イナズマイレブン〜紅蓮の華〜   作:奇稲田姫

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第1章 序章
プロローグ


モスクワ。

露国主催フットボール選手権大会選手控えホテル付近。

 

 

 

 

 

馴染みのないレンガ造りの壁に背中を預けて曇天の空を見上げた俺のポケットに入れていた左手に軽い振動が伝わってくる。

 

特に視線を向けるわけでもなく、ゆったりとした動作でポケットから携帯端末を取り出すと知らない番号が映し出された画面が目に飛び込んできた。

電話帳に登録されている訳でもない電話番号からの着信に若干眉をひそめつつ俺は雪国特有の寒さによってそろそろ悴見始めた指でどうにかこうにか通話ボタンを押した。

 

「もしもし波久奴(はくぬ)です。……………もしもし?」

 

 

 

 

 

 

 

 

……その通話の声はその当時から数日ほど時間が経過した今でも鮮明に俺の脳裏に記憶されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………砥鹿(とが) 火蓮(かれん)という人物に心当たりはあるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

思いがけない一言に俺は反射的に聞き返した。

 

 

「火蓮に何か用ですか?」

 

 

知らない人物からの電話なのに加え、何故自分のチームメイトの名前が上がるのか分からないことに若干の苛立ちを覚えつつも、電話の向こうの低音ボイスに流されるまま電話を続ける。

 

「彼女は近日開催が決まったFFI……通称フットボールフロンティアインターナショナル日本代表候補選手に抜擢された。」

 

「日本代表候補?」

 

FFI。

基本的に日本の大会とはほとんど無縁の自分たちにとってはどうせ縁のない大会だろうと思っていた矢先の出来事だった。

 

そもそもなぜ本人に直接ではなくこちらに連絡をしたのかという意図も不明。

 

「彼女にも近々連絡が行くだろう。要件は以上だ。手間を取らせてしまって済まない。それでは。」

 

「おい!ちょっと!………………切れた。」

 

なんだったんだ今のは。

見知らぬ電話番号から電話がかかってきたと思ったら、いきなり自分のチームメイトが日本代表候補に抜擢されたと突拍子もないことを言われた挙句、一方的に電話を切られたわけだ。

端末を耳から離し、画面に映し出された通話時間に1度舌打ちをしてからポケットに突っ込む。

 

それとほぼ同時くらいだろうか。

 

「おい、花王瑠!またてめぇはこんなところほっつき歩きやがって。明日日本に戻るんだからさっさと準備しやがれ。」

 

「洋か。」

 

「洋か……。じゃねぇよ。てめぇ以外の支度は出来てるんだぞ?」

 

神奈川県に建てられた比較的新しい学校、私立桜林学園。

そこは表の舞台とは異なり、人知れず日本全国から屈指の実力を持った選手をスカウトし、国内と言うより世界の各大会での成績を残すことを目的に作られた学校だ。

そのため、サッカーのみならずほかのスポーツでも国内の大会の出場はなくとも世界の各大会では割と名の知れた学校だったりする。そんな学校のサッカー部のフォワードを任されている目の前の少年は自分よりも僅かに低い身長とつり目、最後に頭にパイレーツハットのような帽子がトレードマークになっていた。

 

歌舞天寺(かぶてんじ) (よう)

 

その容姿も相まってみな彼のことをキャプテンと呼んでいる。

ただ、チームのリーダーという訳ではなくあくまでニックネームのようなもの。真のキャプテンは他にいるのだ。

 

そんな洋は面倒くさそうに舌打ちをしながら左手を腰にあてた。

 

「ホテル戻って身支度整えたらミーティングだって監督言ってたろ?」

 

「はぁ、言ってたな。」

 

「覚えてるんなら早く戻れ。出ないと…………」

 

そんな洋の言葉が終わらないうちに左手の手首に振動が走る。

 

どうやら監督が呼んでいるようだ。

 

手首に取りつけた青いリストバンドの細い液晶にメッセージが表示された。

 

"さっさと帰って来なさい!"

