白と黒のワイルドカード   作:オイラの眷属

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説明回。したがって会話が多めになってます。
核心に触れるのはもうちょっとやり方があったかなぁとは思いますがあまり勿体ぶって暴露するタイミング無くなっても困ると思ったので、サラッと流しますね。



黒の真実

 時は遡り魔術競技祭が無事に終了した日の夜。

 打ち上げがお開きになって数分ほど経った店の中は、先ほどの喧騒が嘘のように穏やかな時間が流れていた。

 そんな空気の中にいるのはテトラ、ルミア、グレン、すぅすぅと寝息を立てるシスティーナだ。

 

「……マジで最悪だ。こいつのせいで有り金ゼロになっちまった」

「ルミア、大人になってもシスティにはお酒飲ませちゃダメだよ?こういう体質って成長しても大抵治らないから」

「う、うん。気をつける……」

 

 システィーナは打ち上げの最中に超高級ワインをジュースと間違えて飲んだあげく、酔った勢いで次々と飲み干してしまった。急性アルコール中毒にならなかったシスティーナの身体の強さはさておき、このワインの支払いのせいでグレンはまた自給自足の生活へと逆戻りだ。

 

「お前ら二人は仕方ないとしても、こいつを止められる奴が誰かいなかったのか?」

「私はまだ車椅子なので手伝えませんでしたけど、クラスの皆も止めようとしてました。でもシスティが暴れて店の物壊した───なんてこともありえたので、下手に動けなかったんですよね……」

「あいつの依頼金の話、結局冗談だったのかとも思ったがこういうことだったのか……」

 

 カラン、と軽い鈴の音が鳴り、店のドアが開いた。

 扉を開けたのはソティル。噂をすればなんとやらというやつである。

 

「あ、もう迎えに来たの?悪いけど、システィが起きるまで一緒に───」

「グレン先生とルミアで話したいことがあります。申し訳ないのですが、姉さんは少しだけ外で星でも眺めていて貰ってもいいですか?」

 

 威圧感すら纏ったソティルの言葉には、何か覚悟のようなものが滲んでいた。

 

「え?それって政府の機密事項とか?今の時期でも外は寒いんだし、また今度にしたら?」

「出来る限り手短にします。今度の休日にパフェでも奢ってあげますから」

「え!?ホント!?嘘じゃないよね!?ソティルはすぐに嘘つくから───」

「空 気 を 読 ん で く だ さ い」

「なるべくはやくおねがいします」

 

 ソティルの背後に一瞬だけ竜の姿が浮かぶと、テトラは冷や汗を流しながら車椅子を動かしていく。

 

「あ、あはは。二人とも変わらないね………」

「………一応は誉め言葉として受け取っておきます」

 

 ソティルがテトラの代わりにドアを閉めると、彼女はすぐに二人の方へと向き直った。

 ランプの微かな光がソティルの顔を照らし出し、灯りに当たらない陰の部分を一層濃く見せる。

 

「………グレン先生、そしてルミア。ここから先の話は他言無用。貴方達が信用に足る人物と見込んで頼みたいことがあります」

「あぁ、そういえばお前って確かアルベルトから怪しまれてたよな?書類の偽造とかだったら流石の俺でも───」

 

 魔術競技祭での騒動がひと段落した安心感からか、どこか楽観的な様子でソティルの話を聞くグレン。

 しかしソティルの表情は硬いままだ。

 

「私じゃありません。今回は姉さんの話です。(やぶ)から棒ですけど、先生は姉さんの魔術特性(パーソナリティ)をご存じですか?」

「ん?確か【具現の増幅・促進】だったよな?見舞いに行った時にこの魔術特性(パーソナリティ)があるから竜の力をうまく具現化出来るんだって、アイツ自身が言ってた気がするが」

「………ソレ、私が姉さんが発現させた本当の魔術特性(パーソナリティ)に蓋をして私が作ったハリボテなんです」

「はぁッ!?」

 

 グレンが素っ頓狂な声を上げる。グレンの邪魔をしないようにソティルの話を聞いていたルミアも驚愕を隠せないようだ。

 魔術特性(パーソナリティ)とは本来、個々人が持つ唯一無二の概念であり、その人の『在り方』を示すものである。

 それに蓋をするというのはその人間を消失させることと等しく、本来ならそんなことは出来るはずがないのだ。

 だが、ソティルの言葉に嘘があるようには思えなかった。

 

