Inferior Stratos 作:ユキ (旧 rain time)
『雪広(兄さん)!!』
俺たちの悲痛な叫びは周りの歓声によってかき消える。零落白夜による一撃が兄さんにクリーンヒットしてしまった。まだ試合が終わってないことから、なんとかSEが残ってはいるだろう。しかし、ごっそり削られたのはどう見ても事実。しかも兄さんは仰向けに倒れたままピクリとも動かない
まさか、気絶している!?それを知ったのかニタニタとクズ教師がゆっくりと兄さんに近づいていく
「雪広!目覚めて!!奴が来てるって!!!」
「お願い、届いて!私の想い・・・!!」
シャルロットは叫び、簪は必死に祈っている。かく言う俺や鈴も手を組んで兄さんが立ち上がるのを必死に願う。こんな時に神頼みするのも失礼かもしれないし、神に祈るようになったら終わりとも何かに書かれていたが、それしかできないと縋ってしまう。
そんな光景に憎い笑みを浮かべ、クズが突っかかってくる
「おいおい、いつもの様な余裕な態度はどうしたぁ?」
「うるさい!黙ってろ!」
珍しく簪がガチギレして怒鳴る。シャルロットは怒りのあまりか目のハイライトが消え、ゴミを見るかのようにクズを睨む。それでも奴は止まらない
「これはな、罰なんだよ!姉さんに歯向かい続けたツケを生産しているだけなんだ!!だから何されても文句ねえよなあ!!」
「いい加減黙りなさい、あたしだって菩薩じゃないのよ」
クズの煽りに鈴もキレそうになる。組んだ両手が白くなるほど握りしめ、殴りかかるのを抑えているのがわかる。かく言う俺自身も限界に近い
「所詮民度が低いとこには低い人間しか集まらないんだよ!掃きだめのてめえらにはお似合いってわけだ!!」
「テメッ・・・!」
俺の方が先にキレてしまい、勢いよく立ち上がって
『・・・一夏』
「!?」
「一夏・・・?」
な、何故兄さんの声が?予想外の声にびくりと体が反応して硬直する。幻聴?いや、はっきりと聞こえた。鈴たちも俺がいきなり止まったことに疑問を抱いているよう
『一夏・・・聞こえるか?』
再度聞こえる兄さんの声。兄さんの方を見ると、先ほどまで空を見ていた顔がこちらに向いていた。まるで俺を見ているよう。もしかして、プライベートチャネルか?
確認すると、確かにプライベートチャネルが開いている。間違いなく兄さんだ。何か問題でも起きたのか!?
『兄さん!どうしたんだ!?』
『落ち着いて聞いてくれ、その・・・一夏に・・・聞きたいことがあるんだ』
なんで自分は仰向けなんだ?ここはどこだ?意識がはっきりしない。夢の中で雲の上を歩いている気分だ。そんな中で夢とは思えないような鳩尾から痛みのシグナルが伝わってくる。
そうだ、ここはISアリーナ。あの武器で腹に大きな一撃を食らったのか。SEはどうなのだろうか、ここから反撃できるのか、そんな考えがまるで他人事のように思える。まずは体制を立て直さないと・・・その思いで体を起き上がらせようと
「あ?」
動かない。神経が焼き切れたかのようにうんともすんとも言わない自分の体。神経がやられた?いや、あの攻撃で神経がやられるとは思えない。青空から目を逸らすことなくそんなことを考えて・・・疑問に思う
こんなに青かったか?まるで青と白のペンキをぶちまけたような、写真で見た他国の青空のような空が広がっていた。まるで零落白夜のような・・・
ゾワッと不快感が広がって
「また悪い方に考える~」
「っ!?」
突然見知らぬ女が自分をのぞき込んできたら驚くのは無理もないだろう。ビクリとはしたが、体は一向に動かない。誰だ、この女は。なんとか頭だけは動くので顎を限界まで上げて、不審者の全体像を見渡す。漫画でよくある魔女の格好をしており、モデルの体型で色白。衣装もきわどい。いや、それよりもだ。
そもそもこのアリーナにどうやって侵入したのか
「違うわ。ここはアリーナではないわ。そうね、半分精神世界ってとこよ」
精神世界。そういえば一夏が言っていたな。臨海学校の時にISのコアと話をしたって。夢か現実か分からないと唸っていたけど。そうか、つまりこの女は
「スクーロ、なんだな?」
そうよ、と誇らしげに肯定する彼女。さっきまで出ていたアドレナリンや奴への恐怖も収まってきて、でも何を語ったらいいか分からない。いきなり精神世界に来たのだから。するとスクーロは自分に愚痴るように語り掛ける
「にしても、あなたって意外とメンタル弱いわよね。ある程度は耐えるけど、負荷がかかりすぎると修復しづらいというかなんというか」
「・・・確かにな。否定できない。ところで、体が動かないんだが」
「
そういうものなのか。ISは奥が深いものだと変に納得してしまう。するとスクーロはしゃがんで顔を近づける
「で、ここからが本題よ。今からあなたのトラウマを解決するわ」
「・・・随分いきなりだな」
そうでもしないと貴方壊れてしまうもの、とため息交じりに語るスクーロ。そんなことは分かってる。零落白夜を見ると、あの時の記憶がフラッシュバックする。それを克服しないと奴に勝ち目が無いってことくらい。
でもな、それを克服するのが難しいからトラウマと言われているんだ。それなのに今解決する?どうやって?
