イナズマイレブン〜紅蓮の華〜   作:奇稲田姫

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ビックウェイブス戦の後半戦です。


どうぞ


第1試合 VSビッグウェイブス 後編

"さぁ後半戦もキックオフ目前!ここでイナズマジャパンは負傷した鬼道有人に代わって宇都宮虎丸を、緑川リュウジに代わって今大会唯一の女性プレイヤー、砥鹿火蓮を投入してきました!両者ともフットボールフロンティアに出場経験のない実力未知数の選手であります!この2人がどう活躍するのか見ものです!"

 

 

後半開始間近。

実況のアナウンスとともに私と虎丸くんの紹介がなされ、それに呼応して会場がさらに熱気を帯びる。

 

…………あぁ、よく見れば観客席にいるのはほとんど日本人なのね。

そりゃ私のデータが無くても不思議ではないか。

 

というか、これで完全に韓国のアイツにバレたわ。

 

…………はぁ、今は目の前の試合に集中しよう。

 

…………でも、虎丸くんのサポートをしろって言ったってどうすればいいのか正直検討もつけられないのだけど。

 

なるようにしかならないだろうしとりあえず自分のプレーをしておこう。

 

そう心に決めてセンターラインから少し後ろの位置で軽く構えた。

 

直後、会場一帯に後半戦開始のホイッスルが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーーーーー!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は相手ボールからスタートした後半戦。

 

右サイドからなのでとりあえずボールを取りに行くのを諦めて前線へ走ろうと足を出した瞬間。

 

「あ…………」

 

相手チームのMFからパスが通ったのは、どういう訳か私がいるサイドと同じ場所。

つまり今私の走る目の前にドリブルをする相手FWがいるのだ。

 

…………いっか。

 

うわ、結構ガタイがいい選手だなぁ。

この選手が確か前半で点を入れた選手か。

 

近くで見るとすごい迫力。

 

そう思いながらブロックに入ろうとしたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

「砥鹿!お前の力、見せてみろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「え…………?」

 

ベンチから響いてきた久遠監督の一言でブロックに入りかけた足が止まる。

 

そのせいでFWの彼は私の横を特に何もプレッシングされることなく通り過ぎて行った。

 

そんなことには目もくれず、私は思わず久遠監督の方に再び視線を移してしまった。

 

ベンチでは久遠監督だけでなくほかのメンバーも私の方を見ていた。

 

…………あれ?

私が入ったのって虎丸くんのサポートじゃ……。

 

普通に私の勘違いだったってこと?

 

「『炎環の女帝』と言われるお前の力。今ここで見せてみろ!」

 

再び監督からの指示が下る。

 

私としては願ってもいないチャンスではあるけど……、いいのかしら。

久遠監督のその一言でベンチもフィールドも若干どよめきが起こってるし。

 

「(…………久遠監督。どうしてそんなこと…………あ、まさか)」

 

足を止めて久遠監督を見つめる私に向かって、一つ小さく頷いてみせた久遠監督。

私が今考えついたことと久遠監督の意図が一致しているかは不明ではあるが、仕方ない。

 

そんなに見せたいなら見せてあげるわよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は後半早々攻め込まれた自陣に向けて全力で戻る。

 

再びFWの選手が味方DF陣を突破して必殺シュートの体勢に入った。

前半戦では円堂くんはこの技を止めることは出来ないでいたが、さすがに1度見たシュートは止められるだろう。でも、今回ばかりは申し訳ないけど貰うことにするよ、そのボール。

 

「くらえ!メガロドン!!!」

 

大きなテイクバックから放たれたシュートはさながら大海原を滑る巨大な鮫の如くゴールに向かって突進していく。

 

「この技はもう一度見た!正義の…………」

 

「待って円堂くん!!私が止める!!!」

 

「え?え?火蓮!?」

 

私は正義の鉄拳を繰り出そうと構えていた円堂くんの前に陣取った。

そして、迫り来るメガロドンにタイミングを合わせて全力…………までは行かずともそこそこの力を込めてそのシュートに右足をぶち当てた。

 

「なにっ!!?」

 

刹那、シュートは私の足を押し返すことなく威力は一瞬にして相殺されて小さく真上に浮いた。

 

それが地面に落ちるのとともに足をのせ、軽く視線だけを後ろの円堂くんに向けた。

案の定驚きの表情を隠せないでいるが…………いや、このフィールド内の選手だけでなく観客も含めて言葉を失っているのか。

 

