灰の軌跡   作:キンニク

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1201年にクロウは帝国解放戦線を作り、同時期にオルディーネの試しも受けているようです。
でも閃Ⅳで年齢を誤魔化してたと言ってましたが、あれ本当なんでしょうか。
しかもミュゼも調べ直してみたら閃Ⅲでは9歳のときに女学院に送られたと言っていたんですが、閃Ⅳでは6歳のときとなっています。

軌跡年表にも変化が出てしまいそうですので、この作品ではミュゼは1199年に女学院に送られたとし、クロウも設定どおりの年齢とします。






約束を交わして

あの後、ミュゼに強引に手を引かれ導力トラムに乗せられた。

行き先は<アルト通り>と表示されている。

トラムに揺られながらお礼はいらないと何度も言うのだが……

 

「そんな!? お礼も受け取ってもらえないなんて……」

 

「ああ……、受けた御恩をお返しせずにしておくなんて、祖父母に顔向けできません……」

 

「リィンさんはおモテになるでしょうし、私みたいな小娘とお茶をしても楽しくないですよね……」

 

「わかった、わかったから! トラムの中で言うのはやめてくれ……!」

 

結局ミュゼに押し切られてしまい、トラム中の視線を集めながらアルト通りに到着するのだった。

 

「そういえば、なんでアルト通りに来たんだ? 喫茶店ならヴァンクール大通りやガルニエ地区でもありそうなものだが……」

 

「ふふっ、申し訳ありません。今日はアルト通りが一番都合が良い(・・・・・・・)と思ったんです」

 

(都合……?)

 

ミュゼの言葉に違和感を覚える。

都合が良いとはどういうことだろうか。

聞き返そうと口を開きかけたところで

 

「リィンさん! 音楽喫茶があるみたいです。ぜひ入ってみましょう!」

 

「っと」

 

また強引に手を引かれてしまう。

 

(まぁ、店に入ってからでいいか……)

 

そうして俺たちは二人そろって音楽喫茶<エトワール>に入店した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

入店してから幾ばくか時間が経過した。

最初は俺のことを質問攻めしてくるミュゼに困惑したが、後半になるとまるで昔からの知り合いのように話が弾むようになっていく。

そこから話題がミュゼの話に移り

 

「そうか、ミュゼは伯爵家の子女だったのか。その、気安い言葉で話していたけど……」

 

年下だったため気安く話していたが、伯爵の家格は男爵よりも数段上となる。

幸いミュゼは気分を害していないようだが、今からでも敬語を使うべきだろうか。

 

「とんでもないです! 恩を受けた人に今更敬語を使わせることなんてできません」

 

「そうか……、ありがとう」

 

息を吐き、胸を撫で下ろす。

貴族同士の争いは些細なことで起こる。

自分のせいでシュバルツァー家に迷惑をかけたくはなかった。

 

「それにしても驚いたな……、まさか君がアストライアの生徒だったなんて」

 

来年からエリゼが通うことになる聖アストライア女学院。

来ている服がどこかの制服なようで気になっていたが、ミュゼはそこの生徒だったようだ。

 

「ふふっ、リィンさんの義妹(いもうと)さんも来年からこちらに通うんですよね?」

 

「ああ、義妹は12歳。だから君の一つ年上になるな」

 

ミュゼは2年前から初等部に所属しているらしい。

9歳から家を離れているとなると、よほど家の教育が厳しいのだろうか。

 

「来年、お会いするのが楽しみですね」

 

「義妹も故郷を離れて生活するのは初めてだからな、色々と不安なこともあるだろう。君が気にかけてくれるなら本当に助かるよ」

 

「ええ、リィンさんという共通の話題もありますし、すぐに仲良くなれそうです」

 

エリゼがいくら出来た義妹とはいえ、うまくやっていけるか心配だった。

だがこれで共通の知人ができることになるだろう。

少し胸が軽くなった気分だ。

 

――――♪

 

「あら……?」

 

「……?」

 

そこで店内に流れていた音楽が止まり、ピアノが鳴り始めた。

ピアノを引いているのは少しオレンジに近い紅毛の女性だ。

その容姿が旋律と噛み合い、幻想的な雰囲気を作り出していく。

 

「これは……、すごいな……」

 

「はい……」

 

思わず会話をやめて聞き惚れてしまう。

ミュゼを見ると目を閉じて音楽に集中しているようだ。

 

