Inferior Stratos   作:rain time

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 遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
 オリジナル章開始です



第5章 期末試験
第35話 後遺症


 臨海学校が終わり、1学期もそろそろ終わる。だが、その前に大きな壁がある。そう、期末試験だ。

 IS学園の期末試験は一般科目だけでなくIS理論、そしてISの実技も行われる。座学は他の高校と比べて難度は高いが、実技は基礎的なことを中心とするようでそれほど難しくない。雪広たちは期末に向けていつも通りの日々を過ごす。

 

 そう、いつも通り・・・

 

 

 

 

 

 そのはずだった

 

 

 

 

 

 

 振替休日が明けてから初めての授業はISの実技授業だ。臨海学校明けの初めてのISの演習だが、試験が近いこともあってか皆のやる気はいつも以上に感じる。流石に休みの日にISの訓練はする気もなく、シャルロットと簪のデートで休日を過ごすことになったので、3日ぶりのIS訓練となる

 今日はISに乗ってホバリングをするとのこと。自分がするのは難しくないんだけど、説明するの難しいんだよなあ

 

「ではお手本として、雪広君と一夏君にやってもらいましょう」

 

 山田先生から指名され、自分たちは前に出る。織斑千冬はあの事件の後、謹慎処分を言い渡され、担任から副担任に降格されたとのこと。山田先生が繰り上げで担任となってISの指導をしている。一部の馬鹿な(女尊男卑の)女たちが喚いていたな。

 それはいいとして、ISを展開しようと目を閉じてイメージをする。いつも通りにイメージして・・・

 

 

『La・・・』

 

 ん?なんか光景が浮かんだような?

 今は、余計なことを思い出さなくていい。集中・・・

 

 

『被弾覚悟で自分が切りに行く』

 

 違う!何故あの光景が(よみがえ)るんだ!もう終わったことだ!

 頭を左右にふってその記憶を忘れようと・・・

 

 

『こはっ・・・』

『い、一夏ああああああああ!!!!』

 

 やめろ!思い出すな、俺!いやだ!あの事は思い出したくない!!忘れろ!忘れろ!!

 嫌な冷や汗が流れる中、ISを展開することに集中しt

 

 

 

『一夏が傷ついたのは・・・オマエノセイヨ』

 

 ああ、あああっ、ああアアアあアアああ亜アアアああア亜亜AAAA亜アアア!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山田先生に指名され、見本となるようにホバリングをする。よしできた。いつも模擬戦でやっているからできて当然なんだけどな。兄さんもできているだろうと思ってちらっと見てみると

 

「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」

 

 まだISすら展開していない。珍しい、ISの展開に手間取るなんて・・・ん?

 

「兄さん?」

「あっ、ああっ・・・アアアアッ!!」

「兄さん!?」

 

 いや、何かがおかしい!頭を押さえてうずくまった兄さんに近づき、状況を確認する

 

「兄さん!大丈夫か!?」

「アアアアアアッ!!」

「どうしましたか、雪広君!」

 

 山田先生が急いで兄さんのところに来るも、兄さんは取り乱したままだ。いや、悪化している。何故だ!?さっきまで普通にしていたのに!

 なおも取り乱す兄さん。どうしたら良いかわからず山田先生を見るが、先生はオロオロするばかり。

 その時、集団からシャルロットが飛び出し、兄さんに近づく。そして

 

「シッ!!」

「ウグッ!」

 

 勢いに乗せて兄さんに回し蹴りを叩き込んで気絶させる

 

「シャルロットさん!何を!」

「雪広を黙らせただけです。気絶させた方が良いと判断したので」

「な、何もそこまで!」

「あの状態は異常だった。あれでもしもISを展開されたら周りに被害が及ぶかもしれなかった。独断でやったことには謝ります」

「いや、助かったよ。シャルロット」

 

