Inferior Stratos 作:ユキ (旧 rain time)
年末年始は頑張ろうと思います。いろいろと
第52話 学園祭、恥、悪
夏休み最終日の夜。計画がない学生が悲鳴をあげるであろう中、俺は売店で買った菓子や飲み物が入ったビニール袋を下げて静かな廊下を歩く。
思えば臨海学校の後もいろんなことがあった。
俺の出生を知ったこと、亡国企業の人たちを匿うことになったこと、血の繋がった妹ができたこと、そして鈴も形態変化ができるようになったこと。どれも俺にとってはとんでもない出来事だった。何よりも鈴も形態変化できるようになったのは自分のことのように嬉しかった。これで俺たち5人全員が形態変化できるようになったことで、風の噂では専用機持ちの先輩たちは若干プレッシャーを感じてるらしい。
ちなみに亡国企業から逃れてきたスコールさんとオータムさんに関してだが、IS学園の臨時教師として働くこととなった。なんでもIS学園から退職者があったため、その穴を防ぐ目的で働くこととなったらしい。教師がいなくなったことに多少の違和感はあるけども。
そしてマドカだが、なんと1組に編入することとなった。年齢が分からないとのことだから俺たちと同じ一年として、しかも俺と同じ一組に編入となった。織斑千冬と同じような見た目だから不安はあるけど、そこは俺たちでフォローしよう
そんな考えを巡らせていると、見慣れた番号のドアにたどり着く。俺は荷物の入ったビニール袋をうまく持ち替えてドアを開ける
「兄さん、戻った〜」
おう、と奥で返事が聞こえた。奥を覗くと、兄さんはパソコンの画面を睨みながらキーボードをたたきまくっている。
ダークウェブから情報を漁っているのだろう。だが、兄さんの表情は怪訝だ。大体こういうときは・・・
「パソコン睨みつけて、何か悪いニュースでもあった?」
「最近活動家がニュースになるなって、女尊男卑の奴らに然り、机上論しか語らん環境家に然り」
菓子をしまい、飲み物を冷蔵庫に入れる俺に対し、見向きもせずに兄さんはPCのキーボードを打つ
「でも、そんなこと今までもあったじゃん?そんな気にすること?」
「個人的にはそんなニュースが多いってことなんだよな。
「・・・つまりメディアが何か隠してるってことか?」
そんな気がする、と言って兄さんは先ほどと変わらずにキーボードを酷使する。最近のテレビやネットでは何かしらの活動家が問題を起こしたというようなニュースばかりなことは気になってた。そんなマヌケが増えただけか、それを取り上げる機会が増えただけなのか・・・
それとも裏で何かあるのか
「で、その裏を探してると」
「そういうことなんだが・・・その情報が全く出てないんだ。
話しながら高速でキーボードを打ち続ける。若干のイラつきから成果が何もないのだろう
「杞憂であるならそれでいいんだけどね」
「で、本音は?」
「このままだと深読みしすぎる痛いヤツと思われるのがイヤ」
「ぶっちゃけたなオイ」
姿勢を崩した前屈みになってキーボードを強く打っているあたり、ムキになり出している。こうなると時間を忘れて熱中するのが目に見える。明日が休みならほっとくが、明日は始業式だ。流石に止めさせよう
「明日始業式だし、準備でもしたら?流石に初日から居眠りはまずいだろ?」
「別に問題な・・・いや、ここはIS学園だったな。
兄さんは立ち上がり、部屋のシャワー場に入っていく。そんな姿を見送った後、一抹の不安がよぎる
もっと大きなことが起こるのではないか
全く情報が出ないように水面下で何か蠢いてるのではないか
「考えすぎ、だよな」
兄さんに感化されたのだろう。俺の単なる思い込みだ。
そう思いながら俺はベッドに横たわった
久々の教室は休み明け特有の空気だ。久方ぶりのクラスメイトと会話が弾む。どこ行ってたとか、宿題辛かったとかの話で盛り上がる。
HRでマドカの編入が発表された時、織斑千冬と同じような見た目だから多少のざわつきはあった。が、すぐにマスコットの立ち位置になり俺が恐れていたことは杞憂に終わった。
そして今、俺はというと、
窓ガラスが割れんばかりに盛り響く歓声。周りに迷惑をかけるレベルの教室の前で俺、兄さん、シャルロット、相川さんが輪となって拳を出し合う。俺含め全員が殺気を纏っており、互いを喰い殺すかのよう。二学期が始まったばかりの光景とは思えない
なぜこうなったか?理由は数十分前に遡る
夏休みの課題テストが終わり、ホームルームで学園祭の出し物の話し合いとなった。
『遠藤兄弟とワンデイクラブ』
『遠藤兄弟とツイスター』
『遠藤兄弟とポッキーゲーム』
これが今出ている案である。俺の目線に気づくと、兄さんは確認のためか俺に質問する
「一夏、どう思う?」
「却下だ」
『『えーーー!?』』
俺の即答にみんながブーイングする。いや、どう考えても却下だろ!?
