Inferior Stratos 作:ユキ (旧 rain time)
番外編なので本編との関係はありません
pt.1 ブルークリスマス・イヴ
光あるところに影がある。勝者いるところに敗者がいる。
全人類が幸せになることはあり得ない。そんなことは分かり切っている。事実、自分は未来全員の子供を幸せにしようとは思っていない。不可能なんだから
分かっている。分かりきっている。
「ジングルベル♪ジングルベル♪鈴が鳴る~♪」
「We wish a merry Christmas♪ We wish a merry Christmas♪」
12月の初週。息が白くなってきた今日この頃、町はもうクリスマス一色になっている。どこの店にもクリスマスの飾り付けがあり、もうクリスマスセールが行われている店もある。クリスマスケーキや七面鳥、チキンの予約を承っているとこもあり、外を歩くと心なしかカップルが多いようにも感じる。
クリスマス。それはイエス・キリストの降誕祭であり、カップルたちがひと冬の思い出を作る時でもある、世界中の人が浮かれている時期。要はカップルにとっての一大イベントの日だ。早いものだな
「・・・もうこの季節か」
「そうだな・・・兄さん」
部屋にいる一夏と会話をする。お互いの顔を見なくても、どんな表情をしているかこの時期は分かってしまう
「・・・準備しないとな」
「そうだな」
「はぁ・・・本当に・・・
最悪な季節がやってきたな」
今年もクリスマスはやってくる
クリスマスが一週間前になり、町全体がクリスマス一色になっている今日この頃。ここIS学園でもそれに染まっていた。最も、ほとんどの生徒は彼氏がいないため友達を集めてのパーティーをすることになっている。数少ない他校に彼氏がいる子たちはクリスマスイブにデートをするって惚気ていたわ。
そんな中、あたしたち三人は食堂のテーブルで話をしていた。しかしその空気は・・・クリスマスとは思えないほど重い。クリスマスよりも心配なことがあるからだ
「「「あのさ」」」
沈黙を破ろうとしたら思いっきり被ってしまった。こういう時に限って発言が被ることって多くない?っと、話がそれたわね
「あたしから言ってもいい?といっても、考えていることは多分同じだろうけど」
「うん、いいよ」
「僕もそう思うから言って」
「あのさ・・・一夏と雪広、最近おかしくない?」
どうやら二人も同じことを考えていたようで、首を縦に振る。そう、ここ最近一夏と雪広が変なのだ。目に見えて調子が悪い
「ISの実習や訓練でも初歩的なミスが目立つし、形態変化も不安定だし、模擬戦の勝率が落ちてるし・・・少し前のほうがもっと上手に乗っていたわよ」
「ISもそうだけど、授業中もなんか上の空なんだよね。雪広なんか簡単な計算ミスを連発していたし・・・。いつもだったらそんなこと絶対ないのにさ」
「生徒会でもちょっとね。一夏に書類仕事を手伝ってもらっているんだけど、書類の書き間違いがここ最近酷くて・・・いつもお姉ちゃんが任せていたんだけど、今は任せられないって言って仕事を外してるくらいだし・・・何かあったのかな?」
うーん、と三人そろって考え込む。スランプというよりも心がここに非ずといったような感じなのよね。あたしたちといるときは笑っているんだけど、無理をしているように感じるし・・・何より、二人そろって目に見えるほどの調子を落とすのは珍しい
「いつから?二人が目に見えて調子を落としたのって」
「といってもそんな二人にべったりじゃねえし・・・」
「あっ」
「何か思い当たるものあった?」
「たしかよ、先週一夏とデートしていたんだけど」
「惚気か?」
「違うわよ!で、その時に一夏が店のクリスマスツリーを見た時、明らかに悲しそうな顔をしていたのよ。何でもないようにふるまっていたけど、思えばその辺りから調子が落ち始めた気がするのよ」
しかしスランプの原因がクリスマスだとしても何が原因なのだろうか?それに一夏がクリスマスで調子を落とすのは考えにくいというか・・・
