Inferior Stratos   作:ユキ (旧 rain time)

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第53話 祭の一幕

 雪宏が鈴と簪に連れられても1組の盛況は続いていた。女装メイドという唯一無二の存在が居なくとも、同じく唯一の執事である一夏や王子様系メイドのシャルロット、妹系のマドカがいることもあり人気を博していた。人の流れがひと段落し、シャルロットが休憩で外出したのち、二人の新米教師が喫茶店に足を踏み入れる

 

「うーす、来たぞー」

「おかえりなさい、オータム!スコールも!」

「あらあら、可愛いメイドさんね」

 

 ちょうど部屋前に待機していたマドカが対応する。マドカも知り合いが来たことでさらにテンションが高くなったようだ

 

「そうだ!もっと褒めてもいいんだぞ!」

「?可愛いと思うぞ?」

 

 フンスフンスと鼻息荒くするマドカにオータムは若干押され気味に答える。そこに一夏が水とメニューをもってフォローに入る

 

「お嬢様方、こちらが当店のメニューとなります」

「あら、一夏君も様になってるわね」

「ありがとうございます。当店はこちらのメニューが人気でして」

 

 一夏はメニュー表にある人気の品を指差す。それを見て二人はマドカの反応から何を注文してほしいか察した

 

「私は紅茶、オータムは?」

「俺はコーヒー。あと、マドカにご褒美セットデラックスで」

「かしこまり〜♫」

 

 注文をとっていたのは一夏だったがマドカが上機嫌に返事をする。全く、と3人は呆れつつも年相応のあどけない姿に笑みが溢れる

 

「あいつ、かなり丸くなったな」

「これまでは二人に対してもそっけなかったんですか?」

「いや~、なんだかんだで甘えてたわよ。でもあなた達といる方がより年相応な女の子って感じがするわ」

「俺としては少し複雑だけどな。俺が数年かけて距離縮めたのに・・・」

 

 口を尖らすオータムに、仕方ないじゃない、とスコールは返す。もっとも、オータムたちと出会った時のマドカは人間不信に近い状態であった。そこから信頼されるまでになったのはオータムの大きな功績であろう

 

 すると

 

「も、戻ったぞ・・・」

 

 満身創痍な雪広が喫茶店に戻ってきた。ジャンケンに負けたことで鈴と簪に長らく連れまわされ、精神的疲弊が目立っている。それでもウイッグはずれることなく、女性らしさが十分に残っている。そんな中で雪広は新米教師陣と目が合った

 

「げっ、スコールさんにオータムさん・・・」

「おま、雪広か?」

「あらあらあら」

 

 声を出したことでスコールたちは目の前のメイドが雪広と気づく。これ以上知人にメイドの格好を見られたくない雪広にとって、さらに痴態を晒したことに怯む。これまでの反応からこの二人にも笑われるだろうと雪広は思っていた。が、

 

「おいおいおい、俺より可愛いじゃねーか!」

「特殊メイクでもなく、普通の化粧で・・・悔しいほどに似合ってるわ」

「え、あ、ありがとうございます」

 

 まさかの好反応に雪広も普通のお礼しか思いつかなかった。しかし、先生二人の雪広への興味は止まらない

 

「お前マジでいいな・・・これヒットマンでもいけるんじゃないか?」

「私はスパイを勧めたいわ。どう?女装スパイで亡国企業に来ない?」

「絶対しませんよ!てか、あなたの企業もうないでしょ!!」

「新亡国企業作るときにスカウトするわ」

「すげーな兄さんw」

「おちょくってんのか!?」

 

 ギャーギャー騒いでいると、厨房からマドカが注文の品をトレイに載せてやってきた

 

「お待ちどうさまです。こちらがモグモグ紅茶と、コーヒーと、『メイドにご褒美セットデラックス』ですモグモグ」

「ありがと・・・何食べてるの?」

「マドカ?そのセット、なんか少なくないか?」

 

 スコールがいち早くマドカの口の動きに気づく。トレイの上には紅茶とコーヒー、そして『メイドにご褒美セットデラックス』のミニケーキセットがある。しかし、誰がどう見ても皿に対してのケーキの数が少なすぎる。実際、『メイドにご褒美セットデラックス』はミニケーキが8つあるのだが、マドカが持ってきたものには4つしかない

