Inferior Stratos 作:ユキ (旧 rain time)
おひさしぶりです。2年間忙しかった。
最近あるオフ会に参加したのと、学生生活最後ということで時間があるのでここに戻ってきました
「お前名前がパンダみたいだな」
「パンダなら笹を食うんだろ?笹」
「ヤ、ヤメテ!」
日本に来たばかりのあたしはまだ日本語が不慣れなことともあって、同級生の男子にからかわれていた。やめてと言っても、嫌がる姿を見て男子たちはますますからかってくる
泣きそうになったその時、あたしを守るように割り込むように人がきて、
それで・・・
「んっ・・・」
夢・・・か。カーテンの隙間から漏れ出ている朝日を見て、目を覚ます
「うぅ~ん・・・」
ぐっと上半身を起こしてから手を伸ばし、カーテンを開ける。
あの夢は覚えてる、というよりも昔の記憶だ。同学年の男子にからかわれていたときに助けてくれたのが一夏だった。一夏自身もいじめられて辛かったというのに、あたしを助けてくれて。それで仲良くなって、一夏のことが気になって・・・いや、助けてくれた時に一夏のことを好きになって・・・
「・・・一夏」
¬
一夏に会いたい。思えば夏休みになって逃げるように中国に帰ったから、一夏と会ってない。声すら聞いてない。
今のあたしを励ましてほしい。初めてあった時みたいに慰めてほしい。抱きしめてほしい。
でも会いたくない。こんな状態のあたしを見てほしくない。でも・・・
「ん゛ん゛~~」
あたしの部屋にいるもう一つの人影の唸り声で負のループから抜け出す。その声の方を見ると・・・
「お姉ちゃん、まぶしい~」
朝弱い乱が朝日に背を向けて猫のように丸くなる。実家のルーティーンでカーテン開けちゃったけど、乱もあたしと同じ部屋で寝ていたのを忘れてた。でも今日は予定があるしそのまま乱を起こす
「ほら起きなさい。8時30分よ」
「ん~~今日は休みだし、もう2時間~」
「何言ってるの。今日はあたしと遊びに行くんでしょ。ほら起きて」
「ぬ~~・・・」
乱はのっそりと体を起こし、寝ぼけながら部屋を出る。全く、昔から朝弱いんだから
・・・さて、あたしも落ち込んでばかりじゃいられないわ
パチンと両頬を叩いて気持ちをリセットする。暗いままじゃ乱に心配されるからね
「そういえば、おじちゃんは大丈夫なの?」
都心にある大型ショッピングセンターでいろいろと見て回り、昼頃だったから中にある飲食店に入った。その中で乱がふと話題を上げたのがさっきの言葉だ。
乱が言うおじちゃんは私の母方のほうのおじいちゃんのことだ。あたしが中学生の頃、おじいちゃんの体調が悪化してしまい、助けが必要ということで家族そろって中国に戻ったことを乱は知っている。その心配をしているのだろう
「一時期は介護が必要なほどだったけど、今は良くなったわ。杖使うようになったけど、それ以外は全然元気よ」
「そっか。それだったらわざわざこっちに残らなくても良かったんじゃない?日本でも友達できたんでしょ?」
「まあね。でもおばあちゃんも体の調子が悪くなったら大変だからってことでね」
「ああ、確かにね」
何かあってからじゃ遅いし、お父さんの方の祖父母はお父さんの兄弟がいるということで家族そろって中国に戻ることになった。あたしも中国に戻ることに反対はしなかった
「それにその時は日本にいたいって思えなかったし」
「・・・そっか」
あの時は一夏が行方不明になって、ろくでもない奴らがのうのうと生きているのを見るだけでも辛かった。弾や数馬には申し訳ないけど、当時は日本にいたくなかったって本気で思ったし、日本を恨んでいた。今はそんなこと思ってないけど
乱もそれを察したのか言葉を控える。ちょっと空気が重くなってしまった。話題を切り替えなきゃ
「それにしても、あんたもISに乗るなんてね。しかも代表候補生になって」
「ふっふーん。凄いでしょ?」
何気なく言った言葉だが乱にとって相当嬉しかったらしく、ドヤ顔で胸を張る
「アタシだってお姉ちゃんと同じIS適正Aだったし、なんならお姉ちゃんよりも早くに専用機貰ってるからね!」
凄いでしょ、褒めて!って、言わんばかりの雰囲気。今、乱に尻尾がついてたら間違いなくブンブンと左右に振れているだろう。なんだかんだそういう妹らしさは残っているのよね。
凄いわねと言うと、乱はさらに顔を明るくしてこれまでのISの出来事を話してくれる。それを聞いているうちに、ふと疑問が出てきた。
「ところでさ」
「何?」
「乱はさ、どうしてISに乗ろうって決めたの?」
思えば乱も昔はISに興味がなかったのは覚えてる。それなのに乱も同じように少しの期間で代表候補生まで上り詰めたのだ。あたしと同じように飽きっぽい乱がここまで上り詰めたのかが気になる。
そして、それがわかれば・・・なんとなくだが現状から一歩進めそうな気がした。
「それは・・・」
『ちょっと!』
と乱が答える前に近くで女性の声が響く。あたしも乱も何事かと会話を切って声のした方に顔を向ける。見ると明らかに圧化粧で性格の悪そうな女とカウンターに座っている男性が揉めているようだ
「あんた男なんでしょう!?だったら私の代金も払いなさい!」
「な、何言ってるんです?関係のないあなたの分を払わないといけないのですか?」
「何言ってんの?私は女性、女なのよ。当然のことじゃない」
チッ、思わず舌打ちが出てしまう。まさか女尊男卑のどうしようもない輩がいるなんて・・・おかげで気分が急降下だ。それにしても中国でもこんな奴がいるとは。母国の人間として・・・いや、こいつ本当に中国人か?