「でもさ、二人がスランプになるのとクリスマスって関係ある?特に一夏なんてクリスマスは最高の日じゃないか」
「そうだよね。雪広ならともかく、彼女がいる一夏がクリスマス嫌いなんて、そんなことある?」
「というか、鈴は一夏と予定無いの?クリスマスにさ」
「それが、一夏から何にも無くて・・・聞こうにもあの時の顔が忘れられなくて聞けなかったの」
怒っているような、恨んでいるような、悲しんでいるような、そんな顔でクリスマスツリーを見ていた一夏の顔は今でもはっきりと覚えている。思えばクリスマスソングが町から聞こえた時にも悲しそうな感じが出ていたような・・・
でも・・・それでもクリスマス何だから一夏と過ごしたい気持ちも当然ある。
「一夏も雪広もその時からだとしたら、昔クリスマスに何かあったのかな?」
「けどそんなこと聞けねえし・・・そんな情報を知っている人なんてそういないし・・・」
行き詰ってしまった。三人そろっても事態が進まず、あったかかった緑茶がぬるくなってしまった。そんな所に一人の人影がやってくる
「あら、三人そろって女子会?私も混ざっていい?」
「お姉ちゃん、お仕事は?まさかまたサボってないでしょうね?」
「してないわよ!しっかり働いたわ!」
楯無先輩がやってきた。楯無さんなら一夏たちのことを知っていそうだ。束さんほどではないけど、この人の情報収集力は伊達じゃないし、聞いてみる価値はありそう
「楯無先輩、最近一夏たちがスランプ気味なんですが、何か知ってることあります?」
「!」
この反応を見るに知っているようね。だけど何故か言葉を出そうとしない。いつもだったら本人の知られていない内容までぺらぺらとしゃべるのに、この時だけは言葉を選んでいるようだ
「何か知ってそうですね。僕たちに教えてくれません?」
「えーっと・・・それは本人たちのプライバシーに関わるというか・・・なんというか」
「駄目?」
出た、簪の必殺上目遣い。これをした暁には楯無先輩はどんな簪のお願い事をも聞いてしまう、楯無先輩に対してだけの必殺技だ。本当にチョロすぎます、先輩。
だが、今日はそれをもってしても口を割らない。初めて抵抗したんじゃないかしら
「い、いくら簪ちゃんのお願いでも・・・これだけはダメ!」
「ぷー」
「む、むくれてもダメだからね!」
とはいえ、相当揺らいでるじゃないですか。簪の顔を見ないように楯無先輩はそっぽを向く。いや、耐えただけでも褒めるべきなのか?
それよりもだ
「そんなに雪広たちにとって知られたくない内容なんですか?」
「ええ、まあ。私だったらあんまり知られてほしくないというか・・・掘り返してほしくない内容というか・・・」
「何を掘り返したくないんですか?」
「「「「ひゃあああ!?」」」」
話題の一夏が突然来たことに思わず悲鳴を上げてしまった。いつもなら気配とかで分かるのに、今日は一段と薄いというより覇気がない。後ろの雪広も一夏以上に元気がない。それでも彼は務めて明るくふるまう
「何?男子禁制の話で盛り上がってた?やましい話でもしてたの?」
「してないわよ!」
雪広、セクハラで訴えるわよ!って、言いたいところだが、無理して冗談を言ってるよう。それに一夏もいつもならセクハラを言う雪広に強烈なツッコミをするのだけど、今日はそれすらない。
それほど一夏たちは調子が悪いのだと改めて認識してしまう
「そういえばなんだけど・・・みんなクリスマスイブって空いてる?」
「「「「えっ!?」」」」
まさかのここで聞く?というよりなぜ皆にも聞くの?一夏は何を考えている?いけない、いろんな思考がぐるぐる頭を駆け巡ってしまう。
落ち着けあたし。心の中で深呼吸だ。すぅ~、はぁ~・・・よし落ち着いた
「あたしは無いわ」
「私もないね」
「僕も空いてる」
「おねーさんもフリーよ」
「・・・なら俺たちに付き合ってくれません?会わせたい人がいるんで」
会わせたい人?誰?なんでイブの時なの?それとも二人が調子悪いのってその人がかかわっている?
