次は私が書くのを楽しみにしているシーンが続くので筆が乗る………と信じたいですが、あまり期待はしないで頂ければなぁと思います。
事実上の自由時間となっている遠征学習二日目。
昨日サイネリア島に到着した生徒達は浜辺ビーチバレーに興じているところである。
「………えい」
「《見え………いや無理ぃいいいいいい────ッ!?」
宙に浮いたボールをリィエルがハエでも叩くかのようにぺちんと叩く。力が込められているようには見えないその一撃でぐにゃりと歪んだボールは物理法則に従って相手コートの浜辺へと向かい、そのまま砂浜の上にめり込んでいった。
魔術学院のルールに
「ゲームセット!リィエルチームの勝利です!」
「く、悔しい………!」
「まぁまぁ、相手が強すぎたから仕方ないよ」
「さ、流石の
がっくりと肩を落とすテトラに対して、同じチームのセシルとウェンディは諦めがついているようだった。
それもそのはず。テトラ達の対戦相手は神のいたずらとしか思えないほどの屈指の強さを誇るチームだ。
人間離れした身体性能を誇るリィエル。
リィエルを除けばクラス随一の運動能力を持つカッシュ。
サイキック系の魔術に秀でていることに加え、そのビキニ姿で(無意識に)男子生徒特攻の精神攻撃をしてくるテレサ。
攻守共に優れたこのチームは負けることはおろか、今まで対戦してきた全ての相手チームに一点も得点を与えていなかった。
男子生徒は負けた時もテレサの一部分を見ながら「素晴らしい物が見れた。悔いはない」と清々しい顔をしていたが。
「………姉さん、目がガチだったんですけど」
「テトラは負けず嫌いなところがあるもんね………」
一方、ソティルはそんな様子をジト目で見つめ、審判を請け負っていたルミアも思わず苦笑していた。
「ソティルはビーチバレーしないの?せっかく来たんだから遊んでいけばいいのに」
「姉さんと違って私は水着も持ってきていませんし、遊ぶ気力もありません。それに───」
苦々しい顔をしながらソティルは続けて言った。
「───始めちゃったら能力使ってまで勝ちに行きたくなりそうなんですよ」
「え?」
「なんか最近、自分が姉さんと性格が似ているような気がしてきて………」
「う、うーん………?」
困惑するルミア。
言われてみれば、この二人は根本的な性格は似ている気もする。しかし、ソティルがビーチバレーで熱くなるところなんてルミアはとてもじゃないが想像できなかった。
そんなルミアの心中を察したのか、ソティルが別のコートで試合をしている一人の男子生徒に視線を向ける。
「ギイブルでさえああなるのですから、私もこの陽気にやられないとは限りません」
「そうかな………?」
ソティルから遠回しに『陽気に完全にやられている』と言われたギイブルだが、そんな会話は彼の耳には入ってこなかった。
「《見えざる手よ───ッ!》」
「ナイスだギイブルッ!後は俺が決める!」
「お願いします、先生!」
ギイブルが【サイ・テレキネシス】で頭上にはね上げたボールをシスティーナが素早くトスする。そして───
「しゃおらっ!死ねぇえええええ───ッ!?」
グレンの身体が弓のようにしなり、次の瞬間には全身のバネを余すことなく使ったスパイクが繰り出されていた。
「………どこのスポーツ漫画ですか」
「グレン先生もシスティも凄いけど………ギイブル君も気合入ってるね」
ギイブルの意外な一面にルミアが呆気に取られていると、試合を終えたテトラが審判席に近づいてきた。
「お疲れ様です。こっちは竜の力使おうとしないかヒヤヒヤしてました」
「いやいや、流石に私でもそんなことしようとは思わないよ」
「へぇ………それで、本音は?」
「………リィエルがあんな強さならこっちが竜になっても誰も文句言わないよなとか考えてました」
「やっぱりですか。まぁ使ってたらブン殴ってましたけど」
「怖っ!?」
ソティルの物々しい発言にテトラが冷や汗を流す。
「ま、それだけ楽しんでいるならよかったです。っと、次の試合始まるみたいですね。決勝戦はだいぶ期待できそうです」
「じゃあ皆で応援しにいこっか」
「個人的にはシスティのチームに私達の敵討ちをしてほしいなぁ………」
「私はリィエルのチームに勝ってほしいですね。ここまで来たら圧倒的な強さを見せつけて貰いたいです」
───なんだかんだ言ってここにいる全員がビーチバレーを楽しんでいる。
こうして、少年少女の楽しい時間は飛ぶように過ぎ去っていった。
~~~
翌日、研究所見学の日がやってきた。
研究所はサイネリア島の中央に位置する。グレン達が宿泊していた
そして、都会育ちの生徒はその険しい山道に苦しめられていた。
「はぁ………はぁ………」
「大丈夫かリン?俺はまだ余裕あるから、その荷物持てるぜ?」
「カッシュ、大きい方の荷物は私が持つよ。カッシュは小さい方をお願い」
