Inferior Stratos   作:ユキ (旧 rain time)

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 学生の本業は勉強。ということで頑張っていました
 この話は一夏が雪広を連れだした直後から始まります


第36話 蝕む牙、迫る毒牙

 兄さんを強制的に連れ出し、束さんと合流する場所までモノレールで移動中。なんか兄さんは少し不満を抱いているようで若干拗ねてる

 

「なあ、そこまで急がなくても良かったんじゃ?」

「いや、早いに越したことはない。それに、兄さんは自分自身のことをよく理解してないから。兄さんの『自分は大丈夫』ほど信用のない言葉はない」

「辛らつだな・・・泣きそうだぜ」

 

 他人の体調が悪いことは敏感なくせに、自身のことは鈍感すぎる。中学の時も『大丈夫だ。問題ない』と言った日はもれなく保健室のお世話になっていたそう。何が問題ないだよ、問題しかないじゃないか

 と、思っているうちに目的の駅に着く。そこから道を外れたところを歩き、人気のない合流地点に到着。そこには誰もいないように見える。しかし、何もなかったところからウサミミが出てきたかと思うと、頭の方から徐々に束さんの姿がスーッと現れる

 

「やあやあ、二人とも!3日ぶりだねえ!」

「こんにちは。無理言ってすみません」

「ううん、いっくんだけじゃなくて束さんも気になってたから」

「そんなですか?いたって元気ですよ?」

「まあ、細かいことは私のラボで聞こうではないか。それじゃついてきて~」

 

 束さんの後についていく俺たち。その最中、気になった疑問を束さんにぶつける

 

「ところで、さっきのアレは何ですか?透明になっていたんですか?」

「そう!束さんが発明した『すけすけになれーるくん』だよ!このウサミミを付ければ自由に姿を消すことができるスーパーな発明品さ!」

 

 ネーミングセンスはともかくなんてものを作っているんだよ。というか、あのウサミミただのヘッドギアじゃなかったんだ。束さんの痛い趣味かと思っていたよ

 すると兄さんからISでのプライベートチャネルが開く

 

『束さんのアレ、趣味じゃなかったんだな』

『俺も初耳だった。でもウサミミじゃなくてよくね?』

『それは・・・まあ、束さんの趣味なんだろう。うん・・・痛いけど』

『束さんだからギリ許されてる感じだよな』

『わかる。でもいくつまであの格好するんだろ?流石に40になってもあの格好は・・・』

『それなw』

 

「・・・いっくんにゆっくん、何を話してるのかな~?」

「「え゛っ!?」」

 

 今、声出てたか!?プライベートチャネルだっただろ、そんなわけ・・・

 くるっと束さんが振り向く。振り向くのだが・・・背中から冷や汗が滲み出てきた

 

「このウサミミはいろんな電波を傍受できるんだよね~。他人の電話だったり、メールだったり・・・ISのプライベートチャネルだったり」

「そうなんですか」

「い、いきなりどうしたんですか?」

 

 わかっている。もうわかっているんだ。ISのプライベートチャネルの内容が束さんに筒抜けだったんだろう。兄さんは努めて平静を装っている。俺も装おうとしたが少しどもってしまった

 束さんは満面の笑みで俺たちに近づく。おかしい、その顔が怖くてまともに見られない

 

「今白状するなら・・・束さんの本気のげんこつを免除しよう。束さんは寛大だからね♪」

「「・・・」」

「もう一回聞くね・・・何を話してたのカナ?」

「「スイマセンでした!!」」

 

 速攻で兄さんと土下座した。

 ダサいって?それで命が助かるならいくらでも頭を地面に擦り付けてやる。裏路地だったため、目撃者がいなかったのはせめてもの救いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、そんなこともあって束さんのラボに到着。ここに来るのは初めてISを動かした時以来だな。懐かしさを感じるとともに、部屋に見知らぬ少女が入ってくる

 

「雪広様、一夏様、緑茶です。どうぞ」

「ああ、ありがとう。ところで君は?」

「申し遅れました。私、束様の従者のクロエ・クロニクルです」

「も~、そうじゃなくって家族なんだから」

 

 束さん曰く、ドイツのクソガキを作っていた研究所で拾ったとのこと。それで家事が壊滅的な束さんの手伝いをしてくれているとのこと。俺たちが出た後に入ったのだから面識が無いのか。

