Inferior Stratos   作:rain time

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第39話 こんにちは、世界最強(ブリュンヒルデ)

 

 期末試験当日。最初の二日は筆記で三日目は専用機持ちの実技試験、四日目以降は一般生徒の実技試験となる。一日目に教室に入ってきたときは一夏やシャルロット、一組のクラスメイトだけでなく、ほかのクラスにいた鈴や簪が飛びこんできて心配してくれたよ。

 筆記に関しては特に記載しなくてもいいだろう。伊達に最難関の中学校を卒業してないし。精神的に安定してきた一週間である程度復習できたので特に問題なく解けた。

 

 問題なのは三日目、ISの実技だ。

 

 一週間前に一夏経由で聞いた情報では試験管の相手がクズ教師ということだ。しかも合格条件は「戦闘で負けない」が条件ということだ。いくら相手が第二世代の量産機で来るとは言え、腐ってもブリュンヒルデ。自分を潰しにかかるのは目に見えている。だが、これでもマシになった方らしい。当初は「同じ量産機で勝つ」のが条件だとIS委員会(ゴミ)共がほざいていたらしいが、学園長こと十蔵さんが何とか交渉して今の条件になった、と楯無さんから今聞いた

 

「とはいえ、きついのに変わりないんだけどね」

「それでも助かりましたよ。もし最初の条件だったら勝ち目ありませんもん」

 

 ピット内で楯無さんに感謝を述べる。楯無さんは国家代表ということもあって実技試験は免除とのこと。もう筆記も終わったので自分の心配をして見に来てくれた。

 一夏達は、と思った方もいるだろう。自分が三日目の試験のトリであり、一夏達は試験が終わっているからピットに入る理由がないというありがたーいお言葉をクズ教師から貰ったため、ここに残ることができなかった。楯無さんは会長特権ということでここにいる

 

「それにしても嫌ね。こんな観客がいる中でやるなんて」

「大方、公開処刑でしょうね。わざわざ上級生の方も見られるような時間にやるんですし」

 

 ブリュンヒルデがISに乗るからそれを一目見ようとするミーハーな学生が多いのかアリーナは満員となっている。学年末トーナメントかよ

 

「こんなこと言うのもあれだけど・・・勝てる?」

「一夏達にも言ったんですが、正直半々ですね。負けた時は・・・ケアを頼みますね」

「・・・そうならないよう信じてるから」

 

 そう言われちゃ勝たないと、とは言えなかった。なぜなら、まだ完全にトラウマを克服したとは言えないからだ。あくまでISに乗ることができ、身内との模擬戦をするまでは回復したが、このような戦闘でもしっかりとしていられるかは分からない

 それでもやるっきゃない。そう言い聞かせて試合時間前にアリーナに入った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私のピットには数人のIS委員会の役員と委員会直属の整備員が私の乗る打鉄を整備している。彼女たちは女尊権利団体の役員でもある、言わば私の駒だな

 

「千冬様、確認ですが・・・」

「分かっている。奴のトラウマを刺激して再起不能にするのだろう。私ができないわけがない」

 

 IS委員会の役員共に吐き捨てる。今回はIS委員会からの依頼ということで建前は奴の試験監督ということになっている。が、実際はさっき言ったとおりだ。前々から目障りだったんだ。この手で始末してやろうではないか。意気込んで打鉄に乗り込む。うむ、いい整備だ。武器も・・・よし、あるな

 

「ですが、気を付けてください。万が一ということもありますので」

 

 ・・・何だと?

