Inferior Stratos   作:rain time

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 いろいろと詰め込みすぎた気がします


第29話 オチル

 

 作戦開始30分前。作戦の最終確認した後、俺は一人で旅館の休憩室の椅子に座っている。ここからだと満月を映した海がよく見える。

 俺は今回織斑の運搬役だ。兄さんと鈴が来るまでの時間稼ぎ兼兄さん達のアシストをする。できる限り早く運搬するために装甲も削るため、敵の攻撃は避けるのが絶対条件。万が一SEが尽きたら命が危ない。

 死ぬかもしれないのだ

 

「スゥー・・・フゥー・・・」

 

 深呼吸をして落ち着かせようとするも、死の不安がにじり寄る。これが実践なのか。兄さんとの模擬戦で殺気を何度も浴びてきたから大丈夫だとは思っていたものの、これほど違うのか

 嫌な汗がにじみ出る。体は熱いのに中が冷える。海が黒く見える。闇が俺を飲み込んで・・・

 

「一夏?」

 

 ハッと意識が戻り、馴染みの声のした方を向く。鈴がこちらに向かってくる

 

「雪広は?」

「兄さんは束さんに呼び止められてる」

「一緒に居なくていいの?」

「『先行ってて』って言ってさ、何か聞かれたくないことなのかもと思って。それかろくでもない痴話話」

 

 そっか、と鈴は俺の横に座る。この胸のドキドキは鈴が近くにいるからか、それとも作戦の不安によるものなのか。

 

「緊張してる?」

「え?」

 

 いきなりの問いかけに呆けてしまう。さらに鈴は俺の手を握ってくる。待って、手汗が

 

「不安?うまくいくか」

「・・・ああ、怖いよ」

 

 思わず本音が漏れてしまう。俺は鈴が思っているほど心が強くない。兄さんなら涼しい顔でこの作戦に臨むと思うが、俺はそうじゃない。死ぬかもしれないことが怖くて恐ろしくて・・・

 

「鈴は強いな・・・俺なんかと違ってしっかりと構えてる」

「そんなことないわ。私だってうまくいかないかもしれないと思うと怖いわよ。それを表に出さないだけ」

 

 それに、と鈴は手を強く握る

 

一夏(好きな人)が一緒にいるもの。うまくいかないわけないじゃない!」

「!」

「だから、頼りにしてるわよ、一夏!」

 

 ああそうだ。昔と変わらず俺のことを必要としてくれていて、信頼してくれた。こんな情けない姿を晒しても、それでも信頼してくれる。そんなやさしさに惹かれたのだ。

 

「鈴」

「なに?」

「ありがとう。それと、無事にいくように頑張ろう」

「ええ!もちろん!」

 

 先ほどの不安が嘘のように消える。我ながらちょろい男だな、好きな人に応援されるだけで気分がよくなるなんて。いや、これが普通なのかもしれない。

 とにかく、この作戦を成功させよう。せめて誰一人重傷を負わずに終わるように・・・

 

 

 

 

 

「・・・チッ」

「フン・・・」

 

 作戦開始20分前。作戦の要である俺は誰よりも早く出撃場所に着いたが、気に食わない奴(遠藤雪広)が居やがった。言葉を交わさずに離れたところに座る。俺のことを興味なさげに奴は目を閉じる。その行為も無性に腹が立つ。

 IS学園では大ハーレムを築いてやろうと思っていたのに、こいつらのせいで俺様の評価が高くない。寄ってくる女は俺様を持ち上げるがそこらの一般人と変わらない。専用機持ちは皆奴らとくっついているのが癪だ。

 だが、それも今日で終わりだ!何せ俺には千冬姉からの特別な伝言があるからな

 

『お前が邪魔だと思うやつらは排除しても構わない』ってなあ!