(なら、俺も……)

 

同じように目を閉じる。

ピアノの演奏は続き、やがて無心となった。

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

♪~♪~♪~♪~♪~♪

♪~♪~♪~♪

♪~♪

♪~………

 

五分ほど旋律を奏で、ピアノが鳴り止む。

目を開くと女性がこちらに向かって頭を下げていた。

演奏が終わったのだろう、自然と手を叩いて拍手を送る。

 

「素晴らしかったです……」

 

「ああ、今まで聞いた中で一番かもしれない……」

 

女性は頭を上げカウンターまで移動する。

 

「ありがとう、フィオナ。相変わらず見事な腕前だ」

 

「いえ、これぐらい。いつもお世話になっていますから」

 

女性の名前はフィオナというらしい。

どうやら喫茶店のマスターと知り合いのようだ。

 

「素敵なピアノも聴けましたし、入って本当によかったですね」

 

「そうだな……。あれだけ見事なピアノが聴けるなら常連になってしまいそうだ」

 

そう言いつつ、入るときの会話を思い出す。

 

「そうだ、ミュゼ。君が店に入る前に都合が良いと言っていたが、なにか事情があるのか?」

 

「……? ああ、そんなことも言っていましたね」

 

ミュゼが小悪魔のような笑みを浮かべる。

出会って数時間しか経っていないが何故か理解できる。

あの笑みをするときは大抵、予想外のことを言い出すときだ。

 

「殿方とのデートを学院の方に見られたら噂になりますから。そうなると話が実家(・・)まで伝わってリィンさんのご迷惑になるかもしれませんし」

 

「……あ、あぁなるほど。配慮してくれてありがとう」

 

自分の顔が引きつるのがわかる。

確かに女学院に噂が広まるのは不味い。

事実無根だが、もしエリゼが入学後に知ったとしたら――

 

『兄様! 一体何をしに旅に出たんですか!』

 

『私が学院でどれだけ恥ずかしい思いをしたと思っているんですか!』

 

『金輪際、兄様と話をしたくありません!』

 

最悪の予想が脳裏によぎる。

旅が終わって帝都に義妹に会いに行ったら、縁を切られるなんて最悪だろう。

そして何より、エリゼに縁を切られたとしたら俺はもう生きてはいけない。

 

「ミュゼ、本当にありがとう……!」

 

「……え、えぇ。まさかそこまで感謝されるとは」

 

感謝を最大限に伝えると今度はミュゼの表情が引きつっていた、何故だろう。

本当に良かったと呟きながらコーヒーを飲む。

丁度最後の一口だったようだ。

 

「もう16時前ですか……、そろそろ店を出ましょう」

 

店の時計を見ながらミュゼが呟く。

かなりの時間が経っていたようだ。

 

「そうだな、そろそろ出よう」

 

「リィンさんと居ると楽しいので、時間が経つのが早いです。門限がなければいいのですけど……」

 

本当に残念そうにしているその姿を見て、思わず言ってしまう。

 

「さっき話したが、リベールから戻ってきたら義妹に会いに来るんだ。そのときミュゼも一緒に会えるな」

 

「……! 本当ですか!?」

 

約束ですよと言いながら彼女は笑みを浮かべる。

それは先ほどまでしていた子悪魔のような笑みではなく、本当に年相応の笑顔だった。

 

その後、ミュゼがお花を詰みに行っている間に会計を済ませる。

戻ってきたミュゼに奢らせて欲しかったと言われたが、11歳の少女に15歳の俺が奢られるのは流石に不味いということでようやく納得してくれたようだ。

今、店に入ってきたらしい男の子(・・・)とすれ違いつつ出口の扉から店を後にする。

 

「門限まではまだ少しありますから、ヘイムダル大聖堂までご案内しますよ。アストライアも近くにありますので場所の確認をしたほうが良いかと」

 

「いや、女学院の生徒達に見られたら噂になるんじゃ……」

 

「避けたかったのはお茶をしているところを見られることです。道案内をしていたって言えば誤魔化せますから大丈夫です」

 

「……そうか、ありがとう。助かるよ」

 

会話をしながら歩いていく。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「…………」

 

「どうしたの? エリオット」

 

「……姉さん、さっき出て行った僕と同じぐらいの男の子なんだけど……」

 