 

「おい、貴様」

「な、何でしょう・・・グエッ!!」

 

 打鉄を展開した右手で「万が一」と言った役員の首を掴んで体を宙に浮かせる。周りが慌てふためき、そいつはもがき苦しんでいるがそんなことはどうでもいい

 

「貴様、私が負けると言いたいのか?ブリュンヒルデである私が、最強の私が!!半年も満たないズブの素人に負けると言いたいのか!?それとも私が負ける姿が見たいというのか!?ああ!!?」

「・・・!」

 

 小刻みに首を振る。その動作が余計に腹立たしく思えた。右手により力を籠めると苦悶の表情が色濃くなる

 

「うぐぐ・・・」

「なら何故万が一と言った?そんなことは断じて無いのだからな」

 

 それに、奴のトラウマを刺激する秘策もある。これさえあれば、奴の心を再起不能にすることだってできる。

 その武器を託してくれた弟の顔が浮かんできたとき、役員に対しての怒りがやわらぐ。仕方ない、今回は大目に見てやるか。手を放して役員を開放すると、そいつは尻餅をついてみっともなく倒れこむ

 

「ゲホッゴホッ・・・」

「次そのようなことを言ったら・・・分かるな?貴様ら、私を崇拝しているなら言葉に気を付けろよ?」

 

 さて、頃合いか。公開処刑の時間だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナからクソ教師が出てくると歓声が沸く。そのほとんどが上級生とファン、そして女尊男卑の思想に染まった連中だ。これほどアウェーなのは久々な気がする。だがある一角は自分に対して期待の目を向けている。つまりあそこに・・・いた。一夏達の姿が見えた。そこに向かって手を振ると、シャルロットと簪が何か書かれた紙を二人で持って自分に見せてくる。ISの機能で拡大すると・・・

 

「頑張れ、大丈夫だ、無理するな、信じてる、か・・・うん、そうだな」

 

 いつの日かに簪にやったことのお返しってわけだな。うん、それだけ応援されているんだ。たとえ相手がブリュンヒルデだろうと負けられないな

 

「さて、分かっていると思うが私が貴様の試験監督だ」

「ええ、よろしこです。ちなみにですがブリュンヒルデであろうお方が全力で私と戦うなんてことは無いですよねえ?」

「当然だ。これは試験だからな。ある程度は手を抜いてやる」

 

 嘘だな。明らかに殺意が溢れている。合格にさせる気などさらさらないだろう。だがな、この一週間、無駄に過ごしてはいないんだよ。こっちだっててめえのことは予習しているんだよ

 

 試合開始10秒前。右手に剣だけを展開する。やるとするなら奴は・・・

 

 試合開始のブザー。それと同時に奴は特攻を仕掛けてきた。

 姉弟らしい直線的な特攻。だがクズとは比にならない速さだ。これだと反応してから避けるのは至難の業。伊達にブリュンヒルデではないということか

 でも分かってる。余裕持って避ける

 

「はあっ!!」

 

 その勢いを殺さずに剣の軌道を変えて襲い掛かってくる。確か篠ノ之流の一閃二段の構えってやつか。

 それも分かってる。それも躱して弾幕を牽制目的で張る。奴はシールドを展開するのを確認して距離を開ける。流石にいきなり畳み込まれると追いつかなくなるから、一旦リセットだ

 

「避けているだけでは私を倒すのは不可能だぞ?それともみじめに逃げ回るか?」

「言ってることが二、三流の悪党ですよ。人を煽る頭脳は皆無のようですね」

「ほう・・・余程死にたいようだな。教師に向かってその発言をするとはな」

「だから言ってるだろう?アンタには尊敬する気持ちがカケラも無いって」

 

 姉弟揃って煽り耐性が無いな。自分の挑発にキレたのか再度突っ込んできて剣を振るってくる。乱雑で暴力的とはいえ、それを帳消しにするスピードとパワーでラッシュを仕掛けてくる。並大抵の操縦者なら何もできずに一気に攻められてSEが尽きてしまうだろう

 

「・・・」

 

 でも躱す

 

「ハアッ!」

 

 これは剣でいなして躱す

 

「・・・チッ!!」

 

 躱し続ける

 

「・・・ラアッ!!」

「おっと!」

 

 今のは危なかった。紙一重で躱す。奴も決定打が決められずかなり苛立っているようだ

 

「この、ちょこまかと!!」

「苛立ってます?映像見た甲斐があったわ~」

「それだけで私の剣技を防げるはずがない!!貴様、何かしたな!?」

「何もしてませんって。しっかりと()()()()予習しただけですって」

「・・・束だな?」

 

