Inferior Stratos 作:ユキ (旧 rain time)
また、ストーリーを進めるにつれ、タグが変化していきます
ご了承ください
これからこのアリーナでは1組のクラス代表決定戦が行われる。そこにはイギリス代表候補と世界初の男性IS操縦者たちが戦うとのことでほぼ満員となっている。私は興味がなかったが、私の従者が見に行こうとせがまれ、こちらが折れる形でついていった。
私には一つ上の姉がいる。その姉は何でもできる優秀な姉だった。いつの間にか姉と比べられる日々が続き、私はできないほうの人間になった。いくら必死に努力しても追いつけなかった。そして、姉が家の当主になったとき、「今のままでいなさい」と姉から言われ、ショックをうけた。無能のままでいいと言われたようだった。以降姉とは疎遠になっている。
それだけじゃない。織斑一春が現れたことで私の専用機開発は永久凍結することになった。悔しかった。なんで私ばっかりこんな目に合うのかと。結局、私は開発予定だったISを引き取り、一人で組み立てている。姉だって一人で組み立てたのだから姉を見返すためには一人で組み立てるしかない。
だが、最近作業室にこもりっぱなしだったから効率が落ちている。その気分転換のためにこの試合を見に来た。出来れば織斑一春が負けるのを見るために。
ふと、横を見ると先輩が商売、トトカルチョのくじを売っていた。普段ならそんなものに見向きもしないがなんとなく立ち寄った。従者の本音も付いてくる
「いらっしゃい!一口200円だよ!」
「なになに~、本命オルコットさんで1.5倍、対抗織斑君で2.5倍、大穴で一夏君75倍、雪広君は90倍か~」
「やっぱり代表候補生だから人気だね!織斑君は何といってもブリュンヒルデの弟!人気になるのも仕方ないね!あとの二人はちょっとね・・・」
無性に腹立たしい。私の専用機が凍結した原因の奴がこんなにに人気だなんて。そして、同じ男性IS操縦者の二人には同情した。勝つと誰も予想していないだなんて。まるで私のようだ。誰にも期待されない私と同じだ。
「じゃあ、一夏と雪広のを一口ずつくださ~い」
「まいど!大穴狙うとは、勝負師かな?」
「ううん、同じクラスで仲いいから~」
「なるほどね、君はどう?」
「えっ・・・」
私は何も考えていなかった。買おうと思っていなかったし。でも、その時なぜか買わないって思えなかった。開発が進まないストレスで散財したくなったのだろう。そう思って一口なら買おうと思った。
普通はオルコットだ。これが一番固い。でも、彼女は女尊男卑思想だ。そんな人間を応援したくない。織斑は論外だ。なら、と二人に絞る。
「一夏君のを一口ください・・・」
「はい、まいど!どう予想したの?」
「消去法で残った二人の中で・・・応援したいほうを・・・」
「なるほどね、いいと思うよ!」
一夏君は弟ということもあり、一番私に似ている。だから私は応援の思いもかねて一口買った。どうせ当たらないだろうが、もとからそのつもりだ。彼が優勝するとは思えない。
空いている席を見つけ、試合が始まるのを待つ。願わくは、一夏君が織斑に勝つのを信じて・・・。
ざわざわざわざわ・・・
今アリーナはどよめきで包まれている。
「嘘でしょ!?」
「こんなことってある!?」
「誰よ!!オルコットさんと織斑君が鉄板って言ったやつ!!」
「織斑君に10口買ったのに~!!」
それもそうだ、大番狂わせが何度も起きたからだ。初戦で大本命のオルコットさんが雪広君に叩き潰され、その後棄権。人気のあった織斑も一夏にも雪広にも惨敗した。特に雪広君との戦闘で白目剥いて気絶する姿は滑稽だった。そして次が最終戦、一夏君と雪広君の兄弟対決となる。
2敗同士の貧相な戦いだと誰もが思っていたはずだ。でも、蓋を開けてみると、棄権があったとはいえ誰も予想しなかった2勝同士の優勝戦いとなった。だが、みんなが驚く中、私は興奮していた。一体どちらが勝つのか。できれば一夏君が勝ってほしい。弟が兄に勝つところを見てみたい。