「ああ、可愛らしいお嬢さんと一緒だった子かしら。あの男の子がどうかしたの?」

 

「うん、多分面識は無いはずなんだけど……。なんだか気になって」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

アルト通りからトラムで揺られること30分。

ようやくサンクト地区の停留所についたようだ。

トラムから降り、辺りを見渡す。

 

「あの坂の上が聖アストライア女学院か」

 

停留所から少し歩き坂を上った先に立派な建物がある。

ここからでもハッキリ見えるほどに近い。

 

「ええ、そしてあちらがヘイムダル大聖堂ですね」

 

そう言われて視線を移す。

そこには城と間違えそうなほど大きい教会が建っていて、その壮麗さに驚きを隠せない。

 

「なるほど……、まさに大聖堂だな」

 

女学院の場所を確認し、記憶しておく。

これで次に来たときに迷うことはなさそうだ。

 

「ミュゼ、門限は大丈夫か? さっき危ないと言っていたが」

 

「ふふっ、大丈夫です。教会で祈りを済ませる余裕くらいはありますから。それに休息日のこの時間は他の女学生もいないでしょうし」

 

教会へ向かって歩き、程なくして入り口に着いた。

扉を開けて中に入る。今の時間はあまり人はいないようだ。

 

「リィンさん、せっかくですし最前列に座りましょうか。そのほうが<空の女神>の耳にも届きやすいでしょうし」

 

「ああ、そうしよう」

 

壇の中央に立っていた大司教猊下に挨拶をして席に座る。

身体が触れるほど近い距離に座ったミュゼを嗜めながら、目を閉じ、祈りを捧げ始めた。

 

(この旅で<何か>を掴み取り、力を制すことができますように。そしてなにより自分を信じてくれている家族や老師に、良い報告ができますようお願いいたします)

 

そして心の中で更に続ける。

 

(祈るだけでは駄目なこともわかっています。自分はこの願いが叶うならば、どんな困難も厭いません――――どうか女神の加護を)

 

しっかりと時間を掛けて祈り、目を開ける。

横の方を見るとミュゼが胸に着けているペンダントを握り締めて祈っていた。

たしか昼に暴漢達に襲われたときも、体を呈して守っているようだったが……

 

祈りが終わったのか、ミュゼは組んでいた手を解きこちらに顔を向ける。

 

「待たせてしまって申し訳ありません」

 

「いや、気にしないでくれ」

 

そう言いつつも目線はペンダントへと向いてしまう。

ミュゼもそれに気がついたようだ。

 

「その、とても大事にしているようだから――」

 

「父の形見なんです、これは」

 

その言葉に身体が凍りつきそうになる。

 

「……そう、なのか」

 

ミュゼは大事そうにペンダントに触れながら話を続ける。

 

「私が今よりもっと幼い頃、バリアハートで買ってきたんです。私の髪の色に似ていて、とても綺麗だからって」

 

ペンダントをよく見ると翡翠の宝石が散りばめられている。

装飾も見事で確かにミュゼの髪色によく似ていた。

 

「私に、このペンダントが良く似合う年齢になったらプレゼントするって言ってました。その約束は父が死んでしまって、叶えられなくなってしまいましたが……。アストライアに入学する際にこれだけは持ってきたんです」

 

「…………すまない。辛いことを思い出させてしまったな」

 

「ふふ、謝らないでください。私も誰かに聞いて貰いたかったのかもしれません」

 

ミュゼの横顔を見る。

 

(強い子だな……)

 

その顔はとても大人びていて11歳の少女とはとても思えなかった。

だが、どこか弱さ(・・)も抱えている気がする。

俺が言えた義理ではないが、少し気になった。

 

「少し空気もしんみりしてしまいましたね。こんなつもりではなかったのですが」

 

「君にとってお父さんはそれだけ大事だったということだろう………。無理もないさ」

 

「……そうですね、とても優しい方でしたから。さて、祈りも終わりましたしそろそろ――」

 

ミュゼは雰囲気を変えるようにそう言って、話を終えようとする。

しかし何かを思いついたように笑顔を浮かべ

 

「リィンさんは、私がこのペンダントが似合う素敵な女性になれると思いますか?」

 

そう聞いてきた。

正直、女性の装飾品については詳しくもなく不得手な部類だ。

だが不思議なほど確信をもって言える。

 

