無限の鉄製   作:天目一箇

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二人目の操縦者

 天野夜刀とは筱ノ之道場に通っている間に知り合った。

 師範に見せてもらった刀、それが夜刀の打った刀だったのだ。素晴らしい刀だと思うと同時に、違和感を感じた。

 見ているだけで吸い込まれそうなそれは、確かに魂が宿っている。切れ味も申し分ない。だが、何か気になるのだ。その答えは新たな刀を売りに来た夜刀と出会い理解した。その時は弟より少し上程度の彼が?と疑いもしたが、それは一瞬。彼の目を見て本物だと理解した。だからこそ、違和感の正体が気になった。

 彼の師は多くの剣道同情に知り合いがおり、彼はその縁で時折売りに来る。オークションにかければ数億はくだらない刀を材料費だけで売る。稼いでいるし、金のためではないからそもそも値段などどうでもいいのだ。

 そんな彼が己のために持つ刀。仮にも数億の刀を打つ鍛冶師、誘拐に備えて持っているという刀を、彼が師範としている間、興味本位で抜いた。

 違った。何もかも違った。見ただけで解る、これは()()()。彼女の師が見せた刀など、これに比べれば()()()だ。

 だから、問いつめた。恩義を感じ、一人の剣士として尊敬していたから、何故あんなモノを平気で売ると憤慨して。

 

──あれにはあれぐらいが丁度良い。俺のは師匠曰く、毒が強すぎるからな──

 

 当然反発した。どこの世界にお前の師は未熟だと言われそうか、と納得できる者がいようか。それに対して夜刀は面倒くさそうにするだけで、何故あれが失敗作と気付いたのか訪ねてきた。夜刀の持つ刀を見たからだと、正直に答えた。その瞬間だった───

 

──…………へぇ──

 

 夜刀の目に何か狂的な者が宿るのを感じ、思わず後ずさる。自分よりなお幼く、小さな少年に気圧されていた。

 夜刀は暫く考えた後、背に背負っていた刀を渡す。抜いて見ろ、最後まで。そう言われ、特に疑問に思わず今度は鞘を完全に取り払った。

 思わず息を飲む程優美な刀。芸術的な美しさを持ちながら、しかし間違いなく斬るための刀として()()した刀。

 

──斬ってみたい──

 

 それは子供がハサミで紙を切り刻むように、捕まえた虫を蜘蛛の巣に落とすように、足を千切り蟻の巣の近くに置くように、虫眼鏡で紙を焼きたくなるように、自然にそう思った。

 ゴクゴク自然に、それで行える破壊を行いたくなった。木を、鉄を、人形を…………人を、斬りたくなった。

 

 ─────っ!?

 

 慌てて刀を投げ捨てる。ザクリと木に深々と刺さった刀を見て、やはり夜刀は笑っていた。

 成る程確かにこれは、毒が強い。切れ味を試したくなる。だからこそ、彼は失敗作しか売らぬのだろう。

 

──捨てたか。毒に逆らったか………お前、名は?──

 

 暫くためらった後、名を教える。反芻し覚えた彼は千冬を己の工房に誘った。

 次の休日に案内されるまま現在は彼の私有地である山に入れば彼方此方に刀が散らばっていた。抜き身、鞘に収められたもの、木や地面、果ては岩にまで刀が突き刺さる刀の山。その頂上の屋敷に入れば、手に持たずとも見ているだけで切れ味を試したくなる刀が壁に立てかけられていた。

  それは彼の取り敢えず納得のいった刀達。彼は千冬に言った。最強の刀を作りたいと。周りのそれが完成形では無いのかと訪ねると、彼は言った。

 

──これは確かに()()した。だが完成してない。完成などない、これ以上の刀が打てないと思った時は、俺が死ぬ時だ──

 

 狂気。刀に全てを費やした男に、千冬は確かに恐怖を覚えた。しかし、やはり、思うのだ。この周りにある刀を、振るいたいと。この刀を使い道切りたいと。

 

──刀は切れる。それは当たり前だ。だが、刀を振るうのは人だ。故に俺は刀を振るう。至高の刀は至高の使い手にあるべきだからな………だが俺は剣士ではなく鍛冶師だ。しかし俺以外の奴は皆毒に当てられる。そこでだ、千冬。お前、強くなれ。毒の影響を受けぬほど。そんで、いずれ俺より強くなり俺の剣を振るえ──

 

 

 

 

 

 

「早速遅刻かあの馬鹿者は………」

 

 千冬ははぁ、と頭を押さえる。友人にして剣の師の一人であり、専属刀鍛冶。そしてさらに生徒という属性まで追加してきた夜刀は初日から遅刻した。もうクラスの自己紹介も終わり、授業が始まっている。と、その時───

 

「ここ、俺の教室であってるか?」

 

 そんな声とともにガラリと教室の戸が開く。現れたのは黒髪の長身の男。刀のような切れ目が周囲を見回している。

 

「遅刻だぞ天野」

「ん?ああ、千冬か。弱くなってはいないだろうな?」

 

 次の瞬間、千冬は携えていた刀を抜き放つ。目の前の彼が打った刀。世界広といえどこの刀に匹敵する刀を持つ者などいない比類無き名刀。それを首めがけて振るい、夜刀は身をそらして回避する。続けざまに放った中段切りは夜刀が抜き放つ刀に止められ、膂力を持って弾き飛ばされる。

 直ぐに着地に正眼に刀を構えればその刀がはかばから切り裂かれた。

 

「───少しなまったか?」

「お前が強くなっているのだ」

「当然だろ?俺は己で出来を確かめるために刀を振るう。だが、それは鍛冶師として、だ……剣士であるお前が俺に劣るのなら、もう刀は打ってやらんぞ」

「今回は刀の差だろう」

「ん?」

 

 と、夜刀は首筋に突きつけていた刀をみると何を思ったのか、そのまま振るう。悲鳴が上がる中、刀は砕ける。しかしこれは千冬が鉄のように堅いわけではない。

 

「さっきの斬り合いで殺されてたか………デキは同じ、年数は此方が若いのになぁ……うん、なまってないな」

「当然だ。世界最強であれ、それはお前が私に命じたことだろう?まあ、殺し合いなら殺されていた私のいえた義理ではないが」

 

 千冬の言葉に満足そうにうなずくと砕けた刀を片づけクラスメート達に向き直る。

 

「天野夜刀だ。鍛冶師、よろしく頼む」

 

 誰一人、拍手すらしなかったという。何せ突然真剣で切り合いを始めたのだ、あまりに異質。しかし夜刀は気にせず空いている席に向かった。

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