 

ついでに少しお怒りなのか。

 

「言わんこっちゃねぇ。」

 

「まぁいい。だだ、ロシアなんてなかなか来れないから観光がてらふらふらしていただけさ。やましいことなんてない。」

 

「どうだか。また、その辺の女引っ掛けようとしてたんじゃないのか?」

 

「まさか。」

 

「当たりだろ?」

 

「はずれさ。」

 

そう短く言い残し、俺はゆっくりと洋の横を通り過ぎていく。

 

俺は波久奴(はくぬ) 花王瑠(かおる)

 

私立桜林学園サッカー部、通称十二天王のキャプテンを務め、3人いるFW陣のトップを務めるストライカーの一角である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルロビー。

 

自動ドアをくぐると案の定監督が比較的高めの身長とスレンダーな体型で腕組をしながら仁王立ちしていた。

ついでに、額には青筋を立てて。

 

「花王瑠、またあなたはどこをほっつき歩いていたの!」

 

「ほっつき歩いていたと言う表現は少々外れています。曇天という悪天候の中でも美しい外観を損なわないモスクワの街並みと北国特有の冷たい空気を肌で感じていただけですよ。」

 

「つまり、理由もなく無断外出していたわけね?」

 

「無断外出とはまた酷い言われ用ですね。確か春紀には伝えておいたはずですが。」

 

「"監督、花王瑠が少し出かけてくるとの事です。と、伝えましたが監督に先に言わずに出かけて行ってしまったのでこれは無断外出ですよね?"との事よ?」

 

「はぁ。」

 

伝える相手を間違えたようだ。

 

こんなことなら火蓮にでも言っておくんだった…………火蓮?

 

「っ!あ!そうです監督!さっき意味不明な電話が俺の携帯にかかってきたんです。なんでも火蓮がFFIの日本代表候補に選ばれたとかなんとか。どういうことなんですか?」

 

そう言うと監督は腰までの長髪を僅かに揺らしながらため息をついた。

 

「あなたにも連絡が来たのね。まぁ、言葉のとおりみたいよ?明日選抜メンバーの顔合わせというか選考試合があるとかだから急遽さっき飛行機に乗せたわ。今から行けばギリギリ間に合うんじゃないかしら。」

 

「なんでまた。」

 

「こっちが聞きたいくらいよ。まったく、どこから情報を拾ってきたんだか。」

 

「火蓮はなんて?」

 

「今までとは違った景色を見てきたい、だそうよ。」

 

「だそうよじゃないです。止めなかったんですか?」

 

「言ってあの娘が止まるならあなたも苦労してないでしょう?」

 

「…………失礼します。」

 

そう言い残してくるりと踵を返す。

 

俺たち十二天王のフォワードは俺と洋、そして火蓮のスリートップ。

その中でも群を抜いて決定力を持ったカレンがチームから一時的とはいえ離脱するということは、チームとしての力がガクンと落ちることと同意だ。

それをわかっていない監督じゃない。

何か考えが…………。

 

いや、さっきの表情は本当にどうしようもないと言った表情だ。

抵抗はしたのだろう。

それでも覆ることは無かったということか。

 

俺は携帯をポケットから取り出す。

 

そして、電話帳からとある人物の番号を表示させ、通話ボタンを。

 

「"もしもし?"」

 

「あぁ、アンか。」

 

「"花王瑠?あんたから連絡してくるなんて珍しいわね。明日あたり嵐になるのかしら。ふふふ"」

 

数回の呼び出し音の後、スピーカーの向こうから少々トゲのあるような声が響いてくる。

 

電話の相手、佐曽利(さそり) アンはそんな声でケラケラと笑う。

 

「ふざけてる場合じゃないんだよこっちは。火蓮が────」

 

「"火蓮が日本代表候補に抜擢されたって?" 」

 

「あぁ、日本代表候補に………………なぜ知ってる?」

 

そう返すと電話の向こうの少女はくすくすと笑った。

 

「"そんなことだろうと思った。"」

 

「……。」

 

「"まぁ、知ってるも何もその話、うちの学校まで来たから。"」

 

「は?」

 

「"聞こえなかった?うちのチームのメンバーにもその話が来たって。"」

 

「誰に?」

 

「"スピカに。"」

 

「まぁ、納得は行くけど。ということはスピカも明日?」

 

「"行かないわよ?"」

 

「は?」

 

「"いやだって、当然じゃない。うちの貴重なストライカー陣の一角をどうして見ず知らずのチームのためにわざわざ差し出さなきゃいけないわけ?うちのメンバーはそんなに安くないのよ。"」

 

「そりゃそうだけどさ、よく断りきれたな。こっちの監督ですら折れたってのに。」

 