 いつもより少ないケーキ、そしてマドカの口の動き。それから導き出される結論はただ一つ

 

「いや、何フライングでメイドにご褒美セットデラックス(それ)食ってるんだよ!!」

「ちょっと我慢できなくてムグムグ」

「せめてオレに食べさせろよ!!メイドがつまみ食いセットになってるじゃねーか!!」

 

 教師の仮面が剥がれ、完全に素となったオータムがキレッキレのツッコミをみせる。

 

「まあまあ、オータムさん落ち着いて」

「そうそう落ち着いてオータム。老けるよ。パクリ」

「はったおすぞテメエ!?ってか、まだつまみ食いするか!?」

「私もメイドにご褒美セットデラックス注文しようかしら、雪広君に」

「私には非対応ですので」

「じゃあ女装ヒットマンしない?」

「なんでじゃあの次がそれなんですか!?」

 

 目の前でケーキをつまんで口に運ぶマドカにツッコミしまくるオータム。隣ではスコールが雪広を違う意味で口説いている。収集つかなくなりつつある光景に一夏は考えるのをやめた。こういう時シャルロットが居ればある程度は収まるが悲しいかな、彼女はちょうど休憩で不在だった。

 彼女が戻るまでそんなカオスな卓が発生したままだった

 

 

 

 

 生徒以上に大きく騒いでいたスコール達も見回りのために席を立つ。行列もはけ、空席が目立つようになってきたとき、1組のではないメイド服を着た見慣れた人が来る

 

「来たわよ、さあ私を持て成しなさい!」

「一名様お帰りです」

「ありがとうございました〜、ってなるか!」

「すみません。ああ、あそこのテーブルのオーダーお願いします」

「はーい、ってなんでよ!?」

 

 大阪の漫才のような流れるツッコミを楯無はかわす。思った以上にノリツッコミができるようだ

 

「そんな分析いらないわよ!?」

「?誰に対して言ってます?」

 

 次元の壁を破ったツッコミに疑問を持ちつつも、一夏は内線で楯無が来たことを連絡する。すると、奥からシャルロットと雪広がそれぞれコップとメニュー表持ってきた

 

「こちらお水です」

「・・・メニューはこちらになります」

 

 片や王子様メイドで片や女装メイド。表情や仕草も対極であり、凛とした態度なシャルロットに対して、マジで嫌そうな態度の雪広。メイド服を楯無には特に見られたくなかったのだろう、顔が死んでいる。

 案の定、楯無は雪広にクッソ憎たらしい笑みを浮かべる

 

「プッww」

 

 パァン!

 

 目にもとまらぬ平手打ちが楯無の右頬をとらえる。あまりの速さにひっぱたかれた楯無を除き、誰も何が起こったか分からなかったようだ

 

「痛あっ!?待って、今ビンタした!?ビンタしたわよね!!?」

「あまりにもムカつく顔でしたので」

「お父様にも殴られた事ないのに!」

「まあまあ楯無さん、この際左頬もどうです?」

「いやよ!今の結構痛かったのよ!?」

 

 雪広の脳揺さぶるビンタとシャルロットの無茶苦茶なフォローで若干楯無は混乱気味だ。一夏含め回りも情報量の多い光景に理解が追い付いていない。いち早く立ち直った一夏がビンタはメイドのオプション(?)ということで楯無さんを納得させ落ち着きを取り戻させる

 

「まったくもう・・・ところでマドカちゃんは?」

「休憩中で外回ってます」

「そっか・・・なら後で伝えておいて」

 

 んんっと咳払いをする。その行動で3人は先頬の態度を改め、表情を整える

 

「私が来たのは、まあ連絡事項も兼ねてね」

 

 『安全問題無。』と書かれた扇子が開かれる。その文字は()()()()()()()()()()()()()()()()であることが確認できる

 

「とはいっても、今のところは問題ないわ。安心して頂戴な」

 

 さっきの扇子が閉じた後、再度開くと「心配無用」と文字のふちが()()()書かれていた。いったいどんな構造なんだろうか?と三人は疑問に思いつつも、分かりましたと三人で答える。流れるように楯無は言葉を続ける