「ああ、きっとなれる。君は今のままでも十分可愛らしいが、あと4.5年もして俺と同じくらいの年齢になるころには眩しいくらいに成長してると思うぞ」

 

「……ぁ」

 

「そうしたらきっと、俺なんか歯牙にもかけられないだろうな」

 

俺の本心を告げて笑いかける。

ミュゼはその言葉を聞いて俯いてしまった。

 

ずるい人ですね

 

「……? えっと、今何か言ったか?」

 

何か小声で話しているようだがいまいち聞こえない。

 

「……なんでもありません。そろそろ時間ですし行きましょう」

 

「あ、ああ」

 

ミュゼが立ち上がり先に行ってしまう。

何か言葉を間違えてしまっただろうか、エリゼもたまにこんな感じで怒っていたが。

大司教猊下に挨拶をして追いかけようとすると。

 

「君、少し言葉を気をつけるようにな。後々大変なことになってしまうぞ」

 

「……は、はい。かしこまりました」

 

話を聞かれていたのだろう、注意を受けてしまった。

言葉を返して出口に向かうと扉の前にミュゼが待ってくれていた。

心なしか顔が赤い。

 

「大司教と何かお話されていたようですが、どうかしましたか?」

 

「ああ、多分助言を頂けたと思うんだが……」

 

「……? とりあえず出ましょうか」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

大聖堂前の噴水がある広場で足を止める。

 

「残念ですがそろそろ時間ですね」

 

「ああ、少し暗くなってきたし女学院まで送ろうか? 道案内してくれたお礼とでも言えば誤魔化せるだろうし」

 

「ふふっ、お気遣いしてくださって嬉しいのですが、大丈夫です。女学院には警備の方がいますから、見つかったら詳しく聞かれてしまうかも知れません」

 

改めてミュゼと向き直る。

列車の時間まであと一時間程度だ。

移動する時間もあるしそろそろ別れるべきだろう。

 

「今日はありがとう。最初はどうなることかと思ったが、すごく楽しかったよ」

 

「いえ、こちらこそありがとうございます。危ないところを助けて貰ったばかりか、貴重なお時間まで頂いてしまって」

 

「はは、俺も素晴らしい喫茶店や女学院の場所を教えて貰えたからな。おあいこだろう」

 

今日の出来事を思い返す。

ユミルを旅立ちルーレへと行き、そこから電車に揺られて帝都までやってきた。

そこで思いがけない出会いとはいえ、ミュゼという知り合いまで出来たのだ。

旅を始めて一日目としては十分だろう。

 

「それじゃあ、また。リベールから帰ってきたときにまた会いに来るよ」

 

「ええ、またお会いましょう。義妹さんと一緒に楽しみにしていますね」

 

別れの挨拶を交わす。

俺はまだ時間があるため見送ろうとするが、ミュゼは動かない。

 

「リィンさん、最後にひとつ聞いてもよろしいですか?」

 

「……ああ、遠慮なく聞いてくれ」

 

なにか、まだ伝えたいことがあるのだろうか。

ミュゼは少し迷いながらも意を決したように問いかける。

 

「私がまた困っていたら、リィンさんは助けてくれますか……?」

 

 

 

「助けるさ、たとえそれがどんな大きな問題でも」

 

 

 

口が自然と動く、エリゼを説得したときのように。

まるでそうすることが当然だという気持ちが溢れ出てくる。

 

「といっても俺にできることは、ほんの少しだろうけどな……。でも君が困っていたら全身全霊で力になる。約束するよ」

 

「……そう、ですか。申し訳ありません、変なことを聞いてしまって」

 

ミュゼはその言葉を聞き笑顔を浮かべる。

どうやら返した答えは間違っていなかったようだ。

 

「そのお言葉とても嬉しいです。では、私が困ったとき相談させてください。約束ですよ?」

 

「ああ、遠慮なく頼ってくれ」

 

ミュゼが広場の時計を確認する。

時間は16時55分だ、急げば門限まで間に合うだろう。

 

「それでは、気をつけてリベールに行って来てください、病気や怪我にはお気をつけて」

 

「ああ、ミュゼもまた会おう」

 

そう言って手を振り、去っていく。

出会って数時間程度だが少し名残惜しかった。

 

(さて、そろそろ駅のほうに向かうか)

 

