Inferior Stratos   作:ユキ (旧 rain time)

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第49話 先へ

 合宿の後半戦の初日。鈴は一番に更衣室に入り、ISスーツを着用する。その中で今日こそは、と意気込む。

 

(今日は何か掴めるかもしれない・・・)

 

 合宿前半では焦りが先行して何も得られることが無かった鈴だが、中間の帰省による休みで思考が落ち着いている。そんな中で自他ともに第六感が鋭い鈴は、直観的に今日何かあると感じていた。

 準備運動のため、訓練アリーナへ向かう途中で楊管理官と鉢合わせする

 

「おはようございます、楊管理官」

「凰代表候補生、どうでしたか、帰省は」

「まあ、ぼちぼちですね」

 

 そう鈴は返すものの、その表情は帰省前の張りつめていた時より良くなっていることは見て取れた。言葉に反してリフレッシュはできたのだろうと楊管理官が察する。しかし鈴の表情に陰りが見え、まだ悩んでいる様子が見て取れる。

 

 親切心かお節介か、楊管理官は今日のスケジュールを確認しつつ、鈴に声をかける

 

「あなたには先に言っておくべきでしょうね。今日の訓練についてです」

「はあ」

 

 いきなり何を言ってるのかと、怪訝な顔をする鈴。どうせいつもの小言だろうと軽く聞きながそうという態度を隠さないでいた。

 

 しかし、次の言葉で鈴は自身の第六感が正しかったと思うのに十分な言葉だった。

 

「今日ですが、現中国代表と手合わせができます」

 

 

 

 

 

「初めまして。知っていると思いますが、現中国代表の春美華(チュン・メイファ)です。明後日で20歳と42カ月になります。今日は特別講師としてこちらに来ました。よろしくね」

 

 真面目そうな雰囲気であり、丁寧ながら気さくに話す春だが、代表候補生たちは気圧され声を出せないでいる。

 候補生は多くいるが、代表はただ一人。人口が多ければおのずと熾烈になる中で、中国代表の座にいる人が目の前にいることに多くの代表候補生たちが緊張を持つ

 

「今日は現中国代表と手合わせをする機会を設けた。現在の代表の力を知るいい機会となろう。各自成長の礎となるようにしなさい」

 

 進行役の楊管理官の言葉に代表候補生たちがはい!と声をそろえる。現代表と戦える、こんなことはめったにない機会であり、代表候補生たちは興奮半分、恐れ多さ半分といった表情を浮かべている。

 

「早速だけど、まずは私と手合わせをしましょうか。我こそは、って人います?」

 

 軽い感じで春が声をかける。が、それと同時に戦闘モードに入りプレッシャーを放つ。

 代表候補生とはいえ、ティーンエイジャーにとってはとんでもない気迫であり、ほとんどが気圧される。その中でいの一番に手を挙げる候補生が一人

 私の圧にも対抗できるのね、と春は思いつつ、その代表候補生に語る

 

「よし、キミからやろうか。名前は?」

「凰鈴音です」

 

 

 

 

 

 

 鈴と春はISを展開し、実際の戦闘と同じように所定の位置に着く。その中で鈴は心を落ち着かせつつも気合を入れ直す。現代表との手合わせという、またとない機会。中国代表にどこまで通用するのか、何が足りないのかをこの戦闘でつかまんと意気込む。

 戦闘開始の合図と同時に鈴が瞬間加速(イグニッション・ブースト)で間合いを詰め、双天牙月を振り下ろす。先制攻撃からの連撃。これが鈴の戦闘スタイルだ。

 それに対し春代表は()()()()、一般の剣を展開し迎え撃つ。刃が重なる音とともに、鈴の剣が止まる。重量的にはこちらが上だが、こんなにも軽々と止められたことに鈴はおののくも、接近戦のままラッシュを仕掛ける

 

「はあああ!!」

 

 声を上げ、上下左右から連撃を叩き込む。しかし、全てが()()()()()()()。いなされも反撃もせず、ただただ受け止められていることから鈴は嫌でもわかってしまう。

