Inferior Stratos 作:ユキ (旧 rain time)
学園祭前、楯無さんからの呼び出しで自分たち専用機持ちは生徒会室に招集される。わざわざ放送でアナウンスしたということは、いつもみたいに馬鹿なことでの呼出ではないことが分かる。
「皆、集まってもらってありがとう」
実際に楯無さんが定型文であいさつをする。やはり真面目な話なのだろうと、自分含め専用機持ちが気を引き締める
「何かあったんですね?」
自分の問いに楯無さんは表情を崩さず、とんでもないことを言う
「このIS学園の学園祭で女性権利団体がテロを起こすと思われるわ」
『・・・は?』
思わず思考が止まりかけるが、何とか引き留める。考えられる最悪の状況を、と言うよりほぼ最悪な状況であるのではなかろうか?
「い、いやいやいや!冷静に話すことじゃないですよね!?」
「国際問題どころの話じゃないですよ!」
自分の言いたいことを鈴とシャルロットが代弁する。話の内容と裏腹に楯無さんはいつものように飄々としているのだ。まるでテロが起きることを知っているかのように
「更識家の技術の賜物よ♪」
「凄いでしょ?」と開かれた扇子に書かれている。もうそれにはツッコまない。って、更識家でということだと、簪は知っていたのか?皆の注目に応えるように簪は小さく頷いた
「ごめんね、極秘の情報だったから外部に流せなかったの」
やや申し訳なさそうな表情で語る。簪も更識家として秘密を守ったのだろう。
だが、それを自分たちに公表した。つまりは、ただのテロってわけではない可能性が高い。
その予感は楯無さんの言葉で的中する
「今回奴らの目的はIS学園での破壊、そして男性IS操縦者の排除、つまり雪広君と一夏君を殺害すること」
「私たち更識家の問題ではなくなってしまったの」
・・・もともと女尊男卑の連中がほざいているのを知ってはいたが、まさか本当に実行に移すなんてな。事実は小説よりも奇なり、とはこのことか
「すぐに対策考えないと!」
「だ、だったら学園祭の警備を強化しましょ!」
「いっそのこと中止とかどうです?」
一夏の発言に意見を述べる鈴とシャルロット。だが、簪がそれを遮る
「実はね、今回は敢えてテロリストを入れようと考えてる」
『はあ!?』
とんでもない発言に自分含めて思わず素っ頓狂な声を出してしまう。簪の言葉を捕捉するように楯無さんが説明を続ける
「たとえ今回テロを回避したとしても、奴らはまた攻めてくることが想定されるの。だったら、そいつらを捕まえて情報を吐いてもらえばいいんじゃないかって考えてるの」
「もしくはそいつらに発信機を付けてわざと逃がして本拠地を炙りだすってことも考えてる」
情報をただ得ていただけでなく、対策案もすでに考えていたらしい。
「で、お願いなんだけど・・・雪広君と一夏君は囮になってほしいの。奴らを引き付けるために」
その中での依頼がそれだった。楯無さんの意図はなんとなく伝わる。隠れているよりもあえて堂々と人前にいれば奴らをおびき寄せやすいということだろう。一夏と目配せして確認を取る。一夏も肯定のようだ
「やりましょう、その大役」
「奴らを誘い出してやりますよ。兄さんと共に」
そこからはテロ対策の作戦会議となった。先輩方や先生たちのテロ対策の担当だけでなく、当日何人紛れ込んだか伝わるように作戦を練る。チャネルでの共有も考えたが、ジャミング等の妨害も考えられたため、楯無さんの扇子の文字で情報共有することに決定した。赤が主犯格、黄色が要注意人物、文字数で人数といった具合だ。
そして話は自分たちの担当となった男性IS操縦者を抹殺する狙撃主の炙り出しに移る
「作戦は、学園祭の出し物で舞台をやるの。そこで演劇を装ってほしいんだ」
「それぞれ狙撃しやすいポイントを3か所ほどわざと作っておくの。そして一夏君か雪広君のどちらかがいいタイミングで狙撃されやすいポイントに立ってもらうの」
簪と楯無さんから説明される囮作戦。それで炙り出しをするのは分かったが、これではあまりに無防備すぎではないのか?そんな疑問に楯無さんは説明をつづけた。
「この作戦で重要なのは、あなた達よ」
そういって楯無さんは女子組を指したのだった
鈴と共にISのヘッドギアだけ展開、狙撃ポイントを注視する。ありとあらゆるところを一目で見れることで狙撃手がいないかを確認する。相手に気づかれないように
「!」
その中で、目星をつけていた箇所の一つである2番に光が変に反射したのが見えた。鈴にも連携して注視をする
(鈴、そうだよな?)
(間違いないわ!)
ダブルチェックで間違いないことを確認する。そして俺はプライベートチャネルで繋がっている全員に叫んだ
(2だ!!)
