白と黒のワイルドカード   作:オイラの眷属

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クソ短いです


少女達の邂逅 白編

 グレンが引っ叩かれた日の放課後。ソティルは返却期限が今日までだった辞書を返すために廊下を歩いていた。

 

「はぁ、狼の姿にでもなればこの廊下なんて3秒もかからずに通れるのですが・・・ん?」

 

 ソティルの目の前の部屋から物音がする。ポケットに入れていた地図を開くと、あそこは魔術実験室のようだった。

 

「ふむ、1人のようですね。確か生徒が無断で使うのは禁止されてるはず・・・そこまでして試したい魔術………気になりますね」

 

 能力を使って部屋の中を見てもいいのだが、テトラにバレたら間違いなく拳骨が待っているし、遠見の魔術はソティルと相性が悪く、使用してもぼんやりとしか見えない。

 結局、中に入って確認するのが一番だと判断したソティルはノックもなしにドアを開け、絶望した。

 そこにいたのはソティルが最も関わりたくない人間であるルミアで、試している魔術も、学習用のなんの役にも立たない法陣を構築しているだけだったからだ。

 

「え、ええっ!?へ、編入生の───」

「はあぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 

 今世紀で一番長いため息だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───で、システィーナがいないから1人で忍び込んで方陣の復習をしていたと」

「う、うん。どうしてもこの法陣を復習しておきたくて」

「真面目なのかいたずらっ子なのか………魔術錠の鍵も事務室に忍び込んで盗み取ったってところですね?」

「え、えへへ………」

 

 小さく舌を出すルミアにソティルは呆れたように眉間を手で抑える。

 

「………まぁいいです。どうせ乗りかかった船ですし、バレる前に終わらせますよ」

「ほんと!?ありがとう!」

「………」

 

 ソティルはルミアが持っていた教科書を開き、手早く正確に法陣を構築していく。全く教科書と同じようにである。

 一方ルミアは………

 

「そこは触媒を置く場所ではありません」

「あっごめん!」

「ここの霊点は綻んでいます。これでは魔力が通りませんよ?」

「あわわわわ………」

 

 ソティルに間違いを次々と指摘され、目を白黒させながら修正していくルミア。

 

「やれやれ、苦手って自分で言っているからよっぽどだとは思ってましたけど………まさかこれほどとは思いませんでしたよ」

「ご、ごめん………」

「別に責めてるわけではないのですが………さて、これで完成したはずです。あとは起動だけですか」

 

 しゅんとするルミアを気にする様子もなく、手に持っていた教科書を返すソティル。気を取り直したルミアが呪文を唱えようとした瞬間、入り口のドアが乱暴に開けられ、思わず2人は飛び上がる。

 

「グ、グレン先生!?」

「………どうしてここに」

「そりゃこっちの台詞だ。生徒による魔術実験室の個人使用は原則禁止のはずだろ?」

 

 その言葉にルミアはあはは………と苦い笑みを浮かべ、ソティルはばつが悪そうに視線を逸らす。

 

「って、さっきまで全然だったのにもう完成してんじゃねーか。白髪頭(しらがあたま)、お前の仕業か?」

「………ええ、まぁ」

 

 視線は逸らしたまま、ソティルはそっけなく答えた。グレンは白髪頭(しらがあたま)、と女の子を呼ぶにしてはあまりにも失礼極まりない呼び方をしたが、ソティルが気にする様子は一切ない。

 

「じゃあもう起動させちまいな。こっから崩すのはもったいねーだろ」

「わ、わかりました」

「ルミア、教科書通り五節ですよ。省略はしないでくださいね」

「は、はい」

「なんで私にまで敬語なんですか」

 

 ルミアは一度深呼吸をして心を落ち着かせると、詠うように涼やかな声で呪文を唱える。

 

「《廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ》」

 

 その瞬間、法陣が光を放ち、部屋を白に染め上げる。光が収まると、七色の光が方陣の上を縦横無尽に走っていた。

 

「うわぁ………綺麗………!」

「そうか?俺にはあまりそうとは思えないんだが」

 

 そう言いながらもグレンの顔には笑みが浮かんでいる。

 

「………なんだ、少し楽しそうじゃないですか」

 

 ソティルはグレンを一瞥(いちべつ)するが、グレンはそれに気がつかない。それどころか、そそくさと実験室を出て行こうとしていた。

 

「あっ………ちょ、ちょっと待ってください!」

「………なんだ?」

「え、あ………ええと、そのー………」

 

 グレンの後ろ袖を慌てて掴んだルミアだったが、引き止めてどうするかは考えていなかったようで、しどろもどろになっていた。

 ルミアの心情を察したソティルは呆れた口調で彼女に助け舟を出す。

 

