次は努力します。結果はわからないのですが
時は過ぎ、魔術競技祭当日の観覧席。
「あとちょっとだよー!頑張れー!」
「・・・・・!」
二人の少女が、『飛行競争』の競技を見ながら手に汗を握っている。
黒髪の少女は車椅子に乗って両足をギプスで固定されている。だが、そんな痛々しげな足とは対照的にその顔は明るい笑みが浮かんでおり、大きな声で選手に声援を送っている。
対して車椅子を支えている白髪の少女は大きなため息をつきながら気だるげに競技場を見下ろしている。しかし、車いすの取っ手を握るその手には明らかに力が籠っていた。
『ゴォォォォォォォォーーーーーーールッ!!!!なんとトップ争いの一角だった四組を押しのけて、二組が三位に躍り出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』
「やったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「危ないです」
「痛いっ!?」
大声をだすほどに喜ぶテトラの頭にソティルの手刀が入る。
「姉さんが競技祭に行きたいってあまりにもうるさいから車椅子を組み立てましたけど、本来なら姉さんは家で安静にしとくべきなんですよ?それに───」
「はいはい。そこはしっかりわきまえてるから、そんな心配しなくて大丈夫だって」
能天気に笑うテトラをソティルはジト目で見ながら毒づく。
「・・・姉さんは私が見てないと、はしゃぎすぎて車椅子から転げ落ちそうなんですがね」
「えー、そんなことないでしょ」
「・・・・・」
呆れるように溜息をついたソティルは気を取り直すように競技場の方に視線を向け、話題を競技の話に戻した。
「しかし二組のコンビが三位にまでなってしまうとは、正直驚きです」
「え?私は当然の結果だと思うけど」
「当然の結果・・・まさか、気持ちの問題とでも?」
「それもあるかもしれないけど、そういうことじゃなくてね」
不思議そうな口調のソティルに、テトラが少し自慢げに答える。
一年前はテトラがソティルに人との関わり方や生活の仕方などを教えていたが、ソティルが常識を身に着けてからはテトラからソティルに何かを教えるということはめっきり減ってしまった。彼女としては、久しぶりにソティルに物事を教える立場に立てたことがよほど嬉しかったのだろう。
「他のクラスってさ、みんな成績がいい人で固定されてるでしょ?それならその人達は他の競技も練習しないといけないわけだし、一つの競技だけを練習した人との差は結構開くと思う」
「・・・なるほど、やはり私もまだまだ思慮が浅いですね。でも、それなら二組も勝つ見込みは充分にあると見ていいわけですね」
期待を滲ませるソティルに対してテトラは肩を組みながら苦々しげに唸る。
「それはまだなんとも言えないかな。二組と一組の地力の差はやっぱり大きいし、大金星取ってもっともっと士気を上げないと、一組には絶対に勝てないと思う・・・ところで、ちょっと質問あるんだけど」
「どうぞ」
「私、なんで生徒用の観覧席に連れて行って貰えないの?」
「ああ、それはですね・・・ん?」
ソティルはふと何かに気が付いたように腕時計を覗き、小さな声であ、とつぶやいた。その顔には焦りの色がありありと浮かんでいる。
「姉さん」
「どうしたの?」
「あと1分でセラさんとの待ち合わせ時間です」
「それマズくない!?」
「マズいです。急ぎましょう」
テトラが車椅子から振り落とされないように気を使いながらも、ソティルは最大スピードで人の波を次々とかき分けていった。
「ソ、ソティル・・・もうちょっと・・・優しく移動できなかったの・・・?」
「あれぐらいの速さじゃないと時間に間に合わなかったんですよ。ほら、セラさんもまだ来てませんし」
