白と黒のワイルドカード   作:オイラの眷属

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以前の題名ミスってました。なんで二回も同じ題名にしてたんだろう
ちなみに次話から戦闘描写予定



勇気の一歩

 次の日、授業の予鈴が鳴る前。

 

「おい、聞いてんのか白猫」

「………」

「………どうした白猫?俺をそんなに見つめて」

 

 システィーナは『白猫』と呼ばれているのにも反応せず、グレンをじっと見つめる。理由は単純である。グレンが教室に入ってきたその時から、グレンに平手打ちをしたことを謝るタイミングを見計らっていたからだ。

 しかし、システィーナの頭には失敗するイメージばかりが湧いてきて自信を無くしていたため、その口は開こうともせず、そうなるともちろん声なんて出るわけもない。

 システィーナが後ろを振り返ると、テトラが「信じてるよ」とでも言いたいかのように、ウインクを返してきた。それを見たシスティーナは深く深呼吸をし、覚悟を決める。

 

「あの………先生………昨日は、すみませんでした」

「………は?」

 

 あの『講師泣かせ』と呼ばれ、グレンを酷く嫌っていたシスティーナがグレンに謝罪した。

 そんな予想だにしていない展開にテトラ以外の全員が目を丸くする。システィーナが謝罪するきっかけを作った本人であるテトラは嬉しそうな微笑みを浮かべていたが。

 

「あなたに酷いことを言われたからといって、手を出していい理由にはなりません。それは謝ります」

「お前ってどこまでも真面目なんだな………いや」

 

 呆れたように溜息をついたグレンだったが

 

「俺も………昨日は本当にすまんかった」

((((………え?))))

 

 この展開にはテトラを含む生徒全員が目を丸くした。

 

「いや、その………なんだ。俺は魔術は大嫌いだが、お前のことをどうこういうのは筋違いだし………そもそも俺もガキだったっつーか………その、ええと………とにかく、あれだ、すまんかった」

 

 気まずそうに目を逸らしながら、グレンはほんのわずかだけ頭を下げた。どう反応すればわからず口をぱくぱくさせていたシスティーナだったがそこでちょうど予鈴をつげる鐘の音が学院に響いた。

 

「お、予鈴鳴ったな。じゃ、授業始めるか」

 

 グレンから出るはずがないと思われていた言葉によって、クラス中がどよめき始める。

 

「さて、これが呪文学の教科書ねぇ………ふーん………よし。そぉいっ!」

 

 グレンはしばらくの間パラパラと教科書をめくっていたが、半分も読まずに教科書を閉じ、窓の外からぶん投げた。

 

 あぁ、これはいつものパターンに直行だ。

 

 そう思って生徒達は各々自分の教科書を開く。そんな中、グレンは一呼吸置いて

 

「はぁ………授業始める前に言っておくが、お前らって本当にバカだよな?魔術のことなーーんにもわかっちゃいねえのがこの一週間で目に見えたぜ」

 

 なんの躊躇いもなく毒を吐いた。ページを捲る音が止む。なんかとんでもない暴言を吐かれたと全員が思考を停止したからである。

 

「今日は【ショック・ボルト】について説明するか。お前らのレベルならこれくらいがちょうどいいだろ」

 

 あまりにも酷い侮辱に生徒から不平不満が漏れる。

 

「やれやれ、今更【ショック・ボルト】なんて説明されても………」

「僕達はもうとっくの昔に【ショック・ボルト】なんて極めているんですが?」

 

 しかしそれをガン無視してグレンは【ショック・ボルト】の呪文を黒板に書き表していく。

 

「さて、これが【ショック・ボルト】の基本的な呪文だ。じゃあ、こっから問題な」

 

 グレンはチョークで黒板に書いた三節の呪文を別の節で区切り、《雷精よ・紫電の・衝撃以て・打ち倒せ》という、四節の呪文にした。

 

「これを唱えると何が起きる?当ててみな?」

 

 教室を沈黙が支配する。答えられるものは誰一人いない。優等生で知られるシスティーナも額に脂汗を浮かべていた。そんな中で

 

「姉さん。姉さんなら答えられるでしょう?早く挙手してくださいよ」

「ソティルもわかってるんでしょ?早く手を挙げればいいと思うけど」

「私は目立ちたくないので」

「私だって目立ちたくないよ」

「・・・わかりました。ここは公平にじゃんけんで───」

 

 双子は小声でずっと口喧嘩である。前日にソティルが自分達の口喧嘩を「茶番」と評していたが、それは全くもって適切な表現だった。

 

「おい、白髪頭と黒髪、お前ら分かってんじゃねえのか?」

「「げっ」」

「えーと………よし、じゃあ黒髪、どうなるか当ててみろ」

「なんで私なの………確か、右に大きく曲がる、だった気がします」

「お、正解だ」

 

 グレンが呪文を唱えると、紫電は着弾するはずの黒板を逸れて右に大きく弧を描くように曲がり、壁に着弾する。

 

「じゃあ呪文の一部を削るとどうなる?」

「えーっと………どうだったけ?」

「出力が落ちます」

「当たりだ。確か、お前らは編入生だったよな。入学する前は何してたんだ?」

「元軍所属の魔道士に魔術を教えて貰っていました。一年だけですけど」

 

 ソティルはぶっきらぼうに質問に答えを返した。

 