 中国代表は本気を出していないことを

 

「くっ!」

 

 このままではジリ貧と判断し、瞬時に距離を開けて甲龍の特殊武装「衝撃砲」を使う。鈴は目線で悟られないよう、視線を固定したまま不可視の弾幕を張る

 

「シッ!」

「なっ!?」

 

 しかし春は初撃の衝撃砲に対し、盾を展開して突っ込みながら鈴に接近してきた。まさか正面から突破すると思わなかったものの、鈴はカウンターを決めるため剣を振りぬく

 

「甘いですよ」

 

 だがそれすらも読まれる。想定外で見え見えのカウンターをしてしまい、隙だらけとなった胴に春の一閃が走る

 

「ぐうぅっ!!」

 

 直観的に後ろに下がったものの、かなりの衝撃で鈴は吹っ飛ばされてしまう。空中で体勢を立て直すも、身体に響いたようで鈴はえずきそうになる

 

「パワーもスピードも候補生のなかでは確かに高い。それでいて反射神経もかなり良い。ただ、それだけでは一つ上の段階には行けないですね。衝撃砲をノールックで撃てるようになったのは良いですが、戦略としては甘いところがありますね。」

 

 立て直す中、春に淡々と分析された結果を言われる。ここまで通用しないのか、ここまでいいようにされるのか、あまりの力の差に鈴は気圧されそうになる。

 だけどやられっぱなしなのは癪だ、と鈴は奥歯をかみしめる。そうやって鈴は己を鼓舞した

 

「まだまだぁ!」

 

 声を出すとともに再度鈴は攻撃を仕掛けた

 

 

 

 

 

 

 けれども、あたしの気合もむなしく一方的だった。すべて見切られた後、春代表からの猛攻に受けるのが精一杯で防戦一方を強いられる。カウンターをしようにも、余裕持って躱されたりそれを誘う罠で逆にカウンターを貰ったりし、刻一刻と勝負が決してしまう

 

「クッソ・・・」

 

 目の前に集中しなければと思うのだが、別の事ばかり考えてしまう。

 

 思い出すのは、IS学園での専用機持ちとの模擬戦。特に雪広に初めて模擬戦をした時だ。

 クラス対抗戦の後、雪広と手合わせしたのだが、結論から言うと負けた。悪い言い方だが、たかが数か月しか乗ってない素人相手に、代表候補として負けたのはかなり屈辱的だったのは今でも覚えている。

 その時と似ている。あたしの考えがすべて読まれ、常に先手を打ち続けられた時と一緒だ。完敗ではなかったし油断もあったが、全力を出してもそれすらうまく使われて。

 

 これまで直観に頼って戦って、中国にいたときはそれでも勝てていた。周りからは天才だともてはやされたけど、努力はしてきた。そしてこのままIS学園でも一夏のいい手本になろうと、目指したのに。ふたを開ければ他の代表候補生たち(簪とシャルロット)に後れを取る始末。一夏や雪広には勝ち越してはいるが、そもそも彼らが代表候補生たちと渡り合えていることがおかしいのだ。本当に才能がある、天才と言われるべきは彼らなのだ

 

 言えることが一つ。あたしは天才なんかじゃなかった。

 中国では周りより上手だった。ただそれだけ。

 そして、才能ある連中がいるIS学園では、あたしは凡人になり下がる。

 

(でも・・・)

 

 今のあたしにできること・・・それは

 

 凡人と認めて今を必死になるしかない!

 

「はあああぁぁ!!」

 

 雄叫びと共にこれまで以上の速度で春代表に突っ込む。これまでのことから、特効を仕掛けたらカウンターをしてきていた。実際に、春代表はあたしの軌道から離れると同時に大剣の横なぎが見える。

 

「それならぁ!」

 

 瞬間加速中に軌道を変え、躱すと同時に相手の懐に飛び込む。瞬間加速(イグニッション・ブースト)中の別方向へ力をかけることは体へのGが大きくなり、推奨されない行為だ。身体が軋むほどの衝撃だったが意表を突いた。表情は見えないが、相手も姿勢が崩れている!

