Inferior Stratos   作:ユキ (旧 rain time)

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 すいません、閲覧注意かも。気を付けてください
 シリアス展開が続いてしまうな・・・


第37話 PARONIRIA

 暗い道に自分は立っている。意識がはっきりしていないのに体は分かっているかのように歩き続けている。ここはどこなのか、何故歩いているのか、そもそもこの体は自分自身なのか?浮遊感を感じながらも、目的もなく歩く。すると一瞬だけ意識が揺らぐ

 

 

 

 景色が変わった。いきなり廊下に立っていることに気づいた。ここは・・・母校である中学の廊下か。見慣れている光景に懐かしさを感じつつ、誰もいない不気味さ、窓から光が全くない怖さも感じながら廊下の突き当りを曲がる。

 すると別の学校の廊下になっていた。IS学園の廊下だろうか?だが異様に長い。前を見ても後ろを見ても突き当りが見えないし、幅も異様に広い。それでもなぜか足は動き続ける

 そして教室の扉の前に立ち止まる。そこがどこの教室か確認せず、流されるように取っ手に手をかけ開けて中に入ろうとして・・・

 

 

 

 

 一夏が仰向けで腹を貫かれ、血を流す姿が見えた

 

 

 

「・・・!!!」

 

 いきなりの光景に思わず大きく後ずさってしまう。あの刺さり方は・・・嫌でも見た()()()()と同じだ。意識がはっきりとしないのに、恐怖が支配する。

 背中に壁ではない何かがぶつかり、驚きながらも後ろを向く。そこにはいつもの専用機持ちである鈴、簪、シャルロットの背が見えた。知っている友人がいることに安堵していると、三人がこちらを振り向いて

 

『雪広~』

 

 声が出なかった。目が抉れ、鼻や口から赤黒い液体を垂らして自分の名を呼ぶ。その声もノイズがかかっているかのような人と思えないような声だった。彼女たちと呼べない化物から逃げようとしても足が全く動かない。思わずしゃがんで頭を押さえうずくまる。こうでもしないと情報が五感から伝わってしまう。が

 

「あなたがやったからではありませんか」

 

 右から俺の嫌いな金髪ロールの女が俺にささやきかける。何故いるのか、不快だから消えろと吐き捨てようとするも声が出ない

 

「貴様が教官の弟になったからだろう、軟弱物が」

 

 左から銀髪のチビの声がして睨もうと顔を向けたが、すでにいなくなっていた。何が何だかわからず視線を落とすと

 

 

 手が血濡れた白式になっていた

 

「!?!?」

 

 何が起きたか分からない、なぜ手が白式になっているのか。なぜ白式と認識しているのか。なぜ白式そのものになっているのか。わけがわからず、答えも見つからない問いをただ繰り返す。驚くように飛び上がって・・・おもむろに顔を上げた先で

 三体が自分に抱き着いてきた

 

「「「どうして、私(僕)(あたし)たちをこんな目にシタノ・・・?」」」

「あ・・・あ・・・」

 

 触られているのにその感覚がない。まるで幽霊に抱かれて、いや、取りつかれている感じなのに、その腕の重さは認識できてしまう。振りほどこうとしてもその腕は固く、身動きが取れない。三体の顔を見ないように後ろを向こうと顔をそむけると

 

 一夏が腹に大きな赤黒い穴を空けて、顔にも大きな穴が開いた状態で自分に抱き着かんとする光景が見えた

 

「ニ、兄・・・sAン・・・。蜉ゥ縺代※・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあああああああ!!!!!」

「雪広様、落ち着いてください!夢です!夢ですから!!そう、深呼吸して・・・ゆっくりでいいですから」

 

 ベッドの中で暴れだす雪広をなだめようと試みるクロエ。まるで雪広が悪夢にうなされていることを予期しているかのような手際で雪広をなだめる。雪広の瞳にハイライトが戻り、クロエを認識できるようになった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・お、おはよう。クロエ・・・今何時?」

「午前6時55分です」

「目覚まし時計のように正確じゃないか・・・くそったれ」

 

 雪広が悪夢にうなされて暴れだしそうになるのは今回だけではない。雪広が束のラボに住んで5日目になるが、どの日も悪夢で半狂乱になって目覚めるようになってしまったのだ。最初の2回こそクロエはどうしたら良いかわからず、束が雪広を拘束することで落ち着かせていたが、毎日ほぼ同じ時間に悪夢で発狂しているため慣れた対応をしている。最も、慣れていいものではないが

 

「どうしますか?朝食はまだできていませんが、できたらお呼びしましょうか?それともここに置いておきましょうか?」

「・・・今日も置いてくれ。まだ起きたい気分じゃない」

「分かりました」

「すまない・・・」

 

