Inferior Stratos 作:ユキ (旧 rain time)
自分はとっさに羽を体に纏うよりも先に斬られ、SEが底をついてしまう。それと同時に奴に10近くのレーザーが直撃し、爆発する。斬られた衝撃で吹っ飛ばされたため、爆風に巻き込まれることは無かったが、勢いよく地面を転がってしまう。何とかアリーナの壁に突っ込む前に止まることができた。立ち上がると同時に、奴のISも地面に着地しているのを見たからSEが尽きたのだと思う。
問題はどちらが先にSEが尽きたかなのだが・・・無人のアナウンスが流れてこない。どちらもSEは尽きているはずなのに。未だにアナウンスが流れないのが不気味だ
「私だ・・・!私が勝っているに違いない!」
これまでの経験からなのか、それともただの見栄なのか奴は叫ぶ。本心を言うと僅かに自分の方が不利かと思う。とはいえ、今回でトラウマは完全に無くなったのは大きい。悪化してしまうかもしれなかったが、この戦闘は大いに価値があった。負けたとしたら仕方ない。その時は補習に付き合ってやる。
でも、もし・・・
『試合終了』
と、機械のアナウンスが流れる。さあ、どうなるか。
『只今の試合の結果についてお知らせします』
ん?いつもだったら勝者のアナウンスが流れるだけなのに。何か織斑派が細工を?
『スクーロ・ソーレ並びに打鉄は同時にSEエンプティ。よってこの試合は両者引き分け』
引き分け。それを聞くと同時に会場が沸く。興奮3割、驚きが4割、そして悲鳴が3割。悲鳴はおそらく女尊男卑の連中だろう。ブリュンヒルデの圧勝劇を期待していたのに蓋を開けたら引き分けとなってしまい、最強神話が崩れ去ったことによるものだろう。しかも男に引き分けたというのが信じられないのだろう
充分すぎる結果だ
「違う!!私の剣が奴に早く届いていた!!訂正を要求する!!」
クズ教師も信じられないとばかりに抗議をほざく。奴も引き分けると思わなかったのだろう。アナウンスに食い下がろうとする姿があまりにも醜い
「故障だ!判定の機械が故障しているに違いない!!直ちに・・・」
「そんなわけないじゃないですか。受け入れましょうや、この結果を」
確かに判定のシステムのみ変になっているのは否定できない。が、コイツの狙いは多分違う
「納得できるか!引き分けなどあり得るか!!確認を・・・」
「
「何?」
「まさかとは思いますが、あなたの息がかかっている人間に任せようだなんて考えてませんよね?」
わずかに顔をしかめるクズ教師。コイツ、自分が勝ちだと判定するように細工するつもりだったな?この短時間で頭が働いたのは拍手ものだが、舐めんな
「公正のために虚先輩に頼みましょう。あの先輩なら機械に強いですし、故障かすぐ分かるでしょう?文句ないですよね?」
「・・・」
「何故黙るんです?何か問題でも?」
こっちは見透かしているんだと圧をかける。これ以上ゴネても無理だと悟ったのか、今度は第二の矢を放ってきた
「それなら再戦だ!引き分けたのだからまだ勝敗がついていない!今すぐに再戦だ!!」
背を向けて颯爽とピットに戻ろうとするクズ教師。それにしても何を言っているのか。
「織斑先生、つかぬ事を聞きますがこの試験の合格内容をご存じでないのですか?」
「は?私に勝つのが試験の内容だろう?」
コイツ、全く理解してないな。わざわざ理事長が交渉に交渉を重ねてこの条件にしたのかを
「正確には『あんたとの戦闘で負けない』ことですよね?」
「何を言っている。それと私に勝つのは同じことだろう。文句あるのか?」
「大ありですね」
奴の足が止まる。いちゃもんを付けられたと思っているのだろう。鬼のような形相でこちらを睨んでくるが、お前が間違えているんだよ
「合格条件は『負けない』ことであって、あなたに勝つことではないということです」
「だから何が言いたい!」
脳みそあるのか?そう言いかけてやめる。奴は生身でもISブレードを振り回せる化物だ。SEが尽きたISを纏っていても攻撃をすることができるだろう。自分にはそんな馬鹿力は無いし、今攻撃されたら躱すことはできない。
「分かりやすく言うなら、この試合の合格条件はあなたに勝つ、もしくは
「はあ!?」
「だってそうでしょう?『負けない』ことが条件ならば、引き分けも合格、ではありませんか?」
実のことを言うと今回は勝ちに行くというより、負けるリスクをできるだけ減らして戦っていた。奴の攻撃を極力避け、カウンターや不意打ち中心で負けないよう立ち回り、あわよくば引き分けを狙っていた。もちろん勝つことを意識してはいたが、理事長はこの可能性も考えていたのだろう。わざわざ『負けない』を条件にしたのだから。
「貴様、そんな屁理屈が通用するとでも!?」
問題はコイツをどうにかしなければ。何かいい手はないか考えていると
『あーあー、マイクテスト。聞こえてる~?』
突然楯無さんの声がアリーナに響き渡り、生徒がざわめく。その後に男の声がアリーナに響く
『皆さん、突然失礼します。学園長の轡木です』
「なっ!?」
この声は十蔵さんだ。わざわざ見てくれていたのか、まさかこの展開を見越していたのか?