 せめて一撃だけでも代表に叩き込む!!

 

「いけええぇぇ!!」

 

 その思いで双剣状態にした双天牙月を、振り下ろす

 

 

 はずだった

 

 

「は?」

 

 空を切る。目の前に何もない。思考が止まる。

 

 上?下?どこにもいない。()()()()

 

 ISは360度見渡せるシステムだ。そのカメラから見ると、春代表はあたしの後ろに回り込んでいた

 

 これすらも読まれていた

 

(あっ・・・)

 

 振り向くと同時に春代表の脚が見える。まるで世界がスローモーションになったように錯覚する。

 それなのに、何も考えられない

 焦点が合わなくなってきた・・・

 

 

 

 

 

 

 どれほど経ったか分からない。数刻、いや数秒、もしかしたら数分は経ったのかもしれない。そんな中あたしは何も考えることなく時が流れる。まるで夢を見ているかのよう。

 ああ、きっとこれは夢なんだ。なぜか青空が広がり、地平線が見える。踏みしめた大地には草原が一面に広がって・・・

 

 ふと気づく。ここはどこなんだ?

 目を閉じて、再度開いても広がるのは草原。

 

「・・・え?」

 

 意識がだんだんと戻ってくるほど、今の状況が分からなくなる。さっきまであたしは確か・・・そう、春代表と闘ってて。蹴りが飛んできたのだけ分かったけど、何も対応できなくて。

 

「え?は?ここ・・・どこよ?」

 

 もしや、あの蹴りが直撃して意識を失った?本当に夢の中なんじゃないか・・・

 

「目覚めたるか」

「え!?」

 

 後ろから知らない男の声が聞こえたことに驚きつつ、あたしは後ろを振り向く。

 そこには大木があり、その前に男が立っていた。しかし、逆光のせいなのか、顔どころか服すらも分からず輪郭しか・・・いや、その輪郭すらも怪しい

 

「汝に問う」

 

 そんなことを気にせず、男があたしに問いかけてきた。普通なら身構えるはずなのに、なぜか棒立ちのままあたしはその男の言葉を聞く

 

「力を欲するか?」

 

 力。

 力があれば、皆から尊敬の目で見られるのだろうか。候補生ではなく、代表になれるのだろうか。そうなれば、今後みんなから羨まれるような生活を送れるのだろうか

 そんな夢が掴めるのかな、思わずあたしは手を伸ばして・・・

 

「・・・」

 

 手が止まる。

 そんなこと考えたことあっただろうか?そもそもなんであたしはこんなに頑張っているのか?なんで力が欲しいと思っているのか?

 あたしが欲しいもの、本当に欲しいもの。名声、は少しある。けどそれが一番じゃ無い。地位?金銭?どれも違う。もっと単純で、もっと身近で・・・

 

「一夏・・・」

 

 ぽつりと呟く。休暇中に一回だけ、一夏に電話した。ただなんとなく声が聞きたくなって。

 いつも通り一夏は優しく、たわいもない話で盛り上がる。途中で乱が乱入したが、それも楽しくて。夏休み後半でみんなと合えるのを楽しみにしてて。そんな一夏と一緒に

 

 そう、一夏やみんなと一緒に・・・

 

 

 

 

 あ

 

 そっか

 

 

 置いていかれるのが嫌なんじゃないんだ

 みんなと・・・一夏と肩を並べていたいんだ。

 今まで同じレベルで競い合える人が同世代でいなくて、だからやる気が起きなくて、すぐに飽きてしまって。

 でもIS学園には代表候補生たちがいて、互角の実力を持っていて。雪広、そして一夏が追い付いてきて、嫉妬や恐怖があったのは事実だけど、それ以上にワクワクしたんだ。

 そんな皆、仲間たちと一緒に高みを目指したい。たったそれだけの話。それだけなのに、今までなんで気づかなかったのだろう

 

 一人で勝手に焦って、勝手にふさぎ込んで・・・馬鹿みたい

 

