Inferior Stratos   作:ユキ (旧 rain time)

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第54話 revengers

 

 生徒会の寸劇が始まる少し前、スコールとオータムは校門前に位置していた。彼女たちは今回の学校祭で不審者などが入らないかのチェックを抜き打ちで行っている。校門前では一般入場に当たって学園祭委員会の生徒が行ってはいるものの、それだけでは不十分ということで彼女たちや他の教師が見張りに入っている

 

「この時間となると入場も少なくなってきましたね」

「そうね、紛れ込む輩も見つけやすくて助かるわ」

 

 最初こそ来訪者が多く、全てを見張るのが困難なほどだったものの、現在は人がまばらとなっている

 

「ただ、想定以上に()()()は多かったですね」

「そうね。でも彼らまで取り締まっていたらキリがないわ」

 

 彼女たちの言う「スパイ」、それは産業スパイを指している。IS学園の学校祭ではISを使ったイベントもあることから、その技術を盗むために産業スパイとしての潜入者が割とあった。

 しかし、産業スパイは捕まえることは難しい。下手をしたら誤認逮捕だと騒がれてしまい、IS学園にとって不利な状況に陥ってしまう。何より、今回はそのスパイの炙り出しではない

 

「まあ、一旦その話は置いとくとして・・・貴方のその変装と口調、いつ見ても痒くなるわ」

「どう言う意味ですかオイ」

 

 格好こそ1組にいた時と変わらないが、表情を作り、礼儀正しいOL感が出ている。彼女の素を知っている人からしたら違和感甚だしいことこの上ない

 

「素の貴方を知ってるから他所行きモードがすっごく違和感なのよ」

「外部ではいつも『巻紙礼子』スタイルなんですよ」

 

 上品に髪をなびかせてオータムは答える。巻紙礼子はオータムが潜入捜査などでよく用いていた偽名だ。適当に辞書を引っ張って決めた名前だが名前の響きや言いやすさから、オータム本人が一番気に入っている偽名なのだ

 

「あの・・・ここに行きたいのですが、どちらに行けばいいのでしょう?」

 

 そんな中で、客としてきたであろう中学生くらいの少女がオータムに話しかける。オータムは即座に対応する

 

「この展示会はですね、あちらに見える奥の方の建物の3階になります」

「あ、ありがとうございます」

「では、楽しんでくださいね」

 

 愛想の良い笑顔で少女を見送るオータム

 

「うん、めっちゃ違和感。痒くなるくらい」

「なんでだよ!」

 

 手厳しい言葉に思わず素が出るも、んんっ、と咳払いして仮面を取り付けなおす。そんな雑談を交えつつも二人は学園の門に入る人波を見張り続ける。その中でやや大きめの手提げ鞄を持った女性が二人の前を横切る

 瞬間、二人の会話が止まる

 

「・・・スコール」

「ええ、あの女怪しいわ」

 

 頭は動いてないが周りを見まわし続けている目線、学園祭なのに目的地にしか興味ないような挙動、そして・・・何かをしようとする雰囲気。

 テロ組織にいた二人だから確信する。この人間は黒だと。だが、スコールはその女の顔に違和感を抱いた

 

「それだけじゃねえ。奴の鞄から臭いがする」

「!なら早急に対処するわ」

 

 スッと二人は持ち場を離れ、先の女に一直線で近づく。手荷物検査にたどり着く前にスコールがその肩を掴むと、過剰にビクリと反応した

 

「すみませんお客様、大変申し訳ないのですがそのお手荷物をここで確認できないでしょうか?」

「な、なんで・・・っ!?」

 

 反論を振りかざしてその手を振り解こうとするが、その肩が動かない。スコールの握力が不審者の行動を制限した

 

「単刀直入に聞きますね。その中、何が入ってますか?」

 

 スコールがプレッシャーをかけて女に問う。それに気押されたのか、それとも別の要因なのかやたらと手提げの鞄を気にしだす。何度スコールに問われても質問に答えない

 埒が開かないと踏んだスコールは強硬手段に出る

 

「・・・鞄の中を確認します。拒否権はありません」

「クッ!」

 

 手を伸ばして中を確認しようとした時、女は鞄を放り捨てて逃げ出した

 

「オータム!」

「任せろ!」

 

 逃げる相手に対してガゼルの如くオータムは追いかける。そしてスコールは即座に中を確認する

 

(やはりか!)