楯無先輩を見ると察したのか神妙な顔になる。ってことは一夏たちの今の状態に関わる人なのだろう。でも一体誰なんだろ?そもそもどんな関係なのだろう?それを聞ける雰囲気ではないし、当日に知る流れなのかな?
結局詳しくは聞かされないまま、イブの日に駅で集合してから案内するって言って二人は去ってしまった。あたしたちも痴話話をある程度してその日はお開きとなった。本当なら一夏とクリスマスデートしたいんだけどな・・・
クリスマスイブ当日。あたしたちは指定時間である昼頃に駅で集合した。できれば制服で来てほしいということで制服なのだが、雪がパラパラと舞っていて寒い。誰よ、こんな防寒性能低い制服にしたのは、ってあたしか
そのあとモノレールに揺られて首都の東京へ。そこからバスでまあまあ揺られている。どこに行くのだろうか?都心から離れるためか、このバスにはあたしたち以外誰も乗っていない
「雪広、あとどのくらいかかる?」
「あと2駅分だからそろそろだよ」
そろそろだけど、東京とは思えないような閑散としたところに行っている。こんなところもあるのね。
そして目的のバス停でおり、雪広を先頭で少し歩く。お寺の門が見えてきた。
寺・・・会いたい人・・・もしかして・・・
「こんにちは。雪広君、一夏君」
門をくぐると箒を持ったお坊さんが二人にあいさつをかけてきた。漫画で描いたような優しそうなお坊さんで年は80くらいだろうか。それでも背筋はしっかりしていて元気そう
「「ご無沙汰しています」」
「花はいつものところに置いてあるから、それを持っていきなさい」
「いつもありがとうございます」
「いえいえ、私にできることはこれくらいですから。して、こちらの方々は?」
「学友たちと先輩です」
雪広に紹介され、自己紹介をする。その後、一夏と雪広はあたしたちから離れ、お坊さんとあたしたちだけになる。するとお坊さんがあたしたちに話しかけてくる
「彼らは学校になじめていますか?私はIS学園のことを詳しく知らないのですが」
「はい、なじめていますよ。クラスでも好評です」
「鈴の言う通りです。それに僕は彼らに救われましたし」
「私も彼らに助けてもらいました。今は良きクラスメートです!」
「いい後輩たちですよ」
「そうですか。それはなによりです。そして・・・あなたが鈴さんですか。一夏君の恋人ですね」
「にゃっ!?」
どどど、どうしてそれを知っているの!?!?
「8月の時に一夏君が伝えてくれました。何でも頼りがいがあって、優しくて、とてもかわいらしいと」
「おうおう、好かれているね~鈴さんよ」
「羨まし~」
「ホント、アツアツね」
「うう~///」
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分とはまさにこのことね・・・いや、恥ずかしさが勝ってるわ。何お坊さんに惚気てるのよ、一夏は!!嬉しいけど!!
