Inferior Stratos   作:rain time

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第47話 立ち返り

  

 合宿の中休み。各々が自由に過ごす中、あたしは電車に揺られていた。その理由は前日に遡る

 

 

 合宿の5日目。この日が終わると明日から3日の中休みを経て合宿の後半戦が始まる。今日の訓練も終わり、一息ついている所にスーツ姿の女性が来た。雰囲気で察したが、確認のため顔を上げると楊管理官だった。

 

「凰代表候補生。一度実家に帰るのはどうでしょうか」

「え?」

 

 楊管理官の意外な言葉に呆けてしまった。この人は自他ともに認めるほど厳しい人だから、合宿中に実家に帰らせるなんて思いもしなかった。でも

 

「・・・いえ、私はここに残ります」

 

 実際にこの合宿では何も成果が出ていない。何かを掴めればいいものの、それすらも感じていない。だから休みの間も訓練して何かきっかけをつかまないと思っていた。

 すると楊管理官はふう、と一息つく

 

「前言撤回します。凰代表候補生、この中休みは実家に帰りなさい。これは命令です」

「え!?ま、待ってください!」

「待ちません。過度な負荷は無駄に体を傷つけるだけです。一度ISから離れて体を休めてきなさい。既にあなたの家族には連絡しましたから」

 

 そ、そこまで根回しされているのかよ、と思った。有無を言わせない発言にあたしはただただ聞き入れるしかなかった

 

「焦る気持ちは分からなくもありません。ですが、目標の定まらない状態でのオーバーワークはリスクしかありません。貴方のためです」

 

 余計なお節介だ。心の底からそう思う。あたしの何を分かっているのか。この悩みはあたしにしか・・・たとえ一夏であろうとも分からないのに

 

「私の言葉は小言に聞こえるかもしれませんが、受け入れてください」

「・・・はい」

 

 言いくるめようとするも言葉が何も出てこなくて、結局首を縦に振るしかできなかった

 

 

 

 

 電車から降り、駅を出る。本当だったら合宿後に来るはずだったあたしの地元が視界に入る。夕日がかかった町並みは今までと変わらない

 

「・・・で」

 

 隣を見るとキャリーケースを引く乱がいる

 

「なーんでアンタも着いて来るのかしら」

「いやさ、久々にお姉ちゃん家に行きたいな~って思ってたから」

 

 連絡はしてあるよ、とドヤ顔で胸を張る乱。

 楊管理官に帰省を言い渡された後、どこから嗅ぎつけてきたのか「アタシもお姉ちゃん家に行く!」って乱が突撃してきた。しかもその場でお母さんに連絡して許可を貰ってた。そんな行動力、誰に似たんだか・・・昔のあたしか。

 

 雑談を交えつつ足を進め、目的の家にたどり着く。臨時休業の紙が貼られている正面ではなく裏に回り、インターホンを鳴らす。するとドアの向こう側から足音が近づき、ドアが開く

 

「お帰り、鈴。乱ちゃんもいらっしゃい」

「ただいま、お母さん」

「おばさん、おじゃまします」

「それより、お店休んだんだ」

「そりゃあね、鈴が帰ってくるんだから。バタバタしてるのは嫌じゃない?」

 

 あたしは別にいいんだけど。むしろお店を手伝って体動かしてないと気が済まない感じがしてならない。それとも、それも見越しているのだろうか?

 

「さ、まずは中に入りなさい。アンタの部屋はそのままだから乱ちゃんと一緒にそこに荷物置いて・・・ここではゆっくりしていきなさい」

 

 久しぶりの身内であるお母さんのおかげか、少し肩の荷が下りた感じがする。そんな思いで乱を引き連れて実家の玄関をあがる。

 3ヶ月しか経ってないのに、実家の匂いに懐かしさを感じた

 

 

 

 

 

 久々の家族と乱との食事はこれまでで一番盛り上がった。あたしはIS学園で一夏と再会したことやほかの仲間たちの話をして、乱は今の学校生活の話をして。一夏と付き合ってるという話ではお母さんもお父さんも喜んでくれた。対して乱は「アタシのお姉ちゃんが・・・!」って嘆いてたわ。あんたのものじゃないわよ、あたしは。

 そして夜。乱が風呂に先に入っていて、お父さんは外で日課になっていた走り込みをしている。リビングにはお母さんと二人きりだ。いつもだったら自分の部屋に行くんだけど、何となくリビングに残ってテレビをボーっと見ている

 

「鈴」

「なに?」

 

 呼ばれた方向に顔を向けると、お母さんはあたしの顔をじっと見つめていた。何も悪いことはしていないけど、なんとなく緊張する。一体何言われるのか、見当がつかない分余計に鼓動が早くなる

 そんなことを見越しているようにお母さんが口を開く

 

「・・・何か悩んでるでしょ」

「!」

「何で分かるの、って思ったでしょ。顔に出てるわよ」

 

 そんな雰囲気を微塵も出していなかったはずなのに・・・身内だから、親だから分かったのだろうか

 

