イナズマ町ファミレス店内。
休日のお昼時ということもあって店内家族連れや学生達の声でごった返していた。
本日はイナズマジャパンも休日で、練習は午前中で終わりになっている。
午後の自由時間は各々自由に過ごしていることだろう。
1部自主練を続けていそうなメンバーもいるが、まあ、1部だろうな。
そんなお昼時の時間に私はファミレスの店内で人を待っていた。
一応不動にも声を掛けてみたのだが、予想外に乗ってきたので現在2人でドリンクバーを頼んでダラダラ待っていた。
「はぁ、もうぜーんぜん上手くいかない!どうしてくれるのよ〜」
「ハッ、俺が知るか。つーかよォ、なんで俺様がてめぇの愚痴に付き合わなきゃなんねぇんだ。こんなんなら来なけりゃよかったぜ」
「そんなこと言って、満更でもないくせに強がっちゃってさ」
「ふん、俺様は高嶺の花が嵐で真っ二つに折れるところが見たかっただけだ」
「あっそ」
だらりとテーブルに上半身を投げ出しながら片手でまだ若干氷が残っているお冷のグラスをカラカラと振る。
麦茶色のグラスが風鈴のような涼しい音を奏で、結露した水滴が腕を伝って肘へ、最後にテーブルの上にぽたぽた落ちて小さな水たまりを作っていた。
「あんたはいいわよね〜、連携技とは到底縁が無さそうだし」
「俺様は群れていなきゃ何も出来ない甘ちゃん連中とは立ってる土俵が違ぇんだよ」
長椅子の背もたれにどっかりと背中を預けながら不動が鼻を鳴らす。
「だいたいよぉ、てめぇが連携技?冗談も休み休みに言えって感じだかな」
「いいじゃない別に。ほら、仲間と力を合わせて………………」
「それ以上喋んな反吐が出るぜ」
「あんたが聞いてきたんじゃない」
そんなやり取りをしていると遠くからファミレスへ入店のベルが響く。
入店してきたのはまだ中学生くらいの男女1組で、彼らはキョロキョロと店内を軽く見渡したあと、私と目が合うやいなやこちらに向かって歩いてきた。
私たちの席に着いた2人のうち女の子の方は私と目を合わせてから不動の方に視線を向けていた。
「…………てめぇ、確信犯だろこれ」
「知らない仲じゃないんだから気にしないの。はーい、カオル久しぶり。それからアンも」
「あぁ、久しぶり。まさか火蓮の方から呼び出してくるとは予想外だったよ。それに不動も久しぶり」
「俺様はもうてめぇの顔は二度と見たくなかったけどな」
「釣れないなぁ。キャプテン同士がっちりと握手を交わした仲じゃないか」
「あの後いつもより念入りに手を洗った」
「そ、それは結構傷つくんだけど?」
「ケッ」
「あーそろそろいい?私全く知らないんだけど。誰こいつ」
後から合流した2人のうち花王瑠じゃない方、私を空港から雷門中へ送ってくれた蠍のしっぽのような髪型が特徴の佐曽利 アンが心底嫌そうに不動を指さしながら私に向かって言った。
「彼?不動よ。不動 明王。ほらこの前話した………………」
「あぁ、
「てめぇいい度胸してんじゃねぇか、ちょっと表出ろよ」
「はぁ?負け犬を負け犬って呼んで何が悪いのよ。図星突かれたからってキャンキャン絡んでこないでくれる?」
「へぇ、本気でぶっ潰されてぇようだなァ。アァン?」
「身の程知らずは決まって同じセリフを吐くものよ。あんたも同類ね同類。それから、自己紹介もしてないのに勝手に私の名前使わないでくれる?」
「言ってねぇし、知りたくもねぇなァてめぇの名前なんざ」
「はぁーん、じゃあ教えてあげようじゃない私の名前」
「要らねぇっつってんだろ?」
「あぁ、やっぱりその心底嫌そうな顔って大好きだわ、私。それが見たいから無理矢理にでも喋ってやろうじゃない。はじめまして〜
「こいつはマジで癪に障ることしかしねぇんだなァおい!この不動 明王様に喧嘩売ったことを心の底から後悔させてやるから覚悟するんだなァ!」
私が不動を紹介するよりもさらに早いスピードで不動とアンの間に火花が飛び散っているのをめちゃくちゃ感じる………………と言うかもう見たまんま。
額に青筋を立てながら睨み合う2人の背後に
「…………えぇ、あんた達ってそんな仲悪いのね。同じような嫌味ったらしい性格だから絶対にウマが合うと思ったんだけど」
「ぶっ飛ばされたいわけ?」
「ぶっ飛ばされてぇかァ?」
「…………息はピッタリ」
