Inferior Stratos   作:rain time

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第28話 不安

 

 待て待て待て。何故束さんがいる?そもそもこのコンテナにどうやって侵入した?

 

「サプライズ的に面白いかなってさ!」

 

 そうですか、って普通に心を読まないでください。顔に出てましたか

 

「それよりも何故ここに来たのです?」

「そりゃあ、いっくんの機体の調整に来たのだよ。整備士としてね。生で見た方がより調整しやすいし」

 

 許可は取ってあるよん、と誇らしげに言う。そういやここ最近、色々とありすぎて束さんと会えていなかったな。それも兼ねて、会いに来たのもあるだろう。

 

「さてさて、ゆーくんの驚き顔を見れたことだし、いっくんの所に行きますか」

「一夏ならあっちに」

「やっほー、いっくん」

「速っ!」

 

 さっきまでここにいたのに、どうして目で追う前に一夏のところにいるんだ。一夏とはそんなに近くないぞ。あれか?瞬間移動でも使ってるのか?それとも時空でも歪めているのか?・・・どっちにしても束さんなら出来そうだな

 ただ・・・本当にそれだけなのだろうか。会ってはいないものの電話ならドイツの件でも話をしたし、わざわざ束さんが会いに来るか?それもクラスメイトがいる中で。それとも・・・いや、考えすぎか?

 

 

 

 

「やっほー、いっくん」

「た、束さん!?どうしてここに!?」

「いい反応をしてくれるね~。束さん嬉しいよ」

「ど、どうも。ってそうじゃなくて!」

「もちろん、いっくんの機体の整備をしにきたのだよん。実際に見た方がいいでしょ」

 

 そ、それだけのためにか?それだけのために引きこもりに近い束さんが外に出るのか?

 

「何か変なことを考えていない?」

「いえ、何も」

「それじゃあISを展開してね」

 

 危ない危ない。下手に拗ねられると長いからな。表情に出さないようにしないと。

 束さんの指示通りにISを展開し、束さんはコードを取り付けてデータを読み取っていく

 

「うん、うん!しっかり手入れもしているようだし、稼働率もいい感じだね!これならまだまだ強くなれるよ!」

「ありがとうございます」

「細かいところは私が調整したから、動かしてみて」

 

 ある程度皆から離れた後、急上昇をして前後左右に動かす。おお、今までよりもよりスムーズに動く。武器の展開もわずかだが早くなっている。流石としか言いようがない

 

「どうだった?」

「バッチリです。相変わらず凄いとしか」

「はっはっはー。褒めても何も出てこないぞ?」

「姉さん!!」

 

 と、俺たちのところにずかずかとモップが来やがった。なんでこいつが来るんだ?まさか専用機持ちに居座っていたのって、束さんが絡んでいるのか?

 

「私の専用機は!?頼んだでしょう!?」

「は?何言っているのさ。私は知らないね」

「何を寝ぼけたことを!あなたに留守電を入れたでしょう!!」

「じゃあ『作る』って折り返しの電話は聞いたの?ん?」

「そ、それは・・・」

 

 束さんに頼んでいるとは・・・関係ないだのほざいておいて、こういう時には泣き付くとは情けないにも程がある。そのくせ、ほかの人が同じようなことをしたら『恥を知れ!』で殴るんだろうな。救えない

 

「わ、私はあなたの妹だ!それに、あなたのせいで家族がバラバラになった!だからあなたは私に専用機を作る義務がある!!」

「へえ・・・」

 

 すると束さんの目が鋭くなる。これは嫌悪ではない、もっと黒い感情。そんな目を向けられ、モップは怯えたように後ずさる。かくいう俺も冷や汗がにじみ出る

 

「じゃあさ、お前は今まで私のことを姉として見てきたかい」

「は、はい?」

「妹面するんだったら、私のことを姉として接してきたんだよねえ?」

「も、もちろん・・・」

「嘘はいけないよ。私のことを姉として見ていなかったくせに」

 

