Inferior Stratos   作:ユキ (旧 rain time)

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 大変お待たせいたしました。


第51話 日本の夏

 

 最深部に着くための道、その最初にある炎の壁。この堅牢な壁を自分は突破することから始めなければならない。

 見張りは複数いる。こいつらをやり過ごして、かつどこかにあるはずの侵入口を見つけなければならない。かなり厳しいが凝らして、掻い潜って、凝らして・・・あった。わずかだが穴が。別のアバターを作り、見張りをそちらに視線を誘導させる。

 その隙に打ち込む。壁を突破。セキュリティを掻い潜って自分は内部へ潜入した

 

「・・・?」

 

 潜入したのだが、何かがおかしい。確かに内部構造通りであるはずだが、得も言われぬ違和感。まるで何かに監視されているような・・・

 そもそも内部構造通りで整然とされて

 

 構造通り?こんなにきっちりしているか?

 

「まさか!?」

 

 この内部は()()の腹の中か!?急いで脱出し・・・

 

 ブツン!!

 

 入り口が一瞬で消え去る。やられた!嵌められた!!そして奥から・・・数えきれないほどのウサギの人型実体が

 やられ・・・

 

 

 

 

 

「ぐわーー!!やられたーー!!」

「はっはー!束さんの勝ち~~!!」

 

 椅子にもたれて呻く雪広に対し、勝ち誇った表情の束。それぞれの席にはPCが鎮座している。が、雪広側のPC画面にはデフォルメの束の顔がぎっしりと埋まり、「お前の負け~w」と文字がデカデカと表示されている

 その部屋に一夏が入ってきた

 

「おっ、勝負着いたか。兄さんはこれで20連敗か?」

「まだ18連敗だ!」

「いや~、ハッキング勝負で束さんが負けるわけにいかないんだよね~」

 

 互いの技術力向上のため、雪広と束はそれぞれのPCに侵入し破壊するクラッキング勝負をしていた。相手のPCを破壊するだけでなく、自身のPCがハッキングされないよう、相手のハッキングに対して即座にブロックをする攻防を繰り広げていたが、今回は束の罠に引っ掛かり、雪広がなすすべなく敗北した。

 一夏の言葉通りで雪広は束に挑んでは負け続けていた

 

「でも束さんに1勝もぎ取ったのは凄いと思うよ?」

「そのあとボッコボコにされたけどな」

 

 しかし、雪広は束に全敗していたわけではなかった。一回だけ束の猛攻に耐え、奇襲に近い作戦で束のPCを乗っ取ることに成功したのだった。

 直後に束から再戦を申し込まれ、すぐに対策されて惨敗したのだが

 

「いやいや、私に勝つのは本当に凄いことだからね?」

 

 そのようなたわいもない会話をしていると、再び扉が開く

 

「雪兄、束さん、お疲れ様!」

「お疲れ様です、束様。雪広様も」

 

 今度はマドカとクロエが部屋に入ってきた。彼女たちが視界に入った三人は表情が緩む

 

「くーちゃんにまどちゃん、今日も私の勝ち~」

「自分は負けたわ~」

「流石です、束様」

「雪兄、また勝てるよ!」

 

 雪広と一夏は夏休みで代表候補生たちが帰省をする中、手伝いも兼ねて束のラボにお邪魔することとなっていた。この時、元亡国企業のメンバーだったマドカ、スコール、オータムも束のところで監視兼宿ということで一緒に転がり込んだ

 当初、雪広はマドカに対しかなり警戒を抱いていたのだが

 

「雪兄さん、勉強教えて!」

「・・・ああ、分かった」

 

「雪兄さん、今日のおやつはシュークリームだって!」

「おお、そうか・・・」

 

「雪兄、髪洗って!」

「全く、今日だけだぞ?」

 

 

 と、マドカが距離を詰めまくったことで、今では雪広もシスコンになりかけている

 

 そんな中、マドカは後ろからラッピングした箱を取り出した

 

「マドカ、それは何?」

「さっきね、クッキー()()()()()!」

「ヒエッ」

 

 思わず小さな悲鳴をあげる一夏。雪広と束はサーッと血の気が引き、クロエはスッと視線をそらした

 この反応からわかるのだが、マドカはあまりにも料理が下手なのだ。見栄えだけは良いという質の悪い腕を持っており、このクッキーも見た目()()は売り物と遜色ない

 

「よ、用事を思い出したから束さんは研究室に・・・」

「なーに言ってんですか、いっしょに地獄見ましょうよ(食べましょうよ)