 

 つまりはそういうことだろう?なにせ、こっちには世界最強の姉がいる。いくらでももみ消すことができるのだから。それこそその(殺す)瞬間を撮影されない限り俺様は無実になる!今日が・・・

 

「おい」

「・・・ンだよ」

「これだけは言っておく」

 

 やつは俺の前に立ち見下ろす。俺様を見下ろすんじゃねえ、凡人が

 

「今回の作戦、間違っても変な気を起こすなよ」

「・・・ハッ!するわけねえだろ。てめえらこそ俺の足引っ張んじゃねえぞ。俺が決めるんだからなあ!!」

「・・・そうかい」

 

 奴は元の場所に戻る。変な気を起こす?これは正当な命令だ!てめえのそのむかつく顔を絶望に歪ませてやる!そして出来損ないもIS学園から追放してやる!

 これからは俺様の時代だ!!

 

 

 

 

 

 

 作戦開始3分前。いつでも出撃できる状態だ。今回の作戦の二陣は兄さんが鈴の運搬兼迎撃をするとのこと。鈴の運搬をするなんてうらやましい、代わってほしい。でも誰かがコイツを運ばなければいけないから・・・仕方ない

 

 作戦開始の合図と同時に最高速で接触地点に向かう。限界までスピードに割り振ったため、数秒で同時に出撃した鈴たちが遥か後方になる。

 こいつと話すことなど何もない。本来なら初撃を外した後の対策などで作戦を立てるべく話し合うのがいいのだろうが、織斑は何も聞かないだろう。俺自身コイツとは口もききたくない。

 コイツが銀の福音を倒せば御の字、駄目でも足止めをして3対1で押し切る。と、そうこう考えているうちに銀の福音が見える

 

「見えたぞ!準備はできてるな!」

「うるせえ!俺に指図するな!!」

 

 織斑は俺から離れ、瞬間加速で福音に迫る

 

「くらえええええ!!」

 

 って、何やってんだ!奇襲なのに叫ぶバカがどこにいるんだよ!!自分の位置をばらす愚行をしやがって!

 案の定福音は雪片弐型を難なく躱す。そして

 

『敵機確認。迎撃モードへ移行』

 

 福音からの音声。だがこれは作戦の内だ。もともと織斑の奇襲には期待はしていない。俺の役目は兄さんと鈴がくるまでの時間稼ぎだ。福音に敵と思わせつつ、足止めを行う。武器を持たない状態で最低でも2分ほどの時間を稼がなければ

 

「まだだあ!!俺様が主役なんだああ!!」

 

 とまたしても単騎突っ込んでいくバカ。だが今度は福音が奴に対し、エネルギー弾の雨を放つ。それにビビったのか奴は攻撃をやめ回避しようとするが、数発直撃する

 

「ぐえあああーーー!」

 

 奴が落下していくのを見て俺は奴のSEの減りを確認する。数発で半分近くを削られている。奴の機体の防御性能を考えて、俺は1発の直撃ならギリ耐えることはできるが、二発目は避けることもできないだろう。つまり直撃ゼロが最低条件のデスマッチってわけか。

 すると福音がこちらを向く。どうやら俺も敵と認識しているようだ。機械とは思えないような殺気で銃口をこちらに向けてくる

 

「上等だ!来い、福音!!」

 

 やってやろうじゃないか!鈴たちが来るまで避け続けてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたわ!福音と一夏の戦闘を確認!」

「よし、一夏は大丈夫そうだな!」

 

 戦闘地点に到着。一夏は疲労が見えるものの、損傷はほとんどない。対して織斑はボロボロだが無駄に元気そうだ

 福音は一切傷がついていない上に疲れも見えない。やはり無人なのだろう

 

「兄さん、鈴!」

「一夏、よくやったわ!あたしたちも加勢するわよ!」

「これとこれを渡す。援護は頼んだぞ」

 

 マシンガンとビームライフルを一夏に渡す。今回一夏は武装を持たずに出撃の上、装甲が薄く接近戦は圧倒的不利のため、合流時に自分が遠距離武装を渡す算段となっている。これで援護をしてもらう

 

「おい!俺様を忘れるな!!」

「だったら1発でもゴスペルに傷をつけろよ、天才君?」

「言っておくけど、あんたをかばいながら戦う余裕なんてないから。邪魔だけはしないことね」

「勝手に突っ込んでもいいが、SEが切れて落ちても見殺しにするからな」

「・・・チッ!」

 

