知している・・・頼む・・・」
悲痛な思いがひしひしと伝わる。今目の前にはただのか弱い少女がいる。シーツを弱弱しく握り、目から涙がこぼれそうな少女が。
自分はその震えている手をしっかりとつかんで
「大丈夫、自分が守る。助けてやる」
って言えば三流のヒーローになれるんだろうな。
「誰が助けるんだよ、ヴァーカ」
悪人顔負けの悪い顔になりながらチビを見下す。誰が敵に塩を送ることなんてするかよ
コイツはどうあれ敵だ。敵なら完膚なきまで、社会から退場するまで徹底的に潰さなきゃ。敵を助けるなんて甘いんだよ。いつ寝首を書くかもわからんし。そもそも悪いやつが改心するなんて漫画の中しか起きないことなんだよ
チビの目がうつろになっていく。ははっ、ざまあねえな
「あ、ああっ・・・」
「図々しいって分かっているならこの返答も分かっていただろう?なに絶望してんだよ」
非情だとか言われるかもしれない。でもコイツは明確な殺意があったのだ。そんな奴にために行動しようなんて、自分にはできない。漫画のよくある主人公だけがやればいい
最後に・・・コイツの心を壊す
「俺を敵に回したのが運の尽きだったな。遺伝子強化試験体C-0037」
「!!!」
「所詮は試験体。織斑千冬に見放されるのも当然なんだよ」
「あああ・・・」
「もうお前を必要とする人などいない。だから
もうくたばっちまえ」
刹那、チビがベッドに倒れる。顔に手をやっているから表情は分からない。だが
「はは、はははっ・・・・ははははは」
乾いた笑い声が部屋を不快で満たす。どうやら壊れたようだ。いや、壊したというほうが正解か
これでやることは終わった。このチビを再起不能にすることに。自分に一夏、仲間の安全のためだ。何も悪くないし、最善の手に違いはない
うるさくなった保健室から自分は出ていった
「・・・助けるわけないじゃん」
一夏に正直に伝える。
「確かに、チビは被害者だ。だが、自分に明確な敵意があった。そんな奴を助けるようなお人よしではないことは分かってんだろ?」
「まあ、そうだけどさ。シャルロットと状況は似ているかなと思ったからな。どちらも上の命令に逆らえない状況だったからさ」
確かにチビもクズ教師に命令されていたから、その点ではシャルロットと共通点はある。だが
「明確な違いは『その命令に対して本人がどう思っていたか』だ。チビはそれを実行するほうが良いと思って積極的に自分たちに危害を加えようとした。対してシャルロットは未然に防いだとはいえ、スパイに消極的だった。だからシャルロットは被害者だから助けたし、チビは敵だから見限った」
運がなかったと言えばそうだな。師がクズ教師だったことや助けたのが自分だったという点ではチビにも同情するかもしれない。だからといって助けないけど。自分はヒーローじゃないし
「分かっているだろ?自分は『仲間にやさしく、自分に厳しく、敵には超厳しく』がモットーだし」
「もちろん分かっている。俺も兄さんの立場だったらアイツを見限っているし」
でも少しだけ同情してしまうな、と一夏はつぶやく。少しだけ罪悪感はある。でも、ヤツは自分たちを殺すかもしれない。万が一でもその可能性を潰さなければ。あとで後悔しても遅いのだから
後日、チビは退学してドイツに引き渡された。その後の彼女の行方は知らない。多分『処分』されたのだろう。クズ教師は使える駒が無くなったせいか明らかに不機嫌だった。ざまあ
あと、VTシステムを搭載したであろう研究所は跡形もなく消し飛ばされただけでなくドイツのIS関係者の汚職問題が公にされ、IS産業に大打撃を被りイギリスの二の舞に。特にチビの所属していたIS配備特殊部隊は責任の多くを押し付けられ、解散することになった。今回自分はノータッチだったから、多分束さんがやったのだろう。すべてはドイツとチビが原因だし、知ったこっちゃあないがな
ラウラは形態変化の条件を満たしているってコメントを見て確かにそうだと思いました。ですが、ラウラをアンチ(退場)にした原因として
・主人公の性格上仲良くできない(敵は敵としか見ない)
・形態変化は自身の素の性格が表に出るようになるため、ラウラの素の性格が思い浮かばない
・単純に数が増えると動かしづらい
が主な原因です。彼女が好きな方は他の二次小説に行くことをおすすめします。
ちなみにタイトルはドイツ語で「破壊」です
そして、原作2巻が終了!