しかし、当の久遠監督を除いてだけど。

 

「円堂くん。ごめんなさい。このワンプレーだけ、私にちょうだい。あまり個人プレーはやりたくないけど監督からの指示なの。」

 

「……どういうことだ?」

 

「それが分かればここまで強引な手段は取らなかったわよ。そういう事だから、このワンプレーだけは許して。」

 

そう言って円堂くんの答えを聞かないうちに足元のボールを軽く前に蹴り出した。

それと同時に一気にドリブルをトップスピードまで押し上げて、目の前の選手を2人、1歩も反応させることなく抜き去った。

自チームのメンバーが各々声を上げる中、気にせず私は次に3人がかりでプレッシングしてきた敵チームの選手達を巧みなボールコントロールで流れるように抜き去ると、今度は先程緑川くんを止めたディフェンダーと一対一になる。

 

「行かせるか!グレイブストーン!!」

 

両手で作った拳で地面を殴りつけ、隆起した岩盤によって相手のドリブルを防ぐ必殺技。

 

左右に隆起する岩盤のタイミングを見計らいながらせり出す岩盤を足場にして、突破。

 

意外とディフェンスタイプの必殺技なんかは攻略してしまえば大体の選手が硬直状態になっているため普通に突破するより楽なのだ。

 

そのままペナルティエリア内へ。

 

最後にディフェンダー1人をルーレットでかわし、小さく浮かせたボールが地面と接触しないうちに遠心力を利用しながらシュート。

必殺技ではないノーマルなシュートだったが、相手のキーパーは何かを感じとったのか必殺技で応戦した。

 

「入れさせるか!グレートバリアリーフ!!!!」

 

「そうそう」

 

ある意味それは正解の選択肢なのかもね。

 

相手にとっても……そして、こちらにとっても。

 

ゴール前に水の壁が立ち塞がった。

 

しかし、そんな壁に負けるほど私のシュートは軽くない。

 

壁にぶち当たるのと同時にモーターボートに搭載されているモーターのようなスクリュー回転をかけられたシュートは一瞬で水の壁を貫きゴールネットへ………………とまでは行かず、キーパーの伸ばした右手に触れて軌道が逸れた。

 

「あら、惜しい」

 

軽くパチンと指を鳴らしながら久遠監督の方に視線を向ける。

 

惜しくもゴールネットを揺らすことは出来なかったが、久遠監督に私というプレーヤーを見せることに加えて、とある重要な目的は十分に果たせただろう。

 

…………後で個人プレーに走ったことをチームのみんなに謝らないといけないわね。

 

はぁ、監督の指示とはいえこれのおかげでやるべき事がなんだか増えたような気がするわ。

 

ひとり溜息をつきながら自分の陣地の方へとぼとぼ歩いていく。

 

そして、戻ってくるのと同時に一時中断されて自陣に集まっていたメンバーに向けてとりあえず謝罪の一言を行った。

 

「あー、みんなごめんなさい。監督の指示とはいえ個人プレーに走っちゃって」

 

私は若干の居心地の悪さを感じながら空中に視線を泳がして軽く指で頬を掻いた。

 

しかし、返ってきた言葉は意外なものだった。

 

「凄い!凄いな火蓮!俺、あんなすげぇプレー見たの初めてだ!」

 

「え、円堂くん!?」

 

「あぁ、まさかあのFWの必殺シュートを素で止めた挙句あの場所から1人でシュートまで持って行けるとは」

 

「豪炎寺くんまで……」

 

「ま、あんまり見ちゃいけないものだったのかもしれないけどな」

 

「それでも凄かったです!火蓮さん!」

 

「風丸くん……、虎丸くん」

 

目をものっすごいキラキラさせて詰め寄ってきた円堂くんを筆頭に私の周りに集まったメンバーからは誰一人非難の矛先を向けてくる人はいなかった。

しかもみんなそれぞれが本心で言っていることが伝わってくるのだ。

…………全員表情にそれが滲み出てる。

 

「(…………。十二天王やゾディのメンバー以外のチームで非難とか言われなかったの初めてかも)」

 

そんなことを考えながら泳がせていた視線を戻して、集まったメンバー達を一通り見渡した。

 

「みんな、ありがと」

 

最後にその視線を綱海くんに向ける。

 

「じゃあ、綱海くん」

 

「ん?」

 

「ヒント、掴めたわよね?」

 

私の問いに綱海くんは一瞬だけ驚いたがその表情もすぐに引っ込め、当然と言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「……あぁ、お前のおかげで良いビジョンが浮かんできたぜ!ありがとな!」

