文の仕様を変更する際には報告していきます。
また、気が向いた時に以前の話も修正していきたいなぁとは思っているのですがこちらは未定。
二組の闘志が再燃してから、時間は嘘のように早く流れていった。
まずは『変身』競技でリンが最高得点を叩き出し、勢いを盛り返す。続く『使い魔操作』、『探査&開錠』でも高順位を取ったことによって、二組は一組との点差を大きく縮ませた。
その後、魔術師の伝統遊戯『グランツィア』では一組を罠に嵌めることに成功し、二組の順位は現在二位。一組と二組の勝負の結果は、競技祭の最終種目である『決闘戦』へと委ねられることとなった───。
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「ギイブル、お前の相手だが・・・」
「だからさっきから言ってるでしょう?僕に助言はいりませんって」
「いいから聞け。ここで負ければその時点で一組の優勝が決まる。お前の相手は───」
決闘戦、決勝。
先程、先鋒のカッシュが一組のエナが放った錬金≪痺霧陣≫によって行動不能となり惜しくも敗退。現在、二組は中堅であるギイブルが勝利しなければ、その瞬間に敗北が決まるという絶対絶命の状況に置かれている。
そしてグレンの代理監督としてクラスの生徒達の前に現れた青年、アルベルト。ギイブルからけんもほろろにあしらわれながらも、彼は辛抱強く助言をしようとしていた。
「あの人凄いね。グランツィアの時もめちゃくちゃ細かく指示してたし、一人ひとりにその場で最適なアドバイスが出来てるっていうか・・・」
「・・・そうね、
「いつも見てる・・・うん、ぴったりの比喩かも・・・システィ?」
システィの視線の先を見てみると、アルベルトがこちらに向かって手招きをしている。どうやらギイブルへの指導が終わったらしい。
「ギイブルの次は私ね・・・絶対に勝たないと」
「アルベルトさんの指導力とシスティのセンスがあれば大丈夫・・・って言いたいところだけど、一組のトップってだけあるね。私もソティルに鍛えてもらってるからさ。多少なら魔術戦のことわかるんだけど、あの人達はシスティと今まで戦ってきた人より何倍も強いと思うよ」
少なくとも『試合』だったら、という言葉を飲み込むテトラ。システィーナや、近くにいるクラスの生徒達に『殺し合い』なんて言葉を連想させたくなかったのだ。
「と、とにかくあんまり気負わないでね!システィが全力を出し切れれば私はそれで満足だから!」
「大丈夫よ。それに、負けられない理由もできちゃったし」
そう言い残してアルベルトの元へと向かっていったシスティーナ。テトラは『負けられない理由』について思考を始める。しばらくは周りの喧騒など聞こえないほどに思考に耽ることが出来ていたが───。
「うわあぁぁぁーーーーーーーーッ!?」
その思考は情けない叫び声によって中断させられる。声の主は一組の中堅、クライス。ギイブルの召喚したアース・エレメンタルによって両腕を掴まれ、必死に投了を宣言していた。
「うわぁ、あんな気持ち悪いのに捕まったら叫びたくもなるよ・・・ギイブル君って案外えげつないなぁ」
本人の前で言ったら「ふん、敗者にはふさわしい姿だろ?」と返されるのが目に浮かんだ。
とにかく、これで勝敗は大将戦へと委ねられることになる。
「一組の大将・・・髪で片目が隠れてる人だったけど・・・」
「ハインケル、ですよ。フルネームは長いので省略しますが」
後ろから気だるげな声が返ってきた。明らかにソティルの声だ。
「あれ?ソティル、なんでここにいるの?」
「この競技が終われば閉会式ですからね。姉さん以外の控え席にいる人達は全員が競技場に整列するらしいんですよ。その間、姉さんが妙なことしてケガしないように見張りに来ました。私は事前に許可を貰ったので、姉さんとここで閉会式を迎えることになります」
「子供じゃないんだからはしゃいだりなんかしないよ!?」
「それもあるのですが、そうではなくて・・・いえ、やっぱりなんでもありません」
これはテトラの自論だが、誰かが「やっぱりなんでもない」などと言葉を濁した時には裏でロクでもないことが起きていると相場が決まっている。
「なんでもないわけないよね?なんか裏で起きてるよね?」
「・・・これ以上詮索するなら記憶消します」
ソティルがテトラに問い詰められた時に起こす行動はだいたい二パターンに分かれている。
一つは正直に話す。
もう一つは記憶を消すと忠告する。以前までテトラはその言葉をただの脅しだと一蹴していたが、一度だけ本当に記憶を消されたことがある。何に対して自分が怒っていたのか思い出せない時ほど、もどかしいものはなかった。