「男子たちは我々の共有財産である!」
「我々に癒しを!」
「それを売りにしなきゃ勿体無い!!」
「俺は物じゃねぇ!!」
あまりの物言いに思わず声を荒げてしまった。それでもなおクラスメイト達は食い下がってくる。埒があかないことや兄さんの意見を聞きたいこともあり、目が合った時にアイコンタクトを送る
「自分も嫌だな。だって・・・
過労死するぞ、自分たちが」
そこかい!?これらの案はどう見てもホストだろ!?性的消費、って兄さんはそこの感覚が無かったんだった!!
「それに、これらの案だと自分と一夏だけでみんなは何もしないことになるけど、いいのか?楽しさ半減しない?」
「うっ・・・」
「それは、確かに・・・」
おお、なんか上手く噛み合ってる。これで擬似ホストは回避できた。流石兄さん
結局、皆で楽しもうとのことでこれまでの意見たちは却下となった。良かった
「で、振り出しになるけど何か案ある?」
「メイド喫茶は?」
するとマドカが手を挙げて案を出した。またしても炎がついたかのように盛り上がる
「いいじゃんメイド喫茶!」
「一回着てみたかったのよね!」
「マドカちゃん、ナイスアイデア!」
その後もあーだこーだと意見が飛び交い形になっていく。これだと俺らは執事服で動くことになりそうだ。それならまあ、許容だ。執事服はどこで買えるのかと思考をめぐらす。
だが、次の言葉で俺たちは地獄に突き落とされる
「兄さんたちもメイド服だよね?」
「「え゛っ゛?」」
ここで即否定をすれば良かったのだが、あまりの発言に俺たちは呆けてしまった。
その隙が命取りとなってしまったのだ
「マドカちゃん、それいい!!」
「女装メイド!確かに面白い!」
「女装でメイド、何も起こるはずもなく、ジュルリ」
やばいやばいやばい!!とんでもない方向に向かってる!!だったらツイスターとかポッキーの方がマシだ!!!
「待て待て!!それは聞いてないって!ナシナシ!!」
「いやいやいや、雪広君もメイド服に合うって!」
「男子しかできないよ、女装は!」
流石の兄さんも反論するも、女子たちの熱量と感情に流されてしまう。
俺たちの白熱の議論の結果、これ以上時間をかけられない事もあり、俺、一夏、シャルロット、相川さんの四人でじゃんけんをして負け残った奴に対応する人がメイド(女子なら執事)をすると言うことになった。その対応が
俺→俺
兄さん→兄さん
シャルロット→シャルロット含むクラスメイト全員
相川さん→俺と兄さん
の対応となった。相応のリスクを払え、と言うことで女子にもリスクを背負わせたものの、50%でメイドとなってしまう。
目標はシャルロットを負かすこと、次点で兄さんだけを犠牲にすること。
絶対に負けられない戦いがここにある
「それでは掛け声は僭越ながら、私鷹月静寐が務めさせていただきます」
まさかのしっかり者である鷹月さんがこのジャンケンを仕切ることとなった
俺たちは殺さんとばかりの殺気を放つ。普通なら耐えられないはずなのに、相川さんも負けじと勝つというオーラを押し付けてくる
「それではいきます!ジャン、ケン、ポン!!」
一夏 パー
雪宏 グー
シャル チョキ
相川 グー
『『おおーー!!!』』
最初はあいこ、これだけでも歓声が上がる。
マジで負けられねえ
「ジャン、ケン、ポン!!」
一夏 パー
雪宏 グー
シャル グー
相川 パー
「しゃぁぁぁ!!!!」
俺と相川さんが勝ち!ということはメイド服回避!!!よっしゃあぁぁぁ!!!!