「・・・いいや」

 

 伸ばしかけた手を戻し、首を横に振って男に答える。そしてあたしは近いところをじっと見て、

 

「いらないわ。あんたの力はいらない。あたしはあたしで追いついて見せる」

 

 はっきりと言い切る。それに男は何も答えない。

 数秒、数分、数十分経つほどの沈黙。お互いに動かない。このまま時間だけが過ぎていくかと思ったその時、突風が吹いた。

 それによって、男の後ろの木から桜のような花弁と若草が舞い散る

 

「我も苦悩していた」

 

 男がぽつりと語りだす

 

「本来の姿をいだすまじく(出さないように)制御することを。本来、汝にはこの力は不要と思案した。何より、強大な力は人を狂わし、驕り、心が腐敗し、憤り、悪に染まってゆく。なればこそ()()は制限をかけた。其実近来にてその制限を外し、畜生に落ちた者あり。」

 

 花吹雪がだんだんと強くなり、男の姿が隠れ始める

 

「しかし、汝は律義なり。それは我が証明す。汝は十分な力を持てり」

 

 桜吹雪が激しくなるにつれ、姿がはっきりしてきた。青の学ランを纏い右腕にマゼンダの腕輪を付けた、古臭い言葉に反してあたしと同い年っぽい男子の姿が

 そんな彼が誰か、あたしはなんとなくわかった

 

「我の機能、十全にす。これは力を授けるのではない。汝の成長の糧なり。

 存分に我の、そして汝の実力を発揮せん。さすれば汝、さらに成長せぬことやあらむ」

 

 彼が右手のこぶしを突き出す。それに応えるようにあたしも右手で突き合わせる

 

「ありがと、()()

「信頼するぞ。()()()よ」

 

 

 

 

 

 

 

 春の蹴りが鈴の方に直撃する。これで勝負は決したと誰もが思った

 が、

 

 バチイッ!!

「!」

 

 突然、鈴の体と機体が青白く光りだす。その直後に蹴りが炸裂したのだが、逆に春の脚が弾き飛ばされるような動きをする。これには春含め多くが驚く。こんな機能は甲龍にも、ましてや中国の保有するISにはない。

 異常事態なのか判断すべく、春代表は距離を取り不測の事態に対応できるよう身構える。見学していたISの長官もすぐに指示を出そうとする。

 しかし、すぐに光は収縮しだす。それと同時に機体が、鈴の姿が現れた

 

「これは・・・!」

「きれい・・・」

 

 マゼンダ色だった機体は澄んだ青色になり、鈴の髪も水色に替わっていた。その色合いは美しく、一部の代表候補生を魅了する

 そんな中で春代表と乱、そして長官は気づく

 

「これは・・・」

「まさか・・・!」

形態変化(モード・チェンジ)!?」

 

 ISの第二形態移行とも彼らは考えたが、それ(第二形態移行)にはない搭乗者の変化。それが鈴の体に起きたことから形態変化だと確信した。

 

 その中で当事者である鈴はただじっと自身の手を見た後、自身の機体を冷静に確認する。確認が終わり、春代表に目線を向ける。春代表も、鈴の確認が終わるまでじっと待っていた

 形態変化という類を見ない出来事が起こったことから、データ取得を優先すべきかと春は考える

 

「春代表、お待たせしました」

「どう?いったん中止する?」

「春代表、このまま続行でお願いします」

 

 はっきりと伝え、鈴は一対の双天牙月を構える。その姿を見た春代表はわかったわ、と一言だけ返し、剣を呼び出して構えを取る。

 

 しばしの静寂、先に動いたのは鈴だった。

 

 衝撃砲による再度の弾幕。誘導ではなく、これで仕留めると言わん威力を込めて春代表に打ち込む

 

「甘い!」

 

 鈴の弾幕に対し、それを春は掻い潜る。そのままのスピードで鈴に右袈裟切りを放つ。

 回避不能、受け止めても、今度はパワーで押し切る、そう春は考えていた。が、

 