『今の試合は機械の判定が故障したわけではなく、完全な引き分けです。そして今回遠藤雪広君の試験内容は、戦闘で負けないこと。これは
そうですよねIS委員会の皆さん、とアナウンスで十蔵さんは言う。そう言うということは奴ら、ここにいるのか?・・・うん、考えられる。自分が負ける姿を実際に見て、何かと文句を言わんとする姿が見える。
それはそうと、十蔵さんは言葉を続ける
『そして、今の試合は引き分け。これは負けていませんね。それならば試験は合格で良いでしょう』
「で、ですが理事長!引き分けというあいまいな結果で終わらすのも如何なものかと!」
『織斑先生、これは生徒の技量を見定める試合ですよ。それに、ブリュンヒルデのあなたに引き分けた彼に技量が無いわけないじゃないですか』
言いたいことを言ってくれる十蔵さん、マジ有能。あとで菓子折りでも渡そう。クズ教師も正論を言う十蔵さんには強く言い出せないらしく、何も言い返さずに沈黙を貫く。
形勢逆転。今度は自分が憎らしい笑顔でクズ教師に合否を問いかける。この場で本人の口から言ってもらわないとねえ?
「で、織斑先生。試験は合格ですか?」
「グッ・・・」
かなり歯噛みするクズ教師。だが学園長の意見に観念したようだ
「え、遠藤雪広の試験は・・・合格、とする・・・!」
とても悔しそうに合格を告げると同時に観客は静寂を破る。そんな中、自分は一夏達にお礼を言おうとして皆がいた所を向いたが、もぬけの殻だった。多分ピットの方に向かっているのだろう。それなら早くピットに戻って喜びを分かち合おう。歓声と悲鳴が充満するアリーナを背にする。
はぁ・・・よかっ・・・た
「彼、やりましたね」
「せめてと思っていましたが、これなら楯無さんにも追いつくのでは?」
「あんまし否定できないですね。いつの日か
私は理事長とともに管制室を後にし、ある場所に向かっている。雪広君は織斑先生に対して引き分ける結果を出した。今度は私が動く番だ
目的の場所に近づくのに比例するかのように怒号がはっきりと聞こえてくる。
「学園長、何かあったらマズいので私が先に入ります」
「分かりました。よろしくお願いします」
私なら専用機のISがあるので、何かあってもすぐに展開して盾となることができる。それを鑑みたうえで私がピットの扉を開く
「貴様らの整備であの男に引き分けることになったのだ!!どう責任を取ってもらおうかあ!?」
「で、ですが整備は完全でした・・・」
「私が引き分けた時点でおかしいんだ!!何のために貴様らがいるんだと思っている!!」
かなり荒れているわね。勝てなかったことに相当苛立っているようでIS委員会の人たちに当たり散らしている。すると織斑先生が私と学園長に気づき、一旦怒りの矛を私に向けてきた
「なんだ、楯無?今は取り込み中だ。出て行ってもらおう」
「いえ、私は主にそこにいるIS委員会の方々に用があるのです」
何だと、と織斑先生だけでなくIS委員会の人も反応する。私だって今日まで何もしていなかったわけじゃない。ただ上からの圧力に屈していたわけではないのだ
「IS委員会の方々、あなたたちとその上層部がこれまでにもみ消してきた犯罪行為をすべて公にしたわ。ああ、今からあがいてももう遅いわよ。既に校門前に警察が待っているから」
束さんの依頼によって暗部としてIS委員会の情報を集めていたが、埃が出るわ出るわ。IS委員会であり、女性権利団体の幹部であるのをいいことに、男性への強盗や恐喝、果てには殺人まで無かったことにしようと圧をかけていたのだ。とんでもない犯罪者集団だと分かって笑うしかなかったわ。よくもまあ、ここまで野放しにしていたのだと
それも今日で終わり。しっかりと法の下で裁かれてもらおう
「う、嘘よ!そんなこと!」
「ちなみにだけど、もう上層部は捕まっているわ。それと何か問題を起こすようなそぶりを見せたらISを展開していいと許可は下りてるわ。あまり抵抗しないのをおススメするけど?」
牽制に右手だけISを展開する。しかしそれだけで委員会のある人は降参したかのように膝をつき、ある人は泣き崩れる。悪人だから何も感じないけど
「話は済んだか?ならば更識、さっさとこいつらをつまみ出せ」
吐き捨てるように言い、委員会の人たちを見下している織斑先生。あたかも無関係だと言わんばかりの雰囲気を出しているけど、あなたにも影響はあるのよ?