「確かにお前の能力ならやりかねないこともないが………それに重要なのはそっちじゃねえ。蓋をするってことは、それが相当厄介な代物ってことだよな?」

「ええ、彼女の魔術特性(パーソナリティ)は───【具現の歪曲・反転】です」

「………?」

「………確かに魔術には全く向いてねえな。俺のといい勝負だ」

 

 首を傾げるルミアに対してグレンはソティルの言葉の意味を理解したようだ。

 具現とは事象が認識が可能な形に変化することである。

 【具現の歪曲・変転】という魔術特性(パーソナリティ)はその変化を制御するでもなく、停止させるでもなく、()()()()()()()()()()()という性質を持っている。

 例えば、その魔術特性(パーソナリティ)に蓋をされていない状態のテトラが、黒魔【ゲイル・ブロウ】をマナ・バイオリズムが安定した状態で一言一句違わず詠唱したとする。

 普通ならばこの魔術は正しく起動するはずだが、テトラの魔術特性(パーソナリティ)は【ゲイル・ブロウ】の魔術式の構築を歪め、結果的に彼女が起動した【ゲイル・ブロウ】はなんらかの欠陥を持つことになるのだ。

 彼女が【ゲイル・ブロウ】を正しく起動するためには元から完成している魔術式を崩し、自分が正しく起動させることのできる魔術式を探さなければならない。

 それは砂漠の中から一粒の砂金を見つけるのと同じような難易度であり、学院で習う魔術の数だけこれを行うのは一生かけても不可能だろう。

 

「魔術に向いていないだけなら、魔術に関わらない生き方を探させればよいだけだったのです。ですが、姉さんには私のパーツが組み込まれています。損傷が激しかった姉さんの肉体を修復するだけなら、それが一番成功率も高く、手っ取り早い方法だったので」

「ああ、テトラとお前の事情についてはルミアから聞いた。だが、アイツがお前の肉体の一部を使って生きていることとアイツの魔術特性(パーソナリティ)に何の関係があるって言うんだ………?」

 

 ソティルは目の前で揺れるロウソクの火をぼんやりと見つめ、溜息をついた。

 

「詳しい理論や説明は省きますが、姉さんの魔術特性(パーソナリティ)は私の与えたパーツや能力にも影響を与えていました。姉さんの精神状態によってその影響の度合いが左右されるという、ソレが魔術に与える影響とは大きな違いがありますが」

 

 暗かった表情を更に歪め、ソティルは言葉を続ける。

 

「一年ほど前のある日、帝都で天使の塵(エンジェル・ダスト)事件を想起させる出来事がありました。あの事件に大きなトラウマを持っていた姉さんの精神は大きく揺れ動き、魔術特性(パーソナリティ)が私が与えたパーツと能力の活動を大きく歪ませてしまいます。歪んだ獣の力に飲まれた姉さんは理性を失って竜へと変貌。ですが所詮はなりそこないです。死傷者が出る前に私が鎮圧しました。まぁ、それでも建物の倒壊とかは酷いものでしたけどね」

「帝都にドラゴンが出現したなんて話は聞いたことがないが………いや、お前が偽造したのか」

「その通りです。被害が大きなものでしたから、辻褄合わせにはそれはもう死ぬほど苦労しましたよ………一度は帝都の存在すらなかったことにしようかと思うほどに」

 

 暗い表情のまま口角を上げ、冷たい笑みを浮かべるソティル。

 最後のほうに聞こえてはいけない本音が聞こえてきた気もするが───

 

「これが姉さんの竜化能力の始まりです。パーツと能力は活動を歪められた影響で姉さんの身体と完全に同化し、取り除くことも矯正(きょうせい)することも不可能な状態にあります。また暴走しては困ると考えた私は、姉さん本来の魔術特性(パーソナリティ)を新たな情報を上書きすることで封じ込め、一応は事なきを得ました………ちなみに、姉さんには自分が暴走したという事実しか伝えていません」

「………それで終わりじゃないんだろ」

「ご名答、一番大切なのはここからです」

 

 ソティルはグレンとルミアに向き直り、目線を合わせた。

 彼女の深紅の瞳が二人を映し出す。

 

「人の『在り方』に完全に蓋など出来ません。上書きした虚偽の情報も少しずつ本当の情報に侵食されていました。しかし、テロリスト襲撃事件で姉さんがシスティーナを庇ったあの時から、姉さんの魔術特性(パーソナリティ)は封印から解放される一歩手前の状態です。恐らくは死の恐怖を体験したことで、精神が大きく揺れ動き、侵食が大きく進んだのでしょう」