「そうですよ、俺たち三人で食べた方がよりいいですって」

 

 逃げようとした束に雪広と一夏が腕だけISを展開し、両脇からがっちりと腕を組む。一人では抑えられないが、二人で全力を込めれば流石の束でも振り切ることができず、椅子に押し込まれる

 

『絶対逃がしませんよ、てか、あの量を二人で食ったら死にます』

『束さん、あなた天才でしょう?なら胃腸も俺たちより丈夫ですって』

『いや、天才関係ないし!?』

『わかりませんよ?もしかしたら今日は美味しいクッキーかもしれませんよ?』

『なら今までそうやって美味しかったことあった!?』

『ないです』

 

 プライベートチャネルで会話をする犠牲者予定の三人。なんとも醜い争いが水面下で起こっている

 

「ちなみにオータムさんとスコールさんは?俺が知る限り、一緒にいたはずじゃ?」

「クッキー食べたら寝るって言っていなくなっちゃった」

(((ハズレじゃねーか!!!)))

 

 亡国企業の前線にいた二人が寝込むレベルのモノ。普通だったら食べないが正しい選択だろう。

 しかし食べないわけにはいかない。ここで拒否をすれば間違いなく妹が悲しむこととなる。そんな姿を見たくないのだ(束は無理やりだが)

 三人は覚悟を決め、クッキーを手に取る

 

「「「いただきます!!」」」

 

 気合を込め、クッキーを口に入れた。美味しくできたというわずかな望みをかけて。

 

 

「「「ウボァァーー!!!!」」」

 

 

 現実は非情であった

 

 

 

 

 

「祭り?」

「そう!お祭り行きたい!」

 

 劇物クッキーを食べて味覚が戻りつつある今日この頃、マドカが俺に祭りに行きたいとせがんできた。どうやら昨日見ていたアニメで夏祭りの回だったらしく、その雰囲気を味わいたいとのこと

 

「この近くでやってるとこあるのか?」

「知らな~い。一兄は知ってる?」

「いや、俺も知らない」

 

 そもそもな話、この地域のことは詳しくない。束さんの隠れ家は移動式なこともあるし、この場所は俺も初めてだから近くに何があるかもわからない。それが楽しいのだけれど

 

「おう、二人とも・・・」

「やっほ〜・・・」

 

 そんな話をしていると、兄さんと束さんが部屋に入ってきた。ハッキング勝負後だといつもなら束さんが上機嫌だから束さんが勝ったのだと分かるのだが、心なしか二人とも疲れているよう

 

「どっちが勝ったんだ?」

「私が勝ったけど・・・」

「互いに操作ミスりまくって、悔恨が残る試合だった」

 

 ・・・多分劇物クッキーの影響だろう。兄さんは俺よりも消費していたし、束さんは兄さんに消費させられていたし。この二人に今もなおダメージを残すクッキー、恐るべし

 

「雪兄、束さん!お祭り行きたいの!」

「ああ、それなら今日の夜近くでやるらしいよ」

「えっ!そうなんですか?」

 

 なんというタイミング。まるでさし示したかのような時に祭りがあるのか。

 

「なら行こう!みんなで!」

 

 隣を見ると目を輝かせたマドカが嬉々として言う。爛々とした表情に断る選択肢を失った

 

「確かに、自分たちも今日の夜は予定ないし。行くか」

「それじゃ、クーちゃんに言っとくね!あとスコールちゃんとオータムちゃんも呼ぼっか!」

 

 意外なことに束さんもノリ気だし、今日の夜が確定した

 

 

 

 その日の夜、俺たちはラボから少し歩いた先の祭り会場にいた。どこかの河川敷らしいが、道の両脇には屋台がズラリと並んでいて、よくある光景が広がっていた

 

「うわあ~!すっごーい!」

「は~、これがジャパンの祭りか~」

「これはこれは、趣があるわ」

 

 マドカが目を輝かせながらキョロキョロとあたりを見回す。スコールさんもオータムさんも日本の祭りに興味があったらしく、この場の雰囲気に興奮を隠しきれていない。

 そんな三人は浴衣を着ている。近くでレンタル浴衣があったらしく、日本の祭りを十全に楽しむために借りたとのこと。確かに様になっている

 

「いや~祭りなんてひっさびさだなあ!」

 

 そして、いつもは引きこもっている束さんも参加している、のだが

 

「束様、ラフすぎません?」

 