もし、そうなったら・・・私はもっと頑張れる。姉に追いつくモチベーションが上がる。だから、勝ってほしい。
そして、私のトトカルチョの為にも。
試合開始7分前、自分と一夏はピットから出ていた。観客はざわついている
「なんか、ざわついていないか?俺たち何もしていないのに・・・」
「多分、自分たちが優勝争いになると予想してなかったからじゃないか?ネームバリュー的に無名だし」
もし、賭けが行われていたら自分たちは大穴にいるだろう。そのくらい周りの評価は低かったのだろう。
だが、そんな評価はいらない。一番人気でなくてもいい。勝てば問題ない。
「自分は人気がなくていいんだけどね。期待されるの、そんなに好きじゃないし」
「相変わらずだな、兄さんは。兄さんらしいけどね」
「だろ?よく分かってるじゃないか」
「そりゃあ、5年近く兄弟やってるからな」
そりゃそうだ、と自分たちは笑いあう。試合前でも和やかに会話できるのが家族のいいとこだよな。
でも、そろそろ気を引き締めないとな。試合開始まで2分を切る。
「・・・兄さん」
「うん?」
「思えば、これがISでの初めての真剣勝負だな」
「そうだな」
「・・・本気で行くからな」
「当たり前だ。自分も全力で行くぞ」
空気が引き締まる。真剣勝負だ。観客もざわめきがなくなり、静寂が訪れる。
試合開始30秒前、自分はまず取り出す武器を決める。
20秒前、一夏の初撃を予想する
10秒前、深呼吸をして一夏を見る
・・・いい目だ。これならいい勝負ができそうだ
試合開始のブザーが鳴った。
試合開始のブザーが鳴る。だが二人とも動かない。相手の初撃を双方ともに警戒していた。ゆえに動けなかったのだ。双方動かない中、雪広が剣を呼び出す。
(突っ込む?いや、兄さんがそんな馬鹿なことをするはずが、いや、裏をかいてくるか?)
一夏は雪広の行動に対し、考える。が、雪広は剣を一夏に
「!!」
思考したことでできた一瞬の隙を突かれ、大きく回避行動をする。が、そこに弾丸の雨が降り注ぐ。雪広は剣を投げた後、すぐにマシンガンを呼び出し一夏の回避するであろう場所に撃っていた。一夏はまんまと引っかかったのだ。
だが、一夏も被害を最小限にしつつ、ビームライフルを呼び出し、雪広に目掛け撃つ。雪広は避けると同時に一夏は
小競り合いの後、二人は距離をとる。
「やるな、兄さん」
「一夏こそ、この前より力付けたんじゃないか?」
「兄さんこそ」
互いが互いを誉めあう。この一週間で、オルコット、織斑対策だけでなく、兄弟の対策をそれぞれ練っていた。むしろ、お互いが一番の強敵と想定していたため、より案を練っていた。それを今、実践に移している。
それからは一進一退の攻防が続いた。互いに決定打を決められないが徐々にSEを減らしていく。遠藤兄弟の実力はほぼ互角だが、機体の性能的に一夏のほうがやや優勢だった。そのため、先に雪広のSEが4割を切る。一夏のSEは6割弱ある。
「強いな」
「兄さんこそ強いよ。俺は機体の性能で優勢に立っているだけさ」
「それを込みで強いと言っている。それに、自分が破格の条件を蹴ったのに機体のせいにするのはお門違いってもんよ」
ただ、と雪広は武器を収納しリラックスした様子で言う
「これで
「条件?」
「そう。さっき見せたやつさ」
「・・・まさか!」
「そう、そのまさかさ」
両手をクロスして上げ、大きく息を吸い込み
「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」
雪広は黒い霧に覆われ、切り裂くようにして
オルコットを完膚なきまでに潰した姿が一夏の前にいる。だが一夏は怯まない。
「これが、兄さんの全力・・・」
むしろ喜んでいる。兄さんが俺に全力を尽くして戦っていることに、喜びを感じている。
「ここからが本番ってわけだな!雪兄さん!!」
「ガアアア!!」
叫び声とともに一夏にタックルをする雪広。だが、織斑の時とは段違いのスピードで突っ込んできたため、一夏は回避できず直撃する。
(速い!これが雪兄さんのISの最高速か!)