「何!?」

 

 驚きの声を上げたのは春だった。鈴は()()()()()()()()()で左袈裟切りを放ったのだ。まるで鏡合わせのような攻撃、内心では驚くも勢いのままに斬撃を撃つ。

 互いの身体に刃がぶつかる。互いに体勢を崩すも、二撃目を出さずに後ろに飛んだ

 

「今の攻撃は良かったわ。でもこのやり方じゃ、追い込まれるのはキミのほうよ?」

 

 今の相打ちで春のSEが削られたが、春の手ごたえではそれ以上のダメージを与えていた。これまで鈴はかなりの痛手を受け続けてきたため、今回のような相打ちを続けても鈴の方が先にSEが尽きるのは明白だった

 

「これも作戦のうちだったらどうでしょう?」

 

 それに対し、鈴は平然と返す。その雰囲気から春はブラフではないことを悟る

 

(SEを減らすことをトリガーとする?なんにせよ警戒すべきは形態変化による特殊攻撃ね・・・)

 

 春も形態変化のことは認知している。4人の形態変化後の単一能力、特に代表候補生たちの単一能力から、未知の攻撃に備えていた。

 その中で鈴が取った行動が

 

「らあっ!!」

 

 双天牙月の片方を投合した。

 

(・・・甘いわ)

 

 心の中で残念がる春。これまでにもブーメランのように連結させて投げることはよくあったが、片方のみを投げナイフのようにすることもよくあることだった。

 つまり、鈴のこの攻撃はいつもの攻撃方法。ましてや、単調で武器を手放す悪手中の悪手だった。

 そう分析した春は勝負を決めるべく、一気に距離を詰める。ガードをしてきても、それを上回る現代表のフルパワーで勝負を決めようとした。

 先の投合から形態変化後もパワーはさほど変化していないことと、鈴に代表のパワーをより感じ取ってもらうために放つ春の全身全霊の一撃。それに対し、鈴は片方しかない双天牙月を両手に持ち、春の攻撃を迎え撃つ

 

 これで終わる、春代表の勝ちだ

 

 刃が重なる瞬間に誰もがそう思っていた

 

 バキンッ!!

「な!?」

 

 刃が重なった瞬間に春代表の剣が()()()。それもいとも簡単に。手入れを欠かしたわけでも劣化を見落としていたわけでもないのに折れた。万一推し負けることを考慮していた春代表にとっては想定外の出来事に思考が止まる。しかし、鈴の双天牙月は止まらない

 

 刃を破壊した双天牙月が春を完全にとらえた

 

「ォゴッ・・・!」

 

 もろに入った一撃に隙ができる。その隙を逃さず、振り下ろした双天牙月の切先を春の腹に繰り出す。

 完全な回避は不可能、そう悟った春はダメージを軽減すべく後ろに飛ぶ。切先が刺さりSEを減らすも体勢を立て直そうとして

 

ドンッ!!

「ガッ・・・!!」

 

 春の頭に衝撃が走る。衝撃砲だ。何もない中でこれほどの攻撃は衝撃砲しかない、と春は悟る。想定外だったのはその威力。明らかにこれまでの威力を軽く超える衝撃に意識が飛びかけ、大きな隙を晒してしまう

 

「・・・!」

 

 ゾーンに入っている鈴が瞬間加速で三度春をとらえる。その目は相手が誰であれ、勝つという決意が漲っていた

 

「舐めるなあぁぁ!!」

 

 それに触発されるように春は気合で意識を戻し、鈴の斬撃に合わせカウンターを放った。

 

 二人の刃が再び各々の機体に接触し・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・以上が彼女のデータとなります」

 

 楊管理官の言葉で締めくくられる。昨日行われた私と代表候補生との手合わせ。そこで起きた鈴代表候補生の形態変化の暫定報告が行われた。それと同時に昨日の戦闘を思い出す。

 

 鈴代表候補生の形態変化、それは一言で言うと「己のSEが削られることで強くなるIS」。形態変化後に相打上等の攻撃を仕掛けたのもそのためだった。そして削られたSEは攻撃に流用できるとのこと