 モップが後ずさった分以上に束さんが近づく。もう胸と胸が触れ合いそうなところまでに近い

 

「剣道に才能がないと知ったとき、お前はどんな目で私を見ていた?ISが発表されるまで、お前はどう私と接していた?答えてみろよ」

「あ・・・う・・・」

「答えられないか?忘れたか?なら今教えてやるよ」

 

 今、俺は束さんの表情を見れない位置にいる。でも、どんな目をしているかは想像がつく。

 

 ゴミを見る目でモップを見つめているだろう

 

「今お前を見ている(軽蔑する)ように接していたんだよ、お前は・・・いや、お前ら家族は」

「わ、私は・・・そんなこと・・・知らない」

「そうだろうなあ。する側は自身のしたことを忘れるのだから。でもな、された側はそれをいつまでも覚えているんだよ!!」

 

 束さんの叫びに皆が何事かと反応する。ただ俺は束さんの言葉を黙って聞いていた。

 俺は何も束さんのことを知らなかったんだ。俺がいじめられている時、束さんも苦しんでいたのか。それなのにそれを微塵も出さずに、俺を元気づけようと明るく接してくれていたなんて・・・。おこがましいだろうが、何も力になれなかった自分が情けなくなる

 

「束さん・・・俺」

「気にしないで。これは私の元家族の問題。いっくんが気にすることはないよ」

 

 小さいときに見せていた優しい笑顔を俺に向けてくれる。違うんだ。束さんを慰めたいだけなんだ。でも悲しいことに、俺には慰める言葉が出てこない

 

「な!?も、元家族だって!?」

「はあ?戸籍は抜いたって言ったはずだけど?どうせ都合の悪い情報は聞いてなかったんだろ。お前と私はとっくに赤の他人だ」

「で、でも家族が・・・」

「それは日本政府がやったことだ。私は関係ない。文句はそいつらに言うんだな」

「そ、そんな・・・」

 

 頼みの綱が途切れたことで崩れ落ちるモップ。それにクズども(一春と千冬)が群がってきやがった

 

「束さん、それはあまりにもひどいではありませんか?箒はたった一人の血の繋がった妹でしょう」

「そうだぞ、束。縁を切ったとはいえ、お前の家族に変わりはないのだから」

「・・・ハハハハハハハハハ!!!」

 

 束さんが狂ったように笑い出す。いや、笑っているようで目は全く笑っていない

 

「家族を大事にしろ?血の繋がった妹を大事にしろ?お前らがそれを言うか!?弟を見捨てたお前らが!?滑稽すぎて束さんの耳がおかしくなったのかと思ったよ!!」

「あ、あれは出来損ないだ!家族でも何でもありません!」

「ハッ!矛盾してるじゃないか。血はつながっているだろう!ほら、私を納得できる言い訳でも言ってみろよ!!」

「ううっ・・・」

「・・・チッ」

 

 口論では束さんに勝てないと悟ったのかクズは黙り込み、クズ教師は舌打ちをする。二人は今だ放心しているモップを担いで持ち場を離れていく

 

「・・・本当、あいつら全く成長してないんだね」

「そのくらい性格がひん曲がっているんですよ。無駄に才能もあったから余計に」

「でも・・・私もあいつらと同類だね。実の家族を蔑ろにしているし」

「それは自信を卑下しすぎですよ、束さん。アレは落ちに落ちぶれている。あなたはそんな人ではない」

 

 いつの間にか傍にいた兄さんが会話に入ってくる。代表候補生たちもうなずいている

 

「って、みんな集まったのか」

「だって篠ノ之博士が怒っていたようだったし、ゴリラ女(モップ)が噛みついている感じったから気になって」

「私も何事かと」

「あはは、ごめんね。作業の邪魔をしちゃって」

「いえ、あたしたちが気になっただけなので」

「もう大丈夫だから、心配しなくていいよ」

 

 わかりました、と言って各自作業に戻っていく。ある程度離れた後、束さんが俺に聞こえる程度で話しかける

 

