Inferior Stratos 作:ユキ (旧 rain time)
実験体?俺が?つまり、俺は・・・人間じゃなかった?は?
え?嘘だろ?
「ちょっと待てよ」
混乱している中で兄さんがスコールさんに睨みを利かす
「一夏がその計画に関わっているってことは、あの織斑姉弟も関わっているってことだよな?」
「ええ、あの二人も織斑計画の実験体よ」
「なら何故その情報が一切出てこない?これでも俺は情報通だし、何より知り合いに電子情報を網羅する天才も知っている。そんな情報なぞ見たことも聞いたこともない。そんなことありえると思うか?」
電子情報を網羅する天才、束さんのことだろう。兄さんの反応からしてネット・・・ダークウェブも含めてそのような情報が全くなかったのだろう。
兄さんに教えてもらったのは、ダークウェブというものは違法なものを取引したり、コンピュータウイルスのサイトに誘導して個人情報を抜き取ったりといったいわばネットの無法地帯だ。また、ダークウェブは秘匿性・匿名性が非常に高いことから表に出ないような非人道的な実験もレポートとして見ることができるそうだ。
兄さんと束さんがどこまで踏み込んだのかは知らないが、そこですら見たことがないから信用がないと兄さんはスコールさんに物申す。だが
「あなたたちが知らなくて当然よ。だって、この実験は当事者たちに口頭と紙媒体のレポートでしか伝えられていないもの」
「何!?」
「今時、紙媒体だけでの情報連絡は時代遅れ・・・でも、こういうアナログだからこそデジタル社会で有効なことだってあるのよ」
どこかの漫画で見たな、最重要機密は紙の書類にして、手渡しで情報を交換すると。確かにこれでは兄さんでも、そして束さんでも情報を網羅することができないというわけか・・・まさしく盲点といったところか
「すべての情報が電子の海にあると思ったら、今日でその考えを改めるべきだわ」
「・・・そうですね」
反応からして、スコールさんを認めては無いものの忠告は受け取ったようだ。けれどもそれで話が終わりではない
「スコールさん、教えてもらっていいですか?俺のことを」
焦る気持ちが抑えきれず、スコールさんを急かす。早く知りたいのだ、俺の出生を
それじゃあ話すわね、と一呼吸を置いてスコールさんは語る
「織斑計画、別名はプロジェクト・モザイカ。意図的に遺伝子を組み替えて「最高の人間」を作り出す、要するに普通の人と比べて高い運動能力、免疫・治癒力、基礎学力などが遥かに高い人間を作り出す、そんな倫理のへったくりもない狂気の計画よ」
「・・・いわば植物の品種改良の人間バージョンってことね」
「そんなところよ。私も資料しか見てないからどんな目的でやったかまではわからないけど・・・分かっているのは、その実験の成功体が『織斑千冬』であること、織斑千冬を媒体に作られる中、織斑千冬がその媒体のうち幼稚園児程度まで育った二体の成功体を連れて脱走したこと、そして私たちと一緒にいたマドカは・・・彼女の失敗作であったことなのよ」
と、ここで楯無さんが懐疑の目を向けてスコールさんの話を遮る
「そもそもなんであなた達がその情報を知っているのかしら?そこまで機密にしていたのなら、外部に漏れることなどあり得ないでしょうに」
その質問にオータムさんが回答する
「俺がたまたまスラムに迷っちまったときにな、研究所から逃げてきたマドカと偶然会ったんだ。そのときマドカは研究所の奴らに追われて取り押さえられていてよ。そいつらを殺してマドカからそのことを聞いて・・・いてもたってもいられなくて俺たちでその研究所を潰したんだ」
「・・・つまり偶然だと?」
「ああ、そうだ。マドカと会ったのも、織斑計画を知ったのも、そしてその計画で生まれた奴と会うことも全て偶然だ。こんなことになるなんて夢にも思わなかったぜ」
「・・・嘘は言ってないようね」
「こんな状態で嘘なんか付けねえっての」
オータムさんが首をすくめた後、スコールさんが話を続ける
「そういうことで、マドカは私たちが保護したのよ。それで安全な場所で孤児たちと共に育てようとしたんだけど・・・私たちの組織に入るってあの子から志願して・・・」
「ふざけないで・・・」
突然スコールさんの話を遮ったのは鈴だった。俯きながら鈴はそうか細く、しかし通った声で呟く。そして