 

 スコールの鼻が示したように絵に描いたようなプラスチック爆弾が顔をのぞかせる。律儀にもカウントダウンタイマーまで表記されており、猶予はもう無い

 

(解除は絶対間に合わない。私が盾に?いや、私だけで全方位は庇い切れない。なら!)

 

 瞬時に判断したスコールは自身のIS、ゴールデン・ドーンを展開し、瞬間加速で上空に向かう。数刻で高層ビルより高く上がるが、タイマーは3秒を切っていた

 

「そぉれっ!!」

 

 上昇しながらハンマー投げのように一回転し、さらに上へと放り投げる。自身のSEを具現化して衝撃に備えた瞬間にタイマーが0となる

 

 ズドン!という爆音。それに続くように爆風と衝撃。上から叩きつけるように襲いかかるが、SEを二重に張ったこともありダメージは貫通しなかった。とはいえ、校門で爆破でもしたら多くの人が被害を被るほどの威力だった

 

(あの威力だと自爆テロ?いや、そんな度胸あるように見えなかったってことは、おそらくアレね)

 

 考えを巡らせつつも、ひとまずの脅威が去ったことに安堵して地上に急加速で降りる。地上に降りると周りがざわつく中、オータムが不審者を捕らえていた

 

「痛いんだよ!離せ!」

「暴れるから痛えんだよ、動くんじゃねえ」

 

 強くもがき続ける女の右手首を背中に乗るようにして押さえつけ、抵抗できないようにオータムは押さえ込む。オータムの左手には見慣れないISのコアが収められていた

 

「くそっ!なんでISが起動しないの!?」

「展開しようと無駄だ。テメェのISは剥がさせてもらった」

 

 剥離剤(リムーバー)、ISを強制解除させてコアのみの状態にする装置であり、オータムが敵のISを奪取するときに用いていた物だ。亡国企業にいた時は20cmと携帯するには大きすぎて大変であったり、剥離されたISコアは元の操縦者が遠隔で操作できるようになったりと欠点が多い物だったが、篠ノ之束が改良したことで欠点を全て解消し、大きさも10cmまでに小型化することに成功。相手に気づかれることなくISを強制解除できる、ISテロ対策に必須のものとなった

 スコールがISを解除してオータムに近づく。それに気づいたオータムは目線をそのままにスコールにも意識を向ける

 

「おうスコール、無事だったか?」

「ええ、被害はゼロよ。それにしてもやっぱりIS持っていたのね」

「ああ、それによる絶対防御での擬似自爆特攻、最悪の自爆テロされるとこだったわ」

 

 小型爆弾程度ではISの絶対防御は破れない。それを使っての擬似自爆特攻はISが普及し始めた時の紛争地でよくある光景だった。だからこそスコールが即座に対応できたのだ。

 

「まさか、このIS学園でそれをやる輩が出るとはね」

「タダで済むと思うなよ?知ってること、全てゲロってもらうからな」

「フフフッ・・・」

「なんだ、何がおかしい?」

 

 スコール達の威圧に怯むどころか、不遜な態度に成りゆく女に彼女たちは警戒心を高める。女が口を開いたと同時にスコールは女に抱いていた違和感の正体を知覚した

 

「そうだ!思い出したか?スコール・ミューゼル」

「ええ、思い出したわ。過激派のあなたがこんなところにいるなんてね」

 

 その言葉にオータムはハッとする。亡国企業過激派にいた集団の一人に同じ顔がいた記憶が蘇った。その連中への怒りからかオータムの押さえつける力がより強まる

 

「で、聞くけどなんでテロをしようと?」

「何って、新たな世界を作る礎を築いているのよ」

「何いってんだこいつ、薬でラリったか?」

「ハッ、この崇高な考えを理解できないからアンタらは壊滅したのよ!一人残らず駆逐した時は爽快だったわ!!」

「!テメエっ!!」

 

 ガァンッ!!