 おっと、口が滑ったか?流石に分かってしまうものなのか。反省。

 そう、ここまで躱すことができるのは束さんのおかげだ。試験の相手がコイツだと一夏から教えてもらったので、メンタルが回復した残りの一週間で奴のデータからこれまでの試合映像をくまなく見た。それだけでは不安でしょと束さんに言われ、なんと束さんが織斑千冬の試合の動きを完コピして相手してくれたのだ。だからここまで奴に対応することができるのだ。ここまで尽くしてくれた束さんには感謝しかない。

 そしてその鬱憤が出たのか、今の横薙ぎの攻撃で胴体に隙ができる。この瞬間を待っていた!すかさず胴に一閃を叩き込む動作をする。奴はそれを見てから後ろに下がる。こちらの剣のリーチを想定して紙一重で引き、最速でカウンターの準備に入ろうとするのだろう。

 自分の振りぬかれた剣が・・・

 

 

「うごっ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()

 奴が見誤ったわけでも、自分の腕が長くなったわけでもない。剣をわざとすっぽ抜いたのだ。動きでは剣で振りぬくモーションだっただけに、奴も想定外だったのだろう。見事にクリーンヒットだった

 

「どうです?奇襲の評価は?いい点くださいよ?」

「出来損ない共の分際で!!舐めるなあっ!!!」

 

 自分の攻撃が通ったことに相当腹が立ったのか、殺意のこもった剣技で襲い掛かってくる。それに対し、今度は新たに展開した2本の短剣でいなす。リーチが短い分、余計な力を入れなくていいので敵の剣をいなすにはこれが一番自分にしっくりくる。ただ先ほどよりもスピードは上がっているが、力は落ちている・・・?

 とはいえ、少しでも崩れるとその勢いに飲まれてしまう。怒涛のラッシュに耐えるようにいなして・・・鳥肌が立つ。

 

 上段からの振り下ろし。それだけなのに本能が警告する、この攻撃は危ないと。しかし、自分は反射的に短剣をクロスさせて迎え撃ってしまう。

 

 ガキインッ!!

 

 アリーナ全体に金属の音がこだまする。奴の最速の振り下ろしに二本の短剣は何とか耐えうることはできた。だが

 

「~~~っ!!」

 

 思わず声と涙が出るほど腕に衝撃が来る。腕がしびれ、まともに短剣も持てない。今のは悪手だった!リカバーとして上に瞬間加速する。だが奴はそれをみすみす許さない。こちらにそれ以上の速度で追い打ちをかけに来る。ならば、と右足先に()()()()()()()()武装を展開して奴を迎撃する。それを見て奴は速度をさらに上げて自分に近づく。先ほどの投擲を警戒したからか、投げられる前に切り捨てる気だ。

 

 

 

 

 作戦通り!!

 

「これ、機雷ですよ」

「何!?」

 

 気づいたところでもう遅い!剣風の機雷と剣が交差して、爆ぜる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナの観客は異様な雰囲気で包まれていた。ほとんどが元姉の独壇場となるのを想像していたのだろう。でも兄さんはその猛攻に耐え、逆に有効打を二回も与えている。最も、今のは自爆特攻に近かったけど

 案の定、取り巻きが騒いでいる。ありえない、イカサマをしている、と。全く、それしか言えないのか、こいつらは。するとその筆頭であるモップがこちらに噛みついてくる

 

「嘘だ!?千冬さんが追い込まれるはずない!何か不正をしたな!!」

「するわけないでしょ。あんたたちはすぐいちゃもん付けるのやめたらどう?」

「なんだと!?」

「まあまあ、落ち着きなよ箒。負けたわけじゃないから」

 

 ただクズが落ち着いているのが不気味だ。自慢の姉が手玉に取られているのにこの落ち着きよう。まだ秘策があるとでもいうのか?

 

 先ほどの爆発の煙から兄さんが出てくる。流石に右足の損傷はあるものの、それ以外は大丈夫のようだ。先ほどの振り下ろしで両腕が心配だったが、剣と銃を展開して構えているあたり問題なさそうだ。いけるぞ、兄さん!