「ふざけないでよ!!」
はじけるように立ち上がって、激しく激昂する
先ほどの話で完全に呆けてしまっていたが、ガタンと椅子が倒れる音で思考が徐々にまとまっていく
「アンタらふざけんじゃないわよ!!そんなデタラメ通じると思ってんの!?」
「鈴・・・」
「捕まって、情報を出すと言って言うに事欠いてソレ!?それで『はい、そうですか』って言うと思う!?信じれると思う!?」
「鈴・・・!」
「ふざけるな!ふざけるな!!一夏に何の恨みがあるっていうのよ!!アンタ達も一夏を貶めるって言うなら!!!」
「鈴!!」
止めないとマズイ、そう思った俺は鈴を我に返らせようと名前を呼ぶ。二回とも声が届かなかったようで、三回目は強めて叫んだ。ビクリと鈴が驚いた後、今にも泣きそうな顔で俺を見つめる
「どうして止めるの、一夏?バカにされているのよ?私は、そんな一夏への、悪意にっ・・・耐えられないわ・・・」
小さく嗚咽をもらす鈴をそっと抱きしめる。こんなに俺のことを想ってくれているのだと、俺も目頭が熱くなる
でも
「鈴、俺のことを想ってくれてありがとう。でもスコールさんの言葉に納得する俺がいるんだ」
「何言って・・・」
「俺に両親がいないことも、鈴や弾よりも物分かりが良かったことも・・・何より俺に小学校以前の記憶が無いことも」
それに鈴はハッとする。
俺には小学校以前の記憶が無い。おぼろげな記憶すらもない。ガキの頃はつらい記憶しかなかったから、ただ忘れているだけだと思っていたけど、スコールさんの話からして納得できる。親がいないのも、蒸発したからではなく本当にいなかったというのなら辻褄が合うし、奴らほどではなかったが他の同級生よりも運動も勉強もできたことにも納得がいく
「一夏・・・あんたは辛くないの?普通の人じゃないって言われて・・・それが真実だと言われて・・・」
「・・・っ」
それは正直、辛いというよりも・・・
鈴が、シャルロットや簪、楯無さんが、なにより兄さんがこの話を聞いて俺のことをどう思うのかが怖い。そんなことを言うような人ではないと分かってはいる。それでも不安になる。これまでの関係が崩れてしまわないかと
ふっと兄さんの方をみて目が合う。兄さんが何を思っているのか・・・
「・・・」
「一夏、先に言っておく」
俺の不安が漏れる前に兄さんが口を開いた
「一夏、自分は
「・・・」
「でも、誰が何と言おうがお前は俺の弟だ。何も変わらないさ、これからもな」
「!」
「安心しろ、一夏。それともなんだ、もうお前とは兄弟じゃねえ、とかいうような薄情な人間だと思うか?」
そうだよな。兄さんがそんな薄情な人間じゃないってわかっていたじゃないか。本当、兄さんは俺に甘いというか・・・
そんな甘さが今日は特に嬉しいのだけど
今度は簪が声を上げる
「私だって変わらないよ。てっきり仮面ライダーくらいの肉体改造をされてるのかと思ってたけど・・・生まれが特殊な普通の人じゃん」
続いてシャルロットも
「僕だって妾の子なわけだし、別に何とも思わないよ」
そして、一番大事な鈴も
「あたしだって何も変わらないわよ・・・逆に、これで一夏を馬鹿にするやつはあたしがぶん殴ってやるんだから!」
「鈴、皆・・・ありがとう」
思わず言葉が漏れる。こんな単純な言葉しか出てこないけど、仲間や家族、恋人に恵まれたんだと身に染みる
「良かったよ。俺が言うのもなんだけど、彼らの関係が壊れなくて」
「この子たちはそんな
楯無さんの言葉の後、スコールさん達は互いに顔をあわせて小さくうなずくと俺に話しかけてくる
「一夏君、貴方にお願いしたいことがあるの。捕まった身で申し訳ないけど、私のお願いを聞いてくれる?」
「いいですよ、何でしょう?」
二つ返事で答えたのは些か不用心だったが、スコールさんが俺たちに助けを求めているのがわかる。それには答えないと
ありがとう、とスコールさんは言い・・・
「マドカと話をしてあげてほしいの」
「う・・・」
治療室で眠っていたマドカが目覚めたのを確認する。隣に座っている一夏が彼女に容態を尋ねた
「どうだい?体の調子は」
「ここは?」
「IS学園の治療室だよ」
ぐぐっ、とマドカは上半身を上げ周囲を見渡す。そして自分と一夏だけがこの場にいるのを確認した後、一夏に目線を合わせる
「お前は、織斑一夏だな?」
「よくわかったな」
