Inferior Stratos   作:rain time

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 前話の最後に出てきた雪広の機体はFate/Zeroのバーサーカーの兜がない状態を想定しています


第30話 悪事

 

「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」

 

 私とシャルロットは今、全速力で帰投地点に向かっている。先ほど束さんから一夏が負傷し、撤退しているとの連絡が来た。作戦もいったん中止ということで防衛の持ち場を離れる許可を得て、束さんの手助けに入る。

 帰投地点には既に束さんが待機していた

 

「お待たせしました!鈴たちは?」

「もうそろそろだから!君たちは鈴ちゃんの傍にいてあげて!」

 

 それと同時に空の向こうからこちらに向かってくる機体を確認する。だけど2つしかない。どう考えても足りない。まだ来ると信じたい

 二つの機体が近づいてくる。近づくにつれ彼らの姿がはっきりとして・・・見間違いだと信じたかった

 一夏の腹が貫かれ、今も夥しい血が流れていることに

 

「いっくん!鈴ちゃん!」

「束さん!一夏が!!一夏がぁ!!!」

「治療するから任せて!絶対助けるから!!」

 

 束さんは一夏を抱え、簡易治療室に全速力で運ぶ。負傷と聞いていたがとんでもないほどの重傷だ。束さんが診るのだから助かると信じたい。 

 それよりも

 

「ひぐっ・・・私がっ・・・私がしっがりしていれば・・・うぐっ・・・もっと注意深くしていれば・・・あああっ!!」

「鈴!落ち着いて!」

「深呼吸、ゆっくりでいいから深呼吸して。ゆっくり、そう。ゆっくり」

 

 鈴がひどく錯乱しているので落ち着かせようとする。無理もない、好きな人が目の前で刺されて死にそうになったら誰だって取り乱してしまう。でもまずは鈴に落ち着いてもらわないと。辛い気持ちは痛いほどわかるけど、一体何が起きたのかを確認しなくちゃいけないから

 数回の深い深呼吸をして、鈴は幾ばくか落ち着きを取り戻し、少しずつだが言葉を絞り出す

 

「で、何があったの?」

「い、一夏が・・・織斑に・・・刺されて」

「「はあっ!?」」

 

 てっきり福音にやられたのかと思っていたけど、まさかあのクズがやったの!?よりによってこんな時に!?

 

アイツ(織斑)は、雪広を狙ってたんだけど・・・一夏が・・・庇って・・・それでっ・・・」

「あのヤロー、ふっざけやがって!!」

 

 シャルロットが鬼の形相で怒る。私は怒りのあまり逆に冷静になっているようだ。まさか作戦中にそんなことをするほどのクズだったとはね。私たちはあのクズを買い被っていたようだ。

 でもまだマシだったのかもしれない。もし一夏とクズだけで作戦に行っていたら、一夏は海に沈んでいたかもしれない。あの時に束さんと雪広が助言しなければ・・・

 

 え、待って。雪広は?戻ってないの?・・・え、うそでしょ 

 

 まさか・・・沈んで

 

「専用機持ちに告ぐ。再度作戦会議を開く。至急会議室に来い」

 

 クズ教師からの無線で我に返る。そうだ、まだ沈んだと決まったわけじゃない。落ち着け、私!

 ピシャリと顔を叩いて冷静さを取り戻す。指示に従うのは癪だがヤツが緊急時の指揮権があるから仕方がない。鈴を心配しつつ、急いで旅館の会議室に向かう。

 それにそこには織斑もいるだろう。何をしでかしたのかしっかりと問い詰めてやる

 

 

 

 

 

 会議室に到着し、扉を開く。そこには織斑千冬となぜか篠ノ之箒、そして織斑一春も何食わぬ顔をしてここにいる。こちらに気づいた三人は不快な笑みを浮かべる。なぜそうも人を煽るのか、むかつく

 そんな奴らを見るや否や、シャルロットが怒りながら歩み寄る

 

「織斑!お前よくも!」

「何だ?俺が何かしたか?」

「とぼけんじゃねえ!!」

 

 バン!!とシャルロットは手を机に叩きつける。今にも織斑に殴りかかる勢いで言葉をまくしたてる

 

「鈴から聞いた!お前がっ、一夏を刺したってなあ!!」

「おいおい、言いがかりもよせよ。あいつらが悪いんだからよ」

「そうだ!言いがかりだ!」

「何を言ってやがる!」

「俺は福音に零落白夜を当てようとしたんだ。そこに出来損ないが突っ込んできて勝手に刺されたんだよ。悪いのは出来損ないのほうだ」

 

 俺は悪くないとほざいているが、小馬鹿にしたように話すこいつの言葉は信用できない。それに明らかに鈴と話がすれ違っている。鈴がこんな嘘をつくとは思えない。

 鈴が必死の思いで言葉を出す

 

「そ、そんなことない!あたしが見てた!アンタが、雪広を刺そうとして・・・一夏が・・・」

「なら証拠はあんのかよ。俺が刺殺そうとした証拠がよお!」

「そ、それは・・・」

「無いんだろ、冤罪はよせよ!」

「録画機能がある!それで確認すればいい!」

 

 私はとっさに叫ぶ。ISには録画機能があり、IS稼働中の過去の出来事を操縦者の視点で見ることができる。これがあれば証拠にもなるし、鈴の言うことが正しいとわかる!