一夏は体制を立て直し、形態変化した雪広を見る。が、雪広はすぐに接近して爪で切り裂こうとする。それを剣で受け止め、距離をとる一夏。
(こんな形態があるなんて教えてくれなかったし、まずは様子見だ。今の兄さんの特徴を見つけるのが先決。俺の
一夏は一度受けに回って戦術を組みなおす。出来れば形態変化した雪広の弱点を突くために、雪広に勝つために耐える。
雪兄さんが形態変化して10分が経った。
俺は何とか雪兄さんのスピードに慣れたものの、SEが3割まで削られてしまった。いつの間にか逆転を許していた。弱点は見つけたが、そこを突いていけるものではない。
分かっていることは、形態変化した雪兄さんは理性を失い、本能で行動していること。そして未だにライフルやマシンガンと言った遠距離武装を使っていないことだ。使用不可となっているのかもしれないが、こちらが距離をとろうともすぐに詰めてくる。かといって接近戦だと機動力と本能の勘によって押し負ける。
なにより、あの形態はまるで獣だ。理性がなくなり、本能の赴くままに行動をしているから、どうすれば・・・・・・・?
(なんだ、この違和感?)
なにか引っかかる。多分兄さんはあの形態だと本能で動いている。本能の勘で致命傷を回避していた。俺だってただ回避するだけでなく、カウンターでライフルの狙撃をしたがそれも躱され・・・
その時あるワンシーンを思い出す。
(待て、じゃあどうしてあの時・・・
オルコットの武器を破壊する前まではオルコットの攻撃を躱していた。それなのに武器を破壊した時、雪広は弾くのではなく
雪兄さんを見る。兄さんは俺に攻撃することなく俺を見ていた。が、次の瞬間ディスプレイを見るように眼が動いた。確信した。
「単刀直入に言うけどさ、意識あるでしょ、兄さん」
「・・・」
「演技しなくていいよ。もう分かっているから」
本当はまだ仮説だ。正しいか分かっていない。ブラフだ。さあ、どう動く・・・
「フッ」
と兄さん顔に手を当てて笑う。どうやら俺の予想は当たったようだ
「そうか、バレてたか。なら仕方ねえな」
「いいのかよ、自分でネタバレして」
「別に、そこまで分かっていたら騙していても意味ねえし」
ただ、と兄さんはつぶやく
「完答、ってわけじゃねえな」
「・・・答えを教えてくれないかな?」
「流石にそこまでは教えねーよ、終わったら教えてやるよ」
そりゃあそうだ。わざわざ自分の特徴を試合中にばらすことはしないよな。
でも、ここまで分かったのなら好都合だ。
「兄さんのそれさ、形態変化だっけ?兄さんが名付けたの?かっこいいよな」
「何だ?時間稼ぎか?」
「いや、純粋にそう思ったんだ。単一能力もあるし」
でもさ、と俺は武器を収納して言う
「その形態変化さ、
「・・・何だと!?」
気づいたようだな。俺は力を貯めるようにして叫ぶ
「ハアアアアアア!!!!」
兄さんの時と同じように俺は黒い霧に覆われる
さあ、本当の闘いはこれからだ!
「嘘でしょ!?」
一夏君の形態変化に私は驚く。まさか一夏君もあんな風になるなんて予想もしなかった。ただ、一夏君の形態変化は明らかに雪広君のと似ている。ということは一夏君も理性を失う系なの!?雪広君は事前に聞いてたけど一夏君もなの!?
と、思っていると私のピットに一夏君からメッセージが届く
「何々、『俺は大丈夫です、理性が無くなることはありません』・・・そう」
一夏君は大丈夫というが100%信用できない。見た目が見た目だし、何より前例がない。警戒レベルを上げないとね・・・
画面を見ると、一夏君が黒い霧を切り裂いて姿が現れる。そこには雪広君と同じように、瞳が赤に染まり、フォルムが黒になった姿だった。
一夏の形態変化。それはまるで自分を見ているようだった。同じように瞳が赤になり、黒に包まれている。違うところは武器くらいか。俺は爪に対し、一夏は黒の双剣であることくらいだ。
「どうよ、兄さん」
「ああ、まさかお前まで形態変化ができるとはな」
「そりゃあ、この時のためにとっておいた切り札だし」
切り札なら仕方ない。それに自分も形態変化を言ってなかったからお互い様だな
「とはいっても、それがどうしたって感じだ、な!」
と、言い切る前に俺は一夏の背後に回り込むように2連続で瞬間加速をし、爪で切り裂こうとする。が、その前に一夏は後ろを見ずに裏拳を叩きつけてくる。
「クッ!」
ギリギリでそれを躱し、上に距離をとろうとした。が、それよりも早く一夏が間合いを詰めてくる。そのまま双剣で切り上げようとするのが見えた。
(速い!!)