車椅子の肘当てにもたれかかりながら完全にのびているテトラ。そして、疲れを全く感じさせず平然と髪をかきあげたソティル。ソティルはしばらく辺りを見回すと、何かに気がついたのか遠くに目を凝らした。
「・・・来ましたよ」
「あ、ほんとだ!セラー!こっちだよー!」
セラが来たと聞いてテンションが元に戻ったテトラの大声に気がついたセラはトコトコと小走りで二人の方に走ってくる。
「ごめん、待たせちゃったみたいだね」
「いえ、私達も今来たところです。それにセラさんには今日の家事も全て任せてしまっていましたから、もしセラさんが遅れてきても責める気なんてありません」
「昨日もソティルの書類整理、日付変わるまで手伝ってたでしょ?ソティルは競技には出ないし、無理して来なくても良かったのに」
「いやそれもあるんだけど、えっと・・・」
心配そうな二人に対して、セラはギリギリ聞き取れるかどうかという小さな声でぼそりと呟いた
「その、私・・・一目でもいいからグレン君とそのクラスの子達を見てみたくて・・・」
ソティルはセラがグレンに好意を持っているという情報を既に持っている。しかしまだ人の感情に関しては鈍いため、セラの言葉とその情報に関連性を見つけられずに首を傾げている。
一方、テトラは何かを察したように目を泳がせていた。
「あー・・・うん、セラって結構乙女なんだね・・・」
「は、恥ずかしいからやめてくれないかな・・・?」
頰を赤く染めながらうつむくセラ。そんなセラの様子を見てテトラはいたずらっ子のように笑う。一方、ソティルはいつまでも頭に疑問符を浮かべていた。
「と、とにかく早く競技場に行こう?次の競技始まっちゃうんじゃない?」
せめてソティルにはバレたくないと思ったのか、ソティルの手を掴みながら全力で話題をそらすセラ。セラの真意を悟って手助けをしようとしたのか、それともただ単に思ったことを口に出したのか。テトラが思い出したようにパチンと指を鳴らした。
「あ!そういえば次の競技ってルミアが出場するんだったね!」
「え?あ、そうですね。『精神防御』というものらしいですが・・・名前からして胡散臭さしかありませんね。大丈夫でしょうか?」
「私もルミアが酷い目に合いそうで少し怖いな・・・でも、行ってみないことにはどんな競技がなんてわからないし、とりあえず応援しに行ってみようか!」
『精神防御』の競技が始まった中央のフィールド。そこは今、阿鼻叫喚の生き地獄と化していた。
「ぁあああああああーーーーーッ!ヤメロォオオオーーッ!?」
「ギャァアアーーーーーッ!?頼むッ!誰か助けーーー」
卒倒して救護班に運ばれていく生徒が続出する競技フィールドを何処までも冷えた目で睨むソティル。
「姉さん」
「・・・次は何?」
「ツェスト男爵は学院の女生徒とこの社会のために海の底にでも沈めるべきだと思うのですが」
「奇遇だね。私もおんなじようなこと考えてる」
「あ、あはは・・・」
二人のツェスト男爵への辛辣な発言にセラが苦笑する。
ツェスト男爵とはこの『精神防御』の競技で精神汚染系呪文をかける役割を担っている学院の魔術教師だ。しかしこの男、喪心する少女を見て性的興奮を覚えるような重度の変態である。そして、今回の『精神防御』に出場している女生徒はルミアただ一人。つまり、ツェスト男爵の欲望は全てルミアに向くというわけだ。
しかし、あらゆる魔術を跳ね除け、ルミアは耐える。ただただ、ひたすらに耐える。
次第に選手達の数も減っていき、そしてついに。
『ついについに!五組代表ジャイル君と、二組代表ルミアちゃんの一騎打ちだぁあああーーーッ!?』
この予想外の展開に観客席は最高潮の盛り上がりを見せ、大歓声が競技場に響き渡っている。
テトラもセラも、筋骨隆々の男と可憐な少女の胆力がほぼ同じという事実に目を見開いていた。
「すごい・・・ルミア、なんであんなに・・・」
