白と黒のワイルドカード   作:オイラの眷属

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筆が乗ったので今回は早めに投稿
また次から遅くなります


サイネリア島へ

「……ね……ん……姉さん!起きてください!港に着きましたよ!」

「……ふぇ?」

 

 重たい瞼を無理やり開けるテトラ。そこはいつも寝ている部屋ではなく、馬車の中だった。

 

「ああ、そっか……遠征学習の途中だったね。ソティル、今何時かわかる?」

「ちょうど正午を過ぎました。とにかく、一旦馬車から降りますよ。(ただ)でさえ他の人達よりも遅れてるんですから──」

 

 懐中時計を(もてあそ)びながらブツブツと文句を言うソティルにテトラは曖昧に笑みを返し、馬車から降りる。 

 そんなテトラがまず目にしたのはありとあらゆる店が立ち並ぶ商店街だった。通りは活気に溢れており、よく見てみると人だかりの中にクラスメイトも混じっている。どうやらソティルが言った通り、テトラ達は他の生徒達と比べてだいぶ出遅れてしまったようだ。

 

「ご、ごめんね?サイネリア島の事考えてたら全然眠れなくってさ」

「その年になって、恥ずかしくないんですか?」

 

 頬を膨らませ、テトラと一切目を合わせようとしないソティル。どうしたものかと困っているテトラに、思わぬ助け舟が入った。

 

「まぁまぁソティル。テトラは前から今日の事すっごく楽しみにしてたんだから、許してあげて?」

「そうよ。テトラにとってはこの遠征学習が初めて参加する大きなイベントなんだから」

「………ん、喧嘩はよくない」

「………貴方達ですか。そういえば姉さんと一緒に昼食を取ろうって約束してましたね」

 

 ルミアとシスティーナ、リィエルがテトラをフォローするとソティルは大きくため息を吐いた。

 

「わかりましたよ。一応懐中時計は渡しときますから、時間には遅れないようにしてくださいね?」

 

 そう言ってソティルがテトラに懐中時計を投げ渡そうとすると、テトラは不思議そうにソティルを見つめた。

 

「え?ソティルは一緒に来ないの?」

「………えっ?」

 

 あまりにも予想外の言葉だったのか、間の抜けた声を上げるソティル。

 

「いやいや、『なんでそんな意味わからない事するんですか』みたいな顔しないでよ。食事は皆でする方が美味しいんだからさ」

「今日は馬車にずっと乗っていたせいでいつもと比べてエネルギーを消費していないので、昼食を取る気はないのですが……」

「つれないこと言わないでさー!せっかくシーホーク(ここ)で有名なパンのお店まで調べてきたんだから一緒に食べようよー!」

「そんなことしてたのね……」

 

 ソティルの腕をぐいぐいと引っ張るテトラにシスティーナが呆れながらツッコミを入れる。

 一方、ソティルはテトラを無視して商店街に向かおうとしていたが、何度手を振りほどいてもテトラは粘り強くその腕を掴んでくる。そんな攻防が三分ほど続き、ついにソティルが根負けした。

 

「わかった!わかりましたから!私も行きますからそのお店!」

「ほんと!?よしっ!」

 

 ガッツポーズを取るテトラにルミアとシスティーナは苦笑し、リィエルは首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「わぁ……美味しそうだね……」

「人気の店だったら並ばなきゃいけないと思ってたけど、案外空いてたわね」

「ふふん、そこもちゃんと調べてきたの!あのお店、商店街の奥のほうにあるから他の所よりもお客さんが増える時間帯がちょっとだけ遅いんだって!」

「はいはい、姉さんが凄いのはわかりましたから落ち着いてください」

 

 鼻息を荒くするテトラをソティルが宥める。

 ちなみにその手にはサンドイッチが入った袋が握られていた。

 

「あ、確か船着き場に休憩所もあったはずだから、そこで食べない?」

「ほんとなんでも調べてますね……私は問題ありませんけど、他の三人はどうですか?」

 

 ソティルが問いかけると、ルミアは笑顔で頷く。

 

「私は賛成かな。出来ればゆっくり食べたいし」

「私もよ。確かに、遅れるかもって考えながら食べるのはちょっと嫌ね」

「………大丈夫」

「満場一致ですね。多分、ここからなら歩いても五分で到着出来るでしょうし、急がず行きましょう」

 

 前もって配布された地図を見ながら船着き場へと向かう五人。その道中、ソティルは何度もリィエルの世話を焼いていた。

 

「リィエル。さっきから気になっていたのですが、配られた地図と予定表はどうしたのですか?」

「………多分、無くした」

「そんな所だろうとは思っていましたけど……後でグレン先生に言って貰いに行きましょうね?」

「………ん」

 