「まぁまぁ不動もあつくなるな。アンもいいから座りたまえよ」
「
「
「………………怖いねぇ似た者同士って」
やれやれと言いながら
「あ!ちょっと待って花王瑠!なんでアンタはさも当然のように火蓮の隣に座ってる訳?私にコイツの隣座れっての?」
「ふん!俺様こそこんなやつの隣なんて真っ平御免だ。用がねぇならさっさと帰れ」
「なんですって?負け犬が偉そうに」
「その負け犬にここまで言われてるんじゃ、てめぇはそれ以下ってことになるよなぁ?よォ?クククク」
「あんた達ほんとに初対面?」
「あ?知るかよこんなセンスの欠片もねぇちんちくりんな頭してる様なやつ」
「その言葉そっくりそのままお返ししてあげるわよ。ただのハゲが可哀想に。まだ中学生だってのに毛根全滅してるなんてご愁傷様」
「あぁ!!?」
「やんの!!?」
両者額に限らず顔のあらゆる場所に青筋をピキピキ立てながら睨み合いを続けているその最中、花王瑠が呼んだウェイトレスが注文を聞きに来た。
若干困り顔を浮かべるウェイトレスに気にしないでくださいと笑顔で釘を指し、お冷のグラスをカラカラ鳴らして見せた。
「あ、すみません注文を。季節限定のこれ…………マスカット?のアイスとドリンクバー2つ追加で」
「は?ドリンクバー2つ?」
「?そうだけど?だってカレンと不動はもう頼んでいるんだろう?だから俺とアンの分」
「あぁ、なるほど、ほらそこの2人、取っ組み合うのは良いけど注文は?」
「適当になんかやっとけ!」
「それには私も同感!」
両手を組みながらまだまだ決着の気配もない不動とアンが互いから視線を逸らすことなく吐き捨てるように言う。
やっぱりそういう所は似た者同士なんだ。
「だってよカオル。今回も経費持ちでしょ?なら適当に頼んじゃえば?私達だけだと自腹になるから頼まなかったけど」
「カレン………………まさか狙いは最初っからそれかい?」
「さぁ、なんのことかしら〜」
「これは監督に報告案件だな」
「それだけはやめて!」
「…………あの、ご注文は……?」
「あぁ、すみません。じゃあ、
「かしこまりました。それではメニューの方をお下げ致しますので………………あ、すみませんありがとうございます。それではごゆっくり」
年齢的には自分たちよりも一回り大きい、おそらく高校生くらいのウェイトレスの子がカオルから受け取ったメニューを持ちながらぺこりと頭を下げてそのまま厨房へと帰っていく。
その背中を相変わらずの視線でカオルが追っていた。
「カオル」
「っ…………い、いや別に俺はそういうわけで見てたんじゃない!断じて結構可愛かったな〜なんて思ってない!」
「嘘下手すぎ。付き合ってるわけじゃないけど、なんか見てて腹立つ」
「……結構堪えるなその一言………………?」
不意にバツが悪そうに頭を掻いていたカオルがふと言葉を止めて視線を私から外した。
その視線の先に目を向けると、今度はアンと不動がまるで信じられないものでも見たかのような表情でこちらを見ていた。
「?何2人とも?ケンカは終わったの?」
「んなわけねぇだろ?そんなことより、お前らできてなかったんかよ!?」
「ぶふっ…………ケホケホ……」
不動の一言に追加で出されたお冷に口をつけた花王瑠が盛大に噎せた。
その反応に対して今度はアンが反応する。
「嘘でしょ?どっからどう見ても付き合ってる流れだったでしょ!?なに?こっちは恋人関係じゃない奴らの惚気話を今までずっと聞かされていたって訳?冗談でしょ」
「はぁ?どうしてそうなるわけ?」
「誰がどう見てもそうとしか見えなかったぜ?なぁ?佐曽利」
「そうね〜。だとするとめちゃくちゃ腹立ってくるわよね〜?不動?」
………………いきなりの展開に困惑を隠せない私だが、それよりも、やっぱり
どうしてこう変なところで意気投合するのかしら。
私達から視線を戻してお互いを睨み合う不動とアンは先程までの険悪ムードとは一変して何かを企むかのようにニヤリと互いの反応を確認し合っていた。
「流石にこれは見過ごせねぇよなァ?」
「奇遇ね〜、私と意見が一致するなんて。あんたを小馬鹿にしたこと撤回しようかしら」
「それなら俺も撤回しようかねェ。クククク。なぁ?」
「ねぇ?」
不動とアンが同時に視線をこちらに向けた。
え?