「お、いいのか?ありがとなテトラ」
「ふ、二人共ありがとう………」
田舎育ちのカッシュも他の生徒と比べれば疲労は蓄積していないが、テトラに至っては荷物をたくさん持っているにも関わらず、疲労が全く見えない。
元貧困層のため、労働には慣れているテトラ。荷物運びくらいならお手のものである。
彼女は重い荷物をひょいひょいと持ち上げ、そんな状態でも他の生徒よりも早く歩いていた。
「鍛錬の成果………だけじゃないでしょうね。そんな技術、一体どんだけブラックな働き方させられたら身につくんだか」
「………まぁ、あの頃は大変だったよ」
死んだ目をするテトラに呆れるように肩をすくめるソティル。クラスの他の生徒達もテトラの様子に思い思いのリアクションをしていたが、リィエルだけは人形のようにただただ歩を進めていた。
と、その時である。
「っ!?」
「リィエル!?」
リィエルが崩れかかった石畳を踏み、体制を崩してしまった。ちょうどその後ろにいたルミアはリィエルの元に駆け寄り、手を差し伸べようとするが───
「………触らないで」
リィエルは、冷たく攻撃的に言い放ちながらルミアの手をはたいた。
その目にはルミアだけでなく、他の生徒への明確な敵意がありありと浮かんでいる。
呆然とするルミアを置いてその場を立ち去ろうとするリィエルだったが、一部始終を見ていたシスティーナがその手を掴んだ。
「………ちょっとリィエル。何があったか知らないけど、ルミアは貴方のためを思って───」
「うるさい」
「え?」
「うるさいうるさいうるさいっ!もう私に関わらないで!」
突然、リィエルは声を張り上げながらシスティーナの手を振りほどき、二人に背を向ける。
周りの生徒もぎょっとしてリィエルに視線を向けるが、当の本人はそんなものに構う必要はないと言わんばかりに先へ先へと、山道を進んでいく。
リィエルは途中でソティルの横を通り過ぎて行ったのだが………何故かソティルは咎めることもせず、黙ってリィエルを見送っていた。
一方、頭に血が上ったシスティーナはリィエルの後を追おうとするも、ルミアから止められていた。
「何があったかわからないけど………今はそっとしておいてあげよう?」
納得はしていない。だが、親友の悲しげな顔を見ると、システィーナの怒りの感情は急速にしぼんでいってしまった。
「………お前ら、本当にすまん」
困惑気味の二人にぶっきらぼうな声が投げられる。振り返ってみると、グレンは気まずそうに俯き、いつものように飄々とした雰囲気を纏っていない。
「昨日の夜、俺がいらんことを言っちまったせいであいつを怒らせちまった………今のあいつは不安定なんだ。原因である俺が言うべきじゃないんだろうが………あいつに愛想をつかさないでくれねぇか………?」
自信なさげに言ったグレン。その背中は普段とは比べ物にならないほどに小さく見えた。
そんなグレンに、ルミアは優しく微笑みかける。
「大丈夫ですよ。急に拒絶されて少しびっくりしましたけど、あの子が悪い子じゃないことは知っていますから」
「私も大丈夫ですよ。それより、先生は早くリィエルと仲直りしてくださいよ?もう!」
それだけ言うと、システィーナはまた山登りを始め、ルミアはグレンに軽く一礼するとシスティーナの元へと向かっていった。
(やっぱ、リィエルは
これがリィエルの感情を無視した自分勝手な考えとはわかっている。だが、わかっていてもそんな願いを持たずにはいられないグレンだった。
~~~
白金魔導研究所に到着したグレン達。彼らを迎えたのは所長のバークス=ブラウモンであった。
話を聞くに、どうやら彼が研究所見学の引率をしてくれるらしい。
バークスはさも当然のことのように話していたが、魔術論文などにあまり興味がないテトラでさえもその名前を知っているほどの有名人が引率をやってくれるというのはとんでもないことである。
「『普通では立ち入れない区画も私の権限なら入れる』って言ってたよね!凄いよソティル!システィーナが言ってたんだけどね!最新の研究って………ソティル?」
「………考えていても仕方ないか………ふぅ、行きましょう姉さん。私も白金術には多少興味が───」
「リィエルのこと、やっぱり気になる?」
テトラの指摘にソティルはびくりと身を震わせる。いかにも図星と言った様子だ。
ため息をついたテトラに、ソティルはぽつりぽつりと話し始めた。
「あの子がクラスの人を拒絶することには事情があるんでしょう。ですが、ずっとあんな態度を取っていてはいつか周りに誰もいなくなってしまう。何を言っても今のリィエルが聞いてくれるとは思いませんし、だからと言って洗脳やら催眠やらを使うワケにもいきませんし………一体どうすればいいんでしょうか………?」
ソティルが疲れ切った表情でため息をついた。その表情はまるで反抗期の子供を心配する母親のようだ。