 彼女はリィエルが来た当初は何もしていなかったにも関わらず、時間が経つにつれてルミア、システィーナと共にリィエルの面倒を見るようになった。テトラはそんな三人に置いて行かれたせいであまりリィエルと関われていないが。

 

「ねぇ、なんでソティルはあんなにリィエルの事を気に入ってるの?私やルミアともあんなに喋ったことないのに」

「私もちょっとわかんないんだよね。自分と似てるからってソティルは言ってたけど……」

「似てるから、かぁ……」

「「「うーん……」」」

 

 首を捻る三人。

 しかし、答えは出そうにない。

 

「………皆さんは何をコソコソと喋ってるんですか?」

「───っ!?」

 

 いつの間にか真後ろに来ていたソティルにテトラが小さく悲鳴を上げる。不機嫌そうな顔を見るに、どうやら会話の内容も把握しているようだ。

 

「言っときますけど、別に気に入ってるわけじゃないですよ。何故か放っておけないというか……」

 

 困ったように頭を掻くソティル。どうやら本人も上手く説明が出来ないようだ。

 話を逸らすための話題作りが欲しかったのか、ソティルはしばらく辺りをきょろきょろと見回すと突然前方を指さした。

 

「目的地が見えてきましたね!時間も限られてますし急ぎましょう!」

「え!?ちょっと!?さっき急がず行きましょうって言ってたじゃない!」

 

 システィーナが止める間もなく走り去ってしまったソティル。

 

「………恥ずかしかったのかな?」

 

 ルミアが苦笑交じりに呟く。言われてみればソティルの顔は心なしか赤かった気もする。

 とりあえず、四人でソティルの後を追おうとしていると……

 

「へ~い、そこのお嬢さんがたぁ~。ちょぉっといいかなぁ~?」

 

 軽薄そうな声が前から飛びかってきた。

 声のした方を見てみれば、シルクハットに洒落たフロック、腕にはステッキという伊達姿の青年が近づいてきている。

 

「………なんですか?」

「いやぁ~、お嬢さん達可愛いねぇ~。その制服、アルザーノ魔術帝国学院……だっけ?そこのでしょ~?こんなとこで何やってるの~?」

「………私達は『遠征学習』でここまでやって来ました。これからサイネリア島へ向かうために、船着き場へ向かっています」

「へぇ~、そうなんだぁ~。僕もサイネリア島に用事があるんだよねぇ~。これって運命感じない?ね?ね?」

「………感じません」

 

 青年に対応するシスティーナの声に段々と苛立ちが募っていく。システィーナはこういう女にだらしなさそうな男が大嫌いだった。

 

「いやぁ、こうして会ったのも何かの縁だよねぇ?どう?ちょっと寄り道して僕とお茶でも───」

 

 青年の言葉が突然途切れる。突然、肩に何かが触れている感触がしたからである。

 振り返ってみれば、穏やかに微笑む白髪の少女がいた。

 彼女の目は全く笑っていない事を青年はすぐに理解したが。

 

「嫌な予感がしたから戻ってきてみれば………これは一体、どういうことなんですか……!」

「ヒ、ヒィッ!待って!待つんだお嬢さんッ!ぼ、僕はただこの子達をお茶に誘おうと───」

「今の姉さんにストレスを与えるとは、いい度胸してますね……!」

 

 青年の肩から手を放すと、拳をポキポキと鳴らし始めたソティル。その後ろに()()()()()()()()ほどの覇気を纏っている少女に青年は完全に腰を抜かしていた。

 

「や、やめてくれ!ぼ、暴力は良くないとお母さんから習わなかったのか!?」

「襲われましたって言えば正当防衛で済みます……!」

「ひぃいいいいいいいいいい───っ!?」

 

 ソティルが拳を振りかぶったその時、その手を背後から掴む者がいた。

 

「お前が過敏になる気持ちもわかるけどな。流石に落ち着け」

 

 淡々とそう言ったグレンはソティルの手を解放した。ソティルは舌打ちをしながら腕を下ろす。

 一方、命拾いした青年はグレンに近づき、その手を取っていた。

 

「た、助かったよ!ありがとうお兄さ───」

「だ け ど な」

 

 グレンは素早く青年の背後に回り込むと、その首根っこを掴む。

 緩んでいた青年の顔が再び引き()っていった。

 

「お、お兄さん!?一体何を───!?」

「ボクも、キミとちょお~~~っと『お話』したいんだよねぇ~……」」

「え!?お、お兄さんもあの紅い目のお嬢さんとやること変わらないんじゃ───」

「じゃ、集合時間までには戻るようにするから。もしもの時は白猫がクラスをまとめといてくれ」

 