「途中まで2人で一緒に帰ってはいかがですか?ルミアはグレン先生に聞きたいことがあるんでしょう?」

「あ………そ、そうです!途中まで一緒に帰ってもいいですか?」

「やだ」

 

 即答でルミアの頼みを切り捨てたグレン。ところが、肩を落として目を伏せるルミアを見て、グレンは困った頭を掻く。そして

 

「一緒に変えるのはごめんだが………ついて来る分には勝手にしろよ」

「あ、ありがとうございます!じゃあ、ちょっともったいないけど、急いで片付けますから待っててくださいね!」

 

 ルミアは嬉しそうに笑って法陣の片付けを始める。そんなルミアの様子を見て、グレンは肩をすくめながら実験室を出て行った。どうやら部屋の外で待つつもりのようだ。

 

「手伝いますね。使い終わった魔晶石はここに処分して………」

「あ、ありがとう。ええと………」

「ソティルです。ソティル=マーティン」

「ソティルって言うんだね!よろしく、ソティル!」

「………それは少し難しいですね。貴方と関わるのはぶっちゃけこれで最後にしたいのです」

「………え?」

 

 変わらない口調で言い放ったソティル。当のルミアはポカンとしている。

 

「私が関わりたくない理由はわかるでしょう?()()()()()()()殿()

 

瞬間、ルミアの顔からさーっと血の気が引いていく。ソティルは片付けの手を止めることなく淡々と言葉を紡ぐ。

 

「別に私は貴方がどうなろうと知ったことではないのですが、面倒事に巻き込まれるのは避けたいので、これからは相互不干渉の関係で………と、片付けは終わりましたね?では、私は用事があるのでこれで───」

「待ってください」

 

 冷静さを取り戻したルミアが静かに言う。その口調には敵意に近い感情が含まれていた。

 

「貴方は………一体何者なんですか?」

「それについては回答出来かねます………と言っても、脛を傷を持つ者同士、Win-Winの関係は作りたいとは思ってますよ?」

「………脛に傷なんてないですけど」

「!?」

 

 突然、自分の両足をちらりとソティルに見せたルミア。

 彼女を見下すように立っていたソティルがその様子を見て膝から崩れ落ちた。

 

「いやなんで物理的な意味で………私の方がバカみたいじゃないですか………」

「………え?まさか脛に傷を持つって………言えない過去があるとか、そういう意味の方?」

「このタイミングで使うならそっちしかないですよね!?解析したから知ってはいましたけど、どんだけ天然なんですか貴方は!?」

「………解析?」

「だぁああああああ──────ッ!?い、今のナシです!私、独自の情報網を持ってるんで色んなことを知ってるんです!そういうことです!」

「は、はぁ………」

 

 パニック状態のソティルにすっかり警戒を解いてしまったルミア。

 ソティルは肩で息をしながらルミアを睨みつけた。

 

「私も貴方の秘密を握っているんです。おあいこです。それなら互いに相互不干渉です。お願いだからそうしてください」

 

 目をぐるぐると回しながらまくし立てるソティル。最後の方はもはやお願いだった。

 

「ええと………大丈夫だよ?私はソティルの秘密を言いふらすつもりなんてないし、ソティルも私の秘密を言いふらすつもりなんてないんでしょ?」

「それは間違いありません。面倒事の発端になるような愚かな真似などするはずもない」

「………わかった。じゃあソティルにはなるべく近づかないようにするから」

 

 悲しげに笑うルミアを見てソティルはばつが悪そうな表情をする。

 

「いや、そこまで悲しそうな顔されるのは予想外というか、えーと、別に正体がバレないのなら面倒事くらい───」

「おーい、まだ片付け終わってねえのか?流石に置いてくぞ?」

 

 と、ここでグレンがドアを開けて中の様子を見るために顔だけを覗かせている。

 

「あ、すみません!すぐに行きます。ごめんねソティル、また明日」

「………わかり、ました」

 

 納得いかない表情をしていたソティルだったが、ルミアを引き留めるわけにもいかなかった彼女は実験室から外へ出ると、そのまま歩いていく二人の様子を見送った。

 

「………なんか、嫌な気分ですね」

 

 その心に小さな棘を残したまま。




ソティルはルミアの人格を嫌悪してるわけではなく、むしろ好感を持っています。これからソティルの心境に変化は起きるのでしょうか。
追記:文章を整理している時にルミアがいきなりソティルを受け入れるのに違和感があったのでルミアがソティルへの警戒心を一段階下げてくれるような描写を入れておきました。
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