不安しかない入学初日 前編
ソティルとテトラ、セラが同居生活を始めてから1年。トラウマからあまりこの町にはいたくないというテトラの要望と魔術学院に興味があるというソティルの要望によって帝都からフェジテへと引っ越した彼女たちは本当の姉妹のように親しい関係になっていた。
「姉さん、起きてください!いつものアレで疲れてるのは
わかりますけど今日から魔術学院で勉強するんですよ!」
「あ、あと5分だけだから………」
「えい」
「いっだあぁぁぁぁぁぁッ!?」
「ふっふっふ〜。眠気覚ましのツボです。近所のおばあさんから教えてもらったんですよね」
胸を張りながらドヤ顔をするソティル。テトラは腰を抑えながらボサボサになっている黒髪を掻きながら、ベッドから立ち上がった。
「いてててて………あのおばあちゃんなんであんな色んなこと知ってんだろうなぁ。あ、今日の炊事当番ってソティルだよね?朝ごはんの献立は何?」
「今日は麦パンとコーンスープ、ハムエッグです」
「ええー、せっかくの入学式なんだからお祝いにもっと豪華な献立を・・・」
「それは今日の夜にします。魔術学院まで徒歩で行かないといけないんですから、そんなたくさん食べてはダメですよ」
「へーい」
だらだらと制服に着替えるテトラを見てため息をつきながら部屋を後にし、キッチンへと向かったソティル。そこでは年端もいかない銀髪の少女が棚の上段へと必死に手を伸ばしていた。
ソティルはあ、と小さく呟いたあと棚に近づき、少女が取ろうとしていた皿を取った。
「おはようございますセラさん。お皿、私が取りますね」
「おはようソティルちゃん!いつもごめんね。やっぱりこの体じゃ身長足りなくて………」
「私がその体でいることを無理強いしてるようなものなんですから謝るべきなのはむしろ私の方です。不便ばかりかけてすみません」
「………私達が一緒に住み始めてからもう1年ぐらい経つけど、やっぱりソティルちゃんは丸くなったよね」
「そうですか?私はそんな気はしてませんけど」
「自分の変化って自分からじゃ気付かないものだよ?」
うーん、と首を傾げながらソティルが皿を棚から取り出し、セラはニコニコとしながらテーブルに運ぶ。3人分の皿を取り出したちょうどその時、制服に着替えたテトラが欠伸をしながら部屋に入ってくる。
「ふわぁ~眠い………あ、おはよーセラ」
「………姉さん、前から思ってましたけど『家の外では能力を使うな』とか『もうちょっと謙虚になれ』とか、人間の常識や礼儀には厳しいのに、セラさんを呼び捨てにしてますよね」
「えー。だってセラは1年も一緒に住んでるし、そもそもセラは私よりも年齢低いし」
「それは外見だけで………いや、いつも姉さんと口論すると決着がつかないのでもうここらへんにします。セラさんがいいというなら私が口出しするのも野暮というものですし」
呆れるように頭を手で抑えるソティル。テトラはそっかそっか、と半ば興味なさげに二つ返事をしたあと椅子に座って朝食を食べ始める。
その様子を見ていたソティルはこめかみをぴくぴくと動かし、セラは苦い笑みを浮かべていた。
「じゃあ行ってくるね!」
ソティルとテトラが家を出ていく寸前、テトラがにこやかなのとは対照的にどこか不安そうな顔をするソティル。首を傾げるセラにソティルは心配そうに尋ねた。
「………家の家事はお手伝いさんとか頼まなくて本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫!洗濯とか掃除だったら私1人でも出来るし!」
「でも────」
「あーもー!セラが大丈夫って言ってるんだから大丈夫だよ!早く行かないと学校遅れちゃうし!」
「………わかりました。行ってきます、セラさん」
「うんっ!2人ともいってらっしゃい!」
勢いよくドアを開けて外に出るテトラと、セラにお辞儀をしてからテトラを追いかけるソティル。
ソティルはこの1年間でおしとやかで、でもそれ以外に特に特徴はない。そんなどこにでもいる少女に変貌を遂げた。表面上の性格も1年前とは比べ物にならないほどに丸くになっている。
根本的な思考はあまり変化していないので自分の仲間以外への対応は非常に淡白だが。
「でも、まさか私も編入試験に通っちゃうとは思わなかったなー」
「テトラは教えられたことを自分なりに噛み砕いて解釈して、すぐに覚えてくれるから教える側としても楽でよかったです。魔術の基礎を私たちにも理解出来るように教えてくれたセラさんにも感謝しなければなりませんね」
彼女達は編入試験を受けて合格し、2年のどこかのクラスに編入することになっていた。
ちなみにソティルはデマだと確定したり、役に立たないと自分で判断した情報以外は全て忘れないようにプログラムされてるので暗記は完璧だ。計算などが出来るようになるまでの時間は人並みだが。
「たははー。私、地頭はいい方だからね!」
「自惚れないでくださいよ?アルザーノ魔術学院の生徒達はエリートばかりというデータもあるのですから」
テトラとソティルは歩きながら他愛もない話をずっと続けていた。ところがアルザーノ魔術学院の校門に到着しそうになったその時、ソティルの顔が突然強ばり、その視線が校門をくぐっていったある金髪の女子生徒を射抜く。
「えーと。どうしたの?ソティル」
「姉さん。あの金髪の人間。近づかない方がいいです」
「………ねぇソティル?私、いつも能力は使うなって言ってるはずだけど?」
「能力を使おうとしなくても見えてしまう情報というのはあるのですよ。その人間の特徴とか名前とかがいい例なのですが………あの人間はヤバいです。なんであんな爆弾がこの学院に………」
「………その子がすごいトラブルメーカーってことはわかったよ」
「まぁ解釈としてはそれでいいかと。エルミア───いえ、ルミア・ティンジェルですか。なんでそんな大層なご身分の方がここにいらっしゃるのか知りませんけど、なるべく関わりたくないですね」
皮肉げな笑みを浮かべながら鼻を鳴らすソティル。どうやら何かルミアという少女の知るべきではない情報を知ってしまったようだが、それを聞こうと思うほどテトラは野暮ではない。だからと言ってさっきまでと同じようにくだらないお喋りをする気にもとてもなれなかった。
結局、事務室に自分達のクラスを聞きに行くまでソティルとテトラの間に会話はなかった。
キャラ設定ではないですが、ソティルは外で能力を使うことをテトラとセラから基本的に禁止されています。まぁソティルは緊急時にはなんのためらいもなくこの約束を破るつもりでいますからあまりこの約束は意味ないんですけどね。