 雪広自身も最初こそはこれっきりだろうと思っていたのだが、毎日悪夢に苛まれるようになってしまい精神的に参ってしまった。いっそ眠らなければと思ったりもしたのだけれども、徹夜ができるタイプではないと彼は悟っていた。それに眠らなければ、今度は肉体が悲鳴を上げることが目に見えている。

 朝日を見ようと思えずに彼は布団の中にくるまり、眠らない程度に無意識を保とうとして時を過ごしていた。その動作を確認して、クロエはその場を去り束のいる研究室に入る

 

「くーちゃん、おはよう。どうだった?」

「おはようございます。駄目です、前日と変わりません」

「心理療法も効いてないか・・・」

「束様もお体には気を付けてください。あなたも倒れてしまったらもうどうしようもありませんから」

「大丈夫だよ、そこまでのヘマはしないって。本当だから」

 

 束も何もしていなかったわけではない。紙や電子媒体から数多くある論文を生かして、雪広に対し心理治療を行っている。しかし、その効果は未だにない。この論文がでたらめなのか、束が生かし切れていないのか、それとも雪広が抱えるトラウマが大きすぎるのか。束自身その答えが見つからず、日に日に生気を失っていく彼を見て内心焦りが募る。

 

 クロエも雪広の心配もさることながら、何もできない自身に失望している。家事洗濯と今この場では彼女しかできないため、十分彼らを支えている。しかしクロエ自身やっていることはごく普通のことだと感じてしまう。そして、ともに生活をしていたからこそ彼女は束の焦りも見抜いているが、どんな言葉をかけてよいかわからず悶々としている。

 

 流れのない淀んだ池のような陰鬱とした空気が彼らを侵食していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る

 雪広が学校を休んで二日目のIS学園の生徒会室。放課後に楯無は雪広を除く一年生の専用機持ちを集めていた。わざわざ生徒会室に集められたということは、これからの話は一般生徒に知られてはならない事、もしくは悪い知らせだと悟り、全員神妙な顔で楯無が来るのを黙って待つ

 

「ごめんなさい、少し遅れたわね」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。それよりも・・・なにかマズいことが起きたの?」

「・・・察しがいいわね」

 

 楯無は空いている上座に座り、資料を机に置く。それは『福音事件における事後報告』と『今後の対応』についての報告書だった

 

「これは?」

「福音事件あったでしょ?IS委員会が決めた報告内容とこれからの学園の方針よ」

「何故IS委員会が?関係ないのでは?」

「それが、福音事件を解決するためにIS委員会が織斑千冬に指示を出していたようなの。普通なら自衛隊とかがやることを、あの人の勝手な指示で君たちに任せたのよ」

 

 彼らは全く気付かなかったから考えもしなかっただろうが、ISで訓練しているとはいえ15の子供に国の不祥事を解決させるわけない。4人はそう考えていた。

 

 それは置いておいて、と楯無は言葉を続ける

 

「問題はここからなのよ。その事件の不祥事として織斑姉弟、そして雪広君も処罰の対象に入っているのよ」

 

 織斑姉弟はともかく、雪広が処罰されることに驚く4人。そしてその違反内容を伝えつつ、IS委員会の思惑を語る

 

「IS委員会の上層はほとんどが女尊男卑の思想に染まっていて、女性権利団体の上層部でもあるのよ。男でISに乗れる雪広君や一夏君が目障りだったから、排除する流れになったんだと思う」

「いかにもクソ女どもがやりそうな手ですね」

 

 一夏が軽蔑するように吐き捨てる。決められたのは百歩譲るとして、最重要なのは雪広への処罰の内容だ。その疑問をシャルロットが先陣を切る

 

「で、雪広の処罰って何ですか?」

「それが期末試験で決めることになったのよ」

「は?なぜ期末試験なんです?」

「期末試験の成績でいい成績なら今回のことを不問とみなす事になるようなの。男性IS操縦者だし、いい成績なら今後の研究に役立つということでこういう風な結果になったらしいの。()()()

 

 建前は。この言葉で少しだけ弛緩していた生徒会室の緊張の糸が再度張られることとなった。おそらく、次の言葉こそ楯無が彼らに伝えたい内容だろうと心構えをする

 

「建前は、ってどういうことですか?」

「期末試験の内容もむこうが指示することとなったのよ」

 

 その内容は、と楯無が一呼吸おいて、IS委員会が決めた最悪の試験内容を伝える

 

「ISでの織斑千冬との1対1、よ」

「「「「は?」」」」

 

 思いがけない試験内容に思考が止まる四人。そこから畳みかけるように楯無は最悪のシナリオが起きた要因を伝えていく

 

「どうやら雪広君がISをろくに動かせないって情報が伝わってしまったらしいの。そこにIS委員会が付けこんで雪広君のトラウマを刺激させて再起不能にしようとする魂胆よ」

「そんな・・・」

 