何?
この2人を敵に回すとかほんとに嫌だから勘弁して欲しいんだけど!?
「な、何よ、カオルも何か言い…………」
「………………ブツブツ」
「カオル?」
「はっ!な、何かな?火蓮!?」
「何取り乱してんのよ。違うって言ってやって」
「いやぁ、俺からはノーコメントで……………………」
「カ オ ル ?」
「っ!………………コホン、不動、アン。これは断じて付き合っている訳では無いのだよ。紛らわしくてすまないが。火蓮とはその…………チームメイトとして信頼している、という事さ。チームメイト同士なんだから距離だって自然と近くなるものだろう?」
「今更否定しても遅いぜ波久奴クン。クククク」
「ふふふふ♪この後の予定決まったわね〜砥・鹿・サン♪」
「…………………………」
…………次からこの2人を合わせるのは本当にやめようと心に強く誓った瞬間だった。
「「
ため息混じりにおでこに手を当てる私の横で花王瑠はバツが悪そうにふいっと私から視線を逸らした。
♢
あれからしばらくしてから花王瑠の注文した料理が運ばれて来たことで一時休戦となり、当初の予定通り自分の現状やチームについてといったその他もろもろの話題を
案外不動も乗り気だったのが意外だったけど。
どうして私達とは普通に喋るのにほかのメンバーとは距離を置こうとするのか全く分からない。
別にいいじゃない、話をするくらいさ。
あんなツンケンしてたらチーム内がギスギスするのだって目に見えるわけだし。
不動って…………
「……………………変なやつ」
「聞こえてんだよバカが」
「バカはやめて」
「知るかよ。ンなことよりボーッと何考えていたか知らねぇけどな、てめぇ、いつまでその席いるつもりなんだ?」
「は?それどう言う………………」
不動の言葉にふと我に返って周りを見渡してみるが、私を除くほかの3人は既に席を立っていたらしく1人でボーッとしていた私は取り残されてしまったらしい。
………………いや待って!
席立つならひと声かけてくれればよかったじゃない!
みんな酷い!
「会計するなら言ってよ」
「面白そうだったからつい、な。でも、一向に気づく気配がねぇから仕方なく呼びに来てやったんだよ。感謝しろよ?」
「どうして呼びに来るだけで感謝しなきゃ行けないのよ」
「俺様が呼びに来なかったらお前、退店のベルが鳴っても気づかねぇだろ?」
「ぅぐ…………………………はぁもう。
「先に出た」
「わかった」
短く返答して席を立つ。
さっさと歩き出していた不動の横に並び、レジ打ちしていた女の子に軽く会釈をしてから店を出た。
外で待っていた花王瑠とアンと合流しその足でグラウンドへ。
改めて他の3人を見渡してみてとあることに気づく。
……………………あれ?ひょっとしてこの4人のうちキャプテン経験が無いのって私だけ!?