思わず手を強くたたいてガッツポーズをあげる。やべえ、ドーパミンがドバドバだ
「ああ゛ー!何で勝つんだ私ー!!!」
「清香ナイスファイト!」
「まだよ!まだ希望はあるわ!!」
俺と相川さんが席に戻る。ルンルン気分で席に着くと、残った二人の殺気が強くなる
「今日だけは負けられねえんだわ」
「言っとくけど僕はクラスメイトたちの想いを背負ってるんでね」
「そんな邪念に自分が負けるかよ」
「女の執念、見せようじゃないか」
「いきます!ジャン、ケン、ポン!!」
晴天の空に花火の音が響く。学園祭当日。IS学園ということもあり、学園祭であろうと、基本は生徒が招待した人や政府関係者しかIS学園に入れない。一般参加枠もあるにはあるが、その倍率は千倍以上であり、とんでもない競争が起こる。また、仮にそのチケットが取れても、入場時に手荷物審査を行い、場合によっては入場させないようにしており、迷惑客が来ることを徹底的に潰している。
その中で一年生たちの出し物では2組が中華屋台、3組がゲームの生攻略、4組がコスプレ喫茶となっている。1組と4組は多少似ているが、客層が違うようで4組の方も繁盛している。
その中で鈴と簪は一夏とシャルロットに招待され1組の扉に来ていた
「今のところ問題ないわね」
「そうだね。お姉ちゃんからも連絡ないし」
「それにしても1組の出し物、メイド喫茶以外まっったく情報が出なかったわね」
「そうそう、唯一雪広が死んだ目をしていたことしか分からないんだよね」
普通のメイド・執事喫茶なのか、はたまた雪広が何か想像を超えることをするのか、そんな考えの中二人が1組の扉を開くと、
「おかえりなさいませ、お嬢様方」
ピシッと礼を決める執事服の一夏が二人を迎える。ただでさえ顔がいい一夏の執事の仕草に二人は思わず見惚れてしまう
「ハッ!だめだめ、私には雪広が!」
「いや、これは見惚れるわ」
「かっこいいだろ?結構練習したんだぜ?」
荘厳的な雰囲気から一転していつもの一夏に戻る。とはいえ、その格好からは高校生と思えないような紳士の空気がにじみ出ている
「二人もいいじゃないか。簪は仮面ライダーか」
「そう!ただのヒーローじゃない、ダークヒーローのコスだよ!」
「鈴はチャイナ服、もう犯罪だろ」
「ど、どこ見てんのよ馬鹿!」
そんなやり取りをして一夏は二人を席に着かせる。その席にシャルロットがグラスに水を高めから注ぎ、テーブルに用意する
「紅茶のように注ぐわね」
「こうすることでミネラルウォーターの口あたりが良くなるんだよ?」
「へぇ~、どこの情報?」
「今僕が考えた」
「デマじゃない!」
学園祭の空気もあってかいつも以上にツッコミが鋭くなる。そんな中、簪は1組の喫茶内を見回す
「で、雪広は?」
「そうよ、アイツどこにいるのよ?」
ずっと気になってたであろう簪が口を開く。鈴も雪広がいったい何をするのかが気になるようで仕方がないようだ。
二人の言葉に顔を見合わせた後ニマ~ッ、とにやける二人
「じゃあ雪広呼んでくるw」
「「?」」
何とも言えない反応に疑問が浮かぶ鈴と簪。待つこと数分、店の奥から
「「ブフォッw!!」」
鈴と簪が長身黒髪ロングのメイドを見て吹き出す。側から見ればメイクがバッチリと決まった長身スレンダーの女性に見えるだろう。そんな彼女の胸元にあるネームプレートは「ユキちゃん」と書かれている。
そう、雪宏だ
「「アーーーッハッハッハッハッハッハwww!!!!」」