 

 オータムが関節を破壊する前にスコールが女の顔にサッカーボールキックを叩き込む。この一撃で醜い声を封じ込んだ。先の侮辱はオータム以上にスコールの琴線に大きく抵触した。

 いつもは冷静であるはずのスコールが衝動的に行動をしたことにオータムは怒り以上に驚きあっけに取られていた

 

「ごめんなさい、耐えられなかったわ」

「あ、いや、スコールがやってなきゃ俺が黙らしてたわ」

「それにしても、想像しうる最悪の奴らが来たってことね」

 

 無策でこのようなことをするような女尊男卑の馬鹿ではないことは二人が良くわかっている。その上でIS学園に亡国企業の過激派がテロを起こす。この女は明らかな誘導に違いない。

 そして過激派の狙いははっきりしている

 

「中に二人ほど入れたが、アイツらがうまくやるはずだ」

「そうね、彼女たちを信じましょう。まずはコイツとおはなししないと、ね」

 

 伸びている女の首根っこを掴んで、二人はISの校門から離れていった

 

 

 

 

 

 男が憎い。

 ISに乗れない劣等種。威張ることでしか権威を示せない無能共。私の足元にも及ばない雑種のゴミ同然の生物。

 そんな中で出てきたISに乗れる劣等種が現れました。一人はあの世界最強の弟だったが、残りは私の足元にも及ばない極東の猿共。こんな輩に負けることなどありえない。そのはずでした。

 

 男に負けた。それもこれまでにないISの変化をさせて。

 見たこともないような進化をさせた奴は私を殺さんとする勢いで対峙しました。この時だけ、他の男とは違う強さに惹かれそうになってしまいましたわ。そして、私はあろうことか非礼を詫びようとしてしまったのです。実際、私は試合の後奴に頭を下げたのです。このエリートである私が。

 

 それなのに

 

 奴はそれを拒んだ。こちらの話も聞かずに。こちらの事を知ることなく拒絶してきたのです。そして私はクラスでの発言が問題となって代表候補をはく奪されてしまった。

 イギリスでは品位を欠くような女尊男卑の行為は禁止されているが、周りは普通にオス共を見下しています。特にアジアの猿共は差別して当然の下等生物なのだから皆が見下して当然の事。それなのに私だけ代表候補生をはく奪され、実家の立て直しも行き詰ってしまいました。

 そして代表候補生をはく奪されて数か月後、とうとう私は家を失ってしまいました。母が守ってきた家を。そこらの小汚い成金貴族に奪われてしまったのです。絶望の中追い出され、いつしかスラムに流れ着きました。本当にすべてを失ってしまったのです。

ですが一つだけ、たった一つだけ得たものがあります。

 

「・・・復讐ですわ」

 

 あの男のせいで私の人生は壊された。あのゴミさえいなければ私は今頃エリート街道を進んでいたのに。奴のせいで、奴のせいで。憎い。憎い。土下座させたい。殺したい。この手で殺したい。大勢の前で処刑したい。この手で首を締めあげたい。頭を壊したい。

 その思いでスラムでも必死に生きようと決意した時でした。女神が現れたのです

 

「セシリア・オルコット。力を貸せ。そうすればお前が求める復讐も果たせる」

 

 あの織斑千冬が私に手を差し出したのです。これは夢と思ったのですが、その手を掴んだ時、これは夢ではないと、そして神様は私にチャンスをくれたのだと理解しましたわ。

 聞けばブリュンヒルデはこの世界が腐っているということでとある組織と手を組んでいるとのこと。そして、目標が女のための世界を作るとのこと。それは私が求めている理想の世界。断る選択肢はなくブリュンヒルデについていきました。

 そこから血のにじむ訓練を行い、潜入任務も行いましたわ。すべてはこの世界を正すため。理想の女尊男卑の世界を創るため。あの男を葬るため。

 そして今、それが叶おうとしている

 

(本当はこの手で首を絞めてやりたいのですが、仕方ありませんわ)

 

 今回に任務は男性IS操縦者共の殺害、ないしは重傷を負わせること。私のミッションは人生を壊した男の眉間に穴をあけることですわ。

 今回の学園祭では何かしらの寸劇をする、そこで男性IS操縦者が舞台上に参加すると情報を密告者から得ています。平和ボケしてる無能たちが慌てふためく姿を見納めできるように入念な準備をし、狙撃ポイントまで問題なく侵入できましたわ。特に今回の場所は人が来る気配が全くなく狙撃してくれと言わんばかりのような好条件の場所でしたわ。

 

(さあ、私に歯向かったことを後悔して死になさい)

 

 格納していたライフルを構え射線上に来るのをじっと待つ。遠藤一夏の姿も見えるが、今回の本命はその兄。当人はのんきに舞台上で他の代表候補生と戦闘をして動き回って狙いづらいが、その分狙撃の射線上に入りやすい。じっと待って、高ぶる感情を抑えて、待って、抑えて、待って・・・

 ターゲットの頭が射線上に入りましたわ!