「実はね・・・私が来たのには理由があるんだ」

「いったい何が?」

「・・・勘なの」

「勘・・・ですか」

「今日、嫌な予感がしてね。根拠とか全くないけど、もしものことを思って来たの」

 

 冗談ではない真剣な顔で話す束さん。確かに、束さんの第六感は当たる方だ。特に悪いことの勘はかなり正しい

 

「そのためだけに?」

「杞憂だといいんだけど、心配でね」

 

 そしてわざわざ来たということは()()()()()()()()()のだろう。それこそ誰かが重傷を負うような悪いことが起こると。でも臨海学校で重傷を負うレベルのことが起こるのか?機体トラブルで海に突っ込んで溺れるとか事故が起こるとか

 

「事故程度なら私がいれば問題ない。ある程度なら治療もできるし、そもそもそんな事故を未然に防ぐだけだし」

「そうですね。束さんなら出来そうですね」

 

 何事もなければ。そう信じるしかない。幸い午前中は問題なく進んだ。束さんは鈴たちのチューニングを手伝いつつ、俺のデータを入念にとっていく

 

 

 しかし、午後の訓練開始直後で束さんの悪い予感が的中することになる

 

 

 

 

 

 

 旅館にある会議室。ここに教師陣と俺たち専用機持ちが集まっている。

 織斑千冬からの情報によると、先ほどハワイ沖で試験稼働を行っていたアメリカ・イスラエル共同開発の試作IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が暴走し、なぜか日本に向かって高速で飛行しているとのこと。2時間後にこの付近の海域に接触するため、自分たちで対処しろとIS委員会が命令を下したとのこと。しかも暴走ISのコアネットワークが切れているようで、束さんが止めようとしたがコマンドが効かない。想定を超える最悪の状況だ

 

「正確な機体の情報開示を僕は要求します。対象の情報も無しに対策など立てることはできません」

「・・・口外はするなよ。破った場合、査問委員会からの監視が最低二年つくと思え」

「上等さ。代表候補生を舐めるな」

 

 シャルロットが先陣を切って言う。ただ、おかしな話の気もする。そもそもIS委員会はなぜ学生の自分たちに責務を押し付けたのか。この暴走を止められる戦力は持っているはずだ。それにわざわざ自分たちのところに失態をさらけ出すか?普通はもみ消すはずなのに

 

 もしかしてこのクズ教師が一枚噛んでいる?

 

 福音の詳細なデータが公開され、議論をする声に耳を傾ける

 

「広域殲滅戦用IS・・・特殊射撃型でオールレンジ攻撃可能か・・・」

「砲口が36門・・・この火力じゃ一発でも直撃したら無事じゃ済まないわ」

「それよりもこの機動力のほうが厄介だね。スペック上では私たちの機体ではついていけない」

「僕の機動力重視のパッケージなら何とかついていけるけど、攻撃も防御も手薄になるし」

「それよりも近接性能が全く分からないわ。迂闊に近づくのも危険だわ」

ここ(旅館)にきて暴れられる可能性もあるから、誰かはここで防衛をしなきゃいけないし・・・」

 

 代表候補生たちは策を練っているが、最適解が見つからない。ただ自分はこの事件そのものが気になった。

 ただのISの暴走なら前例があるし、それで体の一部を失った国家代表もいる。しかし、今回は()()()で暴走している。これは過去に一度もない。明らかに外部の手が加わっているとしか思えない。それに何故日本にまっすぐ来ているのか。それも東京を通るように狂いなく来ている。気になる・・・

 

「兄さん?どうしたんだ?」

「いや、なんでこのISが暴走したのか気になってな」

「確かに気になるけど・・・今はその暴走を止めるのが目的じゃないか?」

「そうだったな。議論とは関係のないことだった。すまん」

 

 何を考えていたんだ、自分は。まずは目の前の問題を解決することが重要じゃないか

 改めて銀の福音のデータを見る。見るのだがデータが足りない。これでは完全に作戦を成功するには問題がある

 