その後姿が完全に消えた後、俺は帝都駅に向かうのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

今日は不思議な一日だった、女学院への坂を上がりながら一日を思い返す。

暴漢に襲われたあの時は最悪の日だと思っていたのだが、あの人と出会ってからは最高の時間を過ごせただろう。

 

(リィン・シュバルツァーさん……。始めてお会いしたのにとても居心地が良かったですね)

 

こんな気持ちになったのは祖父母と居るときか、両親が生きていた頃だけ。

まるで昔からの知り合いのような安心感を得ていた。

 

(それにしても……まさかあんな行動を私がしてしまうなんて)

 

今日の自分の所業を思い返す。

 

(始めて知り合った男性と手を繋いで強引に連れ回してお茶をして、さらには父のことを語ってしまい……あまつさえあんなことまで聞いてしまうなんて……!)

 

あまりの恥ずかしさに顔から火が出てしまいそうだ。

自分でもなぜあのような行動をしたのかわからない。

気付いたら自然と身体が動いてしまっていた。

 

ミルディーヌ(・・・・・・)様! お帰りなさいませ!」

 

その言葉に我に返ると目の前に寮の監督生がいた。

いつの間にか学院に着いていたようだ。

慌てて笑顔を作り返答する。

 

「ただいま戻りました。申し訳ありません、少し遅れてしまいましたか?」

 

「いえ、丁度、門限の時間です。流石はミルディーヌ様、時間に正確で……」

 

「……? どうかしましたか?」

 

監督生が確かめるようにこちらの顔を見てくる。

顔に何か着いているのだろうか。

 

「ミルディーヌ様……体調などは崩しておられませんか?」

 

「? いえ、身体の不調は感じておりませんが」

 

なぜそんな質問をしてくるのだろうか?

そんな自分の表情に気付いた監督生が口を開く。

 

「その……、今までに見たことがないほど顔が赤くなって(・・・・・・・)いるので」

 

「……!?」

 

自分の顔に手を当てる。

当てた手からは信じられないほどの熱が伝わってきた。

 

「きょ、今日は良く歩いたので疲れているのかもしれません。早めに部屋に戻って休ませて頂きます」

 

「あっ、ミルディ――」

 

途端に羞恥心が増し、呼び止められそうになるが早足でその場を去る。

急いで寮の自室に戻り鍵を閉めた。

 

(感情が制御できないなんて、本当に私らしくない……)

 

ふらふらと歩いてベッドに辿り着き横になる。

しばらくは起き上がれそうになかった。

 

(それもこれも私が望む言葉ばかりあの人が返してくるから……)

 

『ああ、きっとなれる。君は今のままでも十分可愛らしいが、あと4.5年もして俺と同じくらいの年齢になるころには眩しいくらいに成長してるだろうな』

 

自分にかけられた言葉を思い出し、それだけでまた感情が制御できなくなってしまう。

 

「~~っ、これじゃいけませんね……。これからのことを考えなくては」

 

頭を振り、思考を切り替える。

考えるのは昼にしていた<盤面>の考察だ。

 

(果たして、鉄血宰相が勝利する内戦の先に何があるのか……。今の時点では見通せません)

 

おそらく時間が経つことでわかってくることもあるだろう。

今はそこまでしか盤面は見えないが

 

(内戦のその先に、<何か>が起こるという不安だけが私に着いて離れない)

 

力を蓄え、備えなければならない。

叔父が破滅した後、すぐに自分が動き出せるように。

――この不安が確信に変わる前に。

 

(とはいえ……、現状、私の味方はお祖父様とお祖母様しかいませんし……だからリィンさんに助けを求めてしまったのでしょうね)

 

あの不思議な安心感のある人に、少しでもこの大きな不安を和らげて欲しかったのかもしれない。

 

『助けるさ、たとえそれがどんな大きな問題でも』

 

あの約束を思い返してしまう。

自分でも不思議なほどに、それだけで心が軽くなっていくようだった。

 

(ふふっ、案外この出会いが帝国の行末を変える――なんて夢を見すぎですね)

 

だが、期待してしまう自分が居る。

あの人が、この帝国に蔓延る闇を照らしてくれるのではないかと。

 

(ああ、次にお会いするときが楽しみです)

 

そうペンダントに触れながら想うのだった。

 

 

 

 

(あ、レターセットを買うの忘れていました)

 

 

 

 







いつのまにかお気に入り件数が凄いことに(震)
未完にならないよう頑張ります。




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