「………成程。ま、お前らは及第点だな。まだまだヒヨッコだが」

 

 チョークを指先で器用にくるくる回しながら、ニヤニヤと笑うグレン。ソティルは不快そうな顔をするだけだったが、テトラは自分達に一気に注目が集まったことを確信し、恥ずかしさやらなんやらでほぼ放心状態であった。

 

「じゃあ答えがわからなかった奴らに質問するが、お前らなんでこんな思春期の恥ずかしい詩みたいな文章を読めば魔術が発動するのかわかってんのか………って言っても、わかってるわけねーか。呪文の共通語訳を教えろとかアホみたいな質問が出てくるぐらいだし、根本的な理屈なんて『そーいうものだ』ってテキトーに流してたんだろ?そこの二人は編入する前にその理屈も魔導士に叩き込まれてたみたいだがな」

 

 グレンの指摘は的を射ており、生徒達は何も言い返せない。この学院では習得した呪文の数が優秀さの証であり、生徒達には理屈を突き詰めて考える余裕などなかったのだ。

 

「つーわけで、今日はお前らに【ショック・ボルト】の呪文を教材にした術式構造のド基礎を教えてやるよ。ま、興味ないやつは寝てな」

 

 グレンは気だるげに言ったが、今この教室に眠気を感じているものなど誰一人いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっという間に時間が過ぎた。結局、生徒達の中に眠気を感じるものは最後までいなかった。黒板には一週間前とは見違えるような小綺麗な文字や図形がびっしりと並んでいる。

 

「さて、今のお前らは魔術を使うのが上手いだけの『魔術使い』に過ぎん。将来、魔術師を名乗りたいんだったら自分に足りないものは何かよく考えるんだな。ま、こんなくっだらねー趣味に人生費やすぐらいなら他によっぽど有意義な人生があると思うが………って」

 

 グレンはおもむろに懐から懐中時計を取り出し、苦い顔を浮かべた。

 

「ぐあ………授業時間過ぎてんじゃねーか。やれやれ、残業代は貰えるんだろうな?まぁ、いいか。今日は終わりだ。じゃーな」

 

 グレンは愚痴をこぼしながら教室を退散していく。その瞬間、生徒達の間に流れていた緊張が一気に緩む。システィーナに至ってはふぅー、と安堵するように大きなため息をついていた。そんなシスティーナの顔をテトラが覗き込む。

 

「お疲れ様、システィーナ!約束守ってくれて嬉しいよ!」

「………あの時はありがとう」

「あんなウインクぐらいでお礼なんていいよ。結局は自分で勇気を出して謝ったんだから」

「私からもお礼を言わせてください。ありがとうございますテトラさん」

「え!?ルミアちゃんまで!?」

 

 頭に疑問符を浮かべるテトラ。そんなテトラの様子にルミアは苦笑する。

 実はルミアはテトラがソティルと双子と聞いていたため、さっきまでテトラのことを警戒していた。しかし、ルミアと一番親しい友人であるシスティーナが彼女と仲睦まじくしている様子から、テトラがソティルのように自分を忌避しようとはしていないことを確信し、その警戒を解いていた。

 

「私、システィが学院に行くことを嫌いになっちゃうんじゃないかって心配してたんですけど………」

「それは杞憂じゃない?システィの魔術好きはもはや病気みたいなものだし」

「あ、確かにそうかも」

「ちょ、ちょっと二人とも!?」

 

 赤面するシスティーナを見て二人は穏やかな笑みを浮かべた。一方、システィーナは顔を赤くしたまま話題を別の方向へと持っていこうとする。

 

「と、ところでさ!グレン先生のあの変わりようにはもちろんびっくりしたけど、あなた達もあんなに魔術のことを知ってるなんて少しも思ってなかったわ!」

「うん!私も驚いちゃったよ!」

「まぁ、私たちは元軍所属の魔導士から直々に魔術を教えてもらってたわけだしね。でも、一番凄いのはグレン先生だよ………私達もイマイチ理解出来てないところをあんなにわかりやすく教えられるなんて………」

「でもあいつ、なんでいきなり授業する気になったのかしら………」

「やっぱりそこだよね。私も考えたんだけどさっぱりでさ」

 

 テトラはうーんと手を組んで考えるような素振りを見せていたが、すぐにそれをやめて

 

「ソティルはどう思う?」

「なんで私に振るんですか!?」

 

 少し遠くの席でテトラに無理やり板書をノートに書かされていたソティルに話題を振った。少し感情的になったソティルだったが、すぐに元の調子で「わかりませんし、わかってても教える理由がないです」とめんどくさそうに答えたあとすぐに作業に戻る。

 

「さすがにわかるわけないよねー………もうこの謎は学院七不思議に加えちゃっても………あれ?」

 

 視線を何気なくソティルからルミアに向けたテトラは首を傾げる。

 

「ルミアちゃん、なんか凄く嬉しそうだけど………」

「えー、そうかなー?」

「そうよ。あなた、かつてないほどにご機嫌じゃない」

「え!それ何があったかもっと気になっちゃうじゃん!ねー教えてよ!」

「えへへへ………」

 

 いくら聞いてものらりくらりとかわして、微笑みを崩さないルミアにシスティーナとテトラは首を傾げるしかなかった。




次話のあとがきではソティルの能力について追加情報を書きます。ちなみにソティルはなんだかんだ言ってルミアのことを無視したりはしません。
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