花王瑠は言うまでもなく桜林学園サッカー部通称『十二天王』のキャプテンだし、アンも天川学園サッカー部『ゾディアックス』のキャプテン。
加えて不動も元とは言え真帝国学園でキャプテンをしていた過去もある。
当時はまだまだ発展途上的な面もあったが今では不動も私達と対等に近いレベルにまで進化している事は明白だった。
性格面を除けば……。
そんな不動も似た者に出会えて珍しく饒舌なアンの話を面倒くさそうにしつつもしっかりと相槌を打っている。
「……だからさ。そう言うところほんとに勘弁して欲しいわけよウチの監督。コンディションなんて全く考えてないし、そもそも練習メニューも私が手を加えなければ絶望的よ絶望的」
「知るかよてめぇんとこの事情なんざ」
「何よつれないわね。こんな愚痴言える奴なんて数える程度しかいないんだからいいじゃない。そんなことよりも、あんたんとこの事情も教えてよ。気にはなるのよね〜日本代表ってやつ」
「ならなんで断んだよ。おかげで俺様が穴埋めする羽目になっちまってるんだぜ?」
「それとこれとは話が別よ。で?どうなの?」
「こっちのチームは全員頭ん中お花畑まみれで呆れを通り越してどうでも良くなってきてるところだ」
「ふーん。どんな感じで?」
「………………『次の試合もみんなで勝つぞ〜!がんばろー、おー』だな」
若干間を開けてから不動が顎をしゃくれ気味に言った。
「あ、私もその空気無理だわ。甘ったるくて背中がムズムズする」
「へっ、わかってるじゃねぇか」
「アンは関係ないとも思うが、不動はいいのかい?そんなに自分のチームを卑下するような発言してしまって」
「知らねぇな。あまちゃんサッカーしか出来ないようなヤツらと一緒にされる方がこっちとしては不快なんだよ」
「それは言い過ぎじゃない?不動。円堂くん達だって確かな実力があったから選ばれたんでしょ?」
「ふん。
「そうじゃなくて。少しは認めてあげたら?」
そう言うと不動は頭の後ろで手を組んだままふんと鼻を鳴らす。
「万が一にでも俺様のプレーについて来れたら考えてやる」
全くもう!
なんでこう男子って強情なのかしら。
どうしてここまで頑なに和解しようとしないのか私からしたら本当に不思議。
不思議でしょうがないのよね〜。
あるいはそれ相応の理由があるのか。
例えば過去に不動とほかのメンバーの間になにかいざこざがあったか。
………………99.9%ぐらいの確率でこれだな、答えは。
今までの会話や反応を見ていれば一目瞭然だった。
まぁでも他の理由をあげるなら『完全に初対面』、という線も…………………………いや無い。
他には……………………。
無いわ。
完全に『過去になにかいざこざがあったから』だわ。
うーわ。
なんというはた面倒な関係なのかしら。
これ和解とかできるの?
不動がこのツン期を越えてデレ期に突入しなければ無理なのでは?
ん?
不動のデレ期?
あぁ、それはね。
今、私たちとは普通に会話出来ているでしょ?
こんな感じでつんけんしながらでも言うほど邪険には払い除けて来なくなるとデレ期の兆候有りね。
ほらほら、さっきのファミレスでの出来事みたいに嫌々言いながらもなんだかんだでちゃんと会話もしていたし、女の子と取っ組み合いの言い合いをするなんていつもの態度からじゃ到底想像できないでしょ?
最近では虎ノ屋に行くようになって料理に目覚め始めてきたのではないだろうか。
めちゃくちゃ生き生きとしているというか気持ち楽しそうと言うか………………。
虎丸くん以外には内緒の話だけどね。
つまり、『人付き合いが良くなりだしたらデレ期』。
そんなことを考えていると目的地である河川敷のグラウンドが遠くに見えはじめてきた。
いつものように練習着とスパイクなんてものはなく全員が完全に私服+運動靴と言うある意味『お遊び感覚』でグラウンドへ入る。
よく『グラウンドは神聖な場所だ』という人もいるが、私としてはちゃんとした試合や練習以外であれば別にそこまでこだわらなくてもいいじゃないか、と思う。
しっかりと手入れが行き届いているドーム等の人工芝や天然芝グラウンド以外はね。
センターラインを挟んでそれぞれ2人ずつのチームに別れて向かい合う。
こちらの方は当然事の発端である発言をした私と花王瑠、そして相手はボールに片足を乗せながらニヤニヤしている不動とその隣で腕を組んでニヤニヤしているアンの2人。
「さぁ、ゲームの時間だぜ?お二人さん。覚悟は出来てんだろうなァ?」
「覚悟もなにも………………そもそも騙してるつもりなんてなかったし」
「あ〜ら無自覚?それじゃ尚タチ悪いのよね〜♪クククク♪」
「…………はぁ、どうしてこうなった」
「なんであんたはため息ついてるのよ」
「いやまぁ、大変なことになってしまったな〜、と」
「別に気にすることないじゃない。付き合ってなかったんだし、それより始めるって」
「……………………はぁ。困ったものだ」
もう一度ため息をついてから花王瑠が髪をかきあげる。
それを見て再び不動達に向き直った。
「不動、アン、こっちは準備できたわ。どっからでもかかってきなさい」
「俺と火蓮に勝負を挑んだ事、後悔させてあげよう!」
「へっ!そう来なくっちゃなァ。おい、佐曽利。足引っ張んじゃねぇぞ?」
「あら、誰に向かってものを言ってるのかしら?その言葉そっくりそのまま
そんなやり取りの直後。
不動からのキックオフで2点先取のサッカーバトルが幕を開けたのだった。
まずは、キックオフと同時に両者が一斉に行動を開始し、ボールを持った不動がトップスピードで正面から切り込んでくる。
「正面突破なんて私達に通用しないことくらいわかってるでしょ!」
プレスをかけながら私が正面に立って進路を塞いだことで不動がボールを止めて足を乗せた。
「悪いけど貰っていくわ」
「へっ、そう焦ンなよ」
相変わらずニヤニヤした笑みを崩さないまま私のディフェンスを様々な小技を混ぜながらボールをキープする不動。
っ!