 愕然とする鈴。そうなるのは無理もない。

 織斑千冬は腐ってもブリュンヒルデの称号を二度手に入れている。既に現役を退いたとはいえ、その実力は本物だ。織斑千冬が訓練機かつ彼らが専用機で束になってかかれば勝てるかもしれないが、今回は1対1。しかも当人はISにおけるASD(急性ストレス障害)を発症している。勝てる勝てない以前の問題だ。最悪、雪広は壊れてしまう

 

「どうにかならないんですか!楯無さんや学園長なら!」

「無理なのよ・・・立場は向こうが完全に上なのよ。私たちの意見は却下されてしまうわ」

 

 シャルロットは食い下がろうとして、言葉を飲み込んだ。楯無が歯噛みして、右手が白くなるまで握られていたのが見えたからだ。シャルロットだけでなく楯無自身も結論は変えられないことを悔いているのだ。それを見て彼らはやるせない顔になる。

 

「だから、私からのお願い。雪広君を支えてあげて。こんなことしか言えないのは本当に申し訳ないけど・・・」

 

 いつもの楯無らしからぬ弱気な様子で頭を下げる

 

「いえ、ありがとうございました。兄さんのことは俺たちに任せてください」

「当然よ。あなたたちもテストあるから頑張ってね」

 

 そういってお開きにする楯無。一夏も鈴もシャルロットも立ち上がってこれからのことを考える。だが

 

「お姉ちゃん、()()()もう少し話そ?」

 

 簪だけその場に残る。一夏たちは生徒会室から出ていき、ここには更識姉妹しかいなくなった。今度は簪が問い詰めるように楯無に話しかける

 

「お姉ちゃん、本当に何もできないの?」

「・・・どうして?」

「なんとなく。お姉ちゃんがいいようにやられるなんて思えないから」

 

 一時期不仲になっていたとはいえ、人生の大半を共に過ごしてきた二人。だからこそ楯無が隠し事をしているのではないかという勘があった。

 簪の勘は的中する

 

「・・・そうよ。今回の件は組織の権力を使った個人的な攻撃。流石に見過ごせないわ。それにこの件はある人から頼まれたの」

「ある人って?」

「篠ノ之博士よ」

「ええっ!?」

 

 まさかの名前に驚く簪。楯無曰くIS委員会の行いは目に余ることが多く、今回の件で一度組織の内情を暴露し解体させた方がいいと思ったのと雪広の治療で手が回せないため、依頼として頼み込んできたとのこと。

 依頼で頼んだ、つまり束は楯無に人的なお願いではなく、更識の当主に仕事としてお願いをしたのだ。更識は忘れられているかもしれないが暗部の組織。このことは公にできないため、一夏たちに隠していたのだ。そして簪は姉にある頼みをする

 

「お姉ちゃん、その依頼で私に何かできることない?お姉ちゃんの力になりたいの!私も更識の一員として!」

「・・・それは無理よ」

 

 数少ない妹からの頼み。だが楯無はそれを却下する

 

「どうして!」

「今は情報を集めているの。それこそいろんな手段を使ってね。探偵とかハッカーとか・・・簪ちゃんにそれはできないしやらせないわ」

「・・・」

 

 それは簪も分かっている。そのような暗部のスキルが簪にはないことを。それには危険が付きまとうことも。だが、不安で仕方がないのだ。更識の中で役に立てないのではないかという不安が。またあの時みたいに無能だと言われるのではないかと

 でもね、と楯無は簪をしっかりと見て語る

 

「今回の件ではあなたにしかできないことがあるわ。雪広君を支えられるのは更識の中ではあなたが一番の適任者だわ。それに私は雪広君の方まで気にかけられないの」

「お姉ちゃん・・・」

「改めて言うわ。雪広君のことは任せたわ。姉としてもそうだけど・・・更識の当主として」

「!」

 

 簪に暗部の危険な仕事をさせたくないために、でも本音を隠すようにしたために簪を傷つけてしまった。もう二度とその過ちは踏むまいと楯無は今の本心を簪に打ち明ける

 

「簪ちゃんのことを無能だなんてこれっぽっちも思ってないわ。だから任せたわよ」

「・・・分かった!わたしも頑張るからお姉ちゃんも頑張ってね!!」

 

 楯無が当主となったあの時のようなお互いの思いがすれ違うことなく、簪は納得して部屋から出ていく。その背中を見送った後、楯無は大きく伸びをして再度気合を入れる

 

「簪ちゃんに頑張れって言われたんだもの、ここで頑張らずして誰が当主よ。さて、裏の情報をとらないとね」

 

 いつものおちゃらけた姿は無く、更識の現当主としてIS委員会の情報を探っていった




 雪広の悪夢で一夏が最後に言った文字化けの部分は「助けて」です
 ちょっと簪ちょろいか?
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