「うん。ちょっとね・・・」

 

 ここで嘘をつく理由は無い。でもそれを吐露しようと思えず、言葉が詰まってしまう。悩みとか全てを親に打ち明けるのがどうにも恥ずかしく感じてしまう

 

「鈴」

 

 それを察したのか、お母さんが真の通る声で話しかける

 

「悩みがあるなら打ち明けた方がいいわ。誰かに聞いてもらうだけでも大分楽になるわ。おせっかいに聞こえるかもしれないけど、これはアンタよりも長く生きてきた経験則よ」

「お母さん・・・」

「まあ、お母さんも若いころは親に悩みを言うのを恥だと思うときがあったけどね!」

 

 アッハッハッハ、と豪快に笑うお母さん。そんな姿が容易に想像つき、思わず吹き出してしまった。

 それにさっきまで悩みを打ち明けるのが恥ずかしいと思っていたのがバカらしく思えてきた。決心するように頷いて、お母さんに悩みを聞くだけ聞いてもらおう

 

「あのね・・・」

 

 

 

 今の悩みを打ち明ける。ISであたしだけが成長できてないように感じること、あたし以外の四人は形態変化ができていること、気にするのは良くないけどどうしても形態変化できないことが気になって仕方がないことを。ため息も交えながら。お母さんはただ黙ってあたしの話を、愚痴を聞いてくれた。一通り話すと僅かだが気持ちが楽になった。

 でもそれでも足りない。根本の解決には至ってない

 

 また思考が暗くなりかけたところにお母さんに質問される

 

「あんたがISに乗った理由、覚えてる?」

「・・・うん。覚えてる」

 

 といっても大層な理由は無い。たまたまISの適性検査が無料でやってて、なんとなくやったら適性がAで。そのままなんとなくISを学んで、少し努力をしていたらいつの間にか中国代表候補生になって。IS学園に行くことになって。

 やってみたらうまくいったから。人よりもうまく乗れたから。一番流行っているもので上手くやれていたから・・・皆からの賞賛が心地よかったから。ただそれだけ。

 そんなちっぽけで何も誇れない理由。こんな理由じゃ家族以外では絶対に言えない

 

「それじゃあ、今は?」

「え?」

「鈴、あんたはどうしてISで強くなりたいと思っているの?昔だったらすぐ辞めて違うことをやってたはずよ」

「それは・・・これでも代表候補生だし、すぐにやめるわけにはいかないと思って・・・」

 

 とっさにそう返したが、お母さんの言葉に納得するあたしがいる。確かに昔から運動神経が良くて、いろんなことに挑戦した。でも飽きっぽさのせいで長く続くことは無かった。昔と同じだったら、こんな悩むことなくやめていたかもしれない。

 

 ・・・なんであたしはISで強くなりたいのだろう?

 皆から後れを取るのが嫌だから?強くない自分が嫌だから?

 代表候補生としてのプライド?それともあたしのプライド?

 

 ・・・

 

 ・・・駄目だ。考えがまとまらない。あたしの気持ちのはずなのに、何もわからない。

 

「それにしても」

 

 お母さんの声でハッと現実に引き戻される

 

「一人で何かを抱えこもうとするところはお父さんにそっくりね」

「そ、そうかな?」

「そっくりよ。お父さんが昔癌になった時、お母さんに何も告げずに離婚しようって言いだしたことがあったのよ」

「え!?」

 

 初耳なんだけど!?そもそも癌だったの!?

 

「だ、大丈夫なの?」

「ええ、本当に早期発見だったから問題なかったわ。でも癌になったってことでお父さん、頭がいっぱいだったらしくてね、死ぬかもしれないって早とちりしたらしいのよ。それでお母さんが悲しむ前に離婚しようっていきなり切り出したのよ」

 

 そ、そういえば中学生の頃、空気がピリついて感じはしていた。喧嘩でもしているのかと思っていたけどそんな大事になりかけていたなんて

 

「で、どうしたの?」

「なかなか話をしたがらなかったけど、何とか聞きだしてね。『馬鹿言うんじゃないよ!』って言って・・・こうして、こうしたわ」

 

 そう言うとお母さんは胸倉をつかむような素振りをして、掌を左右に振る。つまり、お父さんの胸倉掴んで往復ビンタをしたわけか・・・お父さんが原因とは言え、少しばかり同情する

 

「とにかく、お母さんが言いたいのは一人で抱え込みすぎるのは良くないってこと。悩みとかあったら誰かに相談しなさい。ISに関してお母さんはからっきしだから先生とか、それこそ一夏君に聞いてもらうのもありだから」

「・・・分かった」

 

 確かに今の気持ちを話すだけで気分が少し楽になった。こういう時にアドバイスをくれる親がいるのは心強い。でも・・・自身の弱みをさらけ出すようで、悩みを言いたくないあたしがいるのも事実だ。特に一夏に聞かれたくない

 

 どうしてかわからないけど

 




 
 シャンプするときの溜めって感じの話ですね、今回は

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