 

「それじゃあ、事前に言った通り寸劇できる?」

「はい。問題なく」

「俺も大丈夫です」

「僕も言われたとおりに」

 

 学園祭が始まる前に、生徒会の出し物として楯無は専用機持ちに寸劇をお願いしており、それの確認も兼ねてここに来ていた。彼らも問題がないことを了承する。

 頼むわね、と真面目な雰囲気で楯無は話す。が、次の瞬間そんな雰囲気が消え、まじめな話はこれで終わりと言わんような再びクッソ憎たらしい笑みを雪広に浮かべる

 

「で、雪広ちゃんのツーショットは?」

「ジャンケンで楯無さんが勝ったらやりましょうか」

「・・・ちなみに負けたら?」

「負けるごとにビンタ」

「せめて罰金にしてよ!?」

 

 楯無はお嬢様だから罰金では痛くもかゆくもない、そのため雪広はビンタを罰ゲームにしたのだろう。一応はオプションと一夏が言っているので、決して憂さ晴らしではない。

 しかし楯無は余裕を崩さない。雪広は2学期最初から今日までで4戦全敗という悲惨な結果だ。それを知っているようで、楯無は鼻を鳴らす

 

「いいわよ!勝つまでやってやろうじゃない!」

「つまり負け続ければビンタされ続けると」

「ええ、女に二言は無いわ。ま、私が華麗に勝つんだけどね♪」

「・・・なんだろう、ものすっごいフラグが立った気がする」

 

 一夏が誰にも聞こえないほどの声でポツリと漏らす。

 その後、シャルロットがジャンケンの掛け声を仕切る

 

「それじゃあ、掛け声は僕が・・・いきます!ジャンケン、ポン!!」

 

 

 結果、

 

「はい、チーズ」

「ひーふ(チーズ)」

 

 楯無の両頬が膨れ上がる結果となった

 

 

 

 

 三時を少し過ぎ、一般客が各組の教室から部活動の展示室へと流れ始めた頃、俺たちは体育館の裏に来ていた。生徒会、もとい楯無さんが作った寸劇にメインとして参加することになったのだ

 

「とはいっても、基本アドリブでいいと言われてたよな」

「そうだな。()()()()()()()()()()()、この王冠を取られないことって言ってたな」

 

 楯無さんからは灰被り姫、つまりシンデレラのアレンジをやると聞かされている。ただ、詳しい内容は教えてもらえず、非常時以外は王冠を取られないこととしか聞かれていない。つまり、アドリブで寸劇兼ゲームをやるということだろう。それをお客さんが生で見て楽しむ、というのが表の目的か

 

「それにしても、兄さん気合い入ってるな」

「メイドじゃないことがどれほど素晴らしいかを肌で感じてる」

 

 今、俺たちは王子様の服に着替えている。奇異と嘲笑で見られ続けていた兄さんにとってはこの服装でも嬉しいのだろう。若干泣いてるようにも見える。そんなに視線がきつかったのか、メイド服は。とはいえ、この服かなり肌触りがいい。装飾品を除けばいい寝間着になりそうだ

 そんなこんな話をしていると定刻となった

 

「じゃあ、行くか」

「ああ」

 

 俺たちは舞台の上に上がる。足元の僅かな灯りを頼りに指定の位置に立ち、しばらくするとブザーと共にセットの幕が上がる

 

『むかしむかし、あるところにシンデレラという少女がいました』

『否! それはもう名前ではない。幾多の舞踏会を潜り抜け、群がる敵兵を薙ぎ倒し、灰燼を纏う事さえ厭わぬ地上最強の兵士達。彼女らを呼ぶに相応しい称号…………それが『灰被り姫(シンデレラ)』!』

 

 パッ、と俺たち二人に淡いスポットライトが当たる

 

『今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。2人の王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!!』

 

『なるほど、それなら王冠(コレ)を取られるなって意味がわかるな』

『結構凝ってるな、設定』

 

 楯無さんのナレーションが言い終わると同時に俺たちはプライベートチャネルで意見を交換する。それと共に、何があってもいいように身構える。周りだけでなく上にも視線を向けて全方位に意識を向ける。が、それと同時に照明が一斉に輝く。