 

「なら良かった」

 

その言葉には私にいきなり個人プレーをしろと言ってきた久遠監督の意図と自分が考えた答えが合っていたという安堵の意味も込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベンチ内。

 

 

フィールド上では砥鹿火蓮が監督の指示のもと個人プレーに走っているさなか、俺はベンチの背もたれに全体重を預けながら腕を組んでいた。

 

パワー、スピード、技術、どれをとってもトップレベルのプレーを涼しい顔で平然とやってのける砥鹿火蓮を見ながら舌打ちをひとつ。

 

「ちっ、相変わらず規格外なやつ」

 

その声は自分で思っているより大きく出ていたようだ。

 

前半で右足を蹴られた鬼道がそれに対して反応する。

 

「不動。お前は知っていたのか?」

 

「だったらどうした?むしろ知らない方が不思議だと思ったくらいだぜ」

 

「なに?」

 

「…………」

 

なにかと突っかかってくる鬼道を軽く鼻を鳴らすことで流し、視線を再びフィールドに向けた。

 

「(規格外、ねぇ……)」

 

規格外……それは、通常は商品などで決められた基準を満たさない商品のことを指し、簡単に説明すると一般的には不良品のことを示すことが多いが、日本語というのは不思議なものでそんな一見マイナスの意味が強い言葉であってもその場の状況や文法によってはプラスの意味に昇華したりする場合がある。

ちょうど今みたいに。

 

脳内でキャラに似合わないような思考に花を咲かせていると、今の状況の説明を求めて治療中の鬼道クンが久遠監督に詰め寄っていた。

 

「監督。監督は砥鹿火蓮という選手について何か知っているのですか?『炎環の女帝』とはいったい……」

 

「知ってどうする?鬼道」

 

「それは…………」

 

フィールド上では砥鹿火蓮に続いて宇都宮虎丸も己の実力を示し始めていた。

俺としては正直こちらのほうがよっぽど興味をひかれる。

あのガキにこんな力があったのか……。

 

再度鬼道に視線を戻すと、監督の一言に口ごもっていた鬼道が今の虎丸のプレーを見てから意を決したという表情でもう一度監督に詰め寄っているところだった。

 

「砥鹿といい虎丸のことといい、あなたはチームをダメにするような監督じゃない!桜咲中でなにがあったんですか!」

 

「お前が知る必要は無い」

 

それも一蹴され、監督はそのあとはもう何も語らずフィールドを見渡していた。

久遠監督の過去は何故かフィールドに降りてきていた響木によって語られることになったが、そんなものは俺にとって正直どうでもいい内容であった。

 

フィールド上では少しずつ試合も動き始め、先程の火蓮と虎丸の動きによって何かをつかみ始めていたイナズマジャパンが怒涛の反撃を見せている。

 

まずは意外にもチームの起点として機能している虎丸を中心に歯車が噛み合い始め、久遠監督の助言からなんとか答えまでたどり着いたらしい綱海条介によって同点に追いついた。

 

俺は寄りかかっていた背もたれから体を起こし、自分の膝に肘をついてそのまま指を組んだ状態でフィールドを見渡しながら無意識のうちに舌打ちをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよっしゃーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

A-J

1-1

 

 

 

 

 

ペナルティエリア内では綱海くんが身につけたばかりの新必殺技によってゴールを決め、大の字になって歓喜の声を上げていた。

 

「やったぜ綱海!」

 

これには円堂くんもガッツポーズをしていた。

 

私も綱海くんとハイタッチを交わす。

 

「ナイスシュート。綱海くん」

 

「あぁ、サンキューな火蓮。お前のおかげで完成させられたぜ」

 

「私はほんのちょっとヒントを出しただけよ。下地が良かったんじゃないの?」

 

「へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。じゃあ、この調子でバンバン点とってやるぜ!」

 

そう意気込む綱海くんだったが、試合再開早々に選手交代を行ったオーストラリアのマークの餌食となってしまい思うように身動きも取れなくなってしまう。

 

私は前線へ走る足を軽く緩めながら敵側ベンチで意味深な笑みを浮かべるメガネの男性を見た。

 

やっぱりあの1点で綱海くんのことを脅威認定したらしい。

 

視線を後方に動かしてもピッタリとマークに付いた選手が綱海くんから離れない。

つまり、先程のように意表を突いたオーバーラップはもう出来なくなってしまう。

 