後者の場合はいくら問い詰めても隠していることを絶対に教えてくれないので、ここは引き下がる他にテトラに選択肢はなかった。
「じゃあセラはまた置いてきたの?」
「流石に何度も置いていく気にはなれませんよ。生徒の控え席には学院関係者以外は入れないそうなので、今はここのすぐ上にある観客席にいます」
「・・・そう」
テトラがぶっきらぼうに答えると同時に、審判から試合開始の合図が出された。
二人も話題を決闘へと転換する。
「あの生徒、なかなかのやり手ですよ。先ほどまでの相手と比べて、システィーナが負ける可能性が格段に高まっています。それでもシスティーナが勝つ確率のほうが高いのですが」
「私もシスティが勝つと思う。システィには切り札があるから」
テトラが真剣な顔をしながらうなずくが、ソティルは怪訝そうに眉をひそめる。
「私はアレを切り札とまでは言えないと思いますよ。確かに、相手がアレに対策を講じている確率は格段に低いでしょうけど」
「対策されてないんだったら切り札として使えると思うけどなぁ。あとはどこでそのカードを切るか、だよね」
「うわー、今のセリフ相当イタいですよー」
「あれー?訓練中に『いかに相手が予想しないタイミングで自分の強みを出せるかが勝敗を決めるんですよ』ってカッコつけたように言ってたの、誰だったかなー?」
「やかましいわ」
棒読みでテトラを煽るソティルだったが、テトラから思わぬカウンターが飛んできたことにより敬語が取れた。基本的な煽り耐性は高いソティルだが、親しい人となると話は別だ。
「ま、姉さんの言葉はおおよそ正しいものです。システィーナはカードの切り方を相手よりは理解できているでしょうし───って、ここで切るんですかあの人」
競技場を見てみると、巨大な風の壁がハインケルの身動きを封じていた。以前、システィーナがテロに巻き込まれたときに編み出した改変呪文、黒魔改【ストーム・ウォール】。これこそが、システィーナの切り札であった。
当然、見覚えのない呪文を繰り出されたハインケルは正常な判断が出来ず───。
「そこッ!≪大いなる風よ≫───ッ!」
システィーナが唱えた【ゲイル・ブロウ】で追い打ちをかけられ、場外へと吹き飛ばされてしまった。
勝負の決着と同時に二組の優勝が決まり、他のクラスの観覧席を含めた観客席からは大歓声が上がっていた。
二組の観客席からは生徒達が飛び出し、システィーナの元へと向かっていく。双子を除いて、だが。
ソティルはテトラ以外の人間が周囲にいなくなったことを良いことに、不機嫌そうに舌打ちをしていた。
「あのタイミング、実戦だったら確実に防がれてますよ」
「気持ちはわかるけど・・・これ、あくまで『試合』だからね。使える呪文も限られてるから相手の魔力残量も想像つくし、私はあのタイミングでばっちりだったと思うけど」
「ふむ、それだったら及第点ぐらいですかね。ところで、姉さんは喜ばないんですか?二組が優勝ですよ?」
「・・・そうしたいのはやまやまなんだけど、裏で何か起こってるって思ったら喜べるわけないよ。ルミアとグレン先生もいないし、ソティルもなんか隠してることあるみたいだし?」
後半の部分をやけに強調してきたテトラ。ソティルは心底面倒そうに大きくため息をついた。
「今回に関しては『言わない』じゃなくて『言えない』なんですよ。今回の件も手助けぐらいは出来てますけど、あまり迂闊に動いたら例の組織とか政府とかにマークされそうですし・・・というか、政府の人から今日付けでグレー判定貰いましたし。はぁ・・・色々隠蔽とか改ざんとかするのって面倒なんですよ」
「それ真っ黒じゃん」
「・・・バレてなきゃ何してもシロと同じです」
ヤケクソ気味に言ったソティルの顔は、苦々しいものだった。
~~~
『───それでは、二組の代表者は表彰台へお願いします。生徒一同は盛大な拍手を』
代表者が出てきた瞬間、静粛だった会場が一気にざわつきだした。
数十秒後、そのざわつきは大混乱へと変わる。
「アルベルトさんとリィエルちゃん・・・じゃ、ない!?グレン先生とルミアじゃん!?あれ【セルフ・イリュージョン】でしょ!?なんでわざわざそんな魔術・・・って結界張られた!?あぁもう意味わかんない!」
パニック寸前のテトラがヒステリックに叫ぶ。
ソティルは「惰弱ですね」と鼻で笑っていたが、わずか三十秒という短時間の間に情報が濁流のように押し寄せてきていたのだ。パニックになっても無理はないし、実際に会場は混乱状態に陥っていた。