 

「私の武器が壊れたのもそれだった、という訳ですか」

「はい、そして衝撃砲の威力強化も」

「しかもそれが目に見えない、と」

 

 かなり厄介ではあった。これまでの前例たちは特徴ある単一能力であったために、大きな変化が起きると思っていた。それがないからこそ虚を突かれたのだけど

 まだまだ可能性があるようで、凰代表候補生は残りの合宿機関でもデータ取りに奔走するそうだ。

 その後はISの流用方法やさらなるデータ取得の方法、次世代への取り入れなどの意見が出たのちに会議が終了した。長時間座った姿勢だったため、大きく伸びをすると長官が話しかけてきた

 

「春代表、最後に質問いいかな?」

「はい、なんでしょう?」

「今回君は彼女に勝ったが・・・彼女が勝つ可能性はあったかい?」

 

 あの試合は二度目の相打ちによって鈴代表候補生のSEが切れて決着となった。あの試合の後、その日のうちにシミュレーションをしたが、あの時の展開は明らかに私が有利。そこから逆転負けは考えられないし、代表としてあってはならない

 

「私は代表ですよ?代表が候補生に負けることなど万に一つもあり得ないです」

 

 言い切る。これは代表として当然の事実。

 けれど

 

「ですが、彼女のポテンシャルならいつかは越されそうですね」

「そうか。それは楽しみだ」

 

 16歳であそこまで仕上がっているのなら、代表(わたし)を超えてもおかしくない。少なくとも、16だった時と比べたら彼女の方が上だ。恐ろしい才能を持つ年下がいることに私も負けていられない

 よし、と言って気合をつけて会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 長いと感じていた合宿も終わり、あたしは空港にいる。思えば中国に帰ってきたときはずっと悩むのだろうと思ってたけど、2週間で解決するなんて思いもしなかった。

 しみじみと思いながら見送りに来てくれた三人に振り向く

 

「またな、鈴。一夏君にもよろしくと伝えといてくれ」

「分かったわ、お父さん」

「鈴、向こうでも体調には気を付けるのよ。あと無理もしないこと。それから・・・」

「分かったって!お母さん小言が多いわ」

 

 心配しているのよ、と一蹴される。いつものことだなと苦笑するも、温かい。

 

 そして乱に目を向ける

 

「お姉ちゃん、向こうでも頑張ってね!」

「ええ、頑張ってくるわ」

 

 ぐっとこぶしを握って応援する乱にあたしもこぶしを握って胸に当てる。そろそろ時間だ。あたしは三人から見送られつつ、入り口ゲートに向かおうとする。

 けど、その前に再度乱のもとに駆け寄った。その勢いのまま、乱の両手を握る

 

「お姉ちゃん?」

「乱、あたしのこと気にかけてくれてありがとうね」

 

 迷惑をかけたからお礼を言ったのだけど、それが妙に恥ずかしく。顔が熱くなるのを感じながら、乱の顔を見ることなく速足で入り口ゲートに向かう

 

「お姉ちゃーん!」

 

 後ろから乱の大声。

 

「アタシ、お姉ちゃんに追いついて見せるからー!!」

 

 そんな激励であり、目標としてくれる乱の言葉に先の恥ずかしさも合いまったことで、あたしは右手をひらひらと返してゲートをくぐった

 

 日本に着いたら、IS学園に着いたら、皆に会ったら、何を話そう。どんな模擬戦をしよう。どうやって皆を驚かそう。考えれば考えるほどキリがない。

 

 今からが楽しみで仕方がない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乱さん、なんかご機嫌だね」

「うん、あたしのお姉ちゃんはやっぱりすごいんだなって。それにお姉ちゃんに言いたかったことも言えたし」

「なんて言ったの?」

「ふふん、それはね、

 

 宣戦布告♪」

 




 これにて、鈴の夏休み編、完。
 2年半弱、時間をかけました。

 でも、夏休みはまだ続くのです
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