 青年の言葉を無視して、ずるずるとその体を引きずっていくグレン。

 

「ぎゃあ───っ!?お嬢さん達助けてぇえええええ───っ!?」

 

 情けない悲鳴を上げながら、青年はグレンと共に裏路地へと消えていった。

 それを見送ったソティルはすぐにテトラへと駆け寄る。

 

「大丈夫ですか姉さん?体の調子が悪かったりしませんか?」

「う、うん。大丈夫、だけど………ダメだよソティル。知らない人に殴りかかろうとするなんて」

「………すみません、頭に血が昇っていました」

 

 しゅん、と縮こまってしまうソティル。だいぶ反省しているようだ。

 あの青年もこれで懲りると思えば、今回ぐらいは許しても問題ないだろう。

 そう判断したテトラは、すぐにソティルに笑いかけた。

 

「でも、助かったのは事実だし今回だけは許してあげる。次からは許さないからね」

「………善処します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戻ってきたグレンと各自で昼食を終えたクラスメイト達を乗せ、定期船はサイネリア島へと向かう。

 その船首楼で、システィーナとソティルは海を眺めていた。

 テトラとルミアは船酔いでグロッキー状態のグレンを介抱しており(システィーナ達も手伝おうとしたが断られてしまった)、リィエルはグレンを船酔いから救おうと船を沈めようとしたため、現在拘束されている。

 

「………はぁ」

「………もうそろそろ立ち直ってもいいんじゃないかしら……?」

 

 顔を青ざめさせながらため息をつくソティルに、システィーナが心配そうな瞳を向けていた。

 

「姉さんの本気の叱責………結構、心に来るものが……」

「珍しいわね。いつもテトラから怒られても、ソティルは結構サラッと流してるのに」

「今回は私が冷静な判断を欠いていたとわかってますから余計に………」

 

 頭を抱えながらボソボソと呟くソティル。

 いつもの毒舌は冷静な判断の結果なのかとツッコミを入れたくなったシスティーナだったが、落ち込んでいる今のソティルに言うのは流石に気が引けた。

 

「テトラも言ってたけど、ソティルが来てくれて私達が助かったのは事実よ。それに、私も後ちょっとであの人を怒鳴りつけるところだったし」

「………システィーナは沸点が低すぎると思うのですが

「何か言ったかしら?」

「いえ、別に何も」

 

 皮肉気に笑ったソティル。

 

「まぁ、あまり落ち込んでいても周りを心配させるだけですね。切り替えます。それで、魔術戦の訓練は上手くいっているのですか?少し覗いてみた時に、私達と同じような拳闘の訓練をしていたようですが」

「ほんとに切り替え早いわね……」

 

 絶望したような表情から一転、いつもの気だるげな表情に戻ったソティルにシスティーナは少しだけ困惑していた。

 

「………私も最初に聞いた時は驚いたわよ。でも、アレが魔術戦の攻守に役立つって聞いたら納得も出来たわ」

「なるほど、戦闘の基礎を拳闘で学ぶのですね」

 

 システィーナの説明に、ソティルは感心するように頷いていた。

 

「テトラはどんな訓練をしてるの?」

「姉さんですか?基本的には体術ですよ。たまに剣術や槍術も教えてますけどね。竜の力を使う時はほとんど格闘ですし、姉さんは魔術を使うには不向きな体質なんです」

「不向き……?」

 

 ソティルの言葉にシスティーナは違和感を覚えた。

 テトラは筆記も実技も平均より上だったはずなのだ。

 そんな彼女の表情を見てソティルは瞳を一瞬だけ泳がせる。

 

「………えーと、まぁ、この話についてはおいおいします。マズいですね。さっきのガチ叱責が響いて冷静な思考が……」

 

 虚ろな目をしながら一人で思考に入り始めたソティル。そこにカッシュが通りかかった。

 

「二人共、ちょっといいか?」

「え?別に構いませんが……どうしたのですか?」

 

 声をかけられたことによって思考の渦から抜け出したソティルが首を傾げる。

 

「サイネリア島が見えてきたからそろそろリィエルの拘束を解いてやれ、って先生が言っててよ。でも、俺だけじゃリィエルちゃんがまた船を沈めようとしても止められないからさ、一緒に来てくれないか?」

「もちろんよ。ソティルも───」

「無論です。リィエルをあまり長い時間拘束させるのは可哀そうですし」

「………やっぱり貴方、リィエルには甘いわよね」

 




また次の話は遅くなりそうですがご了承を

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