とっさに脚部サーベルを呼び出し、両足で対応する
「クッソ!決まると思ったのに!まだ隠し持っていたんだな!」
「使うタイミングがなくて結果的にそうなっただけだ!」
鍔迫り合いの後、互いに距離をとる。
一夏の形態変化でスピード、パワーはほぼ互角ってとこか。それで実力も同じくらいで、SEも同じくらい・・・
なおさら負けたくないな!
「いくぞ一夏ァ!」
「受けて立つぜェ!」
先ほどよりもハイスピードの戦闘が行われた。高速で動き、攻撃し躱すを互いにする。まともなダメージを入れたり入れられたりを繰り返し、両者ともにSEが3%を切った。
「ハア、ハア・・・」
「フウ、フウ・・・」
周りがうるさいが今はそんなことに気を向けられないほど真剣だ。一夏も俺もそろそろ限界が近い
でも、それでも
「一夏ァ!楽しいなア!!」
「ああ!最ッ高だ!!」
気を抜くと笑顔になってしまう。こんなにいい勝負ができること、一夏がこれほどまでに成長したことなど、嬉しい気持ちで溢れそうだ。一夏もそう思っている。でも、今は真剣勝負だ。そんなことを言ってられない。
それに、真に満足を得るには勝つ以外ないのだから。
SEはともに少ない。もう一撃も喰らうことは許されない。次の一撃で決めるしかない。自分は爪を構える。一夏もそう思ったのか、剣を構えているが攻撃してこない
あたりに静寂が訪れる。先ほどまで騒がしかった外野も静まっている。
「「・・・!」」
同時に動く。共に直線的に突っ込む特攻。
だと思ったぜ!一夏!!
俺はその軌道から外れるように
「終わりだアアア!!!」
完璧に決まった。一夏の攻撃を想像の斜め上を超えて躱し、右手の爪の一撃が刺さる。
そのはずだった
「・・・あ?」
感触がない。いや、あるのは地面に刺さった感触。思考が止まる。
そして確信した
(
気配がする左を見ると一夏が剣を振り回す姿が見えた。ここから回避は・・・できない!!さっきの大振りで立て直せない!!
一夏の右薙ぎの攻撃が直撃し俺の体は吹っ飛ぶ。そのまま地面に二度、三度叩きつけられて転がり、仰向けの状態で止まる。そして、
『試合終了。勝者、遠藤一夏』
俺は負けたのだと悟った。
勝った・・・ついに、兄さんに勝った。
でも、勢い余ってやり過ぎたかも・・・あれから兄さんのISは解除され、ピクリとも動かない。
「・・・兄さん?」
俺はISを解除して恐る恐る兄さんに近づき、呼ぶ。もしかしたら気絶したかも・・・
「一夏」
「!」
雪兄さんがゆっくりと起き上がる。そして俺に近づき・・・
ポンと兄さんの手が俺の頭に乗せられる
「お前の勝ちだ。悔しいけど、それ以上に嬉しいよ。一夏がこんなに成長したのが分かって」
「兄さん・・・ありがとう・・」
嬉しさのあまり、涙が止まらない
「おいおい、泣くなよ。これじゃあどっちが勝ったか分かんないじゃないか」
「でも・・・嬉しくて・・・」
「・・・よくやったよ」
兄さんは肩を叩いて賛辞の言葉をかけてくれる。それが妙に嬉しくて仕方がない。
「それに、周りにも自分たちのことをアピールできてよかった」
「え?」
「聞こえないか?この歓声が」
周りに集中すると至る所で俺たちへの拍手が沸き起こっていた。それだけ俺たちはいい試合ができたのだろう。最終戦にふさわしい試合となったはずだ。
「さて、戻るか。
「グズッ・・・ああ」
俺たちはそれぞれのピットに戻る。が、その前に兄さんに呼び止められる
「そうだ、一つ言い忘れていた」
「何?」
「今回は負けたが、次はそうはいかないからな!!」
「ああ!もちろんだ!次も兄さんに勝つ!!」
もう一度近づいて、こぶしを合わせる。周りから歓声が沸く。
今ほど嬉しいことはこれからもないだろう
最終成績は
遠藤一夏 3勝 (1勝は棄権)
遠藤雪広 2勝1敗
織斑一春 1勝2敗 (1勝は棄権)
セシリア・オルコット 3敗 (2敗は棄権)
となり、クラス代表決定戦は幕を閉じた。
余談だが、その夜、豪勢なパフェを食べる女子二人組がいたとか。
危うく前書きでネタバレをするところでした。推敲って大事。
ま、それでも間違いが多発しますけどね
次は機体、登場人物説明です