だが、その後すぐにお坊さんは笑みを消して深々と頭を下げる
「これからも彼らとよき友であってください。
「・・・」
含みのある言い方。楯無先輩は一夏たちにとってどんな日か分かっているような反応をしている。そんな反応を見て、あたしたちはなんとなくだけど分かった気がする。分かってしまった気がする。だってこれまでのことがすべて当てはまっているのだから
でももし本当なら、どれほど残酷なのだろうか
「お待たせ」
「行こうか」
一夏たちが戻ってきた。一夏は花を、雪広は水の入った桶を持って。再度雪広を先頭に歩く。言葉は交わせない。
歩いた先には墓地が見える。二人はお構いなくその中の道を進み、他よりも少し大きめの一つの墓石の前で止まる
「遠藤幸雄」の文字が刻まれている墓石の前で
「戻ったよ、父さん」
「また戻ってきたよ」
この墓に眠っている人が、一夏たちを育ててくれた人なのね。そして会わせたかった人は幸雄さんのことだったのね。シャルロットも簪もやはりと確信したようで、でも二人にかける言葉が見つからなくって・・・
そう考えているうちに雪広は水を墓石にかけ、一夏は花を手際よく供えている。一夏の話では3年前に亡くなったと聞いているが、その墓は新品と言っても忖度ないほど手入れがされていた。あのお坊さんがやってくれているのだろう
その墓石に二人が語り掛ける
「親父、今日は仲間たちを連れてきたよ」
「俺の仲間と、大事な人さ」
「みんな、いきなりで悪いけど自己紹介してくれるかい?紹介したいんだ」
もともと会わせたい人がいると言われていたからある程度は考えていたし、戸惑うことなくあたしからお墓に向かって自己紹介をする
「凰鈴音です。雪広とはよき仲間で、一夏と付き合っています。よろしくお願いいたします」
「更識簪です。姉との仲を取り持ってくれた雪広たちを育ててくださり、ありがとうございます」
「姉の楯無です。簪ともども感謝します」
「シャルロット・デュノアです。雪広たちに色々と救われた身です。感謝の意をここに」
少し懺悔っぽくなってしまったけどその思いは伝えられただろうか。すると二人がお墓の前で語り始める
「今日はさ、仲間たちを見せたくて・・・皆には無理してもらって来てもらったんだ」
「いつか会わせたいと思っていたから・・・素敵な仲間たちだろ?」
「今までよりも、去年の三回忌よりも来てくれる人が多い・・・って今まで自分たちしか来ていないから当然か」
ははっ、と乾いた笑いを出す二人。どうしよう、何をするのがいいのかしら。下手に声かけるわけにもいかないし・・・
「皆さん、外は冷えますよ。中に入りなさい」
さっきのお坊さんがあたしたちの声をかけてくれた。どうやら温かい飲み物を出してくれるとのこと。雪の結晶が大きくなってきて冬の風が体をつんざく。
「ほら、一夏も雪広も行こ?」
「いや、まだ俺たちは話がしたい」
「先に行っててくれ。後で合流するから」
「でも・・・!」
流石に二人を残して寺の中に入るわけにはいかないと思ったのだが、お坊さんがあたしの肩を叩く
「
「「・・・ありがとうございます」」
「皆さん、行きましょうか」
そういわれ、一夏たちを残してお寺に向かった。その時ちらっと見た二人の眼からは・・・いや、言わないでおこう
「どうぞ、熱いので気をつけてくださいね」
暖かい部屋の中、お坊さん、本名龍一さんがお茶を出してくれた。ありがたくいただいてる。ああ、体の中まで染み渡る
するとシャルロットが意を決したかのように龍一さんに尋ねる
「失礼なことを聞きますが、幸雄さんっていつ亡くなられたのですか」
分かってはいるが、それでも気になってしまう。もしかしたら違うのだと思いたくて。シャルロットも簪もそう思ったのだろう。
龍一さんは少し静止した後、あたしたちの向かいに座って口を開く
「世間でいうクリスマスイブ、つまり今日が彼の命日です」
「っ!」
やっぱりそうなのか。だからあんなにも調子が悪かったのか。
当然だ、大事な人が亡くなったという日にどうやって明るく過ごせと言えるのだろうか
