Inferior Stratos   作:ユキ (旧 rain time)

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 今回、アーキタイプ・ブレイカーの子が出てきますが、私は未プレイです



第7章 夏休みの出来事
第46話 高き壁


 

 亡国企業(ファントム・タスク)の穏健派が来てから数日、IS学園は夏休みに突入した。多くの生徒が帰省するが、中にはIS学園に残るものもいる。代表候補生たちはそれぞれの専用機のデータ提出と、自国での訓練合宿のため帰省をしている。

 そんな中、中国では代表候補生強化合宿が行われていた。

 

 

 

 

 

 

 中国と台湾。以前の中国は一国二制度の期限前から圧力をかけ、台湾を統治しようとしていた。しかし、ISの登場で女性、特に若い世代の地位や発言力が向上したことで政権内に蔓延る老害たちが排除されていき、中国内部の膿が排斥されたことで驚くほどクリーンな国になった。他の国に対してもしっかりとした友好関係を築いていき、台湾に対しても本当の意味で自治を認め、昔よりも積極的で友好的な交流が行われるようになった。

 IS関連においても交流が盛んだ。現に中国と台湾の代表候補生達の合同合宿が今、行われている。

 

「どうだね?代表候補生達は?」

 

 どこか風格を漂わせるISの長官である中年の男性が、候補生管理官である(ヤン)麗々(レイレイ)に質問を投げる。楊は眼鏡をクイッとした後、持っているタブレットを長官に見せ、報告をする

 

「順調です。どの代表候補生も成長していますが、特に凰鈴音代表候補生の伸びには目を見張るものがあります。また台湾の凰乱音代表候補生も申し分ないです。それぞれの専用機のデータも我々の期待以上の成果を出しています」

「そうかそうか。それはいいことだ」

「・・・」

 

 中国、台湾共に調子がいいという報告に満足げな長官。だが楊管理官は少しだけ曇った表情を浮かべた

 

「どうした?楊麗々管理官?」

「いえ、たいしたことでは・・・」

「君は他人の様子が人一倍察知できると聞いている。何か思ったことがあるのではないか?」

 

 たとえ小さな問題だとしても、取り返しがつかなくなる前に処理をする。そう理念を掲げている長官だからこそか、楊管理官の一抹の不安を読み取った

 

「・・・はい。凰代表候補生なのですが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆さん、初めまして。アタシは凰乱音。中学三年生の台湾の代表候補生よ!・・・って誰に自己紹介をしているのかしら?

 アタシには鈴お姉ちゃんって言う従姉がいて、中学生のころは何かと面倒を見てもらったの。そんなお姉ちゃんはたった一年で中国の代表候補生になったんだけど、私は10カ月で代表候補生になったのよ!何なら今から飛び級でIS学園に編入だってできるんだから!お姉ちゃんより凄いでしょ!

 昔みたいに後ろ姿を憧れるだけじゃない、もう対等なんだ。お姉ちゃんも中国・台湾合同合宿に来ると知っていたから、宣戦布告のためにこの合宿に来た。あの頃のアタシとは違うと。

 

 そして初日の訓練が終わった今、目の前に目的の人が座っている

 

「ハア・・・ハア・・・」

 

 アタシは気圧されていた。さっきの演習でも妙に殺気立っていたが、終わった今でも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。実際に他の代表候補生達もお姉ちゃんを避けているよう。俯いている分、表情がわからなくて余計に話しかけていいのかと躊躇ってしまう

 するとアタシの存在に気づいたのか、お姉ちゃんの顔が上がりアタシと目が合う

 

「お、お姉ちゃん・・・?」

「・・・乱、久しぶりね。元気にしてた?」

「え!?あ、うん・・・」

 

 どうしよう、話す内容は決めていたはずなのに・・・少しばかり煽ってやろうと思っていたのに言葉が出ない。お姉ちゃんとの会話で出てくるのは当たり障りのない言葉ばかり

 

「その、お姉ちゃんは、どう?」

「あたしは・・・まあ、ぼちぼちかな」

 

 ・・・嘘だ。

 お姉ちゃんのことを一番理解している私だからわかる、それが嘘だということが。それに、何でもなかったらそんな雰囲気を出さないわよ。代表候補生達の訓練とはいえ、これほど殺気立っているのはおかしい

 

 いや、焦っているように思える

 

「お姉ちゃん、どうしたの?何かおかしいよ」

「・・・そんなことないわ」

「ううん、おかしいって!お姉ちゃんらしくな・・・」

「そんなことないって言っているでしょ!!」

「ひぐっ!!」

 

 突然怒鳴られて思わず変な声が出てしまった。そんなアタシのビビった姿にお姉ちゃんはハッとしたようで

 

「・・・ごめん」

 

 小さな声で謝った後、頭を抱え、ため息を漏らすお姉ちゃん。

 

「ほんとごめん。最近あたし、おかしくて・・・なんか怒りっぽくなって。些細なことにもイラつくようになって・・・」

「なにか、あったの?」

 

 こんなお姉ちゃんは今まで見たことがない。お姉ちゃんの心配が先行してしまってアタシは思わずその原因を聞く

 

形態変化(モードチェンジ)、乱は知っている?」

「え?確か、ISの第二形態移行(セカンドシフト)とは異なる変化で・・・これまで4例しか確認されていない変化、だよね?」

 

 数カ月に見つかった男性IS操縦者2人を皮切りに、日本・フランスの代表候補生が成しえた今までとは異なるISの新たな可能性。各国でもその変化の仕組みを解明しようとし、それができる人材を見つけようと動いている。尤も、中国と台湾はそこに力をかけるよりも人材育成に力をかける方針を進めているからあまり関係ないけど。

 ・・・関係ないのになんで形態変化を気にするのだろうか?