「皆さんの意見を聞きたい。偵察はできます?」

「無理だ。コイツはマッハ2の速度で飛行中だ。接触できるのは1回きりだ」

 

 一回きり・・・ならば偵察兼妨害役で防御・機動重視の一陣が行き、ある程度時間と情報を稼いだ後本命の二陣と即座に交代してISを止める。これが今できる最適解ではないか。

この考えを言おうとしたのだが

 

「なら俺の出番だな。俺の零落白夜があれば一発で仕留められる何も問題はないだろう?」

「そうだな。その方針で行くとしよう」

 

 待て待てクズども。なに勝手に決めようとしてんだよ。確かに今回において相手は無人機だし、零落白夜は最適だと思う。だが、こいつの技量を全く信用していない。いかんせん、ろくに訓練をしていないやつが本番でうまくいくなんて考えられない。100%失敗する

 

「待ってください!これでは不十分です!もしも零落白夜で仕留められなかったらどうするんですか!」

「おいおい、俺が失敗なんてするわけないだろう、鈴?」

「うっさい!もしものことにも備えるのが作戦会議よ!楽観視していたら死ぬわよ!!それと下の名前で呼ぶな!!」

 

 鈴の言う通り、もしものことまで考えて穴を極限まで埋めるのが常識だ。それにこの作戦で行くにしても問題がある

 

「どうやって移動するんですか?白式なら速度は問題なさそうですが、SEは持ちませんよ?」

「なら一人を織斑の運搬係にさせる。この中なら・・・遠藤弟。貴様がこの中で機動に優れたパッケージを持っている。貴様がやれ」

「「は?」」

「よし、この作戦は織斑、遠藤弟の2名で行う。残りは旅館の警備に回れ」

 

 ふざけんなよ。なに勝手に決めてやがるんだ。こんな穴だらけの作戦に一夏を巻き込ませるわけにはいかない

 

「その作戦は無謀だね」

 

 と、いつの間にか会議室に入っていた束さんがその作戦を批判する。自分が反論しても権力で黙殺されるところだったからナイスタイミングです

 

「なんだと?」

「援護も無しに突っ込むのはよほどの馬鹿か自殺したい奴だけだよ。愛しの弟が海の藻屑になってもいいなら文句ないけど」

「・・・ならお前は案があるのか」

「それはゆーくんに言ってもらおうかな」

 

 ここで自分に振るんですか。なら自分の考えを言うだけだ

 

「この場合は部隊を二手に分け、一陣は織斑中心の強襲部隊で暴走ISの進路をふさぐ。ある程度時間を稼いで二陣の部隊と合流し、被弾を最小限としたヒットアンドアウェイ。一陣で倒せれば御の字、倒せなくても足止めができれば二陣のSEを機動に回さなくてよくなりますから、これが良いかと。できれば総出撃が最適ですが、どうでしょう」

「いいと思うよ。でも総出撃だとここが手薄になっちゃうからそこは詰めないとね」

「手数も足りないですね・・・奴ら(セシリアとラウラ)を潰したのはミスだったか」

「おい、貴様ら。決定権は私にあるんだ」

「だからあなたが納得できる案を詰めているんですよ。全員ができる限り被害を抑えて作戦を完遂するために。それともこれより良い案があるのですか?」

「・・・」 

 

 無いんなら文句言うなよ。織斑はどうなってもいいが、一夏や仲間たちは死んでほしくない。もっと詰めていかなければ

 最終的に一陣は織斑と一夏、二陣で自分と鈴、旅館の防衛は簪とシャルロットに決まった。二人はやや不満そうだったが、形態変化の単一能力では防衛に適しているから仕方ないとのこと

 

 だが、会議後にクズ教師が織斑に何か言っていたのが気になった。何かとんでもないことをやらかす気がして

 




 いろいろと書きたいことはありましたが練った結果、カットしたところも多かったです

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