老師からの話を聞いた後老師と共に下山しユミルに戻った。
鳳翼館で内湯に入り汗を流しながら、リベールについて話を聞く。
「なるほど、<剣聖>の称号を得たカシウス師兄もリベール出身なんですね?」
「うむ、無論それだけではないが、おぬしをリベールを行かせようと思った理由のひとつじゃな。会えるかはわからないが話を聞いて見るといい」
リベール王国には以前から話を聞いていた、<剣聖>カシウス・ブライト師兄も住んでいるようだ。
「剣聖……、初伝の俺には遠すぎる存在です。会えたとしても話を聞くなど恐れ多いですが……」
八葉一刀流を皆伝した上、武道の極めた者が行き着く<理>に至っているとも聞いている。
現在は剣を捨てているらしいが、初伝で足踏みを続けている俺が話を聞くなど迷惑にはならないだろうか。
「なに、カシウスの性格からして悩んでいるおぬしを無下にするなどありえまい。安心せい」
老師から話を聞いている印象では温厚な人なのだろう。少し安心する。
実際に会えると決まってはいないが……。
「……わかりました。是非とも話を聞いて見たいと思います」
「そうするといい。きっと良い助言をしてくれる筈じゃ」
老師が立ち上がり歩き出す。
「さて、そろそろルシア殿の夕飯が出来上がる頃じゃろう。館に戻ろうリィン」
どうやらかなり時間が経っていたらしい。
夕飯の時間のようだ。
「はい。……老師、今まで聞くことを忘れていたのですが」
「ん? なんじゃ?」
そういえば老師の孫娘という方の名前を聞いていなかったなと思いながら。
「いえ、お孫さんの名前を聞き忘れていまして」
「ああ、それも忘れておったの。年とは怖いものじゃ、忘れ物が多くなる」
老師はこちらに振り返り、その名前を告げる。
「孫娘はアネラス・エルフィードという。おぬしより三歳ほど年上になるな」
「アネラス・エルフィード……、よし、わかりました」
その名前をしっかりと記憶し内湯を出て服を着た後、
受付で支配人のバギンズさんに挨拶をし、鳳翼館を出て館に向かう。
外はすでに暗くなっていて街灯で照らされていた。
「良い匂いがするのぉ。これは楽しみじゃな」
「ええ、多分キジ肉のシチューでしょう。父さんが狩りで取ってきたんだと思います」
きっと旅に出ることになる俺を気遣ってくれたのだろう。
本当に優しい自慢の両親だ。
腹を空かせながら屋敷に到着し、扉を開けたその先に――
「おかえりなさいませ、兄様、ユン老師。早速ですがお話をお聞きしたいのですが」
明らかに怒った顔をした義妹が立っていた。
―――――――――――――――――――――――――――
シュバルツァー家の食卓にはキジ肉のシチューを初めとした俺の好物ばかりが並んでいた。
出来立てなのだろう、それぞれの料理からは湯気が立ち上っている。
今すぐにでも手を伸ばして食べたいところだが……
「それで、リベールに行くことを兄様は受け入れたんですね?」
「あ、ああ」
なぜエリゼはここまで怒っているのだろうか。
何か怒らせるようなことでもしたのかを思い返す。
(……駄目だ何も思いつかない)
そもそも最近はあの<事実>を知ってから、態度がよそよそしくなっていたはず。
そこまで考えてますますわからなくなってきた。
「その……、エリゼ?何をそんなに怒っているのか俺にはわからないんだが……」
「ええ、兄様にはわからないでしょうね。そもそも帝都すら殆ど行ったことがないのに、いきなり国外に行こうとするなんて正気ですか?」
そのエリゼの鋭い言葉に思わず怯んでしまう。
そんな俺の様子を見て、怒りの矛先を父さんと母さんへ変えたようだ。
「父様、母様も。ユン老師から伺いましたが兄様のリベール行きを許したそうですね」
「あ、ああ。リィンが剣の道に迷っていると聞いてな。ユミルに居ては迷いは晴れないと老師が仰るので許したのだが……」