 確かにあの状態でISを展開していたら、そこからマシンガンとかで乱射していたら、確実に死人が出ていた。それに兄さんも意識ある方が辛そうだったし、英断だと思う。少し過激だったが

 

「本当なら首に手刀当てて意識を刈り取ろうかと思ったんだけど、うまくいかなくてね。確実な方をやらせてもらったよ」

「・・・誰を実験台にしたかは聞かないでおく」

「と、とにかく雪広君を保健室に!」

「なら僕が行きます。僕がやったので責任もって運びます」

 

 兄さんの方を担いで保健室に向かうシャルロット。その背中が見えなくなる前に授業は再開された。だが、俺もほとんどのクラスメイトも兄さんのことが気になって仕方がなくなり、授業に集中出来なかった。いったい兄さんの身に何が起きたんだ?

 

 

 

 

「・・・っあ」

「大丈夫?」

「あれ?どうしてシャルロットが?というか、ここは?」

 

 保健室についてベッドに横にさせてすぐに雪広は目覚めた。雪広はすぐ起き上がって辺りを見回しているが、まだ意識が曖昧のよう

 

「いきなり取り乱したんだよ。覚えてない?」

「・・・ああ、思い出した」

「どうしたの?いきなりでびっくりしちゃったんだけど?」

「一夏が・・・織斑に落とされた光景がフラッシュバックしてな。それもリアルに」

 

 一夏が落とされた光景。銀の福音の時のことだな。それだったら仕方がないのかもしれない・・・

 え?でも、どうしてあの時に突然その光景が出てくるんだ?奴ら(織斑姉弟)はいないし、いきなりすぎるというか・・・何か腑に落ちない

 その前に雪広の体調確認だ

 

「で、今はどう?落ち着いてる?」

「ああ。ただ腹がなんか痛いんだが」

「ごめん、それは僕のせい」

 

 雪広が取り乱してISを展開されて暴れるのを防ぐために回し蹴りを叩き込んだことを説明して謝る。駄目だ、最近手が出るのが早くなってる気がする。一夏が落とされた時もそうだったし、気を付けないと

 

「いや、助かったよ。もう大丈夫だ」

「そう?少し休んだら?」

「ううん、体調は悪くないし、一夏たちが心配しているだろうから戻るよ」

「じゃあ一緒に行こ?」

 

 保険医に感謝を伝えた後、僕たちはアリーナに戻った。と言っても、着いた時にはもう授業は終わってたんだけどね。一夏もすごく心配していたようで、雪広の姿を見て安心していた。結局あの光景がフラッシュバックしたのは謎だけど、たまたまだったのだろう。

 

 そう、たまたまだったのだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 あれから雪広はいつも通りだった。事情を知らなかった鈴と簪に心配されたが、特に問題なく授業にも出ていた。

 そして放課後、僕らはISの自主訓練でいつものメンバーが集まっていた。今日は3対2で模擬戦をする。この3対2は防衛側の3人と仮想敵の2人に分かれての戦闘で、3人側はいかに損害を出さないで勝つことを目標とし、2人側はどれだけ爪痕を残せるかというのを目標としている模擬戦だ

 ISを展開して所定の位置に行こうとして・・・なんか不安になって雪広を見る

 

 雪広は動かない

 

 嫌な予感しかしない

 

「ハッ・・・アアッ・・・」

「兄さん!?」

 

 頭を押さえ、うずくまる雪広。今朝と同じ発作が出ている!

 

「鈴!簪!中止だ!」

「え!?」

「ど、どうしたの!?」

「雪広がさっきからおかしい!」

 

 二人が急いでこちらに向かってくる。その間、一夏は雪広をなだめてもらい気分を落ち着かせようとする。が、

 

「嫌だ・・・もう・・・!」

「兄さん落ち着いて!ほら、深呼吸」

「はあっ・・・はっ・・・はっはっ・・!」

 

 一夏が雪広の背をさするが、一向に良くならない。なんとかして抑えないと!

