白と黒のワイルドカード   作:オイラの眷属

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最初にこの話が出来上がった時は4000字もなかったのにいつのまにやら8000字にも…
やる気が出たときに一気に書いて出ないときは一文字も書かないって人なので次の投稿にも一体何ヵ月かかるやら…


夜の始まり

 リィエルを追って空を飛翔していたテトラだったが、しばらくすると血の匂いは樹海の中へと続いていることに気が付いた。

 

(樹海の上から血の匂いを追って逃げ込んだ場所の入り口も発見………っていうのは流石に無理かな)

 

 彼女は一旦地上付近まで高度を下げると、翼で大きく風を起こし、鬱蒼と茂る森の中を飛行する。

 今でこそ戦闘訓練を受けているものの、帝都オルランドの貧民街で育ち、森に入ったことなど数えるほどしかなかったテトラが樹海を進む方法など知るわけもなく、彼女の白い肌に時折鋭く尖った小枝が小さな傷をつけていく。だが、そんなことを気にしている余裕は今のテトラにはない。

 

(多少の傷だったらあとで法医呪文(ヒーラー・スペル)使えばいいだけだし、とりあえず今はリィエルを追う事に集中しないと………!)

 

 テトラが習得している探知系の魔術は遠見の魔術───黒魔【アキュレイト・スコープ】ただ一つ。しかも、この魔術は対象指定魔術ではなく座標指定魔術である。リィエルのいる地点がわからない今は使用が出来ない。

 つまり、今は血の匂いのみがリィエルを追うために残された唯一の手がかりであり、これを失えば彼女が逃げた場所への到達はほぼ不可能となる。

 

(血の匂いがどんどん薄れていってる………お願いだから間に合って………!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………」

 

 白魔儀【リヴァイヴァー】の施術が終わり、後はグレンが目覚めるのを待つのみとなったアルベルト。

 計り知れない潜在的魔術容量(キャパシティ)を持ち合わせているシスティーナでも、本来なら数人がかりで行う儀式をたった二人で行うのは流石に堪えたようだ。儀式を終えた途端に糸の切れた人形のように倒れたかと思うとそのまま眠ってしまった。

 

(魔力制御に対する感覚も非常に優れている。鍛え上げれば女王を守る戦力にもなり得るだろうが………)

 

 その時、ベランダから轟音が聞こえてきたかと思うと人影が部屋の中に転がりこんできた。

 アルベルトはすぐさま臨戦態勢を取り、うずくまる人影を見据える。

 人影はむくりと身を起こすと、冷たい目で自分を睨むアルベルトに物怖じする様子もなく疲れきったような声でアルベルトに問いかけた。

 

「………私とおなじ顔をした少女の行方を知らないか?」

 

 高圧的な口調で喋るその少女は端正な顔立ちにくすんだ白い髪。それはアルベルトが以前会ったことのある人物、ソティルだった。

 ───今の姿はとても『人』と表現していいものではないが。

 

「その姿は………」

「詳しくは後で説明する。まずは私の問いに答えろ」

 

 有無を言わさぬほどの重圧がアルベルトを襲う。

 それと同時にソティルがひどく焦っていることを悟ったアルベルトはすぐにその問いに答えた。

 

「………見ていない。」

「そうか。ならやはりルミアを助けに………おい、お前の王女救出に同行させろ。私の探し人は恐らくお前の向かう場所にいる」

「………お前の情報解析能力はどうした?」

「───ッ!?」

 

 ソティルの眉がぴくりと動く。

 

「………なんのことだ?」

「ハッタリはよせ。何週間か前、『星の獣』と呼ばれる生物についての資料が天の智慧研究会のアジトから見つかった。資料によればその獣が持つ能力は『情報の支配』………まさかお前がその『星の獣』と呼ばれるソレとは思いもしなかったが、そう考えれば以前発揮した不自然な変身能力、情報収集能力にも説明がつく」

「………カマをかけたわけじゃないのか。いやはや、私の存在が研究会に割れていたとは思わなかった。ただ単に私が慢心して情報の偽造をしくじっていたのか、それとも───」

 

 少し冷静になったのか、皮肉気な笑みを浮かべたソティル。

 アルベルトは眉一つ動かさず、その少女に冷たい視線を向け続ける。

 

「まぁいい、お前には元から全て話すつもりでいた。だが………お前以外の政府関係者に私の存在を知られるのはよろしくないな。今現在、私の居場所を知っているのは何人くらい───」

 

 瞬間、ソティルの左目からバチッという音とともに火花が散った。

 アルベルトはすぐに指先をソティルへと向けるが、ソティルは火花が散った目を手で押さえながら忌々しげに舌打ちをする。

 