父さんが珍しく動揺している。
エリゼがここまで怒るのは珍しいからだろう。
実際、先ほどから俺も声が出せないほど動揺しているし。
「ええ、私も少し迷いましたがリィンなら大丈夫だと思い許しました」
母さんはエリゼが怒っている姿を見ても普段と変わらない。
そんな二人の様子を見て、更に怒りが増したらしく。
「ユン老師も! 本当に兄様が旅をしてその<何か>が掴めるんですか!?」
今度は老師にも飛び火したようだ。
当の本人は酒を飲みながら平然と夕飯を食べているようだが。
「それはリィン次第としか言えないのぉ」
老師はエリゼの方へ向きながらそう答える。
それを見てとうとう怒りが頂点に達したようだ。
「そんな……!」
「じゃが」
怒りの言葉を遮りながら老師は言葉を続けた。
「ワシはリィンを信じておる。必ずやこの旅を通じて何かを掴み、大きく成長するじゃろう」
その力強い言葉にエリゼは勿論、家族全員が黙ってしまう。
老師はここまで俺を信頼してくれている。
先ほど修行の打ち切りを告げられたときとは逆に、身体が熱くなっていた。
「老師、ありがとうございます」
「なに、本心じゃからな」
頭を下げる。ここまで師匠が信頼してくれているのだ。
その信頼に応えなければ弟子失格だろう。
「エリゼ、お前もわかっているだろう。リィンなら大丈夫だ」
「リィンなら必ず元気に帰ってきてくれますよ。信じてあげなさい」
父さんと母さんもエリゼを説得に回ってくれる。
二人からの確かな愛情と信頼を感じられた。
「父さん、母さんも……」
「でも、でも……!」
それでも認めたくないらしいエリゼを見て
「ははは……」
俺は思わず笑ってしまっていた。
「っ! 兄様! 何がおかしいんですか!?」
エリゼはこちらを睨み付けてきた。
だが、そんな姿を見て安心しつつ本心を伝える。
「いや……、エリゼが俺のことを心配してくれるのが嬉しくてな。」
「え?」
俺が発した言葉が予想外といった顔をするエリゼ。
それも当然だろう、自分が怒っているのが<嬉しい>というのだから。
「あ、当たり前です! 兄を心配しない薄情な妹になった覚えはありませんから!」
薄情な妹だと思われて心外だといわんばかりに、これまでで一番大きな声で反論してくる。
そんな様子を見て、俺は一つの悩みが解決した気分になった。
「いや、俺が<養子>だと知って少しよそよそしくなってたからな……。それに年頃だし男兄弟がうっとうしくなったのかと……」
「!?」
俺が密かに悩んでいたことを打ち明ける。
エリゼはまたも予想外のことを言われたような顔をしたが、先ほどよりも早く反論してきた。
「よそよそしくなんてしていませんし、うっとうしく思ったりなんかしていません! その少し個人的な事情があるというか……」
「?」
「とにかく! 私が兄様を疎ましく思うとかありえませんから!」
良くわからないがどうやら嫌われてはいないようだ。
ここ最近、剣と同じくらいの悩みの種だったので旅に出る前に解決できてよかったと思う。
「さあ、話もひと段落ついたことだし、夕飯を食べてしまいましょう。せっかくの料理が冷めてしまいますよ」
母さんが声をかけ、ようやく夕飯をたべられる雰囲気になったようだ。
悩みも一つ解決し師の想いも両親の想いも知ることができた。
気分良く夕飯が食べられそうだ。
「私はまだ納得していないのですが……」
まだ不満そうにしているエリゼに質問をする。
「エリゼ、一体何がそんなに心配なんだ?」
「…………。旅をするということ自体は心配していません。私も少し剣を修めている身ですから、兄様の実力はわかっています。余程のことが無い限り大丈夫でしょう」
「……?」
ますます疑問が湧いてくる。
その言葉を聞く限り多少の心配はあれど、先ほどまでの怒りにはならないはずだが――
「私にも……わからないんです。兄様が遠くに行ってしまうというだけで、