「朝だろうと、夜だろうと、春だろうと、秋だろうと人はいつか亡くなります。それは自然の摂理です。私は仏教に身をゆだねておりますゆえ、ほかの宗教の行事にはそれほど興味はありません」
「・・・」
「ですが、それでも思うのですよ。仏は彼らに残酷であると。なぜ彼らをこれほどまでに苦しめるのかと。よりによって世間が賑わうときに辛い経験をさせるのかと。こんなことを言うのは僧として失格ですけど」
本当に残酷だ。あたしは神様とかを信じてはいないけど、余計に信用ができない。いるとしたら一発ぶん殴らないと気が済まない。あの二人がなにをしたというのか。前世に大罪でも犯したのだろうか
「二人がクリスマスを嫌っているのって・・・幸雄さんが亡くなったから、ですか?」
「正確にはクリスマスで幸せな人を見ると腹が立つと、本人たちが言っていました。なんでも、『まるで自分たちの親が死んだことを周りが喜んでいるようで辛い』と。一回忌の時はそのストレスが爆発して兄弟で大喧嘩をして、二人とも入院する羽目になりましたし・・・三回忌のときはその辛さを紛らわせようとして中学で無茶をして入院する羽目になったそうですし・・・」
「碌な目に合っていませんね」
「はい、今年もまた無茶をするのではないかと思っていたのですが・・・」
と、今まで悲しそうな顔で語っていた龍一さんがあたしたちに向けて笑みを向ける
「今年はあなたたちがいたおかげか、だいぶマシでしたよ」
「あ、あれでマシだったんですか?」
簪の言いたいことはすごくわかる。あそこまで調子が落ちても、それでマシだったということは・・・去年はもっとひどかったのだろう。ましてや一昨年なんかは悲惨だったのだろう。確か兄弟喧嘩したのは一回だけって言っていたから、その時だったのか
今のあたしに何ができるだろうか。どうすれば二人の・・・一夏の悲しみを取り除けるか。
と、玄関の扉が開かれる音がする
「龍一さん、戻りました~。雪がヤバいです」
「はーっ、部屋で温まりたい」
玄関前で雪を払い、暖かな部屋に入る雪広と一夏。外に長くいたため、鼻や耳、手が赤くかじかんでいる。そして、二人の眼も赤くなっていた。
二人は鈴たちが去ったあと、多くのことを語っていた。盆の時から新たに起きた事や、幸雄が生きていた時の思い出を思いつく限り彼の墓の前で。その時に幸雄の最期の時を思い出し、もう会えないのだと嫌でも認識させることへの寂しさが二人の目から零れ落ちた。ただ静かに、二人は涙を流し続けていた。亡くなってから3年が経とうとしているが、未だにこの時期になると寂しさが募ってしまう。
さすがに体が冷えて目が痛くなってきたので、まだ気持ちの整理がつかないまま二人は暖かな部屋に避難する。それを見て彼らを知っている楯無が言葉を発する
「どう?気持ちの整理はついた?」
「「・・・」」
「まだのようね」
まだ心が荒んでいる彼らは問いに答えることができない。そんな雰囲気を感じ、鈴がおもむろに立ち上がり、一夏の前に立つ
「ん」
「・・・鈴?」
「あたしを抱きしめなさい」
「え・・・?」
「だから、抱きしめなさい。慰めてあげるから」
両腕をひろげ、飛び込んで来いと伝える鈴。一夏は無意識のうちにフラフラと吸い寄せられるように鈴に抱き着く。
「鈴・・・」
「何も言わなくていいから。落ち着くまでこうしてあげるから」
鈴はかがんでいる一夏の頭を撫でる。どうしたらよいか考えた結果、鈴は一夏抱きしめることにした。ハグはストレスを解消できてリラックスできると最近どこかで聞いたし、今すぐにできると思い、鈴は即行動に移した。彼の傍にいてあげたいと、せめて今だけは彼のこの悲しみを少しでも和らげたいと思ったゆえの行動だった。
一夏は何も言わずに鈴を抱きしめる。効果
「ぼ、僕のところもいいよ!雪広!さあ!!」
「私も!いーっぱい抱きしめてあげる!」
「おねーさんの所でもいいわよ?おっきなクッションで抱いてあ・げ・る♪」
普段の雪広なら競うなよ、と言って呆れるところ。だが、今の彼もそんな余裕などなくシャルロットと簪を同時に勢いよく抱きしめる
「うわあっ!」
「雪広、が、がっつきすぎ!」
二人同時に来ると思っておらず予想外の勢いによろめくが、力が半分に分散されたことで何とか踏ん張り、雪広を支える。雪広はそのまま彼女たちに体を預け、ポツリとつぶやく