 

「雪広!」

「どうしたの!?」

「今日の発作が出ている!とにかく落ち着かせないと!」

 

 鈴と簪は今日のことを知らないからすぐには動けないでいた。だから僕と一夏で雪広を急いでなだめる。暴れないようにするのと安心させるために一夏は左手を、僕は右手を握って雪広が落ち着くのを待つ。鈴と簪は雪広の背後に回ってもらい背中をさすってもらう。

 数分経って、雪広の呼吸が元に戻る。落ち着いてよかった

 

「すまない・・・皆」

「私たちは大丈夫だよ」

「それよりどうしたのよ、いったい」

()()()()()・・・また思い出して・・・それもさっきより鮮明に・・・」

「あの光景?」

 

 三人は首をかしげるが、僕はわかる。保健室で聞いた、あの時のことがまた思い出したのだろう。それでまた取り乱したのだろう。でもどうして?同じ日に二度もこんなことが起きたんだ?

 ・・・まさか

 

「すまないが、今日はお暇させてもらう。こんな状態じゃ足手まといもいいとこだ」

「そうね。無理しちゃいけないわ」

「もう一日、ゆっくり休んで。ね?」

「・・・」

 

 鈴と簪はねぎらいの言葉をかけるが、一夏は何か考えているよう。もしも普通の言葉をかけるようだったら僕はこれを言うべきだろう

 

「兄さん、()()()()()()()()()()

「え?」

「うん、僕もそうしてもらった方がいいと思う」

 

 医者に診てもらうべき、そう言おうと思っていたけど、束さんの方がより正しく診断してくれると思う。今までこんな風におかしくなることはなかったし、とても不安だ。雪広が壊れそうで

 

「い、一夏にシャルロット?流石にそれほどじゃ無いぞ?体は元気だし」

「今日と今の取り乱し方は異常だ。一度診てもらうべきだ。束さんなら医学にも詳しいだろう」

「で、でも束さんに迷惑じゃ」

「もうアポは取ってある。昼休みの時にな」

 

 ああ、だから昼休みの時一夏はいなかったのか。流石にクラスメイトの前でその話はできないからね。

 雪広は観念したのか両手を挙げるジェスチャーをする

 

「分かった。診てもらう。で、いつ?」

「今日の夕方」

「早くない!?今から行くの!?」

「善は急げだ。いくぞ兄さん」

「ちょ、待てって!うわ力強い!」

 

 一夏に引っ張られるようにして連れていかれる雪広。それを見届けると静かな空間になる。言葉を出そうにも言葉が出てこない

 かろうじて簪が口を開く

 

「雪広、なんともなければいいね」

 

 本当にそうであってほしい。だけどそれは希望的観測なのだろう。2回までなら偶然という言葉で一応片づけられるが・・・一夏は気づいたから焦っていたのかな?

 そんな不安を抱えながらも、期末試験に向けて僕たちは訓練を積む。気持ちが入らなかったのは仕方がなかったと思う

 

 

 

 

 

 

 そして夜。食堂で鈴と簪と世間話をしている。が、なんか言葉が出てこない。未だに雪広と一夏は帰ってこないことが不安で仕方がないのだ

 

「雪広、何かあったのかな・・・」

「待つしかないのって辛いね」

 

 本当にそうだ。何もできなくて・・・福音の時のようにもどかしい

 すると鈴の携帯が鳴る。着信音からして一夏から電話が来たとのこと。話を中断し、鈴は電話に出る

 

「もしもし、一夏?どうだった?」

『・・・少しマズいことが分かった』

「「「!!」」」

 

 電話越しに聞こえた言葉に言葉が出なかった。雪広の身に何が・・・

 

 

『兄さんは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 ASD、急性ストレス障害だって』




 本当ならPTSDと言いたいとこでしたが、定義によると大きなストレスを経験後1ヶ月以上症状に苦しむ場合のストレス障害らしく、雪広の例ではASDらしいです

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