ちなみにマークに付いているのはなにも綱海くんだけではなかった。

 

全員に1人ずつマンツーマンでマークがピッタリとくっついている。

 

つまり、今しがた相手の油断を誘ってマンツーマンマークを振り切りボールを確保した綱海くんであっても、前線にパスなど出せる訳もなく同じディフェンダーの壁山くんへパスを送らざるを得なくなってしまっていた。

 

それでも、マークは外れることなくパスコースは全て塞がれたまま。

 

私にも付いているから動きにくいったらありゃしない。

 

しかしそんなに状況をひっくり返す一言を久遠監督がフィールド上であたふたする壁山くんに向けて言い放った。

 

「1人で持ち込め!!」

 

その一言でなにかを察した壁山くんが敵FWの激しいチャージを振り切ってドリブルで上がってきた。

 

「(……やっぱりこの人のサッカーは凄いわ。この人なら、勝てる!)」

 

私はいつの間にかこちらに視線を向けていた虎丸くんと小さく頷き合って今壁山くんのドリブルに目を奪われているディフェンダーを同時に振り切ると、壁山くんから虎丸くんに向けてパスが通る。

 

その瞬間オーストラリアのマンツーマンディフェンスが崩壊した。

 

豪炎寺くんに付いていたディフェンダーと先ほどまで私についていたディフェンダーがこれ以上進ませまいと同時に虎丸くんへブロックに入る。

 

1人目を難なく避けた虎丸くんもさすがに2人目には若干反応が遅れてしまい、体勢が崩された。

 

「うわっ…………か、火蓮さん!お願いします!!」

 

そんな体勢が崩されてボールが奪われるギリギリのタイミングでそのしなやかな身体能力で私にパスを繋げてくれる。

 

ボールを受け取った私はすぐさま豪炎寺くんにアイコンタクトを送った。

 

それを受け取る豪炎寺くんもひとつ頷いて走り出す。

 

「行くわよ豪炎寺くん!!」

 

「あぁ!」

 

私は目の前に立ちふさがる残りのディフェンダーを前にして、ふとドリブルを止める。

 

そして視界の端に豪炎寺くんをとらえるのと同時にその場で大きく足を真上に振り上げてスカーレットバーナーの態勢へ移行。

 

「はぁっ!!」

 

振り上げた右足で思い切りボールを踏みつけるとそこから波紋状にフィールドが砕け、岩盤の隙間からはごぼごぼと真紅の炎が沸き上がりながら周囲に熱波を振りまいた。

 

その大地をも焦がす灼熱波によってボールは炎のエネルギーをまといながら空高くにはじき出される。

 

……本来ならばこの後大きく跳躍した私が思い切り蹴り込むところだが、今回の主役は私じゃない。

 

「豪炎寺くん!!!!」

 

そう叫ぶのと同時に走り込んできていた豪炎寺くんが空中で赤く脈打つボールに向かってキリモミ回転をしながら大きくジャンプ。

ちょうどボールの真横に来た瞬間に炎をまとわせた左足をたたきつけた。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

「入れさせるか!!グレートバリアリーフ!!」

 

先ほど私が撃ったようなスクリュー回転をかけられて撃ち出された脈打つ炎の塊は、再び相手キーパーの作り出した水の壁にぶち当たる。

 

しかし、以前までのシュートであればそこでボールが水圧に負けて失速してしまうところだが、今回は違う。

 

進行方向に対して垂直になるように掛けられた回転は、空気を後方に向かって高速で流すためこれが水中を進むための推進力を生みだしている。

 

私の目論見通り豪炎寺くんのシュートは相手キーパーが作り出した水の壁を見事に突破してそのままゴールネットを大きく揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

ゴオォォォォーーーーーーーーーーール!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

実況の興奮してスピーカーが壊れるのではないかと思うほどに張り上げられた声とともに観客席から盛大な歓声が巻き上がった。

 

その歓喜の渦中、私と豪炎寺くんは小さく笑いあってから無言でハイタッチを交わした。

 

 

 




ふぅ。


やっと一回戦が終わりましたね。

サッカー(サッカーに限らず)に試合って映像とかで見る分にはいいけど、いざ文章で書こうとすると難しいですね……。

私はあまりサッカーには詳しいほうではないのでちょくちょく調べながら書きましたよもう。
なので相当駄文で見苦しかったかもしれませんが、ここまで見ていただき感謝感激です♪

では、また次回期待せずにお待ちください←(笑)

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