Inferior Stratos   作:ユキ (旧 rain time)

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 試験終わりました
 その勢いで書こうとしたのですが、インフルAでダウンしてました



第34話 互いの知らない所で

 作戦終了後、束さんによる精密検査と機体チェックをしてもらった。機体のダメージは大きかったものの、鈴たちに骨折のような大きな怪我はなさそうでその日のうちに解散になるだろう。俺はみんなよりも一足先に解放され、許可を貰って一人で夜の砂浜を歩いていた。夏とはいえ、夜は肌寒いため制服での夜の散歩だ。砂浜を踏む足音と波の音しか鼓膜に届かず、まるでこの世界に俺だけしかいないような気持ちになる。

 それにしてもIS学園に入ってから色々とあった。クラス代表戦に無人機襲来、デュノア社の件、そして今日のこと。これほどのことを体験してもほぼ無傷で生きていられるのって案外凄いことでは?俺はこの世界の主人公みたいだと、とふと思う。

 IS学園に入ってから今までの出来事を思い出してみようと腰を下ろして海を眺める。作戦前は真っ黒で何もかもを飲み込むような恐ろしいものに見えたが、今は星の光で淡く揺らめいている。

 

「おお・・・」

 

 見上げると天の川が綺麗に映っていた。そうか、今日は七夕だったな。そんなことをすっかり忘れていたよ。昔、一度だけ兄さんと父さんの三人で星を見に行ったときしかはっきりと星を見たことがなく、東京やIS学園の周辺では人工の光が多いからこれほどしっかりとは見えないから思わず感動した。どれが織姫でどれが彦星なのだろうか?

 

「一夏?」

「へあっ!?」

「どうしたのよ、そんな声出して」

「わ、悪い悪い。星に夢中になっていたから、いきなり呼ばれてびっくりしただけ」

 

 完全に自分の世界に籠っていたから鈴が来たことに気づかず、変な声を出してしまった。

 

「鈴は大丈夫だったのか?」

「本当は安静だって言われていたけど、一夏が砂浜にいるってわかったから抜け出しちゃった」

「そっか・・・隣座るか?」

「うん」

 

 俺の隣に鈴が座り、海を眺めている。その横顔が星で照らされて顔のパーツが細かく見える。ああ、どこを見ても愛おしい

 

「?あたしの顔に何かついてる?」

「いや、鈴の顔を見ていただけ」

「そう・・・」

 

 今の言葉は変態みたいだと言って後悔したが、鈴は顔を赤らめ、ぷいっとそっぽを向くだけにとどまった。そんな行為も可愛いと思っていると鈴が顔をそむけたまま語りかけてくる

 

「心配したんだからね。一夏が死んじゃうかと思ったんだから」

「それはすまなかった。でもあれしか方法が思いつかなかったんだ」

「だからって、一夏が捨て身になっちゃダメ!あたしが一番悲しいんだから・・・もっと自分を大事にしてよ・・・」

 

 顔をそむけながらも体を預けてくる。それを受け止めつつ、鈴の言葉を反芻する。

 ・・・鈴はいつもそうだ。俺のことを必要としてくれている。俺がいなくなると本気で悲しんでくれる。俺の存在を認めてくれる。だからそんな鈴に惚れたのに・・・俺は逃げていた。自身がなくて、何かを失うのではないかと怖くて、向き合おうとしなかった。

 

 でも決心する時だ

 

「なあ、鈴」

「何?」

「俺さ、織斑に腹刺されて死にかけた時に思ったんだ。なんで鈴が告白してくれた時にあいまいな返事をしてしまったのだろうって」

「・・・」

「鈴への思いを踏みにじったまま死ぬのかと思ってさ。後悔した。だから・・・もう後悔したくない」

「!」

 

 鈴が驚いたようにこちらを向く。その目をじっと見て、

 

「まだ鈴を幸せにできるか自信を持って言えないけど・・・俺は・・・鈴と付き合いたい」

 

 思っていたことを鈴にさらけ出す。鈴に告白されているから付き合いたいって俺が言うのはおかしいかもしれないけど、それ以外の言葉が思いつかなかった。でもこの言葉に嘘偽りはない

 

「幸せになるように頑張るから・・・一緒に居たいようになるから・・・!?」

 

 思いを伝え切ろうと思った矢先、いきなり鈴の両目から涙がボロボロとこぼれ落ちる。思わず言葉が途切れてしまう。予想外の反応でどうしたら良いかわからない、もしかして嫌だったのか?