 これからよろしくと、お互い挨拶をして本題に入る

 

「さて、ゆーくん。今日のことをできる限り細かく話してくれる?無理はしなくていいから」

「え、ええ。分かりました」

 

 さっきまでとは打って変わり、明らかに顔が曇る。辛いかもしれないが、俺は兄さんではないから何が兄さんを錯乱させたかを知らない。兄さんの口から何が起きたのかを聞かないと俺もどうしたら良いかわからない。

 

「それじゃあ、一から話しますね」

 

 パニックになったときのことを事細かに話していく。兄さん曰く、ISを展開しようとしたときに福音のことを思い出してしまうとのこと。特に俺が織斑に貫かれる光景が鮮明に見えるようで、それで気が動転してしまうとのことだ。

 ただ、兄さんの話し方に少し疑問がある

 

「はっきりと原因がわかっているのに、今は何とも無いんだな」

「ああ、確かに。自分も驚くぐらい落ち着いている。もちろん、一夏が落とされたのを何とも思っているわけじゃないからな」

「分かっているよ、それくらい」

「・・・」

 

 俺への気遣いもできているし、だからこそ今日の出来事に疑問が残る。あの時だけパニックになったのか、それともその光景に耐性がついたのか。素人の俺が考えても結論が出てこないから、今まで黙っている束さんの方を向く。束さんは顎に手を添え、しばらく考えるように黙ったのち、兄さんに指示を出す

 

「ゆーくん、今からやってほしいことがあるんだけど・・・()()()()()()()()()()()

「?何をすればいいのでしょう?」

「ISを展開して。右手だけでいいから」

「わ、分かりました。右手だけ展開しますね」

 

 兄さんが席を立ち、十分な間隔を持って展開しようとする。その間に束さんからのプライベートチャネルが開かれた

 

『いっくん、束さんの声聞こえてる?』

『わっ!?いきなりなんですか!?』

『要点だけ言うね。ゆーくんが暴れだしそうになったら二人で止めるよ』

 

 何を・・・そう送り返そうとして、でも心配になって兄さんの方を向く。左手は右腕に添え、右手を前に出して展開しようとする。ものの数コンマで展開されるはずだ。兄さんなら造作もない・・・

 

「・・・」

 

 が、そんな予想を裏切り、いつまでたっても兄さんはISを展開しない。それどころか額から汗が滲み出てきて、手が震えてきた。まさか!?

 

「ア・・・アアアッ・・・」

「いっくん、ゆーくんの左手を抑えて!私は右を抑えるから!!」

 

 束さんは俺に指図すると同時に兄さんに駆け寄って手をがっちり絡めて動けないようにする。それに続いて俺は空いている左手をそっと握って、兄さんの背中をさする

 

「兄さん、落ち着いて!ほら、ゆっくり吸って・・・」

「ゆーくん、落ち着いて。ほら、束さん見て」

「ハッ・・ハッ・・ハッハッハッ!」

 

 駄目だ!今までで一番パニックになっている!どうしよう、どうしよう!!

 

「ゆーくん、ごめんね!!」

「グエァッ!!!」

 

 すると束さんは右手の拘束を解くや否や兄さんの背後に回り込んで裸締め、もといチョークスリーパーを決める。カエルが潰れたような声を出して、数秒で兄さんは落ちた。あまりの早業に俺はただ呆然と見るしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄さんを別室に運んでベッドに寝かせ、俺と束さんは先ほどの部屋に戻る。クロエさんが付き添ってくれているから、目覚めてもすぐに対応できるから大丈夫だ

 それよりも

 

「さて、今診たけどゆーくんの今の状況はわかったよ。十中八九これだと思うけど・・・聞く覚悟ある?」

「はい。それを聞くために来たんですから」

 

 というよりも素人の俺でもわかる。今日だけで三度の取り乱す発作で、その原因は過去のトラウマのフラッシュバック。しかもどれもある条件下で起きている。俗にいうアレだろう

 

「じゃあはっきり言うね・・・ゆーくんは『ASD』、つまり『急性ストレス障害』だね。原因は福音の時の事故によるストレスと見て間違いない」

「え?PTSDではないんですか?」

「確かに症状は同じだけど、PTSDはそれが1ヶ月以上続く場合。ゆーくんは1週間もたってないからASDのほうが正しいんだ」

 