テトラはそんなソティルの普段とのギャップに何とも言えない表情になる。
「………ひょっとして偽物だったりする?本物のソティルはどこ?」
「空 気 も 読 め な い ん で す か ?」
ドスの利いた恐ろしい声を出しながらソティルはテトラの腕を掴んだ。
能力は全く使ってないはずなのに、掴まれた腕からはギチギチと骨が軋むような音がしている。
その音に違わず、腕からは激痛という形で脳へと救難信号が発信されていた。
「いででででででっ!腕から嫌な音してるよっ!?これぐらいこと言ってもいつもだったら怒らないじゃん!?」
「………ふん、今日の私は気が立ってるんです」
ふくれっ面をしながらテトラの腕を離したソティル。
テトラはすぐに赤くなった腕の一部をさすり始めた。
(ソティル、遠征学習に来てからずっと不機嫌だなぁ………)
おそらくリィエルのことで心労が絶えないのだろうが、だからと言って他の人に八つ当たりするのは勘弁してほしい。まぁ、ソティルを煽ったテトラに非がないというわけではないのだが。
「とりあえず今は様子を見ます。これ以上機嫌を悪くされても困りますし、姉さんもリィエルにちょっかいかけないでくださいよ?」
「わかった、善処するよ」
「………善処?」
そんな会話の後、バークスに引率される形で研究所内の見学を始めた二人。
ソティルは心ここにあらずという有様でそわそわしながら研究所内を歩き回っていた。様々な心配事で人間状態の彼女の頭はオーバーヒート寸前である。
一方、テトラは様々な研究内容に目を輝かせる反面、自分が見ている標本や実験内容に何故か強烈な嫌悪感を感じていた。
ルミア達の会話がテトラの耳に入ってきたのは、彼女がちょうど標本にされたホムンクルスを目にしたときであった。
「………人が命を好き勝手に弄ったりして、いいのかなって」
ルミアが発したただその一言だけで、テトラが自分の嫌悪感の正体を理解した。
私は一度死んで生き返った。それは輪廻転生の円環に抗う───つまり、神や命を冒涜する行為の極致だ。そしてこの失敗作も人が命の摂理に抗い、その結果として作り出されたモノ。
出来の違いこそあれ、私とこの命の出来損ないは同じ存在なのだ。
それを考えた瞬間、テトラの心は一瞬の間に凍り付いた。
ルミアは───否、その他のクラスメイト達もこの研究所で目にするモノにある程度の忌避感や罪悪感を覚えているはずだ。
ルミアやシスティーナは同じような存在である私にも多少なりとも恐怖を抱いているのだろうか?他のクラスメイト達が私の正体を知ったら、果たして今まで通りの生活を送ることが出来るのだろうか?
私は───
怖い、嫌だ、わからない、
自分の心に渦巻く負の感情に戸惑い、子供のように怯えるテトラ。
彼女には『自分が人間という生物からかけ離れた存在である』という自覚が、そして覚悟が足りていなかった。
だが、殺されるその時まで魔術の裏の面すらも知らなかったような純粋な少女に、自分が大勢の人から忌避される存在になった自覚を持てというのはあまりに酷な話であった。それを踏まえれば、テトラがこうなってしまうのも当然と言える。
自分自身への恐怖、周りの人間に対する不信感───そんなどす黒い感情がテトラの心中で首をもたげたその時、ある一つのワードがテトラの意識を現実へと引き戻した。
「………
テトラがはっとして声のした方向を見ると、そこには好々爺然とした顔をしているバークスがいた。
どうやらシスティーナが話題を変えようとその禁忌の実験を話題に挙げたらしい。
その研究内容は死者の復活・蘇生。
バークスによると、この研究は生物を構成する三要素(肉体たる『マテリアル体』、精神たる『アストラル体』、霊魂たる『エーテル体』のことである)を他の物で代替することで成立する代物らしい。
そして何故か途中で話に割り込んできたグレンが、『エーテル体』の代替品である『アルター・エーテル』の作成に何人もの霊魂の抽出が必要になるなどの様々な問題が噴出し、結局このプロジェクトは凍結されたという話も補足してくれた。
「………死者の復活、かぁ」
テトラは無意識にぼそりと呟く。どうやらこの呟きはルミアとシスティーナにも聞こえていたようだ。ルミアが申し訳なさそうにしながらテトラの顔を覗き込んでいた。
「ごめんなさいテトラ、私───」
「………大丈夫だよルミア。私はわかってる。わかってるから」
テトラはいつも通り穏やかに笑う。
その瞳の奥に、小さな歪みを宿しながら。
テトラには今からどんどんSAN値を削ってもらいます。すまんな………。
ここから雑談
とにかく今回のファスティバさんのイベントがぶっ刺さった。重い過去を背負ってるロクアカのメンバーがラードゥガに行ったらどうなるんだろうみたいな話も書いてみたいと思った。書かないと思うけど。