 

「あ、あれ?なんであたし、泣いてるんだろ?」

 

 何度ぬぐっても涙をこぼす鈴は自分の感情に困惑しているよう。でもその表情は嬉しそうだ

 

「り、鈴?」

「違うの。こんなにうれしいのに。待ちわびていたのに、涙がっ・・・止まらなくて・・・!」

 

 鈴は感情が追い付いていなくて混乱しているのだろう。いったん気持ちを整理させるために、そういうしっかりとした建前で鈴を抱きしめ、背中を優しく叩く。気持ちを落ち着かせるにはこれが一番だと兄さんから教わったのが今生きたようだ。

 落ち着いたところで鈴が俺を見つめて、口を開く

 

「あたしも、気持ちは変わらない。一夏のことが好き。だけど一夏があたしを幸せにするのと同じくらい、あたしも一夏を幸せにするから。だから二人で頑張ろ?」

「ああ、二人で幸せになろう。たくさんの思い出を作ろう。だから、これからもよろしくな」

「うん、こちらこそよろしくね」

 

 ぎゅっと抱きあう。夢・・・じゃないんだな、小学校からの初恋が実るなんて。この幸せは今までに感じた幸せとはまた違い、心を満たしていく。

 どれ程経ったか。抱きしめる力が弱まり、密着状態から少し距離を開けて互いの顔を見る。すると鈴が思わず笑みを漏らす

 

「フフッ」

「どうした?」

「一夏がね、返事に答えてくれるのが早くて嬉しいな~って。もう1年くらいかかるかなって思ってたから」

「そこまで待たせるつもりは・・・なかった、と、思う・・・多分」

「なんで歯切れ悪いのよ」

「1年待たせる未来が普通に見えたからだ。スマン」

「べつにいいよ」

 

 で、その後もたわいもない話をして、そして初めてのキスを交わした。初めてのそれはレモンの味がすると言っていたが、俺はあまりの緊張でそんな味わう余裕なんてなかったし、鈴に至っては「塩飴の味がした」とムードお構いなしの感想だった。海辺だからなんじゃないかって笑いあいながらもう少しだけ夜の浜辺で二人だけの時を楽しんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見た?」

「見た。鈴の跡をつけた甲斐があったね」

「これが恋愛かぁ~。やっば、僕の方がドキドキしてる」

「胸キュンすぎて尊い」

「わかりみが深い」

 

 そんな二人をみる二人がいたのだが、一夏たちは気づくことなく二人の空間を噛み締めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、まさかあんな方法で暴走を止めるとはね。兄弟ならではの解決方法だったのかな?」

 

 旅館の近くにある岬の柵に腰掛けながら、束はディスプレイを取り出して今日の出来事を振り返る。さながら無血開城のごとく、暴走していた雪広を言葉だけで止めた一夏の映像が流れていた

 

「ほかの子たちの言葉は通じていなかったし、私の連絡にも反応なかったし・・・兄弟の絆は伊達じゃないって感じかな」

 

 ディスプレイを見ながら感想を漏らす束。だが後ろから人の気配を察知し、後ろを向かずに耳を後ろに集中させる

 

「あれ?束さんですか」

「なーんだ。ゆーくんか。ケガは大丈夫?」

「はい、おかげさまで。あと時間があったので岬で海を眺めようかなと。束さんこそこちらで何をされてたのですか?」

「今日の反省と考察」

 

 警戒心を解いて流れているディスプレイを見せると、雪広は申し訳なさそうな表情を浮かべる

 

「申し訳ありませんでした。本当に迷惑かけました」

「いや、ゆーくんが悪いわけじゃないし。気にすることじゃないよ」

「とはいえ、黒歴史のようなものなので・・・」

 

 誰が暴走した姿を好き好んでみようか。大抵は恥ずかしさや未熟さで思い出したくない思い出の一つに刻まれてしまう。雪広も例外ではなかった

 

「ごめんごめん。ゆーくんの前では見ないようにするよ」

「そうしてくれると助かります」

 

 柵にうなだれながら雪広は思いを伝える。その後は互いに話すことなく海を眺める。月が辺りを照らし、波の音だけがこの場を支配する

 その支配を破るように束が語り掛ける

 

「・・・ところでなんだけど」

「何でしょう?」

「ゆーくんは夢を持ってる?」

「随分といきなりな質問ですね」

 

 同じタイミングでお互いに目線を向ける。雪広は束からのいきなりの質問に対してやや困惑気味に、対して束は雪広への純粋な興味を持って視線を交わす

 

「私は知っての通り、宇宙のことをもっと知りたいし、ISが宇宙用に使われてほしい。でも、ゆーくんの夢は聞いたことなかったな~って。こんな時しか聞けないだろうし」

「・・・」

「別に無理して答えなくてもいいからね。無いなら無いって答えても構わないから」

「いえ、ありますよ。無謀と言えるような夢が」

 

 ピクリと束の眉が動く

 

「・・・それはこの束さんをもってしても?」

「ええ」

 

 ためらいもなく無理だと即答する雪広。ピクピクリと先ほどよりも眉を動かしてより興味を持つように束は話を続ける

 

「気になるな~!どんな夢なの!」

「・・・『一人でも多く、将来の子供たちの努力が報われる社会を作りたい』って夢なんですよ」

「ほえ?」

 