「………まだジャミングの範囲内なのか。クソッ、能力を使うことを制限されては手の打ちようがないな。さっきの発言を聞くに、私の正体に勘づいているのは政府の内部ではお前だけなんだろうが………確証はないが今は仕方がない。それで、お前は今から私をどうするつもりだ?」

「上からの命令がない限りお前と敵対することはない。貴様がこちらに攻撃を加えるならば話は別だが」

「なら安心していい。今のところお前と私の利害は一致している」

 

 と、今まで死人のように眠っていたグレンがうめき声をあげながら身体を起こした。

 今まで睨みあっていたソティルとアルベルトは自然とそちらへと意識を向ける。

 

「おや、眠り姫………もとい王子様がお目覚めみたいだな」

「ふん、呆れるほどしぶとい奴だ」

「アルベルトと………ってソティル!?お前なんでその姿に───」

「この人間に正体を明かすほど事態が急を要しているということだ。ま、既にバレていたんだが」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らしたソティルはそのまま畳んでいた羽を広げ、ベランダから外へ出ようとする。

 

「アルベルト。グレンも目覚めたならばもうここに居る理由はないだろう?状況の整理は道中でする。今はとにかくいち早く───」

「───ッ!待てお前ら!」

 

 突然グレンが出した大声に不可解そうな表情をするソティル。

 それに対してアルベルトは『わかっていた』とでも言うかのように表情を崩さない。

 

「リィエルに会いに行くんだろ?俺も連れていけ。アイツの勘違いを正せば連れ戻すことだって出来るはずだ」

「………ふむ、正直言って兄にそそのかされた今のリィエルがお前の話を聞くとは思えない………ま、お前は道中の戦力にはなるだろう。私は構わないが」

 

 そんなことはどうでもいいからとっとと行くぞとばかりに翼をはためかせるソティル。

 彼女が翼を上下させるごとに夜の冷たい風がボロボロの部屋の中に入り込んでくる。

 だが、アルベルトは侮蔑を含むような冷たい視線でグレンを射貫いたままだ。

 

「………()()()お前にリィエルを救う資格があるとは思えん」

「───ッ」

「それに加えてお前の『正義の魔法使いごっこ』がリィエルが裏切った原因の一つであることは間違いない。そんなお前が俺の任務の邪魔をする資格などない………違うか?」

「………ああそうだ、その通りだよ。アイツを救う資格も、お前の邪魔をする資格も俺にはねえ。もうこれは俺の個人的な我儘だ。だがな、無邪気に学園生活を楽しんでたアイツを………日向の世界で生きられるかもしれないアイツを切り捨てるなんて俺には出来ねえ………!」

 

 グレンはアルベルトの胸ぐらを掴まんばかりにまくし立てる。

 ソティルも流石に翼をはためかせるのはやめていたが、忌々しげな表情をしながらベランダの手すりを小刻みに指でたたいていた。

 

「それにアイツはもう、俺の生徒達にとって切り離せない存在だ!あいつらを泣かせるようなこと、教師の俺が絶対に許しちゃいけねえんだよ!」

「お前が許せなかろうが、俺には関係のないことなんだがな」

「ああそうかよ!だが、俺はお前が何と言おうとリィエルの所に行くぞ!どうしても止めたいって言うのなら俺を殺してみろッ!」

「………変わらんな貴様は。相も変わらず愚か者だ」

 

 そう言い切ったアルベルトが口を閉じると、冷たい静寂が場を支配する。

 だが、その沈黙を破ったのも彼であった。

 

「………だからこそ、俺はお前に期待するのだろうが」

 

 アルベルトが冷淡に言い捨てたかと思うと、いきなりその姿がグレンの視界から消え、グレンの右頬に衝撃が走った。

 突然の出来事にグレンは声を出す間もなく壁に打ち付けられ、そのまま崩れ落ちる。

 

「特務分室を無断で去った落とし前はこれで勘弁してやる」

 

 アルベルトは先ほどと変わらない冷徹な目でグレンを見下ろしながら懐から何かを取り出し、それをグレンの足元へと放った。

 

「これは………《ペネトレイター》………ッ!?」

 

 骨董銃(こっとうじゅう)と呼ばれてもおかしくないその無骨な銃はグレンが軍魔導士時代に愛用していたもの。

 忘れられるはずがなかった。

 

「やっと終わったか。全く、グレンにはまだやるべきことがあるというのに無駄な時間をかけて………」

「俺がやるべきこと………なんだ、それ?」

 