「だから貴方をここに連れてきたのよ。ここなら時間は無限・・・とは言えないけど十分な時間を確保できるわ」
「・・・」
「正確には貴方が貴方自身の心の奥の気持ちを理解していないのよ」
どういうことだ?自分のことだから自身が一番理解できているだろう?
「違うわ。貴方は自分の今の気持ちを理解していない・・・いや、気づいていないのよ」
「つまり、自分自身を理解する時間、ってことでいいのか」
「そうよ。でも貴方だけじゃ時間がかかるから私がアシストしてこのトラウマの根幹を取り除くわ」
トラウマの根幹を見つめなおす。束さんの治療では悪化するかもしれないということで意図的にやらなかったし、そもそも見つめなおす機会なんてそうそうなかった。
だけど、気になることはある
「何故お前はそこまで自分を助ける?言っておくが見返りも何もないぞ」
無償でやる行動はあまり信用ができない。善意でやっているんだったら失礼だけど、どうしても疑ってかかってしまうのが悪い癖だ。
するとスクーロはバツが悪そうになる。えっ、意外な反応なんだが
「そりゃあ、マスターだからってのと・・・今回の件は私も原因の一つだから」
スクーロが原因の一つ?だが、今回が初対面のはずなんだが?スクーロは髪の先端をいじりながらおずおずと話す
「ほら、福音の時に弟君が落とされた後、声がしなかった?女の人の声」
「声?・・・ああ、暴走する前に何か聞こえていたような」
「その、ね・・・冗談のつもりだったのよ?でも、その後に貴方が暴走しちゃって・・・」
そうか、後ろめたさがあったわけか。だからそれの貸し借りを無くすために動いているということか・・・
あれ?もしかして、自分のIS、ポンコツ?
「ぽ、ポンコツじゃないわよ!その、たまたま貴方が暴走しただけよ!」
「いや、そこで冗談を言うか?普通。どう見ても冗談と思える状況じゃないだろう」
「それは、その・・・ごめんなさい・・・」
強くいったわけじゃないが最後は聞き取れないほど小さくなってしまう彼女。あれだ、見た目に反してまだ幼いだけだ。先ほどまで見てもどこか子供っぽいし、仕方ないと言えば仕方ない。相棒だしな
「と、ともかく!私の汚名返上・・・貴方のトラウマを治すために来たんだから!」
ツッコミどころは多々あるが、先ほどの発言から時間は限られているらしい。本題に進まないと・・・
「で、自分自身を見つめなおす、だっけ?」
「そうよ。貴方は貴方自身でも気づいていない傷があるの。それを貴方自身で見つけていくの。こういうのは自分で気づかないと納得できないから」
つまり自身の深層心理を理解する。これができればトラウマを克服できる可能性があるわけか。もちろんリスクがないわけじゃない。トラウマが悪化する可能性もあり、束さんはその危険を冒すべきでないと言って避けていた。でももう時間がない。賭けに出るしかない。
横になったまま深呼吸して考える。そもそも自分は奴に、奴の剣に対して何故恐怖を感じているのか。思い浮かぶのは一夏が自分を突き飛ばして犠牲になったあの光景。一夏を失いたくない、たった一人の家族を失いたくない事への恐怖。それがトラウマの原因だと思っている
「本当にそれだけ?貴方の奥底では何を思っているの?」
違うのか?これ以外の感情があるのか?奴らへの恨み?その根幹を探っているんだ。自身の死の恐怖?人はいつか死ぬし、これではない気がする。気持ちの良いものではないがぐっと我慢して何度も思い返す、一夏が庇って刺されるあの光景を。一夏が庇って刺されて・・・一夏が庇って・・・
これまで鮮明にフラッシュバックするとき、必ず一夏が庇うところから映像は始まっていた。刺された印象が強すぎたために見落としていたけど、ここか?このトラウマの根幹がこれなのか?だとするなら、このトラウマの原因って・・・『一夏への罪悪感』か?自分があの時に気づいていれば一夏は傷つくことなかったという不甲斐なさではなく、一夏にそうさせたことへの罪悪感?