 

「フハハハハ!!」

 

 突然、煙の中にいる元姉が笑い出す。それまであった空気が一掃され、しんと静まり返り誰もが煙に注目する。何に対して笑っているんだ?

 

「姉さん、アレを出す気だな?」

 

 アレ?クズがなにか言っていたがその意図がわからない。シルエット的に剣を展開しているように見えるが?奴がその剣で煙を吹き飛ばす

 会場全体が驚きに包まれる。誰もが織斑千冬の持っている剣に注目が集まる

 

「あれは・・・雪片弐型!?」

 

 う、嘘だろ!?なぜその武器が奴の手に!?なぜ打鉄に!?クズの武器のはずなのになぜ奴が持っている!?・・・まさか!

 クズの方を見ると嫌味な顔をして俺たちを嘲笑う

 

「どうた、あれが姉さんの切り札だ!驚いただろう?」

「なんで織斑千冬がお前の武装を持っているの!?」

「教えてやるよ!俺が雪片弐型をアンロックして姉さんに託したんだ!!あれさえあれば姉さんは負けないからな!!」

「このっ!!」

「言っておくが何もルールは破ってないぜぇ?双方の許可を取ってるからなあ?」

 

 コイツがここまで冷静だったのはそういうわけか!本当にこういう嫌がらせは人一倍上手だな、クソが!!

 

「雪広!!しっかりして!!」

 

 シャルロットの叫び声に視線を兄さんに落とす。誰が見ても明らかに動揺の色が見える。マズイ!まだ治りきってない兄さんに雪片弐型を見せたら、心を折った原因を見せたら!

 

「さあ、公開処刑の時間だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑千冬が雪片弐型を持っている。その剣に青白い光が灯る。零落白夜を使ったことが分かったとき、アリーナの観衆は静寂から歓喜に変わっていった。もう見ることの無かった世界最強が現役の時に使っていた武器を持っている。映像や写真でしか見られなかった姿を生で見られる、その喜びに多くの一般生徒が浮かれていた。一部の信者たちは卒倒するものもいる。

 だが、雪広にとっては最悪のものだった。彼にとって雪片弐型は弟が生死を彷徨わせるきっかけとなった武器。それが元凶の姉にわたっている。不気味な青白い光を放つ剣を構える千冬の姿があの時(一夏が刺された時の一春)と重なる

 

「ハッ、ハッ、ハーッ・・・」

 

 取り乱しかける雪広。それを見て効果があったと悪い笑みを浮かべる千冬は追い打ちをかけようとする

 

「どうした?いつもみたいに軽口でも叩いてみたらどうだ?できる訳無いだろうな」

「フーッ、フーッ・・・」

「言っておくが、途中棄権は認めないからな」

 

 そう言い放って剣を水平に構える千冬。最速の一閃を雪広に打つつもりだ。それを雪広は察するものの、トラウマが蘇る。何とか理性で抑えようとするものの、冷や汗が額に溜まって流れ・・・不運にも両目に吸い込まれる。雪広は思わず顔をしかめて目をつぶってしまった。

 それを見逃してはくれなかった

 

「ッ!!」

 

 再度雪広が目を開いた時、瞬間加速で千冬は距離を大きく詰めていた。剣の軌道は雪広の首。もはや回避すらも間に合わない、それを察した雪広はせめて被害を抑えようと首元を両手でガードしながら後ろに動いて衝撃を減らそうとする。

 

「甘い!!」

「!!」

 

 しかし、千冬は強引にその軌道を変える。狙いはガードされている首からノーガードの腹へ。織斑千冬の常人離れした力によって剣がブレることなく軌道を変えていく。

 零落白夜を纏った雪片弐型が雪広の腹をとらえてしまう

 

「おごおっ!!!」

 

 バックステップで剣の勢いを完全に殺せることなく、千冬の本気の斬撃が雪広の腹に直撃する。雪広は吹っ飛ばされ、地面に大きくバウンドして仰向けに倒れる。

 

 

 

 その時の彼の焦点は合っていなかった

 


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