「ん?だったらまた情報を上書きすればいいだけの話じゃねえか?それが出来ないお前じゃないだろ?」

「人の話は最後まで聞いてください。女性から嫌われますよ………あ、もう既に手遅れでしたね」

「こんな空気でサラッと俺のことディスるんじゃねえよ!」

「先生、システィーナが寝てるんですから静かに」

 

 ソティルに注意されたグレンがはっとして寝ているシスティーナの方を振り返るが、酔いつぶれたシスティーナは目を覚ましていなかったようだ。

 微妙な空気が二人の間に流れ、ルミアが苦笑いをする。

 弛緩した雰囲気を払拭したかったのか、ソティルがこほんと咳払いをして話を続けた。

 

「………出来ないんです。これ以上姉さんの『在り方』が否定される状態が続けば、姉さんの自己(アイデンティティ)は完全に消え去り、同時にテトラ=マーティンという存在も世界から抹消されます。それを避けて魔術特性(パーソナリティ)を抑えつける手もありますが………所詮は気休め。長くは持たないでしょう」

「じゃあ、どうすれば………」

 

 ルミアが不安そうに呟くのを聞いてソティルは顔を俯けた。

 

「解決方法は見つかっていません。だからと言って姉さんにこの事実を話せば、かえって彼女の心に負担をかけることになる。出来る限り私は姉さんの傍にいるように努力はしますが、もしも私がいない時に彼女が暴走したのなら、その時は彼女を鎮めてほしいんです」

「………俺はともかく、ルミアにそんな危ない真似させようって言うのか?」

「ルミアに姉さんと戦ってもらおうとは考えていません。ただ、貴方達二人は何かと騒動に巻き込まれやすいですから、もしかしたら姉さんの暴走にも立ち会う羽目になるのではないかと考えまして」

「………否定できない自分が嫌だ」

「あ、あはは………」

 

 頭を抱えるグレンと苦笑するルミア。

 ルミアはその立場上、既に何かに巻き込まれる覚悟はついていたようだ。それは一種の諦めとも言えるものであったが。

 

「街や家で暴走した場合、元宮廷魔導士団所属の頼りになる魔術師さんになんとかしてくれるように頼んでいます。ですが、学院にはその人も入れないようで………」

「………まぁ、状況はわかった。ドラゴンなんざ止められる力は持ってねえが、学院の中で頼れるのが俺達しかいないってんならやれることはやるさ。お前もテトラも大事な俺の生徒だしな」

「ありがとうございます………ですが、私がいる時は無理に手伝おうとしなくても大丈夫です。元々は私が蒔いた種ですから、落とし前は私がつけます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は再び遠征学習の夜。

 グレンとアルベルト、ソティルは天の智慧研究会のアジトへと向かうべく、樹海の中を疾走している。

 それと同時に状況の整理を行っていた三人。

 最初に口を開いていたのはソティルだった。

 

「───これが私の目的の全容だ。これで満足か?アルベルト」

「………テトラ=マーティンはお前以上に政府の監視下に置くべき存在かもしれんな」

「………ま、そういう結論になるだろうな。都市の中で危険因子を野放しにしておくことなど、政府が許すわけもない。だがな、政府に捕まった時点で姉さんの人生は実験動物(モルモット)に決定だ。そんなこと、私が望むと思うか?」

 

 アルベルトとソティルが睨み合い、グレンは背筋が凍りそうなほどの寒気を感じた。

 ───この二人は近づけてはダメだ。

 グレンは直感的にそう感じる。

 多数を救うため、例えそれが大切な人であろうと少ない方を切り捨てるアルベルト。

 大切な人を救うため、例えそれが大勢の人であろうと自分が関心を持たない方を切り捨てるソティル。

 二人とも任務や目的に私情を差し込まないタイプであることが幸いし、今はある程度のコミュニケーションを取れているが、本来ならこの二人は互いに相容れない存在だろう。

 

「………もういい、この話は終わりにしよう。私は話せることは全て話した。アルベルト、次はお前の番だ」

「………ふん」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らし、アルベルトが今の状況を話し始めた。

 彼によれば、政府はバークス=ブラウモンが天の智慧研究会と手を組んでいること、そしてこの遠征学習で天の智慧研究会がルミアに対して危害を加えるであろうことは既に掴んでいたという。