そういえば・・・最近一夏としっかり話していなかったな。余裕持って登校したつもりがギリギリになってまともに話ができなかったし、一週間前もそれほど電話しなかったし、それからも電話しなかった。寂しさはあったけど・・・
なら、あの悪夢も罪悪感によるものか?一夏にはもちろん、簪・シャルロット・鈴に対してはASDで心配かけたことへの罪悪感があったのか。追放した奴らに対しても心の奥底では少しだけ、ほんの少しだけ罪悪感があったというのか?
答えがわかっていそうなスクーロに思わず問いかける
「なあ、コレがスクーロの言う自分の本心なのか?」
「なら、確認してみる?」
確認する?どうやって?
「今だけ君の弟にプライベートチャネルを繋げるから、話してごらんなさい。というよりもう繋げたから」
おい!?少しくらい心の準備をさせろよ!!気が利くのかポンコツなのか分かんねえな!!
落ち着け、自分。このテンションで一夏に話しかけたら間違いなく驚く。一夏の方を向いていつも通り、いつも通りに・・・
『一夏・・・聞こえるか?』
いきなりの会話に一夏が立ち上がって驚くのが見えた。流石に驚くのも無理ないよな。だが、自分を見てすぐに察したのかプライベートチャネルで返事をしてくれる
『兄さん!どうしたんだ!?』
『落ち着いて聞いてくれ、その・・・一夏に・・・聞きたいことがあるんだ』
あ、あれ?なんか言葉が流暢に出てこない。何緊張しているんだよ、久しぶりに会った元カノの対応かよ。自分たちは兄弟じゃないか・・・
『その、一夏ってさ・・・自分を恨んでる?』
『・・・へ?』
『いや、ほら、あの・・・臨海学校で、その・・・一夏が傷ついたじゃん?』
コミュ障かよ、ってくらい言葉が詰まる。
『それでさ、自分が気づかなかったから・・・つまり、自分のせいで一夏が傷づいたから・・・嫌いになったか心配でさ・・・本当のことを教えてくれ・・・』
言葉にするほど一夏への申し訳なさがふつふつと湧き上がる。自分が原因なのか、あの時もっと視野を広くしていれば、一夏が傷つかずに済んだのか、と
一夏は本当は自分のことを・・・
『兄さん・・・
何言ってるの?マジで』
・・・
なあっ!?!?
『え、いや、えっ・・・ええっ!?』
『いや、兄さんがそんなことを言うなんて思いもしなかったし』
いやいやいや!!こっちは真剣に悩んでいたのに!バカじゃないのこいつ、みたいな顔を一夏は向けてくるし!!
『まあ、予想外だけど兄さんの問いにはしっかり答えるよ』
『ああ』
『ぶっちゃけ、そんなこと微塵も考えたこともなかった』
え?
『いや、なんでさ。兄さんを恨む理由がないじゃん』
『で、でも、自分のせいで一夏が死にかけて!』
『それは俺も気づくの遅れたわけだし、勝手に俺がやったことだし。というか、そんなことで兄さんを恨むことなんかないよ。はっきり言って杞憂だよ』
流石に鈴を傷付けたら恨むけどな、と言って一夏は笑う。そっか、恨んでない・・・か。なんか変に気負っていたんだな。そう考えるとこれまで何に悩んで苦しんでいたのかが馬鹿馬鹿しくなってきた。そう思うと体が軽くなる
こんなことならもっと早く一夏とじっくり話しておくべきだった
『安心した?』
『ああ、つっかえが取れた気がする』
でも、もう少し、もう少しだけ手伝ってもらおう
『もう大丈夫か?』
『じゃあ最後に一つだけお願いがある。発破をかけてくれ』
『分かった・・・兄さん、あんな奴ぶっ飛ばしてやれ!』
『ああ!任せろ!!』
言うや否や、プツッと一夏との通信が途切れる。もう時間なのだろう、なんとなくわかってしまう。でも、充分だ。
これまで黙っていたスクーロも言葉をかけてくれる
「よかったわね。これならもう
「ああ、スクーロもありがとう」
「それだけじゃないわ。貴方に一つプレゼントをあげる」
プレゼント?いったい何を?
「簡単に言うと私を
それじゃ頑張ってね、とエールを貰って意識が遠のく。スクーロ、一夏。本当にありがとう。目覚めた時どうなってるか分からないけど、頑張るよ
「・・・これで汚名返上よ」
ぼそっと言うな、聞こえたぞ
激難産でした
夢分先とかフロイトとか深層心理とか資料読んでは文章を作ってやった限界がこれです。下手に手出ししすぎた
人気作家の壁をひしひし感じましたね