 それは初耳だ。そんな風に区別されているなんて。

 それよりも、あの出来事で兄さんのメンタルがやられてしまったわけか・・・俺があの時刺されなければ・・・

 

「言っておくけど、いっくんが悪いわけじゃないからね。悪いのはいっくんを刺そうとした屑たちなんだから。自己嫌悪しちゃだめだよ」

「束さん・・・ありがとうございます」

 

 そうだ、俺まで気落ちしてどうする。俺がやるべきはただ一つ。兄さんの回復の手助けだ。そのために無理して束さんにお願いしたのだから。だが

 

「束さん、兄さんの病気はどうやって治すのですか?」

「それなんだけど・・・自然経過しかないの」

「そ、そんな!何かいい治療法は無いんですか!?」

「あるにはある。けどそれをやったからと言って良くなるとは限らないの。下手なことをしたら逆にトラウマを悪化させちゃうかもしれないし・・・」

「薬とかは?精神安定剤とかで落ち着かせるのは」

「それはダメなんだ。ASDからの回復を妨げてしまうんだ。精神病はとにかく待つしかない。でもね、ASDは治らない病気じゃない。データで見ても時間経過で自然と治ることが多いから。焦らなくて大丈夫。」

「でも治るか治らないかは兄さん次第ということですか」

 

 俺はただ待つことしかできないのか・・・!

 いつも兄さんに助けられているのに、こういう時に力になれないなんて・・・

 

「ううん、ゆーくん自身だけじゃなくて周りの人の支えも必要だよ。『待ってるよ』みたいな言葉でもゆーくんの支えになるから」

「そ、そうですか!」

「でも限度は守ってね」

 

 失敬な、毎時間俺が兄さんにメッセージを送ると思ってるのか?そこまで依存はしてない・・・はずだ。

 その後、言ってはならない言葉を一通り聞いた後、今後について話し合う

 

「この状態でIS学園には戻れないね。ISを展開するときに強烈なフラッシュバックをしているから、あそこだと悪化する恐れがある」

「そうですね。絶対さっきみたいにパニックになってしまうでしょうし」

「だからゆーくんをここで預けてもらう。それでここで治療に専念させる。いいね?」

「分かりました。学園には俺から伝えときます」

 

 そういえば、そろそろ期末試験じゃないか。って兄さんは間に合うのか?

 

「束さん、兄さんは期末試験までに治りますか?」

「うーん・・・2週間弱で治るかは微妙だね。場合にとっては事情を伝えて試験を遅らすとか免除とかしてもらおう」

「そうですね。学園長に伝えれば何かしらケアはしてくれるでしょう。学園長は福音のことを知っていますし」

 

 あの人はしっかり対応してくれるし、今回も伝えれば何かしら対応をしてくれるはずだ。実技は免除してくれるだろう。筆記は・・・問題ないか。兄さんだし

 

「いっくん、そろそろIS学園に戻ったら?時間も時間だし」

「そうですね。電話で鈴たちに伝えてから戻ります。では・・・兄さんのこと頼みます」

「まっかせなさい!」

 

 俺は束さんと別れ、未だ眠る兄さんを見た後クロエさんに挨拶をして帰路についた

 

 兄さん、待ってるからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得できません!この内容は!!」

 

 時間は少し戻って昼頃の、とあるビルの会議室。ここにIS委員会の上層部とIS学園長の十蔵が『福音事件の問題行動における処罰』について会議を開いていた。暴走した福音を止めるよう、IS委員会が織斑千冬に依頼したということでIS委員会が彼らの処遇を決め、その事後報告を確認するために十蔵が呼ばれたのだ。

 だが、その処遇に学園長の十蔵が異議を唱える

 

「どういうことですか!織斑兄弟への処罰が軽く、そして雪広君への処罰があるのですか!」

 

 決定案に書かれていた内容、それは福音事件で一夏を貫いて作戦に重大な支障をきたした織斑一春はわずかな反省文、それを実行させるよう指示した織斑千冬は1ヶ月の給与減額とあまりにも軽い処罰だった。生徒一人を殺そうとしたのにこの処罰はあまりにも軽すぎる。

 そして、そこにはなぜか雪広への処罰も記載されていた。それも停学3カ月とあまりにも処罰の内容が重い

 