 なのに

 

「駄目だ」

 

 クズ教師が却下する。コイツふざけてるのか!?はっきりとした証拠を隠蔽する気か!

 

「それを繋げる機械がない。それに今、凰は気が動転している。そんな奴の言葉を鵜呑みにするほど私は愚かではないのでな」

「「「はあ!?」」」

「つまり、出来損ないが腹を刺されたのは奴が勝手に一春の邪魔をしたからだ。それで間違いない」

 

 あまりの暴論にさすがの私も反論する

 

「いい加減にしてください!!それでは何故織斑の言葉を信じるのですか!?確証がないのでは同じことでしょう!!」

「何を言う!一春が嘘をつくわけがない!!貴様らの方が間違っているんだ!!」

「篠ノ之の言う通り、一春の言葉に間違いはないからな。それに今はそんなくだらないことをしている場合じゃない」

「くだらない、だって!」

 

 まさに一触即発。シャルロットはクズ教師の発言に殴りかかる寸前だ。鈴は何も言えずに涙を流す。どうしたらいいの、雪広だって無事かもわからないし・・・

 考えろ、考え・・・

 

 

「はいはい、いったん落ち着こうね」

 

 

 会議室の出入り口から聞いたことのある声。それに全員が顔を向けると、束さんがドアにもたれかかって立っていた

 

「ここは部外者立ち入り禁止だ。出て行ってもらおう」

「何言っているのかな?いっくんの治療をしたんだし」

「それは貴様が勝手にやったことだろう」

「この作戦を一緒に詰めていたけど?」

「・・・用件はなんだ」

 

 クズ教師は何も言えなくなったようで束さんの侵入を許す。それを冷ややかな目で見て、私たちには屈託のない笑顔で語る

 

「まず一つ目ね。いっくんの一命は取り留めたよ」

「ほんとですか!?」

「もう少し遅かったら危なかったけど、鈴ちゃんが早く運んでくれたから何とかなったよ。もう峠は通り越したし、明日には目覚めるよ」

「そうですか。でも、良かった・・・っ」

 

 鈴は緊張が解けたからか座り込み嬉し涙を流す。私もシャルロットも一安心し、鈴の背中を両側からさする。クズどもは不快そうな顔をしていたが

 それを軽蔑するように見て束さんは言葉を続ける

 

「二つ目ね。いっくんを刺した犯人についてなんだけど」

「「「!!」」」

「その話はもう終わったことだ。今更蒸し返すな」

「何言ってるの、『証拠』があればいいんでしょ?」

「そんなものはどこにも・・・」

「これを見ても同じことが言える?」

 

 そう言って束さんは手に持っている機械を操作する。すると会議室のスクリーンにある映像が映し出される。

 そこには福音中心に戦闘を行う雪広と一夏と鈴、離れたところに織斑が映し出される

 

「こ、これは・・・!」

 

 この映像に織斑は顔を青くし後ずさる。それでも映像は続く。

 雪広と鈴がヒットアンドアウェイ、一夏が援護射撃で徐々に福音を追い詰める。だが福音も戦闘の中で成長し、段々と三人を追い詰めていく。双方ともに消耗した後、雪広がシールドを展開して特攻する。

 そのあとに織斑が醜悪な顔で後ろから零落白夜を展開して雪広に突っ込んでいく。そして気づいた一夏が雪広に突撃をして雪広をかばい、腹を貫かれる。ここで映像が途切れる

 つかつかと束さんは織斑に近づく

 

「で、『証拠』がなんだって?」

「あ・・・う・・・あ・・・」

 

 織斑は口をパクパクさせ、言葉を出そうとするが全く出てこない。完全な証拠を出され、言い訳も考えられないのだろう。だがそれでも噛みつくやつはいる

 

「ふざけるな姉さん!そんな合成認めるか!!」

「そうだ!!そもそもその映像はどうやって撮ったというのだ!!」

 

 モップとクズ教師が束さんに反論する。これを合成と言い張るしかないからある意味当然の反論だね。無駄だと思うけど

 でもいったいどうやって撮ったのだろう?