違和感の発端は表彰台に立った二組の代表者である。
講師陣の中から出てきたのは担任であるグレンではなく、アルベルトとリィエル。その服装や身に纏う雰囲気は祭りに来る人のソレではなく、観客から見れば異様な光景だっただろうが、テトラにとってここまでは許容範囲だった。問題は次だ。
女王とその側近と思われる初老の男性が困惑しているうちに、アルベルトの姿がグレンに、リィエルの姿がルミアに変わった。
その様子を見ていた全員がしばらくの間呆然としていたものの、我を取り戻した兵士たちは次々と抜刀しグレン達に向かっていった。結局は何かの呪文を唱えたセリカによって表彰台を中心とした結界が張られ、彼らがグレンの元へとたどり着くことは不可能となってしまったが。
何故、グレン達はわざわざ変身の魔術を使って表彰台に立ったのか。
何故、兵士達はグレンの姿を捕捉した瞬間に剣を抜いたのか。
セリカが結界を張った目的は何か。
テトラの頭の中から疑問は無数に湧いてくるが、とりあえず今は冷静になることが先決だ。それに事情を知っているらしい人物は既に隣にいる。
「・・・ソティル、まだ言えない?」
「まだです」
「・・・わかった。その代わり、終わったら全部教えてよね」
「いいですけど、私が言うまでもないと思いますよ?」
ソティルが興味なさげに言うと、後ろから誰かが走ってくるような音が聞こえた。振り返ってみると、セラがその新雪のように美しい銀髪を揺らしながらテトラ達の元へと向かってきている。
「ここ、一応関係者以外立ち入り禁止なんですが?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
緊急事態に焦燥感を示すセラからの返答は、彼女にしては珍しく辛辣なものであった。動揺したように一瞬顔をひきつらせたソティルだったが、すぐにその表情を気だるげなものへと戻す。
「ああなった理由はすぐわかります・・・っと、ちょっと危ないですね」
ソティルはそう呟くと同時に少し強めに指を鳴らしたが、周囲の状況に変わりはない。おそらく、結界内で何かしたのだろうが───。
「これぐらいだったら私が干渉したとは思われないでしょうし・・・すぐ終わるでしょうね」
「終わる・・・?一体何が?」
「
「う、うん」
わけがわからずテトラは首を傾げていたが、突然グレン達を覆っていた結界が解除される。
そこには頭を掻くグレンと呆然としているルミア。膝をつく初老の男と女王陛下の姿があった。女王の姿を見たテトラは、その首元にあったはずのペンダントがなくなっていることに気が付く。
「・・・後は女王陛下から説明があると思います。じゃ、私は女王陛下にここの視線が向いてるうちに休みますかね。正直、能力を使い続けたせいで姉さんを打ち上げ会場まで連れて行くまでエネルギー持つか怪しいですし・・・あ、二人以外の誰かが近づいてきたら勝手に起動するので」
「や、休むってここで横になるってこと?」
『・・・・・』
ソティルは何も答えず、直立不動。瞼を閉じて身じろぎ一つしていない。これを彫像だと言えば、誰もが信じるだろう。
「・・・ソティルってこんな器用なことできたんだ」
「流石は機械というか・・・とりあえず、今は女王陛下の説明を聞くしかなさそうだね」
~~~
大騒動となった閉会式から五時間後。日はすっかり落ちて、街頭の僅かな光のみに照らされる道は薄気味悪さすら感じさせる。
その中を歩くグレンとルミアは、先程まで騒動の中心人物として学院側との緊急会議や政府の事情聴取などを受けており、ようやく解放されたところだった。
「マジで面倒臭ぇな・・・勲章なんていらねえってのに」
「私達が中心人物だったんですから、仕方ないところもありますよ。でも、なんだかんだ丸く収まりそうでよかったじゃないですか」
「・・・ま、なんだかんだ被害はなかったしな」
今回の事件の下手人はエレノア=シャーロット。女王の侍女を勤めていたが、彼女は天の智慧研究会のスパイであった。出自もはっきりしており、品行方正で能力も優秀。そのため、政府内には誰一人として彼女をスパイと疑う者はいなかったが。
女王とも深い信頼関係を築いていたエレノアはあるネックレスを首につけることを女王に勧めた。だが、そのネックレスには条件起動型の
ソティルは他の人間から情報を開示されることなく、自らの能力で入手したため条件から除外されたのだろうが、これがもし「新たな第三者が
