次の話はクソ短いです。
グレンが非常勤講師としてテトラとソティルが所属するクラスになって1週間。最初はグレンに対して大きな期待を抱いていたテトラも、その評価を完全にマイナスの方向に振り切らせていた。
そんな日の3人の夕食の時間。テトラは不機嫌さを隠そうともしておらず、そんなテトラをソティルが注意していた。
「ホンット信じられない!?なんなのアイツ!?」
「………姉さん、食事中ですしもう少し静かに出来ませんか?」
「ソティルはあいつに対してなんも思わないの!?期待だけさせて授業はしないわノゾキはするわ生徒と決闘してその約束守らないわってホントにロクでなしじゃん!」
「私としてはなんとも。セラさんを喪って、彼は心に大きな傷を負っているはずです。しかも彼は元々、魔術に憧れていたようだったようですし」
テトラは目を見開く。苦笑していたセラも、グレンの過去の話が出てきてその目を悲しそうに伏せていた。
「1年前のあの時に解析した情報ですが、彼は元々『メルガリウスの魔法使い』と呼ばれる有名な童話の正義の魔法使いに憧れていました。ですが彼には魔術には全く使えない
そこでソティルが話を途切れさせる。セラが苦しげな表情で俯いていたからだ。
「………すみません。配慮が足りませんでした」
「ううん、大丈夫だよ。続けて」
「いえ、もうこれ以上は喋る必要性はありません。とにかく、ああいう心の傷を負った人間というのは元は真面目だったりするのです。それに、グレン=レーダスは近いうちに変わりますよ。ルミアがその変化に関わる可能性大、といったところでしょうか」
「え?ソティルが極端に嫌ってるルミアが?」
「グレンはルミアの恩人なのですよ。何故かはこの国の存亡に関わってくるので話せませんが」
「く、国の存亡………」
セラがこくこくと頷く。なんだか壮大な話になってきたとテトラは身構えるが、ソティルはごちそうさまでしたとつぶやいて、食器を片付けようとしていた。
「ちょ、ちょっと!?話の続きは!?」
「エネルギー残量が残り僅かなので今日は課題だけ済ませて寝ます。本来の竜の姿よりも抑えられているとはいえ、人間の姿でもエネルギーの消費効率は最悪なんです。食事でもエネルギー補給は出来ますが、それでは食費がバカにならないので、眠ってエネルギーを充電した方がいいです。それに、さっきも言いましたがこれ以上喋る理由がありません。ではおやすみなさい、姉さん」
ソティルはわざとらしく大きなあくびをすると、スタスタと自分の部屋へと向かっていく。テトラはそのあと、セラにいくつも質問をしたが、結局のところ、ルミアに何があったのかは聞くことが出来なかった
翌日。
グレンがシスティーナのある言葉に珍しく反論した。それは「魔術は崇高で偉大なもの」という言葉。グレンの論調は次第に激しさを増し、ついにグレンは魔術のおぞましい暗黒面について言及する。
「ああ、魔術は凄ぇ役に立ってるさ・・・人殺しのな」
テトラを含むクラスの生徒全員が凍りつくが、ソティルはただ一人平然としていた。
「ふ、ふざけないで!魔術はそんなんじゃ・・・!」
「何言ってんだ。お前は外道魔術師による無惨な事件が1年に何件起こってるか知ってるか?なんでアルザーノ帝国が魔術に莫大な予算をつぎ込んでいるのは知ってるか?」
「そ、それは・・・」
「はっ、ほらみろ。魔術ってのは人殺しとともに発展してきたロクでもない技術なんだよ!」
生徒たちは首筋に刃物を当てられているような錯覚を覚える。システィーナに至っては顔を青ざめさせ、肩を震わせていた。
「全く、俺はお前らの気が知れねーよ。こんな人殺しにしか役に立たない技術をバカみたいに勉強してよ。こんな下らんことに人生費やすくらいなら俺は───」
その時、乾いた音が教室の中に響き渡る。システィーナがグレンを平手打ちしたのだ。
「違う………魔術は………そんなものじゃない……!」
システィーナは目に涙を浮かべ、教室を走り去って出て行ってしまう。グレンも「やる気が出ない」とだけ言って黒板に自習という文字を書いて教室を後にした。
「顔が青くなったと思えば目を赤くして、忙しいですね」
「なんでこの空気でそんなこと言えるの………?」
テトラは、ソティルの発言に呆れるように言いながら椅子から立とうとする。すると、ソティルはテトラに学院の地図を手渡した。その地図には赤い丸のような目印が点滅しながら動いている。
「え………ソ、ソティル………?」
「システィーナの場所を魔術で探知してます。どうせシスティーナの様子を見に行くんでしょう?やれやれ、彼女もほっといてもらいたいと思うのですがね」
「生憎、私はお節介焼きだからね。仕方ないよ」
「………一体誰に似たんでしょうね。ま、私が行っても姉さんと茶番のような口喧嘩が始まって逆効果になると思うので、姉さん一人で頑張ってきてください」
「茶番みたいなって………でもありがとね。わざわざ私のために」
「この展開は想像ついてましたし、お礼なんていいです。早く行ってください」