 だが、どうしても手柄が欲しかった軍の上層部はルミアを餌としてバークスやその周りのテロリスト達を釣りあげようとしていた。

 猪少女のリィエルに護衛任務が課されたのは黒幕を油断させるためであり、本当の護衛はアルベルトであったのだ。

 しかもこの作戦を女王は知らない。全て勝手に軍が独断で決定したものである。

 

 ルミアや生徒達を政府の都合に巻き込まれたことを知ったグレンは、当然ながらこの事実を聞いて歯を食いしばりながらアルベルトを睨んでいた。ソティルも相当腹に据えかねたらしく、「私達の居場所バレたらいっそのこと全員殺してしまおうか………」などと危ないことを呟いていた。

 アルベルトが彼女の方を物凄く怖い形相で睨んでいたことは言うまでもないだろう。

 

 閑話休題(とにかく)

 

 リィエルに裏切られたことでこの計画は完全に破綻。

 アルベルトが元女王侍従であった外道魔術師、エノレア=シャーロットと交戦している間にまんまとルミアは連れ去られてしまった───というところでソティルがアルベルトに質問を投げた。

 

「お前は敵の居場所がわかっているようだが、下手人に何か仕掛けたのか?」

「王女に魔力信号を発する術を付呪(エンチャント)していたが、とっくに解呪(ディスペル)されているようだな」

「っておい!?それダメじゃねえか!?」

「阿呆が、誘拐対象が魔力探知されないように誘拐する側が注意を払うのは当然だ。本命は他にある」

「本命………エノレアとかいう外道魔術師か」

「御名答だ」

 

 彼は先ほどエノレアと交戦したどさくさに紛れ、ルミアにかけた魔力信号よりもさらに強力な魔力隠蔽性を持つ魔力信号をエノレアに付呪(エンチャント)したらしい。

 

「なるほど、ルミアの探知信号が解呪(ディスペル)されていることに加え、エノレアもお前の足止めに成功していたから敵の警戒心は薄まっていたわけだ………うわ、そんな芸当を軽々とするとか、お前下手したら私を殺しうる存在なんじゃないのか?」

「お前の能力が弱体化を受けていなければ、王女の居場所を一瞬で探知、さらに模倣(コピー)した他の兵器の能力を使って王女を自分がいる場所にテレポート………などという芸当も出来ていたのだろう?何度聞いても規格外の能力だ………能力を使う本人は様々な部分で爪が甘すぎるようだが」

「その首ヘシ折ってやろうか」

「………能力のみに頼っているようでは三流だな。それ以上の成長など出来るはずもない」

「言ってくれるな。だが私は『情報』という概念が受肉させられた存在だ。具現化した能力に頼るのは当たり前だと私が思うが」

 

 またもやソティルとアルベルトに険悪な空気が流れ始め、グレンが疲れたように嘆息する。

 

「ふん、話が逸れたな。エノレア=シャーロットから発信されている魔力信号は地下から発せられている。こうなると、バークス=ブラウモンが極秘で地下に研究所を作っている可能性が高い。研究所に流れる資金の齟齬も発覚していたが、恐らくそれの開発に費やしたのだろう。そしてヤツの研究内容上、良質な水を確保することは大前提になる。大まかな場所、土地の高低差、霊脈の場所などを調べればその水を確保する水路にも、ある程度の目星はつけられる」

「………この世界で私が姿や性格を模倣(コピー)すべきなのはお前だったのかもしれない。星の民にもこんな高スペックな奴は数えるほどしか───」

 

 ソティルが軽口を叩いている途中で行く手を遮っていた木々が尽き、広大な湖が姿を現す。

 その透き通った水面は煌々と輝く満月を映し出しているが、水の中は新月の夜のように暗く、底に隠された何かを守っているようにも見えた。

 

「ここ、か。後は水に潜って水の流れが不自然な場所を探せばいいというわけだ。不本意ではあるが、今の私では本当にお前に勝てる気がしない」

「………アルベルト、お前だけは敵に回しちゃいけねえみたいだな………」

「減らず口を叩いている暇などない。早く奴らのアジトに潜入しなければ───」

 

 【エア・スクリーン】の呪文を唱えた三人は湖の中へと飛び込み、水面に映る月がその波を受けゆらゆらと形を歪ませた。




厨二病患者が大好きな「歪んだ力」とかいう設定
私もどうやら重症だったようです
でも「この設定は流石に厨二臭すぎないか?」って迷ってたせいでこれに関する伏線、今まで全く無かった気が………
次の話もだいたいは出来ているのですが、表現があまりにもグロテスクなので一から作り直しかも
気長にお待ちください
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