 グレンが首を傾げると、ソティルは呆れたように深くため息をつく。

 

「生徒達」

「は?」

「おそらくだが、皆は今の状況を不安に思っているはずだ。お前が多少なりとも解消してやれ」

「………そうだった。ったく、教師の俺が───とか、どの顔で言ってたんだ俺」

「ちなみにだが、お前がここに残るんだったらそれをする必要性は薄いんだからな?置いていかれたくないならさっさと行ってこい」

 

 終始不機嫌そうなソティルに気圧されるように急いでコートを羽織り、部屋から出ていくグレン。

 

「はぁ………ついてくるんだったらもう少し早く目覚めて欲しかったんだがな」

 

 ぶつくさと文句を言いながらも、それをほほ笑みながら見送るソティルにアルベルトが声をかけた。

 

「………そんなことをグレンにさせている暇がお前にあるのか?」

「私の目的はある怪物を世に解き放たないことだ。と言っても、どう足掻こうといつか怪物が解放される日は必ず来る。今回の目的が達成できなくとも、その日が今日だったというだけだ。お前とその怪物に関わりを持たせたくはなかったんだが………ま、その時はお前やグレンとヤツを打倒すればいいだけだ」

「俺は協力するとは一言も言ってないんだがな」

 

 ソティルの発言をバッサリと切り捨てたアルベルト。

 しかしソティルは気分を害した様子もなく、煽るように続けた。

 

「もしヤツが解放されたなら、ヤツとは王女(ルミア)が囚われている場所で遭遇することになる。その時はまず間違いなくお前も協力せざるを得ないことになるな」

「………その怪物とは何なのだ?」

「それは道中でグレンも交えながら話そう。グレンには前もってある程度は話しているんだが」

 

 アルベルトが不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ソティルがくつくつと喉を鳴らしながら笑う。

 その後は気まずい時間が少し続くが、突如ソティルが口を開いた。

 

「お前に関しての情報は少量ではあるが以前から所持していた。だが、お前は私が思っていたような冷血漢ではなかったようだな」

「………」

「なんだかんだ言ってお前はリィエルのことを心配しているようだし………もしかしてお前、最初からあの子は連れ戻すつもりだったのでは───」

「そういうお前も俺の思っていたような兵器でもないな」

「………ふむ」

 

 ソティルの顔が強張る。

 

「あの資料には『最強となるために手段を選ばぬ生体兵器』と記載されていたが、その実はどうしようもないほどのお人よし、とでも言えばいいのか?ティンジェル嬢が親衛隊に襲われた時といい、今回といい、苦しむ誰かを救うために自ら面倒事に首を突っ込む………まるであの男のようにな」

「………そこは認めよう。今の私は一年前と比べれば随分と甘くなった。慢心も同情もするから、下手をすれば以前よりも弱くなっているかもな。だが───」

 

 ソティルの瞳が一瞬のうちに昏く淀んだ色になる

 

「───私は、目的のためなら誰だろうと切り捨てる覚悟はしているつもりだ」

 

 アルベルトの視線が先ほどよりも鋭くなる。

 それを察知したのか、ソティルの目が元の美しい深紅に戻った。

 

「と言っても、あくまでやむを得ない場合だけだ。効率がいいからと言って他人を犠牲にするような真似は今の温い私には出来ないさ」

 

 ソティルが自嘲気味にそう言うと同時にグレンが部屋に戻ってくる。

 

「もういいぜ。言えることは言ってきた」

「よし、なら早く出発するぞ。宮廷魔導士団でも屈指の強さとされた《愚者》と《星》のコンビ………期待させてもらう」

「俺はこいつと組むなど願い下げだったのだがな。こいつと組むと厄介事ばかり降りかかってくる」

「おいおい、アルちゃんは素直じゃな───わかった、今の言葉は撤回するから俺の額に指先を向けるんじゃねえ」

「………お前達は緊張感がないな。とにかく、状況の整理は目的地に向かいながら行うぞ………はぁ、今夜は長い夜になりそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───バークス様、侵入者ですわ」

「な、何だと!なぜここが………いや、もうそんなことはいい!何者なのだそいつは!?」

「アルザーノ帝国の制服を着ているようですが………とても人間には見えませんわね」

「人間には見えないだと………!」

 

 バークスがモノリス型の魔導器を操作すると壁に映像が映し出され、そこには実験施設の天井すれすれを滑空するテトラが映し出されていた。

 リィエルは眠たげな目を一瞬だけ見開き、ルミアが驚愕と不安が入り混じったような表情になる。

 ちなみに、彼女を視認して一番動揺したのはリィエルの兄である。

 

「あいつッ!?バレるとは思っていたがまさかここまで速いなんて………ッ!?」

「………あら、貴方はあの方を知っていらっしゃるのですね」

 

 エノレアの咎めるような言葉も聞こえないほどの恐怖に震える青年の隣で、リィエルがぼそりと呟いた。

 

「あれは、ソティルじゃない」

「な、なんだってリィエル。髪の色は違うが、あいつは確かにあの港で戦った───」

「ソティルは双子の姉がいた。あれは多分、ソティルじゃない」

 

 あんな化け物に双子なんていたのか?