「"あら、そうなの?こっちも監督は折れたけど私が「でも、タダで参加させるなんて一言も言ってないわ。参加させたきゃ相応の対価を支払って貰わないと。でないと、割に合わないわ。彼女はそれほどの逸材なのよ。」って言って対価を要求したら渋々引いてったわよ?"」

 

「……お前、時々やたら凄いことをやるよな?」

 

「"当然でしょ?私はゾディアックスのキャプテンよ?メンバーを守るのは当然の責務よ"」

 

「はぁ、かなわないな。」

 

「"ま、火蓮なら大丈夫でしょ?決定力だけならうちのスピカより上なんだし。"」

 

「天川のキャプテン様にそう言ってもらえるなんて、光栄だね。」

 

「"何言ってるんだか。じゃ、明日の朝こっちに着くんでしょ?それを選考会場までエスコートすればいいってことね?"」

 

「まぁ、いうなればそうだね。」

 

「"なんでライバルチームのメンバーをエスコートしなきゃいけないのかなんて思うけど、この際仕方ないわ。引き受けてあげる。でも、私もそんなに時間は取れないわよ?"」

 

「分かってる。確か明日からイタリアだったか?」

 

「"そう、あんた達がロシアから帰ってくるのと入れ替わりでね。なんでも、FFIイタリア代表と合同演習なんだってさ。そのためにわざわざ来てくれって。はぁ、面倒だわ。"」

 

桜林学園と同時期に設立され、目的も桜林同様世界に焦点を合わせた学校、同じ神奈川の私立天川学園中学校。

そんな学校で世界に羽ばたくサッカー部、通称「ゾディアックス」をまとめあげる毒舌キャプテンにして、魅毒の鉄蠍の異名をもつ世界基準だとしても鉄壁のセービング能力を誇っているのがこの電話の向こうの少女、佐曽利 アンなのだ。

 

故に、桜林学園と天川学園は共に世界各地の大会で常に上位争いをしているようないわゆるライバル関係に当たるわけだ。それも相まってなのか分からないが、選手同士の仲は意外にも良かったりする。まぁ、試合になれば別だが。

 

「"ま、聞く話によると日本人がイタリア代表に選ばれたって聞くし。白い流星とどんな連携を取ってくるか楽しみではあるけどね。"」

 

「アルデナ君か。彼なら大丈夫だろう。じゃあ、明日は頼んだよ。火蓮のことよろしく頼む。」

 

「"はぁ、あいよ。後で私とスピカにご飯の奢りだから。よろしくね。じゃあ。"」

 

「分かった。それじゃあ。」

 

その言葉を最後に俺は携帯を耳から離して通話を切る。

 

ついでに舌打ちしながら頭をガリガリと掻く。

 

どうせもう火蓮は飛行機の中、電話したところで圏外だろう。

 

俺は手早く端末のアプリでメッセージを打ち込んで送信ボタンを押す。

 

ちょうどエレベーターの前で送信を終え、それをポケットに突っ込むのと同時に、エレベーターに乗り込むといつもより強めに3階のボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

モスクワ空港発東京大江戸国際空港行き405便機内。

 

 

 

 

窓際の席で私は頬杖をつきながら窓の外からボーッと雲海を見下ろしていた。

 

日本代表、か。

 

そこならまた違った世界の景色が見えるのだろうか。

 

今までのチームに飽きたとかそういうものではなく、ただ単に興味本位と言った方がいいかもしれない。

 

それに、日本代表候補と言うだけにどんなすごい選手が集まってくるのかという点も興味深かったりする。

 

天川の選手達はいるのだろうか?

もしくはその他にも突出したセンスの持ち主でもいるのか。

 

いずれにしろ、私は私のプレーをするだけ。

 

そんなことを考えながら主翼の下を高速で通り過ぎていく雲を見ながらふと私は笑みを零したのだった。

 

その直後。

 

 

 

 

 

 

ピロン。

 

 

 

「ん?メッセージ?…………フフ、花王瑠からね。」

 

 

ここは既に雲の上。

本来ならば電波など届かない圏外のはずなのだが、なんの因果かそれとも偶然の産物なのか、受信したメッセージの文面を見た瞬間思わず声を出して笑いそうになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"火蓮。君が決めたことなら文句は言わない。なら、その力存分に奮って、勝って来い。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと数時間で日本に着く、か。

 

 




ん〜、そう言えば、ゲーム内のキャラを主人公にする場合って、『オリ主』タグ必要なんだろうか。

とりあえずつけておこう←
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