そう話すエリゼは、今まで見たどんな顔よりも必死な表情をしていた。
その様子はまるで不思議な夢を見た後の俺に似ていて。
「大丈夫だ」
「え……?」
言葉が自然に出ていた。
「必ず無事にユミルに戻ってくると約束する。ここには父さんと母さんとエリゼがいるし、郷のみんなもいる」
父さんが俺を養子に迎え入れたことで様々な弊害があったことを知り、それを引け目に思っていた。
いずれはこの家を出ていこうと思ったこともある。
だが、ある時理解できた。
「俺が帰ってくる<家>はここにあるからな」
父さんも母さんも俺を実の息子として想っていてくれる。
エリゼやユン老師、郷のみんなも俺を
なら俺がシュバルツァーの名に引け目を感じることは、その人たちに対する裏切りだろう。
「それに、俺はシュバルツァー家の長子だ。お前に相応しい相手が見つかるまでどこかに行くわけにはいかないな」
だから大丈夫だとエリゼに笑いかける。
「……そう、ですか。その言葉を聞いて安心しました。少し腹立たしいですが」
「ああ、安心して待っていてくれ」
そこまで言葉を交わして父さんや母さん、老師の方を見ると三人とも微笑んでいた。
俺は少しだけ気恥ずかしくなりながらも夕飯を食べ始めるのだった。
「そういえば兄様、多分ですが私はユミルでは待てないと思いますよ? 来年の四月から聖アストライアの寮に入りますので」
「あ、そういえば……」
「忘れていらしたんですか……」
エリゼが呆れた目を向けてくる
「な、なら旅が終わって一番最初に帝都まで会いに行くよ」
「ふふ、ええそうしてください」
そこでようやくエリゼは笑顔を見せてくれるのだった。
―――――――――――――――――――――――――――
「ふぅ……、これで良しっと」
あの日から一週間ほどが経った。
―――旅立ちの朝だ。
「着替えも持った、国境を通るための通行書もある。」
荷物をひとつひとつ確認していく。
手紙を届けた後はアネラスさんを頼ると良いと言われた。
リベール各地も回ると良いと言われたので半年程度は掛かるかもしれない。
「予備のグローブもあるな……、おっと刀を拭くための懐紙を忘れるところだった」
忘れていた荷物は新たに詰め、とうとう全ての確認が終わった。
壁から太刀を取り腰に携えれば準備万端だ。
いつもどおりに鏡で身だしなみを確認し部屋を出て、
そこで一度振り返った。
「………………」
見慣れた筈の自室をひとしきり眺めた後扉を閉めた。
階段を降りると、玄関の前には家族と老師が集まっていた。
全員と言葉を交わす。
「リィン、頑張るのは良いが無茶をしすぎるなよ」
「はい、気をつけて行ってきます。父さん」
父さんと握手を交わす。
「向こうに着いたら手紙をくださいね、あとお弁当です。列車の中で食べてください」
「ありがとうございます。母さん。わかりました、逐一手紙を出しますね」
母さんには抱きしめられて。
「兄様、どうかお気をつけて。帝都に会いに来るという約束、忘れないでくださいね」
「ああ、わかっている。約束どおり一番最初に会いに行くよ」
エリゼには両手を握りしめられた。
「リィン。おぬしならば出来るはずじゃ。何かだけではなく、より多くのものを得てきなさい」
「はい。より多くのものを持って帰って参ります」
ユン老師とは言葉を交わして―――
玄関を開ける。
この館ともしばらくのお別れだ。
「それでは、いってきます!」
家族の声援を背に受けながら俺はユミルを旅立った。
この時点でのリィンの強さは閃の軌跡1終了時と同等としています。
家族に対する思いだけは閃Ⅳに至っていますが。
リィン・シュバルツァー(15)
使用クラフト
紅葉切り(威力C)
弧影斬 (威力B)
疾風 (威力A)
業炎撃 攻撃 (威力S+)
Sクラフト
蒼焔ノ太刀 (威力SSS)