 

 そうツッコミたくなる青年だったが、言われてみれば侵入者とあの化け物には髪の色などの微妙な違いがある。

 青年は多少なれど落ち着きを取り戻し、あっけにとられていたバークスも正気を取り戻すと、さらに魔導器を操作する。

 

「ふん!それなら私の作品をけしかけてくれるわ!」

「僭越ながらバークス様、そんなものでは彼女は止められないと思いますわ」

「………エノレア殿、まさか貴方は私の合成魔獣(キメラ)作成の技術を疑っておられるのか?」

 

 怒気を孕んだバークスの言葉に全く気圧される様子もなく、ただくすくすと笑うエノレア。

 

「いえいえ、そんなことはありませんわ。ただ、あの力は別格ですのよ」

「別格?あの程度の固有魔術(オリジナル)が、私の作品達よりも上だと?」

()()()()によれば………そうなりますわね」

 

 バークスの手が屈辱にプルプルと震え始める。

 生粋の研究者であると同時にどこまでも傲慢な彼は、自分の半分も生きていないであろう小娘に自分の研究が劣っているという事実を認めることなどできなかった。

 『あの御方』というのが誰なのかという問いは怒髪天(彼の頭から髪はほとんど失われているが)のバークスの思考にあるはずもなく、こめかみに筋を浮かべながら一心不乱に魔導器を操作する。

 

「ははははっ!面白い!ならば私の最高傑作もあのガキにぶつけてやろう!私の邪魔をする者は灰すらも残さずに消してやるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「血の匂いがここに続いてたから大丈夫だとは思うけど、やっぱり鉄製の扉を無理やり開けちゃったのはマズかったかな………ここ、どう見ても昼間見た研究所の一部だよね」

 

 数分ほど前、テトラは樹海の中に設置されているのは明らかに不自然な鉄製の扉を発見する。

 だが、当然その扉は人並みの力で開けようとしてもぴくりとも動かない。

 そこでテトラは竜の腕力で扉を叩き壊し、その中へと潜入することに成功していた。

 

「どこかで他の獣の血の匂いを勘違いして追い始めたとかだったらどうしよう………もしそうだったらリィエルは見失ったってことになるし、研究所の扉を無意味にボッコボコにしたってことにもなるし───」

 

 テトラの呟きは突然目の前に現れた巨大な影によって遮られた。

 

「………そんな心配、しなくてよかったみたいだね」

 

 その影の正体は毛皮の代わりに岩肌を纏い、長い一本角を持つ獣。

 明らかにこの島の生態系から逸脱した存在だ。

 

「戦闘用の合成魔獣(キメラ)………今ではもう制作を禁止されてるはずだし、やっぱりあの研究所の誰かが天の智慧研究会と………うわッ!?」

 

 魔獣はテトラとの距離を一気に詰め、大樹のような前足をテトラに振り下ろす。

 テトラはとっさにその場から飛び離れ、魔獣と距離を取った。

 攻撃を避けられた魔獣はテトラの方へと視線を向け、唸り声をあげる。

 さらに───

 

(奥から足音が近づいてきてる………!)

 

 目を凝らして見てみると、二足歩行をする人型植物、全身に炎を纏った巨鳥、複数の頭を持つ犬など怪物(クリーチャー)のオンパレードである。

 

「………殺したくはないけど、だからと言ってこんな数を相手に手加減なんて出来ないだろうし………ううん、実践で使ったことないけど、アレなら………!」

 

 テトラは目を閉じ、背中に生えた巨大な翼を大きく広げた。

 当然、魔獣たちは無防備な獲物を引き裂こうと我先にテトラへと向かっていく。

 ところがテトラが目を開いた瞬間、魔獣たちは一斉に動きを止めた。

 テトラはそのまま暗い声で脅すように言葉を紡ぐ。

 

「………どいて。()()()()()()()()()?」

 