 

「うっ!?」

「眩しっ!?」

 

 特に上を警戒していたことで、照明の光が目に直撃してしまう。ルクスの急激な変化に対応しきれず、俺たちは体が硬直してしまった

 そこに襲いかかる人影が二つ

 

「「そこだぁぁっ!!」」

 

 白地に銀の装飾が施されたシンデレラ・ドレスを纏った簪とシャルロットが城の舞台セットの2階から飛び降りて来て、手に持った競技用薙刀と片手剣に近い竹刀で二人に斬りかかってきた

 

「うおっ!?」

「おっとぉっ!?」

 

 直撃を避けるべく、俺たちは強めのバックステップでその場を離れる。二人の声を頼りに着地点を予測して、俺たちは初撃を回避した。が、

 

ズガガガガッ‼︎

 

 ハンドガンによる速射の追撃が襲いかかる。大きく回避したことが仇となり、大きなサイドステップで躱さざるをえなかった。これによって俺たちはそれぞれの物陰に隠れるしかなく、分断されてしまった

 それにしても、ここからどうすべきか、足元にはいい感じの鉄パイプが転がっている。これで対抗するしかないのか

 

「一夏」

 

 突然俺を呼ぶ声にばっ、と後ろを振り向く。そこには簪達と同じドレスを纏った鈴が静かにのジェスチャーで座っていた

 

「鈴!」

「シッ!声落として」

 

 綺麗な姿の鈴に思わずテンションが上がってしまったことを反省しつつ、小声で鈴と物陰で言葉を交わす

 

「ナレーションや簪達の行動から、狙いは王冠(コレ)だよな?」

「そうね。あたしも欲しいっちゃ欲しいけど」

「ちなみにコレを貰えた報酬って?」

「楯無さんが叶えられる範囲での願い一つよ。予算とか倫理的にダメなもの以外ならなんでも」

 

 それなら簪やシャルロットが襲いかかるのがわかる。ちらりと物陰から外を見ると、兄さんが鉄パイプ持って二人と対峙しているのが見て取れる。

それなら好都合。俺の王冠は誰に渡すか一目瞭然だ

 

「鈴、あげるよ」

「え!?いいの?」

「そりゃあ、鈴だからな」

 

 好きな子に渡す以外の選択肢はありえん。躊躇なく王冠を取ろうとして、

 

「待って!」

 

 鈴の一喝で王冠を外そうとした手を止める

 

「一応確認させて。楯無さんが王冠外したら罰ゲームで電撃ってウワサを聞いたから」

「は!?物騒すぎないか!?」

 

 いくら何でもそんなことしないだろう。この劇は()()()()も兼ねてるのだから

 鈴は俺の体、もとい服をペタペタとくまなく触る。服に仕込みがないかを確認しているのだろう

 

「ん、問題無しね。王冠取っても大丈夫よ」

「OK」

 

 王冠を手にかけ、頭から外す。電流は・・・流れない。ホッとしたその時

 

『おっとー!一人の王冠が離れたぞー!その重要な情報が外部にわたる前に取り戻せるのかー!?』

 

 電流に替わって、何とも熱血的な実況が流れる。確かに王冠を失うと何かすることはしているが、想定外の熱血実況に俺たちは思わず吹き出してしまう

 

「想像の斜め上をいったな」

「ふふっ、そうね」

「それじゃ改めて、はい」

 

 手にした王冠を鈴に渡す

 

「今更だけど、ここは安全だよな?」

「うん、もともとあたしは見張り。二人のうちどっちかが来たら二人で見張りって指示だから。特に上を確認よ」

 

 そういって観客席の上側を見る。今のところ目立った形跡はない

 

「向こうは楯無さんが対応しているし、こっちはこっちで頑張らないとな」

「そうね。あとは・・・」

 

 鈴が見る方に目をやると、兄さんと簪・シャルロットコンビが大乱闘を繰り広げていた

 

「あいつらが夢中になりすぎないように見張ることね」

「いやいや、流石に動けなくなるほどの事はしないだろ」

 

 ・・・しないよな?

 

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