 

(死になさい!!)

 

 

 

 

 

 奴らが憎い。

 あの日、私は奴を始末できなかった。あろうことか私のISが暴走を起こし、助けられる羽目になった。

 ドイツに引き渡された後は悲惨そのものだった。上官から罵詈雑言に暴力の雨にさらされ、全ての責任を押し付けられて部隊は解散。部下も誰一人擁護せず、私は大罪人として戦犯刑務所に収容された。世間では解体されたと言われていたが、実際は別の場所に移送しただけであり、この身を持って存在していることを知った。

 そこからは文字通りの地獄。手足は拘束され、満足な食事もなければ衛生面も劣悪。たまに扉が開いた時は男たちに穢される。軍で経験した拷問訓練とは比べ物にならないほどに尊厳を破壊された。

 もう生きる意味などない。そんな希望が消えかけたときだった

 

(・・・外が、騒がしい・・・)

 

 その日はぼんやりとした意識の中だったが、外の騒がしい音がした。言い争いだけでなく、発砲音、それと何かが潰されるような音。そして機械の駆動音が近づいてくる。その音が振動となって伝わるほどに近づいて・・・私のいる扉の前で止まる

 

 バキバキバキッ!!

 

 直後、扉が引きはがされ、3体のISが入ってきた。そのISたちは見覚えがない上にバイザーで誰が乗っているいるか分からなかった。

 ああ、これらに処刑されるのだろう。やっと楽になれる。

 

「わ、わたしを・・・ころしてくれ・・・」

 

 その時の私はか細い声を絞り出した。これでろくでもなかった人生を終わらせられる。そう思っていた。

 だが、私の運は尽きていなかったのだ。

 

「何言ってんだてめえ、死なれちゃ困るんだよ」

「そうだ、私たちのために働いてもらうぞ」

 

 ・・・どこかで聞いたことのある男女の声。それがどこだったか記憶が混濁していた。だが、次の男の言葉で意識を覚醒させる

 

「俺はテメエがくたばっても構わねえけどよお、千冬姉に感謝しろよな」

「・・・え?」

 

 千冬、敬愛する教官の名前。何故この男がその名前を?

 意識が覚醒したが混乱している中、リーダーらしき操縦者のバイザーが開く。その姿は

 

「あ、ああああっ、きょ、教官・・・!」

「ボーデヴィッヒ、貴様にもう一度だけチャンスをやる。私の野望のために力を貸せ」

 

 この時私は、神様はいると自覚した。体は衰弱していたが、興奮によるアドレナリンからか力を振り絞って跪き、教官の手を取った

 

「教官、この命に代えてもお供仕ります・・・!」

 

 この後は教官の理想の世界を創るために死に物狂いで任務を行った。除籍した軍の経験もあり、教官含む幹部の直属部隊として貢献した。

 そして、今回革命の礎としてIS学園にいる男性IS操縦者を殺害するミッションが課せられた。本来なら教官に歯向かった男を葬りたかったが、それは女尊男卑に妄信する奴に任せることとなった。私は学園生しか使わない廊下を探索しながら、ターゲットの遠藤一夏の殺害を図る。

 

(それにしても、やはりこの学園は無能だ。これほど侵入しやすく、対策も立てられていないとは)

 

 一時期は代表候補としてこの学園にいたが、この学園は平和ボケが甚だしい。今回はそれが私にとって追い風ではあるが、それ以上に腹立たしさも感じる

 

(!)

 

 T字の廊下の奥から人の気配、それと足音が聞こえる。すぐに近くの物陰に潜んでその人間を観察する。この目がとらえた人間は・・・

 

(どうやら私はついているようだ。のこのことターゲットが来るとは)

 

 遠藤一夏がこちらに向かってきている。しかも進行方向的にT字をまっすぐに向かうようで、私の方向への注意は向けられていない。奴が通り過ぎたときに速攻で片づける

 そして奴が私の前を通り過ぎたとき、物陰から勢いよく飛び出す。やや長めのサバイバルナイフで奴の首を断ち切る!

 

「・・・!」

 

 奴が物音でこちらを向いたがもう遅い。すでに間合いはない

 

「死ね」

 

 横薙ぎの一撃。これはターゲットの首を完全にとらえた。

 

 そしてその頭は胴体から離れるのをこの目で見た

 

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