「織斑先生にも少なからず関係がありますよ」
「・・・何?」
「臨海学校の件ですよ。その処罰は委員会の人たちが勝手に決めたことだけど、今回の件でその処罰の権限は学園長に渡ったわ」
数刻だけ呆然としていたが、私の話した内容に気づいて織斑先生はハッとする。今度は学園長が前に出る
「織斑先生、あなた方が福音における雪広君への行いを忘れたとは言わせませんよ?貴方たちへの処罰は追って伝えます。それまでは自宅待機です。弟さんも」
「で、ですが処分の内容は委員会の連中が既に決めたことで・・・」
「彼らにはその権限は既にありません。私が改めて判断します」
「そ、それはあまりにも!」
「織斑先生、これは命令です。貴方の異論は一切認めません」
有無を言わさないほど学園長が圧をかける。織斑先生はIS委員会の目を気にしたのか、それとも学園長の言葉には逆らえないのか、何も言わずに歯を食いしばってピットから出る。これでやっと彼らに正式な罰を与えられるわね。これなら雪広君も納得するでしょ
「では楯無さん、彼らをお願いしますね」
さて、私はこの連中を校門の外に連れ出さないと。画竜点睛を欠かないように、仕事を最後までキッチリとしなきゃね。
でも一人でこの人数を運ぶのは大変だから、虚ちゃんを呼ぼうっと
雪広が待機していたピット内に一夏達四人はたどり着く。いち早くおめでとうと言うために。急いでその扉を開く。
そこには、制服姿の雪広が右腕で目を覆いながらベンチに横たわっていた
「に、兄さん!?」
「「「雪広!?」」」
扉の一番前にいた一夏が真っ先に気づき、四人は慌てて駆け寄る。先ほどの試合で身体にダメージを負ってしまったのかと彼らに不安がよぎる
「皆か。自分は大丈夫だ」
「いや、大丈夫そうには見えないって!」
雪広は右腕を退けて、彼らの方を向いて力なく笑う
「ああ、ちょっと頭を使いすぎたようだ。あの単一能力はかなり脳を酷使するようでな・・・今になってガタがきた・・・」
ビットを複数操作するのは一部オートですらかなり脳を酷使する。元イギリス代表候補生は6機が限界だったが、雪広はその倍近くのビットを操作、しかもすべて手動で操作していた。脳を酷使していたのは言うまでもないだろう。試合後すぐはアドレナリンの分泌で分からなかったが、ピットに戻ってしばらく後に疲れが一気に来てしまい、雪広は横たわっていたのだ。
「今日は試験が終わった記念に集まりたかったけど、今日は無理かな」
「いいって、今日はゆっくりしよう。皆もそれでいいだろ?」
一夏の言葉に首を縦に振る三人。とはいえ、兄さんが起き上がれるようになるまで待っているのもどうかと思っているとシャルロットと簪が前に出る
「なら部屋まで僕たちが運ぶよ。二人で肩貸してあげる」
「そうそう。私たちがやってあげる!」
「いや、だったら俺が・・・」
そう言いかけて一夏は気づく。二人の無言の圧力に。ここで出しゃばったらマズいと察し、二人に任せることにした。雪広も二人の申し出に甘えることにし、肩を借りながら帰路に就く。しばらく無言だったが簪が口を開く
「雪広」
「どした?」
「本当にヒーローみたいだったよ。絶体絶命の中で新たな力を身に着けてさ。ね?シャルロットもそう思ったでしょ?」
「うん。とってもかっこよかった・・・惚れなおしたって感じ」
「まだ自分を狙っているのかよ」
「まだ諦めてないって言ったはずだけど?」
「私も諦めてないよ~」
「・・・そうかい」
二人の好意になんとなく直視できない雪広は、そっぽを向こうにも左右を固められているためじっと前を見てごまかす
「でも、凄かったよ、兄さん。世界最強に引き分けたんだから」
「まあな。勝つのは無理だが、負けないならわずかだけどできるかもと思って作戦を立てて・・・運も味方になったな」
そんな雑談を一夏とも交え、雪広の部屋に進む。窓の外から漏れる夕日が彼らを包んでいた
「あたしだけ・・・まだ・・・」
そんな中、一人立ち止まった鈴の独り言が虚空に消える
「マドカ、大丈夫か!?」
「・・・仕方ない、・・・に行くしかないわ」
第5章、これにて完結です。
次章は夏休み編を予定しておりますが、間で関係のないパロディを挟むかもしれません。私の時間と趣で決めるので待ってくれる方は気長に待っていてください