 

「あたしと仲いい友達が4人いるんだけど・・・4人ともできるのよ。それ(モードチェンジ)が」

「え!?」

 

 思わず声が出る。お姉ちゃんが今IS界隈で有名な人たちと交流があることに、普通に驚いてしまった。特に男性IS操縦者と友達だなんて・・・そんな交友関係の広さに

 そんなアタシから目線を切ってお姉ちゃんは再度俯く

 

「あたしだけ、形態変化ができていない・・・!ほかの皆はできるのに、あたしだけできない!」

「・・・」

「だんだん皆と離されているのがわかるの・・・あたしだけ、置いていかれているのよ」

「・・・」

「わかってるのよ、形態変化は小さいころの逆境が無ければできないって。何も苦しむことなく育ったあたしにそれを欲する資格なんてない・・・ない、のに・・・!」

「・・・」

「それが無くても、皆と対等に戦えると思っている・・・そう思っているはずなのに、その変化を望んでいるあたしがいて・・・そんな自分に腹が立って!!」

 

 言葉が出なかった。何も、一言も。なんて言えばいいか分からなかった。でも分かることはある。

 お姉ちゃんは壁にぶつかっているんだ。それもアタシが思っているよりも遥か高い壁に。そもそも一年で代表候補生になって、しかも専用機を持つことになってIS学園に入学する、これだけでも凄いことなのに、まだ高みを目指そうとしているのか。でも、その向上心がお姉ちゃんを苦しめいている。

 そして、周りの人たちのレベルもお姉ちゃんを苦しめている要因だということも。お姉ちゃんは周りが形態変化できるからそれができて当然と思っているけど、それは周りが異常なだけだ。アタシやほかの台湾・中国の代表候補生からすればできなくて当然のことなのだから。ただ、世界で4人しかいない形態変化できる人たちが良くも悪くも近くにいて、それがお姉ちゃんの視野を狭めている

 

 このままではお姉ちゃんは絶対に無理をする。絶対に体を壊すまで自分を追い込むに違いない

 でもお姉ちゃんを慰める言葉がアタシには見つからなかった

 

「ごめんね・・・こんな情けない姿晒してさ。幻滅した?」

「幻滅とかじゃなくて、心配だよ・・・」

「・・・ありがとう」

 

 ただ今思っていることしか口にできなかった

 

 

 

 

 

 

 

「焦っているように見える・・・と」

「はい。凰代表候補生は他の中国代表候補生の追随を許さない、中国代表予備と遜色ないほどの実力を持っているのですが・・・何かに焦っているように思うのです」

 

 ふむ、と長官は報告書をペラペラめくり、データを見て考えるそぶりを見せる

 

「これを見る限り、成長してないわけではなさそうだが?」

「はい。先ほども申しましたが、彼女が最も成長しています。現にIS学園においても学年でトップクラスの実力を示しているので」

 

 報告書におけるフランス・日本の代表候補生との戦歴もほぼ互角であり、別段気にすべきほどではない。細かく言うなら、最近の勝率が低いくらいだ

 

「・・・もしかしたらですが」

「言ってくれ。君の方が代表候補生達のことがわかるはずだ」

「凰代表候補生は、形態変化ができないことに焦りを感じているのかもしれません」

「形態変化・・・あれか」

 

 元は男性IS操縦者が使っていた、これまでになかったISの変化。当初、中国の長官は男性IS操縦者というイレギュラーによるものだと思っていたが、日本・フランスの代表候補生もそれができると知ったときは長官も楊も驚いていた

 

「あれには確かに驚いた。なぜこれまでその変化が無かったのか、この数カ月で4人もそれを成しえた学生が現れたのか」

「そうですね、私も驚きました」

 

 だが、と長官は一息つく

 

「あれはイレギュラーだとわが国では割り切ったことだ。そんな不確定なことに血肉を捧げるよりも、代表候補生達の育成に力を入れる方針だろう?」

「はい。現に形態変化の例を作ろうとしている国もありますが、軒並み報告がありません」

 

 ISでも盤石の地位に君臨しようとするアメリカや内部の不祥事で瀬戸際となったイギリスやドイツ、その他の国も形態変化の例を自国で作ろうとしているようだが、楊管理官が言ったように成果が全くない。凰代表候補生のレポートには形態変化の条件の予想が書かれており、他の専門家との予想とほぼ一致しているが確証は全くない。それに力を注ぐよりも育成に力をかけるべきだと中国ではそう結論付けている

 

「とはいえ、凰代表候補生のメンタルが問題だな。まるで・・・いや、野暮な発言だったな。気分を悪くしたのならすまない」

「いえ、私が無茶をしたからです。体を壊したのも私の責任です。だからこそ、彼女は私の二の舞になってほしくないのです」

「その件は任せてもよろしいか?私みたいなおっさんよりも、年が近い君の方がティーンエイジャーのことを理解できるだろう」

「はい。これも候補生管理官の仕事ですから」

 

 それ以外の事務を伝え長官を見送った後、楊管理官は考える。一番の伸びしろである鈴のケアをどうするか。下手に訓練でオーバーワークする恐れがあるため、早くに案を出すべき。しかし下手な案は出せない

 

 廊下を歩きながら楊管理官は思考の海につかることにした

 

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