それと同時、近くの簪が斜めにジャンプをする。傍から見ればいきなり明後日の方向に飛んだのだから奇異な行動と思うだろう。
直後、
パン!
乾いた音。そして、
「ぐがっ!!」
後ろから押されたように、簪は倒れこむ。
発砲音に演者の撃たれたような動き。動かない簪。一瞬の静寂。コレも演出なのか、事件なのか観客がざわつく中
『キャーーー!!!』
最前列で悲鳴が轟く。簪から流れる赤い液体が演出でないことが視覚で捉えてしまったのだ。そして、その恐怖は連鎖する。
観客の皆はまさかの事態に悲鳴を上げ、出口に向かって押し合う。以前にも未確認ISが来たことがあり、緊急時の対策は生徒たちには徹底していた。が、今回は一般来場者もいたことで混乱が巻き起こってしまう。
「皆さん落ち着いて!押し合ってはいけません!」
「みんな~、ゆーっくりして~」
そんな緊急時に鷹月さんとのほほんさんが避難誘導をしているのが確認できた。何も知らせていない中で緊急時のマニュアルをしっかりやっていることに感謝をしつつ、その混乱に乗じて俺たちは舞台裏にひっこんだ。撃たれた簪もシャルが回収して、状態を確認する
「大丈夫か、簪」
「作戦通り大丈夫。ただ、思った以上の衝撃が強かったかな」
背中と腹をさすり、うめくように簪は言葉を出す。服の中から、血液のようなものが入った袋を取り出して床に落とす。血液と思わせた液体はダミーだ。
作戦会議の末、狙撃を守る役目のシャルロットと簪、方法はシールドバリアーを展開した己を盾にして防ぐという原始的すぎる方法だった。もっとほかの方法があるだろうと進言したが、下手に凝ると勘ぐられること、この方が何も対策してないように油断させられるということで採用されたのだ。
実際に作戦は成功。簪のダメージはあったものの、出血は無く想定内だと言う。
「まあ、万が一も兼ねて防弾ウィッグもつけてもらってたし」
「これ、頭がゴワゴワするからちょっと嫌だったんだよな」
「・・・ウィッグはお前より慣れてる」
同じ髪のウィッグを脱ぎ、開放感にあふれる。だが、悠長にしている暇はない。
他のメンバーの通信からテロリスト共の位置情報が共有される。俺と鈴が近場の狙撃手、兄さんたちはもう一人の場所に急行する
「作戦通り一夏と鈴はそっちに合流、私たちはこっち。それじゃ、健闘を祈る!」
ゴー!と簪が叫ぶと同時に俺たちはそれぞれの場所に走り出す。さあ、テロリスト共、覚悟しろ。
防がれた。完璧とも言える狙撃が同じ女に邪魔をされたことにセシリアは怒りを煮えたぎらせる
(あれはもう女ではない、名誉男性ですわ。忌々しい奴の処刑を邪魔した罪として、後でアレも撃ち殺しましょう)
亡国企業の訓練として、一度狙撃をした場合、二度目は同じ場所で行わないことをセシリアは徹底的に叩き込まれている。そのため、狙撃に失敗したセシリアは殺意を募らせながらも移動の準備に移る。彼らから目線を切って後ろを見た時、
「ッ!」
それまでいなかった人影がセシリアの視界に入る。寝そべった体勢で転がりながら回避するも、横薙ぎの一撃が脇腹を捉えた。
赤く滲んだ脇腹を抑えながらセシリアは体勢を立て直し、自身に傷をつけた相手と対峙する
「!千冬さ・・・ではないですわね」
「あの女な訳あるか、殺すぞ」
そこにいたのはIS学園や家族の中にいるときのマドカではない。触るものを全て傷つけるような冷酷なオーラを纏った元亡国企業のマドカがそこにいた。義兄弟とはいえ、幼少期に兄を傷つけていた女と間違われて殺意を隠さないマドカ。それに当てられたからか、セシリアは逆に冷静さを取り戻す
「この淑女に傷をつけるなんて、千冬さんでは無いですわね」
「何が淑女だ、自分で言う奴が淑女な訳あるか。それに、あのクソ女と一緒にするな」
比較され続けることに怒りを募らせつつも、マドカはサイレント・ゼフィルスを身に纏う
「さて、私の兄さんたちに何しようとしたのか洗いざらい吐いてもらう」
「・・・何故あなたがその機体を纏っているのですか」
するとセシリアは明らかな殺意をマドカに向ける
「その機体は私ブルー・ティアーズの後継機!貴方みたいなジャップが乗る機体ではありませんわ!!」
祖国の最近機が見知らぬ人間に乗られていることに怒りを露わにする。が、その程度で怯むようなマドカではない。余裕の表情でセシリアを挑発する
「ブルーティアーズ、型落ちの機体で私に勝てるとでも?」
「くたばりなさい!」
怒り狂ったセシリアが特攻を決める。
セシリアとマドカの戦闘が始まったのだった
噴水のように鮮血が舞い、一夏の体は崩れ落ちる。呆気ない幕切れ、ターゲットとなる遠藤一夏の殺害を行ったラウラはそう思ったが、何か違和感を感じ取る
(人の首を切った感覚ではない?)