ともかく、こういう輩に限ってISに乗ったことのない連中だろう。代表候補生のあたしがISで悩んでいるのにそんな奴がISを盾にして平然と威張り散らしてて、無性に腹が立ってきた
「お姉ちゃん」
「分かってる」
乱も同じように感じたのだろう。アイコンタクトで乱と共に席を立ち、癇癪を起こしている女の背後まで歩く
その女が気配を感じ取ったのか後ろを振り向き、あたしたちを認識するやいなや、勝ち誇ったように叫びわめきだした
「あなたたちも言ってやりな!女の方が偉いということを!」
あたしたちがさも味方のように叫ぶ勘違い女。そんな脳ミソお花畑女をぶん殴りたい気持ちを抑えつつ背後から言葉を刺す
「そうね、ふざけたこと抜かすんじゃないわよ。クソババア」
「・・はあ!?」
「耳まで遠いの?ならアタシがもう一度言ってあげる。ふざけたこと抜かすんじゃないわよ、クソ老害厚化粧クソババア」
乱があたしの言葉以上の毒をその女にぶつける。味方だと思ったその女は顔を赤くし反論しようとする
「この・・・!」
「大体、ISが乗れるから女が偉いってどういう思考回路してんのよ。ISを乗れるから偉いってこと自体もおかしいし、そもそも主語がデカすぎなのよ。それ以前にアンタはISに係ったことある?無いわよね?ISに関わっていればそんなバカの思考回路なんてしないものね。アニメと現実の区別がつかないゴミと同じよ。人生やり直したらぁ?」
すんごい口が回る。ある意味たくましく育ったことが見て取れる。とはいえ、あたしが思ってたことをそのまま言ってくれたし、それはそれで痛快だ
厚化粧女は顔を真っ赤にして反論してくる
「だ、だったらあんたたちはISに関わってるんでしょうね!?」
「オバサン、
「は、はぁ?」
「中国の代表候補生の凰鈴音よ。雑誌でも良く見るでしょ?まさかとは思うけど知らないなんて言わせないわよ。アンタはISでいい思いしようとしたんだから」
そんなアタシは台湾で一番勢いのある代表候補生だけどね、と乱は胸を張って付け加える。さすがにあたしのことは知ってるらしく、女は目を見開いてあたしを凝視する。その女は反論を述べようとしているが、言葉が思いつかないのか間抜けな顔で口をパクパクする
「てかアンタ、中国人じゃないでしょ。お姉ちゃんのこと知らなければ中国語が変な感じだし・・・大方、女尊男卑にまみれた日本人ね?はっきり言って迷惑だから」
「ふざけるな!!」
顔からしておよそ日本人と推測したが、そこに厚化粧女が噛みついてきた。そこで噛みついてきたってことは・・・
「日本人だと!?あんな後進国の人間に見えるのか!?私は偉大なる韓国人だ!そして、女性権利団体韓国自支部の一員でもあるのよ!」
最後の言葉にあたしは眉を顰める。
女性権利団体。またしてもこいつらか。うんざりするし、韓国に支部作ってんじゃないわよ、全く。ただこいつらの場合、そこらの女尊男卑の勘違い達よりもたちが悪いことだけは分かる
「私は女性権利団体韓国自支部の一員!だから!」
そういうと女は懐から黒い光物を出す。それを見た周りの人が悲鳴を上げる。
どう見ても銃、本物だ。一気に緊張が走り、臨戦態勢に入る。ISがあるからあたしが狙われるのは問題ない。でもこいつが無差別に発砲されたらたまったもんじゃない
「お前達名誉男性は殺してやるわ!まずはアンタよ、文句を言ってきたチビ!」
「っ!」
女は銃口を乱に向ける。乱もISは持っているが、突然な出来事と恐怖からか立ちすくんで動けないでいる
「死ねえ!」
発砲までに女の銃口から推測して弾道を推測する。女の発砲と同時にあたしはISを右手だけ展開し、乱の胴を守るように弾丸を受け止める。
掌真ん中に直撃。ISを展開していたから少しの衝撃で済んだ
「なっ!?」
「遅い!」