「あったかい・・・あったかいなあ・・・優しさが染みるなあ・・・」
「・・・もっと僕たちで温まってよ。時間はあるんだから」
「こんな風に抱かれるのっていつ以来だったか・・・懐かしいなあ・・・」
「気の済むまでいーよ。私もぎゅーってするから」
「・・・そうさせてもらう」
先ほどよりも強く二人を抱きしめる雪広。そんな彼にシャルロットと簪はそれぞれ空いている右手と左手で背中をさする。雪広は二人のやさしさに今日までたまっていた負の感情が抜けていくのを、シャルロットと簪は雪広を抱くのは役得と少し思いつつ彼の役に立てられることの喜びを感じながら、思い思いの時が流れていった
「ねえ、私は?」
「「 お姉ちゃん(先輩)は黙ってて(ください)」」
「ヒドイ!」
ただ楯無は蚊帳の外になってしまったが
「鈴、今日は本当にありがとうな。おかげで気分が良くなったよ」
「それなら嬉しいわ」
満面の笑みを一夏に向ける。うん、いつもの一夏に戻ったわね。一時期はどうなるか心配したけど、もう大丈夫そうね
「ところで、本当に良かったのか?」
「何が?」
「いや、今日をみんなと過ごすことにしてさ」
そう、今あたしたちは学校の食堂を借りて合同クリスマスパーティに参加している。本来はカップル禁制なのだが、特例で参加してもいいと言われたので雪広たちと参加することにした。確かに、二人っきりのデートの方が良かったと思うあたしもいる。でも
「聞いたわよ。ここ二年のクリスマスは病院のお世話になっていたのを。一夏が無茶して今年も病院なんてことにならないようにするにはあたしだけじゃ無理があるわ」
「うぐっ!痛いところを突かれたな・・・」
「それに二人でいるよりも、皆と一緒の方がより楽しいでしょ?それに、二人っきりになれることは来年でもできるけど、皆でワイワイやれるのは毎年できるとは限らないじゃない」
実際、あたしもこれほどの規模のパーティーは参加したことないし、興味はあったのよね。友達とこうやって騒ぐのも悪くはない
向こうではカラオケ大会で盛り上がっているようだ。そこから雪広がこちらにやってくる。雪広も今日の件で吹っ切れたようで楽しそうにこちらに近づいてくる
「一夏!カラオケやるってさ!自分とデュエットしようぜ!」
「ほら、いってきなさい。あたしも何歌うか気になるし」
「ああ!行こうか!」
一夏があたしから離れる。その時にふと来年も今日みたいに落ち込んでしまうのではないかと思ってしまった。そのときは今日みたいに元気づけられるか言いようのない不安が一瞬迫る。
でも
「大丈夫。もう今までのように落ち込まないよ」
「そうですか?」
「ああ、本当の意味で私の死を今日乗り越えられたから。君たちのおかげだよ」
「それなら良かっ・・・」
え?
声がしたであろう方を思わず見た。見たのだが、そこには誰もいない。誰かいた形跡もない。あたしはいったい誰と会話していたの?
もしかして・・・
「鈴~!一夏と雪広がデュエットするって!」
「近くで聞きなよ!」
「わ、分かったわ!今すぐ行くから!」
そんなわけないよね。幽霊なんて信じないタイプだし。
でももし近くにいるなら、あの人が近くにいるなら、私は誓う。
(一夏の支えに、大事なパートナーになります。だからどうか、あたしたちを見守っててください)
心でそう言って、あたしは一夏のところに向かっていった
人ならばいつかは死ぬ。その時はいつか分からない。その時思ったんです、楽しいイベントの日と大事な人の死が重なってしまったら残された人は何を思うのか、と。そんなテーマでずっと書きたいと思っていたネタなのでこれが書けて満足です。心情をもう少し入れられたらとも思ったのですが、急ピッチで仕上げたのと、私ごときの力ではこれが限界でした
本来ならクリスマスイブに投稿予定でしたが、予想以上に文字が多くなってしまい一日遅れる結果となってしまいました。クリスマスだからセーフということで
聖の6時間、ずっと執筆した甲斐がありました
p.s. 題名「二人ぼっちだったクリスマスイブ」と迷いました