軍や亡国企業にいた時に味わった人を斬る感覚。皮膚を裂き、筋繊維を断ち切るのを何度も経験したラウラにとって、今回の切った感触はあまりにも不自然だった
(ダミーか。それくらいは対策でもするか)
既に一夏らしき体の首からは血が流れていない。それによく見ればこの液体はあまりにも水っぽすぎる上に、臭いも血特有の生臭さが全くない。
偽物をつかまされたことに舌打ちをしつつ、体育館側にターゲットがいるかセシリアに確認するため、内線を入れようとする
「オイオイ、やってくれたじゃねえか」
背後からの声にラウラは距離をとりつつ警戒体制に入る。そこには金髪のホーステールの学園生が立っていた
「こんな人気のないところで殺人とは、いいご身分じゃねえか、おい」
「貴様は・・・ダリル・ケイシー、いや、レイン・ミューゼルか」
本名を言われたことに不快感をあらわにするように、ガシガシと頭を掻いて舌打ちする
「それに私は殺人をしていない。どうせそれは偽物だろう?」
「・・・ヘッ。たりめーに決まってんじゃねえか。それはテメェらの餌だよ」
そう言うと、ダリルは自身のISを展開する。それを見るようにしてラウラもISを展開し、両者が睨み合う
「遠藤一夏の居場所を教えろ。さもなくば殺す」
「何言ってんだ。テメェこそ知ってる情報を洗いざらい吐いてもらうからな」
睨み合いが続くかに思われたが、先行を取ったのはダリルだ。廊下という狭い中で弧を描きながら距離を詰め、プラズマ剣を振り下ろす
「甘いわ!」
通常なら対応が遅れるような速さ。だがラウラはそれに反応してプラズマ手刀で応戦する。つば迫り合いと共に互いのプラズマがほとばしる
「やるじゃねえか、よっ!」
流れるようにダリルは蹴りを打ち込む。が、ラウラはそれも反応。手を入れてダメージを最小限にし、足を掴みにかかる。掴まれる前にダリルは蹴りの反動で距離を取った。
「その程度か?所詮はヨーロッパの植民地国家か」
その言葉に再度ダリルが距離を詰めにかかる。ラウラはそれを引きつけてからカウンターを打ち込まんと態勢を整える
が、
「!?」
突然足元が動かなくなる。それはまるで瞬間接着剤を付けられたかのようにびくともしない。
「もらったぁ!!」
足元に意識を向けたことで、ダリルのヤクザキックに対応が遅れる。ガードするも間に合わず、ラウラの鳩尾に深々と脚が突き刺さる
「グウウゥ、貴様・・・」
「へぇ、俺の蹴りを耐えんのか。まあまあタフじゃねえか」
余裕そうな表情のダリルに対し、ラウラは体制を立て直そうと痛みを堪えて状況を分析し直そうとするが、直感的に後ろ側に意識を向ける。
そこには、
「チッ!」
両サイドが壁である以上、隠密行動をするようにと言われていたラウラは仕方なく前に回避する。それに呼応するようにダリルが再度蹴りを仕掛けていた
「同じ手にかかるかぁ!!」
その蹴りに対し、咆哮を上げながら集中力を高めたラウラが引き付ける。
顔面にめり込むはずだったダリルの右足がラウラの右頬をかすめるだけにとどまる。その足を切り落とさんとラウラが手刀を繰り出そうとする
「後ろがお留守だぜ?」
「ぐがっ!?」
後ろの首なし一夏が猛然とタックルし、ラウラは吹き飛ばされる。ラウラは吹き飛ばされるもすぐさま体勢を立て直し、ダリルと首なし一夏を睨みつけた。この一夏の行動からラウラは言葉を吐きだす
「ダミーと思っていたが、まさか人間が中にいたとはな」
「そうっスよ。動きにくくて大変だったっス」
首無しの一夏の体にヒビが入る。それが四方八方に広がるとともにガラガラと崩れ落ち、中からフォルテが現れた。
「これで2対1。確か前も2対1で負けてたッスね?」
「俺らのコンビネーションは会長サマより強力だぜ。テメエが負けた
「ふざけるな。貴様ら喋らぬ人形にしてやる」
学園最強コンビと1年元最強が殺気をぶつけ合う。再び激突するのに時間はかからなかった。
本編と関係ない宣伝
今年の夏コミでくろだありあけさん(https://x.com/KurodaAriake2)のIS同人誌に寄稿しました。(https://x.com/KurodaAriake2/status/1799401971855847912)
ハーメルンで先行公開してますので、ぜひ