想像の斜め上の姿に鈴と簪は椅子から崩れ落ちるほど爆笑した。鈴は床をバシバシ叩き、簪は腹を抑えてうずくまる
「ヒィ〜〜ッ、ヒッヒッヒッヒッwww」
「アハハッww!!お腹っ、お腹痛い〜www!!」
「死にてぇ」
「まあまあユキちゃん、似合ってるよブフッw」
「ほら笑って兄さん、いや姉さんww」
「ぶん殴っていいか?今なら暴力系ヒロインで許されるだろ」
「似合ってるよ!雪姉!」
「オ・メ・エ・の・せ・い・だ・ぞ」
みょーん、とマドカのほっぺをつねる雪宏。ジタバタとマドカはもがく光景ははたから見れば仲睦まじい姉妹に見える
実際は兄妹であるのだが
ひとしきりのやりとりの後、二人は腹を抑えながら席に着く
「さ~て、何か頼まないとねw」
「笑いすぎてお腹減ってないのよw」
「見物だけだったらチャージ代高くつけるぞ」
「それじゃあ、この『メイドにご褒美セット』で」
「言っておくが、自分にご褒美は指名できないからな」
雪広がくぎを刺すと二人は「え~!?」と落胆の声をあげる
「あんたメイドでしょ?ご褒美は受け取るものよ」
「そうだそうだ~!貢がせろ~!」
「一応理由はあるんだ。一つは自分が甘いものが好きではないこと。もう一つは・・・」
二つ目の理由を言うとき、雪広はかがんで二人にしか聞こえない声で話す
「
「・・・ああ~、なるほどね」
「それはしょうがないか。ならマドカちゃんにご褒美セットで」
「わーい♪」
でも雪広にも何かしてほしいな~、と簪がぼやく。するとシャルロットがピーンと何かを閃き、悪魔の言葉を紡いだ
「雪広を外に連れ出す権はどう?」
「おい待てシャルロットォォ!!」
とんでもない言葉に雪広がシャルロットの肩を掴む
「これ以上俺に痴態を晒せと!?」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「俺のSAN値が削れるんだよぉ!」
メイド服を着ているからか、雪広らしからぬ発言をする。雪広はシャルロットの肩をガックンガックン揺さぶるが、二人の視線に気づく
「雪広、いくら?」
「絶対に断る!」
「あたしはポケットマネーで
「私は
「やめろぉ!債務者な言い方!」
数十秒の押し問答が続き、埒が明かないということでそれぞれじゃんけんをすることになった。雪広も最初は違う方法でとごねはしたが、手っ取り早く決めれると言いくるめられ、腹をくくった。
雪広は恥の上塗りを避けるべく、鈴と簪は諸相メイドを連れ出すべく、気合を込めて叫ぶ
「「「ジャン、ケン、ポン!!」」」
結果、
2組の教室にて
「ほら雪広、桃饅咥えて。ハイチーズ♪」
「」
4組の教室では
「ポーズはこうで、はい、笑って~♪」
「」
見事に恥を重ねることとなった
「お次でお待ちの2名様。チケット確認します」
「出身はどちらで?・・・、はい・・・、はい・・・、ではこちらを通過してください」
「・・・はいOKです。ではIS学園の学園祭、楽しんでいってくださ〜い!」
入場ゲートを潜り抜ける二人。一人は貴族のような風潮を思わせる金髪美女、もう一人は規律を守る厳格そうな銀髪美少女。
「フン、これほどまでに意識が低いとはな。この学園には価値がない」
「ええ、男がいる時点でここには価値がありませんわ」
不穏な言葉を残し、彼女たちは人込みに紛れていった
2学期の始まりです。本当に遅くなりました
物語も佳境に近づいてますね