驚く女に対し、あたしは距離を詰める。反撃してくると思ってなかったのか、女がまごつくのを見て二発目の弾丸を発射する前に手組を掴み、真上に挙げる。二発目が発砲されるが、真下を向いているので流れ弾も跳弾も心配ない。
女の手首をつかんだまま回り込み、ぐっと力を籠めることで体勢を崩させる。ISに掴まれた痛みと想定外の方向からの力で女が銃から手を話すのを確認したのちに足払いをしつつ右手もつかみ、地面に組み伏せた
「この!離せ!私を誰だと!」
「乱!警察に連絡!」
「は、はい!」
女が叫んでいるが、力を緩めることはしない。左手も動けないように固定させ、身動きが取れないようにする。何か喚き続けるけど関係ない。乱が呼んでくれた警官が来るまであたしは女を取り押さえていた
一悶着はあったものの女を警官に突き出した後は特に何事もなく、いろいろと見て回ることができた。夕方ごろとなり帰路に就く中、乱があたしに語りかける
「お姉ちゃんは凄いね」
「どうしたのよ?いきなり」
「だって、銃もってる相手にも恐れずに対処してて・・・アタシは何もできなくて」
「それが普通よ。そんなに気にしなくていいわ」
これからできるようにすればいいわ、と付け加える。乱はただ一言、うんとうなずいた後無言のまま歩く
「・・・お姉ちゃん」
「うん?」
再び乱から呼ばれ、再び乱の方に顔をむける
「さっき、ISに乗ろうとした理由言えなかったじゃん」
「ああ、そうだったわね」
「本当はね、お姉ちゃんに憧れたからなんだ」
「あたしに?」
意外だった。一緒にいたときもどちらかというとあたしと競ってるような感じだったし、そんな素振りなんて見たこと無かったから、そんな理由で驚く
「IS乗って同い年や年上を圧倒してたお姉ちゃんが強くてかっこよくて、お姉ちゃんと同じところに行きたいって思ったの。だからアタシもISに乗りたいって思ったの」
「そう・・・」
キラキラした目で語る乱。でも乱は知らない。あたしが大層もない理由でISに乗っていることも、なんでISに乗り続けているか分からないことも。
そんな思考にとらわれていると、不意に乱から話しかけられる
「先週会った時、お姉ちゃんすっごく悩んでたでしょ」
「・・・あの時はほんとごめん」
気にしなくていいよ、と乱は朗らかに言う
「あの時ね、お姉ちゃんってやっぱ凄いんだなって思ったんだ」
・・・え? いったいどこを見てそう言ったのか?
そんな顔をしていたのか、乱が言葉を続ける
「だってさ、国の代表としてIS学園に行けただけじゃなくてさ、IS学園で
そこは自覚している。同国の同期よりも一歩上のところにいることも。
けど
その悩みが、その壁が超えられる気がしない
「でもね」
と乱が一呼吸を置いて乱はあたしを、あたしの目を見る
「アタシの知ってるお姉ちゃんは、どんなに、ど~んなに高い壁でも乗り越えられる人だから!だれがどう言おうとアタシはそう信じてる!
だって。アタシにとってお姉ちゃんは憧れで、ライバルで・・・
一番のファンだから!」
夕日で顔を照らされながら、乱は屈託のない笑顔で言い切った。
久々に会って、大人になったと思っていたけど。今のあたしへの言葉や表情は無邪気な子供と同じで。
そんな乱があたしのことを今でも憧れと、一番のファンだと、本心で言っていることが素直に嬉しかった。あたしが無様な姿をさらしたのにもかかわらずだ
「・・・ありがと」
嬉しかったと言い返すことが妙に照れくさくなって、たった一言だけで返す。
中国に戻ってからずっと沈んでいた心に光が差し込まれた、そんな気分になった
「だから・・・お姉ちゃんが一夏さんと付き合ってるって聞いてめっちゃ複雑なの!一夏さんと会ったら一発ぶん殴っていいでしょ?」
「駄目に決まってるでしょ!もっと穏便にしなさいよ!!」
くしゃくしゃっと乱の髪をかき乱す。さっきの照れくささも隠すように。
希望に満ちた目と声に、問題は解決してないけど、気持ちが少しだけ救われた。
鈴パートはあと1,2話の予定ですね