女王の側近であり、王室親衛隊総隊長であるゼーロスは女王だけでも救うため、ルミアの殺害を親衛隊に命じた。彼はグレンの策にまんまと嵌められ、女王陛下にグレン達を近づけることとなった後も、女王のためにルミアと彼女を守るグレンを殺そうとする。しかし、結局はグレンの
(だが気がかりな点も多い・・・天の智慧研究会がルミアに固執する理由もだが、あの四十年戦争を生き抜いたゼーロスが剣を振る前に突然膝をつきやがった・・・)
ゼーロスは「全身に痛みが走ったかと思うと突然身体が動かなくなった」と証言していた。魔術による検査では体内から毒物反応は検出されていないが、魔術でも解析できない毒薬も作ろうと思えば作れるだろう。
数時間後にはゼーロスは動けるようにこそなったが、後々精密検査が行われるだろうし、彼の回復が完全と判断されるまで王室親衛隊の戦力は大幅に失われることとなる。
(魔術でも解析出来ねぇ新種の麻痺毒か、それとも結界を無効化できる
グレンが苦い顔をしながらもの思いに耽っていると、ルミアが心配そうに見つめてくる。
「先生、どうかしましたか?」
「うんにゃ、なんでもねーよ。心配事は後から解決すりゃいいんだ」
とりあえず、今日は守ることができた。それでいいのだ。
「あ!皆がいるお店、見えてきましたよ!」
気を取り直して前を見ると、ルミアの指差す先に洒落た店があった。
グレン達は二組の生徒達が打ち上げをしている飲食店へと向かっていたのだ。
「・・・ん?誰か出てきたが・・・流石にもうお開きだったか?」
店から出てきた人影は、こちらへと向かってきた。肩まで伸びた髪は薄暗いこの時間帯はとても目立つ白色をしていて───。
「おや、貴方達ですか」
「・・・ソティルかよ。てかオマエ、結局少し情報をくれただけで本当に何もしなかったな」
「それ、本気で言ってるのですか?」
ソティルの咎めるような視線がグレンに突き刺さる。
だが、グレンがいくら過去の出来事を辿っても、ソティルから手助けされた覚えは全くない。
「いや、お前に助けられたのってそれぐらいしかなかっただろ?」
「結界内でゼーロスがぶっ倒れませんでした?」
「・・・もしかして、キミがやったの?」
「ええ。ゼーロスの神経情報を操作して金縛りを引き起こしました。全く、もしここまで言って気づかなかったら、貴方のことぶん殴ってたかもしれませんよ」
グレンが震えた声で聞くと、ソティルは冗談交じりにそんなことを口にしていた。
グレンからすれば冗談じゃなかった。
「ぶん殴りたいのはこっちだわ!バカじゃねーの!?お前のせいでゼーロスはしばらくの間訓練すらできないんだぞ!?本人も『そろそろ私も年なのかもな・・・』って死んだ目で言ってたし!」
「あんなもの一回寝れば全快ですよ。ま、脳情報を見た限りでは医者から休むよう言われてもおかしくないぐらい疲労が溜まってるみたいですから、復帰したとして仕事が出来るかどうかはわかりませんけど・・・きっと大丈夫でしょう」
「大丈夫なワケあるかこのバカ!」
新種の毒とか
ソティルの肩をブンブンとゆすっていたグレンだったが、ルミアに悟られて落ち着きを取り戻す。
当のソティルは呆れたように肩をすくめていた。
「面倒ですが、責任取って対策はするつもりですよ。ゼーロスが戦えない間は私が能力を使って女王の周りを常に見張っておきます。不審者が現れたら竜の寝床にでも送ってやりますから、安心してください」
「・・・ドラゴンって縄張り意識強かった気がするんだよな」
「ご名答。見つかった瞬間に火あぶりでしょうね」
にこやかな笑みを浮かべながらさらりとえげつない発言をするソティル。
そこで話が一区切りついたと判断したのだろう。ルミアは少し申し訳なさそうにソティルに話しかけた。
「ソティル、打ち上げってまだ続いてる?」
「・・・まだ続いてますよ。姉さん含めて全員いるはずです」
「そうなんだ!間に合ってよかった・・・あれ?まだ終わってないのにソティルはどこ行くの?」
「帰ります。こちらの世界に留まりたくなる理由は───いえ、人との過度な馴れ合いなどするつもりはないので」
いつものように無気力なソティルの言葉。だが、声色はどこか虚しさを感じさせる。
「そんなこと出来ないよ!だってソティルは───」
「後で姉さんは迎えに来ますからほっといてください。あと、今回だけは依頼料は
グレンに一瞬だけ憐れむような視線を向けたソティルは、ルミアの言葉に構うことなく足早に去っていく。
ルミアは悲しそうに、グレンは首を傾げながら暗闇に消えていくその後ろ姿を見つめていた。
三・四巻の話はクソ重くなります。
一・二巻の話ではソティルの出番が多すぎたので主にテトラを掘り下げたいな、なんて思ったり。