「姉さんや他の人が思ってる以上に、彼女は壮絶な人生を送っていますよ。ああ見えて、胆力は凄い・・・と言うよりは人として必要な何かが欠けている感じですね」
「・・・でもさ、ソティルはなんでルミアを出場させたの?機械のソティルだったら精神汚染系呪文は効かないんだから、この競技はソティルが出場すべきだと思うんだけど」
非難するような視線をソティルに向けるテトラ。それに対してソティルは動じることもなく、困ったように肩をすくめた。
「確かに、私は能力を使わない場合でも多少の情報が見えます。しかし、言い換えればそれだけです。無論、今の私は感情を持っていますし、精神系の魔術もしっかり適用されます」
「・・・『感情を持ってる』」
意味ありげにソティルが発した言葉を繰り返したテトラだったが、ソティルはそれに気づかず説明を続ける。
「だからと言って、たかが人間の祭り如きに能力を使う気もありません。そして、そんな非力な私よりもそれぞれの競技に適任な人材がクラスに揃っていた・・・それだけです」
「・・・・・」
「まだ納得いかない」という様子で苦い顔をしていたテトラだったが、しばらくすると諦めるように溜息をついて競技場のほうに目線を戻す。
ソティルとテトラが会話しているうちにも競技は進んでおり、今はちょうど第三十一ラウンドが始まろうとしているところだ。ツェスト男爵が放った白魔【マインド・ブラスト】によって競技場に不快な金属音が響き渡る。そして次の瞬間。
ルミアの身体がぐらりと傾いた。
「あっ・・・!」
「ルミアッ!」
セラとテトラが悲痛な声をあげる横で、ソティルはジャミルとルミアそれぞれの様態を観察しながら呆れたような声色で呟いた。
「・・・勝負、あったみたいですね」
その数十秒後、グレンがルミアの棄権を宣言。大ブーイングがグレンに浴びせられることとなった。
テトラとセラも、ルミアが勝てなかったことを残念に思っているようで、負のオーラが彼女達の周りをゆらゆらと漂っている。
「ちょっと残念だけど・・・仕方ないね。ルミアももう限界だったみたいだし」
「・・・でもさ!他の子達も頑張ればテトラちゃん達のクラスもまだ優勝できる可能性は───」
「二人とも、何言ってるんですか。ルミアは勝ってますよ」
セラの言葉を遮って、ソティルが不思議そうに言った。その顔には隠し切れない喜びの感情が滲み出ている。一方、ルミアが負けたと思っていた二人は呆けた顔でソティルの顔を見つめていた。
一体どういうことかテトラが問いただそうとしたまさにその時。
『ジャ、ジャミル君が・・・気絶している・・・!』
考えていることが無意識に言葉に出てしまったかのように紡がれたツェスト男爵の言葉。それは拡声音響術式によってこの競技場にいる者全員の耳に届いた。
『えーと・・・ということは・・・ルミアちゃんの・・・勝ち?』
『・・・そうなるだろう。棄権したとはいえルミア君は第三十一ラウンドをクリアしたからね』
しばらくの沈黙の後、爆音のような歓声が会場に渦巻いた。セラが振り返り、テトラの方を見る。
「よかったねテトラちゃ・・・え!?テトラちゃん泣いてるの!?」
「ご、ごめん。嬉しすぎてつい・・・」
そんなテトラの様子を、ソティルは訝しげに見ていた。
(・・・わからない。人間の感情は理解出来ないことが多いですが、人が涙を流す
勝利に沸き立つ観覧席でただ一人、ぽっかりと胸に空いた穴を実感するソティル。
一方、テトラは涙を拭き、ルミアの勝利を噛みしめるように言った。
「ルミア達だったら・・・絶対優勝できるよ」
お読みいただき、ありがとうございます。
主人公二人が競技祭出場しない。セラとの絡みを多くしたかったからって理由があるんですけど
これ主人公的にダメじゃないですか?()
今回は特に説明することないです。