「お前たちが施設から逃げ出す時にその顔を見てな・・・面影があるからな」
「そっか。でも俺は織斑一夏じゃなくなった。今は遠藤一夏だ」
「・・・は?」
「俺は、奴ら・・・織斑千冬と一春に捨てられたんだ」
一夏はこれまでの人生をマドカに話す。いじめに虐待、そして放棄。そののちに自分に拾われたことも全てを包み隠さずに
「・・・いい兄を持ったのだな」
「まあ、そういうことになるな」
「そうか・・・私はこれからどうなるのだろうか・・・」
不安に染まった表情のマドカに対し、自分が話を切り出す
「その点に関してだが、今のところ君たちは保護する流れになっている」
驚いたようにマドカは俯いていた顔を反射的にあげた。
彼女たちを保護するのは慈善のためだけではない。今回の三人はIS操縦の技術があり、この学園の防衛に役立てると十蔵さんが判断したからだ。どうやら最近IS学園で辞職した先生が数人いて、特にIS学園の防衛をする人員が少なくなってしまったようなのだ。そのためスコールとオータムはその防衛委強化のための臨時教員として雇うことになるとのこと。
本音を言えば完全に信用はしてないが、その辺は理事長と楯無さんに任せることにした。あの二人がいるなら大丈夫だろう。そしてマドカに関しては
「夏休みを経て、IS学園に転入という扱いになった。君のことは聞いたが、ISの操縦に長けているし問題は無いだろう、保護も兼ねてな」
「・・・いいのか?」
「それは自分に聞かないでくれ。決めたのは学園長だから」
ただ、ここで聞き返すあたりいい子なのだろう。テロリストに所属している奴らはろくでもない連中だと思っていたが・・・自分の視野の狭さが浮き彫りになったよ、恥ずかしい
「それで、俺たちが君の、マドカちゃんの案内人をすることになるんだけど、それでいいか?」
「あ、ああ。問題ない。むしろ二人の方がいい」
「そ、そうか」
「それじゃあ、俺たちは部屋に戻るから。今日はここでゆっくり体を休めてくれ」
伝えるものも伝えたし、治療室から去ろうと立ち上がる
「ま、待ってくれ!」
と、マドカが自分たちを引き留めた。目線的に一夏に対してのようだ
「一つ、お願いがあるのだが・・・その・・・」
「どうした?」
「その・・・に・・・」
「に?」
「兄さんと・・・呼んでもいいか?」
「へ?」
思ってもない質問に自分たちは面食らう中、マドカはぽつぽつと言葉を紡いでいく
「・・・私はあこがれていた。兄妹というものを。一人ぼっちの時が長かったし、スコールやオータムは仲間だけど家族とはちょっと違う感じだし・・・ダメか?」
「いや、予想外だったから固まっていたけど・・・そっか。俺たち、血が繋がっているしなあ・・・」
顎に手をのせ、少しばかり考える一夏。自分だったらどうだろうか?別に実害が出ることではないし、断る理由が無いけど・・・いきなりだと戸惑うよな、と自分も顎に手をのせていた
そして一夏は結論を出す
「構わないぜ。兄さんと呼んでくれて構わない」
パアっとマドカの顔が明るくなる。相当嬉しかったのか、漫画でしか見たことのないような表情の変化をしていた。一夏もなんか嬉しそうだ
「うん!よろしくな、一夏兄さん!雪広兄さん!」
「んっ!?」
待て、今なんて?
「え?だって一夏兄さんの兄さんなのだろう?だったら私にとっては雪広兄さんだと思うのだが?・・・もしかしてイヤ?」
ああ、うん。間違ってはいない、のか?一夏とマドカは血が繋がっていて、自分と一夏が兄弟。だから自分とマドカは兄妹。うん、理論的には間違いではない?
とふと一夏の方を見ると・・・とんでもないほどの目力で自分を見ていた。『まさか断らないだろうな?』と言わんばかりに目で訴えていた。おい、もうシスコン発揮してんじゃねーよ!
断れない状況になり、自分は観念した
「まあ、好きにしな」
元々断るつもりもなかったし、それにこの子の気持ちも分からなくはない。一人は寂しいのはよくわかるし、家族というのを求めるのも分かる。それに幼少期に辛い経験をした点では自分も一夏も同じだし、そういう子の力になれるなら悪くはない。偽善と思われてもだ。
こうして元テロリストたちがIS学園に来た顛末としては、IS学園の戦力補強と・・・
新たな妹ができました
コーヒーブレイク挟んで、次こそ夏休み回
終わっちまったよ、夏