テトラがシスティーナを見つけたのは、学院の中庭にあるベンチにうずくまっている時だった。テトラが近づくと、足音に気がついたシスティーナは反射的に顔を上げる。
「みっつけたー!やっぱり魔術って便利だねー」
「………なんの用ですか」
能天気に言うテトラをシスティーナは赤く腫れた目でキッと睨む。
「おおー………さすが
「帰ってくれませんか?私、今誰とも話なんてしたくな───」
「ちょっとだけでいいから。システィーナにとって魔術とは何か………それさえ教えてくれたらすぐここから消えるよ。でも、それを教えてくれるまで離れる気にはなれないかなぁ」
テトラの顔に快活な笑みが浮かぶ。システィーナは一瞬はっと顔を上げたが、また
だが、テトラは動じる様子もなく、システィーナの隣に座り込んで、その宣言通りにシスティーナが言葉を発するまで微動だにしなかった。
しばらく気まずい空気が流れたあと、突然システィーナは弱々しく、テトラの問いに答えた。
「魔術は………私とおじいさまを繋げてくれる大切なもの。グレン先生に魔術をあんな風に言われて………私、おじいさまを馬鹿にされたような気がしたの。だからつい・・・」
「うんうん、わかるよその気持ち。私の黒髪はシスティーナにとっての魔術みたいに、両親と私を繋げてくれるものなの。だから、これを馬鹿にされたら私もキレちゃうかもなぁ。ま、平手打ちっていうのはやりすぎだと思うけどね」
「うっ………」
「たははー。冗談だよ冗談。明日ちゃんとグレン先生に謝れば多分大丈夫だって」
「………じゃあ私からも聞かせて。貴方にとって魔術ってなんなの?なんで魔術を勉強しようって思ったの?」
「えー、今それ聞いちゃう?思ったよりグイグイ来るタイプなんだねキミ」
テトラは苦笑するが、一度溜息をついたあとに先程の能天気そうな表情を真剣な表情に変える。その黒色の瞳の奥には悲しみや憎しみなどの負の感情が見て取れた。
「………正直、魔術なんてなければよかったのにって思ってる自分もいる。父さんと母さんね、『天使の塵事件』に巻き込まれて死んじゃったの。魔術さえなければ父さんと母さんは死ななくてすんだっていつも考えちゃうんだよね」
「………ッ」
「ああ、ごめんごめん。ただのクラスメイトに話すにはショッキングすぎる内容だったね」
テトラが虚し気な笑みを浮かべる。
「でも、道具を恨むのはなんか筋違いな気がしてる自分もいるんだ。ありきたりな言葉だけど、『剣が人を殺すのではなく、人が人を殺すのだ』ってやつかな。それに、もし魔術が無かったら、何百年も前の邪神との戦いに人類は負けて、滅亡してたかもしれないし」
うーん、とひとしきり考えるような仕草をしていたテトラだったが、しばらくすると諦めたように肩をすくめて苦笑する。
「あーダメ。気持ちの整理ぜんっぜんつかないや。でも魔術を勉強する理由ならはっきりと言えるよ………私、強くなりたいの」
「強くなりたい………?」
「うん。魔術を使って人を不幸にする人たちがいるんだったら、私がそんな奴らからみんなを守りたい。魔術に対抗出来るのは同じ魔術………なんて、甘い考えってことはわかってるよ。でもね、私みたいな思いをする人なんて、二度と生まれて欲しくないから」
その声色には強い意志が宿っていた。
「自論だけどさ。自分が使っていることに誇りとか、自信とかを持てない技術なんて、身につくわけないと思うんだよね。だから、私は魔術が人を幸せにするって信じて、これからも魔術を勉強していくつもり。もちろん負の側面もあることは忘れちゃ行けないんだけど。システィーナも、魔術を信じてみればいいんじゃない?あなたとおじいさんを繋いでくれる魔術を………ね?」
「………」
考え込むシスティーナにテトラが笑いかける。
「ま、私が言えることはこれくらいかな。システィーナのこともよく知らないのに、ずっと上から目線でごめんね」
「………ありがとう」
「どういたしまして………って言っても、私が勝手にあなたのところに来て勝手に自分語りしてただけだし、いいアドバイスも全然出来なかったし、お礼なんて言われる立場じゃないよ。さてと、私は家に帰るね。あんな空気じゃ今更教室になんて入れないし、家の手伝いでもしようかな。じゃ、また明日ね、システィーナ」
「………システィ」
「え?」
「システィでいいわよ」
ぶっきらぼうにぼそりと呟いたシスティーナを見つめながら硬直したテトラだったが、しばらくするとさっきのように、快活な笑みを顔に浮かべた。
「わかった!じゃあシスティって呼ばせて貰おうかな!これからよろしくね!システィ!」
「………ふふっ。よろしく、テトラ」
一方、気まずい沈黙が充満していた教室。
辞書で魔術式の解析をしていたソティルだったが、ふと何かを感じたかのようにため息をつく。
「───なんか私、またハブられたような気がするのですが」
ソティルは勘が鋭い。
戦闘描写に不安感を抱いていたり
深夜テンションで「最強」とか書くんじゃなかったなぁ・・・