 いつもの不思議の国のアリス衣装ではなく、まさかの白T、ジーンズ、サンダルという組み合わせ。いつもの格好だと目立つが、それ以上にダサ・・・おっさんのような恰好だった。さすがの格好に思わず浴衣姿のクロエがツッコむ

 そんな形でみんなと縁日を回っていると

 

「兄さん達!見て見て!綺麗なのがある!」

 

 マドカがある屋台で立ち止まって語りかける

 

「スーパーボールすくい、か」

「スーパーボール?フットボールと関係あるのか?」

「いえ、スーパーボールっていう良く跳ねるゴムボールがあるんですよ。それをすくうゲームです」

「面白そう!やろ!」

 

 マドカの声でみんなで参加することとなった。それぞれにポイが渡ると、クロエが解説し始める

 

「この網でボールを掬います。ですが、水に触れると破けやすくなるので気を付けてください。全部破けるとおしまいです」

 

 そう言ってボールを掬うクロエだが、掬う前に破けてしまう。俺も兄さんも破けてしまう中、流石と言うべきか、マドカ、オータムさん、スコールさんは初めてなのに一つ掬えていた

 

「ほいほいほいほい」

「ええ~~っ!?」

 

 そんな中で、束さんがめちゃくちゃボールを掬っていた。網にバリアが張っているのかってくらいに掬う姿に、俺たちや店主が驚きを隠せないでいた。

 その結果、

 

「ふい~、こんなもんか」

 

 束さんのお椀にはスーパーボールの山ができていた。相変わらず天才を発揮しているけど、店主が驚きのあまり口が開きっぱなしだった。

 流石にということで俺たちはボールを一個ずつ選んで残りは返すことにした。束さんも取った技術に満足していたようで、戻してほしいという店主のお願いに応えていた

 

「きれい・・・」

「これずっと見ていられるな」

「なかなかの弾力ね。武器として使えるんじゃ?」

「それ武器にしたのは漫画のキャラだけです」

 

 スコールさんの言葉に兄さんがツッコむ。確かに痛いから気持ちは分からんでもない

 

 

 

 その後も縁日が進み屋台で買い食いをしつつ、開けた場所に出た。聞いた話だと、時間的にそろそろだろう

 

「始まったな」

 

 夜空に白い光が吸い込まれていき、パッと花火がはじける。ドーン、と音が遅れてやってくる

 

「はわ~~!」

「こいつぁすげえな」

「綺麗ね」

 

 マドカ達は夜空の華に感動している。俺たちも久々の光景に思わず感嘆を漏らすしかなかった。それぞれが夜空をじっと見つめながら、色とりどりの花火を眺める。心なしか、過去の出来事も洗い流せるような気がする

 

「皆」

 

 ふとマドカに声をかけられる。すると大きな花火が夜空いっぱいに広がって、

 

「来年もみんなで花火見ようね」

 

 満面の笑みを俺たちに向けた。直後に大きな花火の音がやってくる

 

「ああ、そうだな」

 

 来年もみよう。そんな幸せが続くことを祈って。

 

 

 

 

 

 

 

 

「楯無、簪。呼び出してすまないな」

「いえ、私は大丈夫よ」

「お姉ちゃんと帰省して正解だったよ」

 

 更織家のとある一室。暗い畳の部屋に更識当主が姉妹を呼び出す。そこでは、普段は足を踏み入れることは禁じられており、外部に情報が漏れない会議をするときに使われる部屋だ。

 それほどまでに重要なことを彼女たちは認識していた。部屋の空気がピリつく中、楯無が声を上げる

 

「当主、お話とは何でしょう?」

「ああ、

 

女性権利団体が不穏な動きをしている」

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそおいでくださいました!!」

「分かっているな?私の言うことは絶対であることを」

「千冬姉に楯突く奴らは皆殺しだ!」

「ともに世界を変えましょう!」

「流石、私の弟と恋人だ。よくわかっている」

「あなた様方も来てくださり、我ら団体はさらなる思想を広げることができます!」

「お前らも私たちのために指定の日に動いてもらうぞ。いいな?」

「ええ、私はあの(下等生物)を血祭りにしてさしあげますわ」

「コロスコロスコロスコロス・・・」

 

 悪意がゆっくりと、しかし確実に蠢き出していた




 大変遅くなりましたが、これにて夏休み編完!
 3年近くかけてしまった・・・(主に資格勉強に社会人生活が原因)

 さて、次回からは2学期編ですね。
 物語も佳境・・・これ以上はやめときましょう

 それにしても、今回はいろんなネタを盛り込みましたわ
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