 虚を突かれたかのようにぽかんとする束に対し、雪広は苦笑いを浮かべる

 

「思っていたのと違いましたか」

「なんか『すごいもの作るぞ!』とか『何かを発見するぞ!』的なものかと思ってたから・・・ちょっと意外」

「ははっ、一夏にも同じようなことを言われました」

 

 でも違うんです、と大きく伸びをして雪広は夜空を見上げる

 

「自分は束さんが思っているほど頭良くありませんよ」

「でもゆーくんの中学は日本一頭いいとこだったじゃん。そこで上位を維持していたんだったら頭いいんじゃない?」

「確かにそうかもしれません。ですが世間が言う『頭がいい人』ってのは、授業で与えられたものを正しく詰め込むことができて、正しくアウトプットができる奴なんですよ。どんな教科であれ、覚えていた英単語や公式、歴史や文法を当てはめるパズルが得意な奴が有利なんです。自分はただ、パズルを強制され続けてやり慣れているだけです」

「そういうものなんだ・・・」

「束さんの場合は勉強というパズルも得意だから『勉強ができる』と『頭がいい』がイコールに見えるんでしょう。ですがそうじゃない奴もいます。実際にそういうやつ見てきましたからね」

「いたんだ。勉強できないけど凄い人を」

「ええ。そいつらを見て思うんですよ、『自分は勉強ができるだけなんだ』って」

 

 ですが、と力強く雪広は口調を強める

 

「自分にそういう才能はなくとも、その才能ある未来の子供たちを育てることはできる。一人一人の持つ才能が開花できるような環境を作ることはできるはずです。そんな社会に出来たら最高だと思いません?」

「つまり未来の子供全員が幸せになるような社会を目指すってのが夢?」

「正確には『努力を積み重ねる子供』が『できるだけ』幸せになる社会ですかね。努力も無しに夢かなえたいような口だけの奴を幸せにするつもりはないですし、努力をしたとしても受験競争などで報われないこともある。でもそれ以外の外部のせいで、主にいじめや虐待によって精神的に追いやられてしまう子だっているのが今の現状です。そんな子供たちを見たくはないんです」

 

 雪広自身も虐待され、心を閉ざしていた時期がある。さまざまな要因が重なって今は元気に毎日を送っているが、ひとつでもズレがあったら彼は今もなお心を閉ざしていたかもしれない。

 

「そのためにも、この国に蔓延るいじめや虐待の諸問題を減らしていきたいのが今後の目標ですね」

「なるほどね~」

「無謀でしょう?」

「無謀だね~。でも私は嫌いじゃないな」

 

 いじめや虐待は基準が難しいだけでなく、発見そのものが難しい。そして人がかかわる以上、それらをすべて無くすのは確かに不可能に近い。また、この時代の蔓延る女尊男卑の風習がいじめや虐待の後押しをしてしまい、毎年より酷くなっている。

 だからこそ彼はそんな社会を変えたいと本気で考えている。束に語るその目は決意に満ちていた

 

「ちなみにまずは何からするつもりなの?」

「女尊男卑の風習を無くすことですね。それが原因でいじめや虐待が助長されているので。そのためにはISが男でも動かせられるようになればいいのですが・・・どうなんですか、ISのほうは。女性しか動かせない謎は解けました?」

「解けていたらとっくのとんに論文出して世界に放映してるよ。ゆーくんも手伝ってよ~」

「あなたでも解けないものを解けと?」

「え~、そこは他力本願なの~?」

「・・・理解しようとはしてるんですが、1ミクロンもわからんのですよ。そこは適材適所ということで。ISが男でも動かせられるようになったら私が先駆者となって女尊男卑を潰しますから」

「すごいでしょ?私の最高傑作は」

「本当にもう・・・うぷっ・・・ため息しか出ないくらいに」

 

 フフンとドヤ顔で勝ち誇る束。その仕草は子供っぽさが目立つがそれも含めて束らしいのだと妙に雪広は納得してしまう。

 

「やっぱりゆーくんと話すのって楽しいな♪」

「まだまだ語り合いましょうよ。夜はこれからなんですから」

 

 まだまだ夜は長い。夜の雰囲気だからか、はたまたこの場に二人しかいないからか。夢の語り合いやたわいもない会話は途切れることなく、二人の夢の語り合いは夜遅くまで続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六者三様の夜を過ごしているが

 

「スコール!M!大丈夫か!」

「私は無事よ!」

「・・・生きてる」

「くっそ!!俺たちだけでも生き残るぞ!!」

 

 水面下では何かが起きているのを彼らは知らない




 天の川ですが本来は「高い位置のほうがよく見える」「旧暦の七夕、今の8月が良く見える」らしいです。
 臨海学校編はこれにて無事閉幕!3巻分が終わりました。いや~、長かった。小説ってこんなに書くのが大変だと再認識しましたね。
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