「当然でしょう。彼も違反を犯した。ISでの暴走という大きな違反を」

「彼は被害者です!そもそも織斑兄弟が殺人をしようとした結果なってしまった二次的被害に他ありません!」

「はたしてそうでしょうか?」

 

 何を、と十蔵は吐き捨てる。しかし、IS委員会の会長は肩をすくめて、迷惑そうに話す

 

「この男が暴走したのはたまたま一春君の行動でそうなっただけ。仮に福音がその弟を刺したとしても同じような暴走をしていたでしょう」

「そんな戯言を!」

「ないと言い切れないでしょう?ならばその男にも処罰があって当然のこと」

「ならば何故織斑兄弟よりも重いのです!織斑兄弟は意図的な殺人未遂です!なぜ彼らがあまりにも軽い内容なのですか!!」

「当然、ブリュンヒルデの一族だからですよ。彼らは今の英雄のようなものです。重い罰は世間が許さないでしょう」

「英雄など関係ない!権力あるものが罪を軽くして良い訳がない!」

 

 すると十蔵の近くにいたIS委員が数人立ち上がって圧力をかけるように十蔵の近くで彼を見下ろす。そして委員長は高圧的な態度で十蔵に語りだす

 

「言っておきますが、あなたがIS学園の学園長に居られるのは我々が黙っているからですからね。やろうと思えばいつでもあなたを首にすることもできますよ。そして後任はこちらで指定することだってできるのですから・・・」

「くっ・・・」

 

 生徒のために首になるのは厭わない。しかし、その後の生活で遠藤兄弟が不当に差別する輩が学園長になる恐れが十分にある。もしそうなったら更識楯無しか彼らを守る後ろ盾が無くなってしまう。彼女一人にそれを背負わせるのは酷すぎると考え、十蔵は強く出ることができなくなってしまった。

 それでも十蔵は諦めない

 

「学園の職員、生徒のほとんどはあなた方みたいな女尊男卑の思想を持っていません。もしこの処遇が広まった場合、あなた方への不信感が募るでしょう」

「たかが一個人の不満など取るに足らない内容です」

「果たしてそうでしょうか?今の時代、誰でも情報を発信できます。彼女たちがこの処遇を世間に公開した場合、世間からの印象は悪くなりますよ」

「そんなもの、デマと捉えられて終わりです。それにその情報を削除させればいいだけの話」

「ですが、不信感は残りますよ」

「貴方、相当死にたいようね」

「今の時代の流れからあり得そうな話を述べただけです」

 

 どちらも一歩も引かず、にらみ合いが続く。が、ここで会議室のドアが開き、IS委員の一人が委員長に耳打ちする。すると委員長は十蔵の近くにいた委員をもとの位置に座らせ、威圧的な態度を消した。

 

「確かに、あなたの言う通りです。この処遇では我々の印象が悪くなるかもしれませんね。これは却下しましょう」

「・・・そうですか」

 

 やけにあっさりと引き下がったことで十蔵は警戒を強める。この後に続く言葉を彼は待った

 

「改定として、彼らの処遇は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやってくれた、篠ノ之」

「千冬さんのため、一春のためならこれくらい当然です!」

 

 一年の寮長室、そこに千冬と箒が向かい合って座っていた

 

「まさかでしたよ。あの憎き男がああも情けなくなるとは。奴らを尾行して正解でした」

「映像を見ても、こいつはISの起動もままならないだろう。それならばこの学園にいる価値などない」

 

 一春と千冬は福音事件で謹慎処分だったが、箒は深くかかわってないとして処罰はなく、普通に授業を受けていた。そんな中で雪広がパニックを起こし、何かあると思って尾行した結果、思わぬ収穫を得てしまった。すぐさま千冬のところに行き、千冬はこの映像と雪広の状態を、パイプを持っていたIS委員会の一員に渡したのだ

 

「どうでしょう、一泡吹かせられそうですかね?」

「それは上次第だ。だが上の連中はほとんどが女性権利団体の幹部たちだ。あの男どもが不快でならないだろう。それ相応に動くはずだ」

 

 すると千冬の携帯からメッセージが届く。メッセージを開き読む千冬。その顔はだんだんと悪い笑みを浮かべていった

 

「喜べ篠ノ之。朗報だ」

「何でしょう!」

「IS委員会からのお達しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 遠藤兄の期末試験は・・・私との模擬戦闘だ」

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