 彼女が使っているのは、ある世界でドラゴニュートと呼ばれる種族が使う術───自分へと挑んでくる者を屈服させる竜の威圧を真似たものだ。

 本来ならば術を使う本人が言葉を発さなくとも周囲にいる生物には竜の幻影とその咆哮が聞こえるらしいが、テトラは訓練でもそこまで至ることは出来ていなかった。

 だが、テトラの言葉は魔獣たちには憤怒に燃える竜の咆哮に聞こえている。

 兵器として制作されたとはいえ、その生存本能は脳の奥底へ焼き付いている魔獣たち。

 ───歯向かえば、殺ら(喰わ)れる。

 彼らは自らと目の前にいる生物の格の違いを悟り、風のようにその場から逃げ去っていった。

 ………一匹を除いて。

 

『オオオォォォ──────ッ!!!』

 

 テトラの前に立ち塞がるのは見上げるほどに巨大な亀。

 その甲羅は宝石のように透き通っており、見惚れそうなほどに美しかった。

 口からむき出しになった牙はそれ以上に恐怖を掻き立てるものであったが。

 明白な敵意を向けてくる目の前の生物にテトラは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「竜を怖がらないってどんだけ自分に自信が───」

 

 閃光。

 幾条もの稲妻がテトラを襲い、その身を焦がさんとする。

 あまりにも予想だにしない攻撃にテトラは急所を防御することで精いっぱいだった。

 連発することは出来ないのか、あれほど猛威を振るっていた雷は数秒のうちに嘘のように収まった。だが、テトラの口からは苦悶の声が漏れだし、がくりとその膝が落ちる。

 

「うぁ………ッ!?流石に………それ………卑怯じゃ………ない………!?」

 

 大亀はすぐに甲羅を帯電させ、もう一度雷撃を放とうとしていた。

 満身創痍となりその場から逃げ出すことも叶わないテトラは、勝ち誇るように自分を見下ろす怪物を睨みつけることしか出来ない。

 

(覚悟はしてるつもりだったけど………こんなに早いなんて………)

 

 視界にチラつく死という文字。

 テトラはその絶望に身を任せて───

 

「………そんなわけ………あるか………ッ!」

 

 リィエルと話を出来ていない。ルミアを救えていない。

 こんなところで死ぬなんて絶対に嫌だ。

 

「くぅ………ッ!?ああぁ………ッ!」

 

 蛇のように体中を這う激痛に耐え、立ち上がったテトラ。

 そしてその鱗の生えた腕を目の前の倒すべき敵へと向ける。

 

「アイツを倒す………!」

 

 一方、帯電が完了した大亀は勝利を宣言するように雄叫びをあげ、その雷をテトラへと全放出しようとする。

 が、

 

『ガ、ガアアァァァァァァァァ─────ッ!?』

 

 悲鳴にも似た咆哮を上げる大亀。

 大亀自らが放った雷撃が、自らの甲羅に亀裂を入れていた。

 テトラに放たれたはずの雷撃は突然急旋回して辺りを黒焦げにしたり、あげくの果てにはブーメランのように向きを変え、大亀へと直撃したものもあった。

 それだけではない。放出された雷撃の色は明らかに妙だった。

 ある雷は白、ある雷は黒、ある雷は緑───それらは普通ならば在りえない色に変化していたのだ。

 当然ながら自らが放った雷に耐性があるはずの大亀。しかし、彼に向かってくる変色した雷はその甲羅だけでなく、内部の臓器にも絶大なダメージを与える。

 

「な、何………?私何もしてないんだけど………竜の力ってこんなのもあったっけ………?」

 

 肩で息をしながら戸惑うテトラ。

 結局は大亀が放出した雷のうち、テトラへと向かってきたのは一筋(ひとすじ)のみで、テトラはギリギリではあったがこの一撃を避ける。雷撃の大部分は様々な方向に飛んで壁や床に着弾し施設を廃墟に変え、三分の一ほどは大亀に直撃していた。

 予想外の逆転を食らった大亀は弱弱しい咆哮を上げるとゆっくりと瞳を閉じる。

 まだ息はあるようだが、戦闘の続行は不可能だろう。

 だが、戦闘が難しいのはテトラも同様であった。

 

「はー………はー………行か、なきゃ………」

 

 黒焦げになった足を引きずり、テトラは施設の奥を目指す。




テトラが弱ったから逃げ出したキメラ達は戻ってきて襲い掛かったりするんじゃないの?って思ったそこのキミ。
それなりの説明がしたかったんだけどこれ以上文字数行くとマズいよなって思って次回に回したんだ。ゴメンな
追記:流石にこれは無理がないか?って部分があったので修正しときました
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