 

「束さんお手製のドローン型カメラで撮ったものだよ。これがあればリアルタイムで撮った映像を見れるものでね、ゆーくんの装備として載せるようにお願いしたのさ。いっくん達にもしものことを思ってね」

 

 なるほど、だから三人称視点の映像が取れていたのか。それに一夏が負傷したって連絡が来る前から束さんが知っていたのもそういうわけか。相変わらず抜け目がない

 ぐうの音も出なくなった二人。クズ教師はそれでも何かを考えているよう。だがさらに束さんは追撃を送る

 

「そうそう、隠したって無駄だから。もうこの映像は学園の理事長に渡っている」

「何だって!?いつ送ったんだ!!」

「言ったじゃん、このカメラは『リアルタイム』で見れるって」

「ま、まさか!」

「そう。理事長はこの作戦をリアルタイムで見ていたから、逃げられないよ」

「そ、そもそも理事長にどうやって映像を送ったのだ!IS関係者しか知らない連絡先を!」

 

 束さんならそんなのハッキングで分かりそうなんだけどな。それすらも考えられないほど追い詰められてるってわけかな

 

「ハッキングで送ってもよかったんだけど、それだといまいち信頼されないと思ったからね。彼女に手伝ってもらったよ」

 

 と、束さんが扉の方を向くとその扉が開く。そこには童顔の胸が大きい先生が

 

「山田先生・・・」

「ええ、私が束さんに連絡先を伝えました」

 

 そこにいる山田先生はいつものようなおどおどした感じは全くなく、クズ教師を睨んでいる

 

「貴様・・・私を裏切ったのか!!」

「裏切る?裏切ったのはあなたの方ですよ」

「何?」

「あなたと出会ったころは尊敬していました。世界を制した人はどんな素晴らしい人なのだろうと。ですがふたを開ければ、ろくに職務もせず、すぐに暴力で生徒を黙らせていました。そして今年はあなたの血縁だけを優遇し、ほかの生徒をないがしろにする始末。もううんざりです!!」

 

 今までの鬱憤を晴らすかのように叫ぶ。いつもが温厚なだけに叫んだ時に皆が少し驚く

 そして山田先生は淡々と話していく

 

「理事長から連絡です。今を持って織斑千冬の緊急時における指揮権を凍結。代理として私、山田真耶が指揮権代理に任命する。処罰については後々に決める、と」

「な!?」

「織斑先生、あなたは自室で待機。もうこの作戦には関わらないでください。織斑君、篠ノ之さんも同様です」

「ふ、ふざけるな!私がっ!?」

 

 モップが何か言う前に束さんが強烈なボディーブローをお見舞いする。反論をすることなくモップは意識を失い、その場に崩れ落ちる。

 

「束さん!どうして!」

「うるさくなる前に黙らしただけだよ。で、お前はどうするんだ?文句があるならコイツと同じように黙らすけど」

 

 ぐっ、と束さんがこぶしを握ると織斑は情けない声を出して束さんから離れ、クズ教師の後ろにしがみつく。先ほどまでの傲慢さが消え、無様で滑稽な姿を晒す。

 そのあとクズどもは気絶したモップを担いで他の教師の監視の下で退室した。すると緊張が解けたのか山田先生がいつもの感じに戻る。そして束さんに向けて頭を下げる

 

「ごめんなさい!本来なら私たちが一夏君を守らなければならないのに重傷を負わせてしまって・・・」

「そんなことないよ。君は奴らの悪事を暴露するのに一役買ってくれたじゃん」

「ですがこのようになってしまったのはこの作戦を止めなかった私の落ち度もあります。彼らを同じ作戦に入れるべきでないとはっきりと言わなかったから・・・」

 

 山田先生は正義感が人一倍強いからこのことに申し訳なく思っているのだろう。いつもはドジでどこか抜けているけど、生徒思いの立派な先生だね。

 でも束さんが居なかったら今頃どうなっていたか。感謝してもしきれない

 

「束さん、ありがとうございます。あなたが居なかったら奴らが好き勝手にやられるところでした」

「僕もキレて殴ってしまうところだったので、助かりました」

「それに、一夏を助けてくれて・・・改めてありがとうございます」

「ううん、君たち(代表候補生たち)がそんなに責任を感じなくていいよ。こういう時こそ大人を頼ってよ」

 

 碌でもない大人もいるけど、と束さんが付け足す。報道では人格破綻者だとか言われていたが、そんなことはない。一夏の味方になってくれるとても頼もしい人じゃないか。

 すると束さんは真剣な顔になる

 

「今回のことも反省しなきゃならないけど、まだ問題があるんだ。福音も、ゆーくんのことも」

「「「!!」」」

 

 そうだよ!雪広のこと鈴から聞こうと思っていたんだけど、あまりの出来事に聞けずじまいだったから忘れていた!

 シャルロットも思い出したようで声を荒げる

 

「そうだ!雪広は!?」

「鈴、一緒じゃなかったの!?」

「そ、それが・・・撤退するときに、『置いていけ』って言われて・・・」

「「ええっ!?」」

 

 ど、どういうこと!?まさか鈴たちを福音から逃がすために殿を務めたんじゃ・・・それで帰ってこないってことはつまり・・・

 最悪の事態を考える前に束さんが困った表情でこちらを見る

 

「ゆーくんなんだけど・・・この映像を見た方が早いね」

 

 機械を再度操作してスクリーンに新たな映像を映す。

 そこには

 

「え?」

 

 

 銀と漆黒の機体が激しい戦闘を繰り広げていた

 




 何故篠ノ之がいたかは次回で説明します。それほど大した内容ではないですが

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