 かなり辛辣な言葉をクズに吐き捨てる。一応見殺しにするつもりはない。あのクズ教師がうるさいのもそうだが、戦闘に乱入する確率を減らすためだ。さすがのクズも死にたくはないだろう。ゴスペルから離れていく。最後まで見ることなくゴスペルの情報を一夏から確認する

 

「近接武装はなく、直撃でこのダメージか」

「なら作戦通り、あたしと雪広はヒットアンドアウェイ、一夏は援護射撃でいいわね?行くわよ!!」

「「了解!!」」

 

 まずは自分が武器を展開せずに突っ込む。エネルギーの弾幕が張られるが、武器を持った一夏と鈴のほうを警戒しているようで、こちらの弾幕は薄い。速攻で奴に近づき剣を展開し切りつける

 

「La・・・」

 

 思ったより浅い。体を捻って直撃を避けやがったか。銃口がこちらを向くがそれよりも早く離脱。今度は銃を展開し弾薬をばらまく。今度は自分を警戒しているようで先ほどとは比較できないようなエネルギー弾の雨が降る。これを全身全霊で避ける。

 その隙を鈴がつく。瞬間加速で懐に潜り双天牙月で二発福音を切り裂く

 

「La・・・!」

 

 さすが代表候補生。重いのを二発も叩き込むとは。離脱も手馴れている。今度は自分だがまだ自分を警戒しているらしく、弾幕が厚い。これでは自分も鈴も攻めることはできない。でも

 

「俺を忘れるなよ、福音」

 

 狙いすました一夏が福音の頭部を狙撃する。いくら機械とはいえ頭部のダメージは他の箇所よりも大きい。一瞬警戒が弱まったところに自分が再度突っ込み、今度は直撃させる

 

「La!」

「おっと!?」

 

 離脱よりも早くゴスペルはエネルギー弾を撃って反撃に出た。幸い、足をかすめただけでそれほどダメージは入っていない

 こいつ、戦闘中に学習しているな?だとしたら厄介だ

 

「兄さん!大丈夫か!?」

「無事だ!こいつ学習しているから長期戦は不利かも!」

「わかったわ!早くにケリをつけろってことね!」

 

 倒せなくなる前にカタをつけてやる

 

 

 この後先ほどよりも精度を高めながらヒットアンドアウェイをするが、ゴスペルも着々と対応してくる。一度武器を投擲して奇策をやったものの、二度目はもう通用しない。自分も鈴もゴスペルのエネルギー弾を掠る回数が増え、SEが削れていく。一夏がヘイトを買っているものの、そろそろ策が尽きる。とはいえだ

 

「向こうも追い詰めてるんじゃないか?」

「ええ、重いのを一発かませば黙らせられそうよ」

 

 相手も消耗している。自分と鈴のヒットアンドアウェイと一夏の狙撃を何度もやればSEが減るのも当然。ならば

 

「被弾覚悟で自分が切りに行く」

「そ、それは危険だ!直撃したら・・・」

「全面はシールドを複数枚展開して本体への被弾をなくす。基本奴の反撃は前からのエネルギー弾だ。シールドを展開すればダメージはかなり減らせる」

 

 なにより、今までシールドを一度も展開していない。奴もこの武装があるとは想定してないだろう。だからこその一手だ

 

「・・・わかった。頼んだ、兄さん」

「それならあたしたちでヘイトを買うから、任せたわよ!」

「おう!」

 

 一夏と鈴がゴスペルを攪乱(かくらん)させる。自分にも弾幕が張られるが関係ない。シールドを展開してその雨を突っ込んでいく。肩や足に被弾するが止まらない。懐に突っ込み、シールドとシールドの隙間から剣を突き刺す。間髪入れずに右手で切り下ろし、そのまま左手で切り上げる

 

「La・・・La・・・」

 

 手ごたえあり!もう一押しで

 

 

 

 

「ぐあっ!!」

 

 何かが突っ込んで自分は弾き飛ばされる。一体何が

 

・・・え?

 

 

 

 

 

 

 これは絶好の機会だ!奴らは俺がまだいることに気づいていない。福音も弱っているし今がチャンスだ!