このっ!
いくら私が本職では無いとはいえボールに全く触れないどころかむしろ遊ばれているなんて。
心の中で舌打ちし、フェイント等の小技では不動に太刀打ちできないと判断した私は正面からのタックルでボールを奪うことを試みる……………………しかし。
「ククク、来たなァ?」
「何?」
不動はそれをさも当然のように待ってましたと言うかのように口角を上げると軽く転がしてボールを戻し、それを思い切り右足で踏み付けた。
厳密に言うならばボールの少し前辺りを踵で踏んだ、そんな感じ。
おかげで不動の後方に向かって急激なバックスピンの掛けられたボールは彼の1mほど後ろへ。
しかも不動はそれに対して一切後方を確認することも無く前に向かって駆け出した。
「ボールの軌道も見ないでいいのかしら?」
「あぁ、全然構わないぜ?むしろ、取れるもんなら取ってみな?クククク」
「っ!調子に乗らないでよね」
その言葉の直後、後方へと放たれていたボールがそのバックスピンによってバシッと地面から弾かれて真上に浮かび上がる。
不動のやつ、咄嗟に小技で私を抜くつもりだったみたいだけど残念ね、スピンが足りなすぎて戻るどころか真上に跳ねてるわよ。
これじゃイージーすぎるわ!
そう思ってボールを取りに行った瞬間、目の前のボールがふと消える。
「っ!?」
「困るわね〜、私を忘れてもらったら♪」
反射的に視線を上に向けると浮き上がったボールを私がキープするよりも早く膝蹴りでさらに上に蹴り上げてボールを奪ったアンがいた。
なっ!?
ま、まさか不動、ここまで計算していたの!?
と言うか、なんでこういう連携を打ち合わせ無しにぶっつけ本番でできるのかしら!?
今日初対面よね、この2人!
「タイミングバッチリ。不動!」
再び私が反応する前にアンが空中で即座に体勢を立て直し前を走る不動へパスを送る。
そのパスもほぼシュートと言っても過言では無いほど鋭いボールで。
不動のスピードとキープ能力、利き足など様々な計算がなされたボールが鮮やかに不動の右足に収まる。
それをまさにそこにボールが来ることが分かっているかのように背後を確認しないまま不動が飛んできたボールをキレイに右足に収め、走るスピードを一切落とさないまま数歩ドリブルした後軽く浮かせてシュートを放った。
「花王瑠!!」
「っ、無茶を言わないで、くれ!!」
私のプレスと同時に前に向かって走りかけていた花王瑠も全力でゴール前へ戻るが僅かに届かず、不動のシュートは大きくゴールネットを揺らした。
「まずは1点」
唖然とする私の横を通り過ぎながら不動がボソリと一言。
それに対して反射的に振り向くと不敵に笑みを浮かべる不動と目が合った。
「…………やってくれるじゃない」
「あと1点でお前らの負けだな。クククク」
そう言うと不動はふいっと視線を外し、自陣の方へ歩いていく。
珍しくハイタッチ…………ではなくお互いに握った拳の甲同士を軽く打ち合わせる不動とアンを見ていると、私の横に花王瑠が並んだ。
「ふぅ、やられたね。不動も以前とはレベルが段違いに高くなっているようだ」
「そうね」
「しかし、このまま黙ってやられているつもりは………………」
「毛頭無いわ」
改めて気合いを入れ直し、花王瑠から受け取ったボールをセンターサークルに置いた。