 幸い福音に気づかれることなくぶっさせる()がある!俺がとどめを刺し、ゴミも捨てられる。一石二鳥だ!!

 零落白夜を発動させ、奴が突っ込んでから俺も剣を突き出すように突っ込む

 これで死ねえええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 たまたまだった。織斑が視界に入ったのは。あいつ、まだ撤退してなかったのか。消えればいいのに

 だが奴は零落白夜を発動し、兄さんのところに突っ込もうとしてくる。まさか、兄さんもろとも刺す気か!?兄さんは気づいてないし、鈴も福音が壁になって見えていない。今叫んでも間に合わない!なら!

 

「一夏!?」

 

 鈴は突然俺がエネルギー弾の雨を強引に抜けたことに驚く。幸い二発かするだけで済んだがそれどころじゃない。もしものために身に着けた二段階瞬時加速(ダブル・イグニッションブースト)で兄さんを跳ね飛ばす

 

 

「こはっ・・・」

 

 

 直後、俺の腹から血塗られた雪片弐型が飛び出ていた。零落白夜で絶対防御を貫かれたのか・・・

 ああ、俺がこんな怪我してどうすんだよ。傷つかずに帰ろうって鈴と約束したのに

 

 ごめんな・・・鈴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、一夏ああああああああ!!!!」

「チッ・・・出来損ないが邪魔しやがって。まあいい、撤退撤退」

 

 鈴の悲鳴。クズがなにか言っているがそれらも耳に入らない

 一夏が刺された。それもクズの零落白夜で

 嘘・・・じゃない。事実。受け入れたくない現実。どうして一夏がこんな目に

 大事な弟が・・・どうして?

 

 

 ・・・自分のせいなのか?

 

「違う・・・」

 

 本当だろうか。クズが居なくなるのを確認しなかったからこんなことになったのではないか

 

「違う・・・っ」

 

 本当だろうか。もっと早くにゴスペルを追い詰めていればこんなことにならなかったのではないか

 

「違う・・・!」

 

 本当だろうか。クズが後ろで刺しに来るのを怠った・・・自分のせいではないのか

 

 違うのに、違う違う!冷静になれ!・・・なのに

 

 

 

 一夏が傷ついたのは・・・お前のせいよ

 

 

 

 幻聴か現実か。そんな声が、そんな言葉が頭に入る。

 

 

 ・・・ジブンノセイ?

 

 何かが・・・壊れる音がする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、一夏ぁ!!しっかりして!」

「ごほっ、ごぽっ!」

 

 腹部を貫かれ落下する一夏を鈴が支えて叫ぶ。一夏は吐血をし、腹部からも夥しい血が流れる。錯乱した鈴は泣きそうになりながら雪広に助けを求めようとする。が

 

「雪広!どうしよう!?一夏が・・・雪広!?」

「ああ・・・ああっ・・・ああああっ!」

 

 雪広は頭を押さえうずくまる。

 

「雪広!どうしたの!!」

「鈴・・・一夏を連れて・・・撤退しろ・・・」

「雪広は!?どうするのよ!」

「早く・・・俺が俺じゃなくなる前に・・・!」

「何言ってるの!見捨てるなんて・・・」

「早く!!!」

「ひっ・・・」

 

 いきなりのことで戸惑う鈴。だが早くしなければ一夏の命が危なくなる。少し迷った後、鈴は嗚咽を漏らしながら一夏を抱えその場を離脱する。

 雪広と機能停止寸前の福音しかこの場にいない。福音は警戒をしているのか、機能停止しているのか動かない。それでも雪広はもだえ苦しむ。

 

「ああ・・・あアア・・・アアアアアア・・・・!!」

 

 怨嗟のような声を漏らすと同時に彼の体が、機体が黒に取り込まれ完全な球体に包まれる。そして

 

 

 

 

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

 

 黒い球体が割れ、中から金の瞳をもつ漆黒の機体が咆哮をあげた。

 

 




 さて、この後の展開どうしよう
 そしてまた更新速度が遅くなるのでご了承ください

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