第一話
学園都市。
高い壁に囲まれ、自由に出入りすることが出来ない街。
その科学技術は、壁の外と比べると三十年ほど進んでいると言われており、世界で最先端の技術力を誇る。
"学園都市"というだけあって、そこに住んでいる者達は大多数が学生である。だが、その学生が取り組んでいるモノは一般的な勉強だけではない。その進んだ"科学"による"超能力"の"開発"に取り組んでいるのである。
ここにはそんな"異能"を学ぶ者、約二三〇万人が暮らしている。
朝。
少しだけ開いた窓から風が入り、カーテンを揺らす。
揺れるカーテンの隙間からは、黄金色の朝日が差し込んでいる。
ベッドは2つあり、そのうち1つはシーツや毛布が綺麗に畳まれ、もう片方では小柄な人が入っているように膨らんだ毛布。
静かな部屋に響く音と言えば、重めな布が僅かに動く音と、カリカリとペンの先が紙を走る音だけ。
夏であればそろそろ暑くなってくるところだが、夏と言うにはまだ少し早い時期であるからか、はたまた昨夜降った雨のせいか、未だに涼しい。
「・・・・・・ん」
微かな声が漏れる。
毛布を少しだけ動かし、黒髪の少女が顔をだした。
"上条詩歌"本作の主人公である。
毛布に隠れて見えないが、その毛布の膨らみ具合どおり、小柄な少女である。
「あ、ごめん、起こしちゃった?」
そう問いかけてきたのは、詩歌の見つめる先、机の前で黄金色の光を浴びながら、しかし木陰にいるかのような薄暗さを纏う淡い金髪の少女。
「・・・・・・いいえ、いつも通りに起きただけですのでお気遣いなく。日守先輩」
少しの眠気を含んでいる声で返事をする。
夏が近づき、日が昇る時刻もだんだんと早くなってきた。だが、現在は4時20分。外はともかく、部屋の中はまだ少し暗い。
日守光。
背中の中程まで伸ばした流れるような金髪に、清んだ湖のような綺麗な瞳。身体的な発育は一般的な中学2年生程度だが、だからこそその瞳に宿す絶対的な意志の光が強く印象に残る少女。
私は一年生なので、先輩にあたる。また、ここ常盤台の学生寮における同居人。普段は、面倒見のいい優しい先輩だ。
こんな朝早くからしなくても、今やっているくらいの仕事は、先輩ならいつでもできるようなものだけれど、光を浴びる時間をできる限り長くしたいらしい。
と、思考が回るようになって来たところで、私も起きることにする。スリッパを履いて立ち上がり、ベッドの上のシーツや毛布を畳む。寝間着を着たまま、顔を洗う。
鏡の前に立ち、自分を見つめる。
今年中学一年生になった。
これを契機に、いきなり(いろいろ)育ったりしまいかと少しだけ期待していたのだけれど・・・・・・。現実は思っていたよりも厳しいものだったようで。腰の少し上まで伸ばしている黒髪、黒眼。全体的に小柄でほっそりしていて、身長は144cm。平均と比べてもいろいろ
"若干"
小さいのだ。・・・・・・はぁ。本当、何で神は持つ者と持たざる者を区別しているのか。
・・・・・・今度なぜか科学の街であるところのこの学園都市に在る教会に行ってみようか。
閑話休題。
制服に着替えようかと思ったけれど、何となくそんな気分だったのでシャワーを浴びようと思い。
浴室に入ろうとしたところで先輩に呼び止められた。
「私は別に構わないけれど。お隣さんとかはまだ眠っている、っていうのを忘れないでね」
「?忘れていませんよ?」
「本当?なら、滑って転んでガッシャーン!!とかやめてね」
「あ、あれは寝惚けていたからです!もうあんなことにはなりません!!」
「とか言いつつ前回で五回目よね?」
「う・・・・・・」
「転ばなくても何か落としたりするし」
「うう・・・・・・」
「何がどうなったか、能力使ったわけでもないのに壁に罅が入ったこともあったわね」
「ううっ・・・・・・」
・・・・・・あれらは別に、私は悪くないのです。ただ、幾つもの偶然が意味のわからない化学反応を起こしてしまったのが悪いのです。
「はいはい、言い訳しなーい。あれ隠したり直したりするの結構面倒くさかったんだよ?寮監、本当に無能力者?ってくらいに察しがいいからさ」
「・・・・・・」
人間、本当の事ばかり言われると黙るしかないのだ。残念なことに。
「ま。取り敢えず、普段のあなたはドジなんだから。気を付けながら入ってね」
・・・・・・激しく不本意な台詞ではあったけれど。その言葉に従って、慎重に浴室に入る。
滑ることもつまづくこともなく、平和に目的を達成。
着ている寝間着を脱いでたたみ、籠に入れたところで。
あ。
「・・・・・・着替え忘れた」
・・・・・・はぁ。
朝。
全開にしたまま閉め忘れた窓から風が入り、カーテンを揺らしている。
揺れるカーテンから強くなり始めた日差しが入っている。
ベッドは1つだけあり、その上ではシーツや毛布がしわくちゃになっている。そこに人の姿はない。
その部屋には、未だ数少ないセミの鳴き声と、魘されるような呻き声が響いている。
まだ夏ではないものの、梅雨は明けている。8時過ぎの日差しのせいか昨夜降った雨が蒸発し始めたからか、あるいはその両方か。不快指数の高い環境だった。
ピンポーン。
「……ぅう……」
全体的にとっ散らかった部屋の中央辺り、ベッドから半歩ほどの位置で、黒いツンツン頭の少年が目を覚ました。
上条当麻。
中肉中背、大体がいたって普通の高校生である。
ピンポーン。
インターホンの呼び出し音が響く。
こんな朝っぱらから誰だよ・・・・・・と思いながらモゾモゾとうごめき、ベッドの上に置いてある時計を確認する。
[<土>6:29]
紛いようのない朝。早朝とはいわなくとも、他人の家に来るなら時間を考えろよ、とぼやきながら起き上がり、
「新聞とかだろ・・・・・・」
ベッドに倒れ込んだ。
大体、こんな風に自分の家に来るのは新聞とか変な研究所のバイトの勧誘くらいなものなのだ。
ピンポーン。
再度鳴り響く呼び出し音。
「・・・・・・」
無反応。
ピンピンポーン。
再再度鳴り響く呼び出し音。
「・・・・・・・・・・・・」
無反応を貫く。
ピンピンピンポーン
ピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンポーン。
ピンピンピンピンポーン。ピンピンピンピンピンピンピンピン
「やかましいわ!!!!」
いい加減にしろ!!と思いながらドアにダッシュ。
一歩。二歩。三歩目で足元のビニール袋に足をとられ、危うく着いた四歩目でバナナの皮に滑り、バランスを崩し背中から倒れ込んだ先、中身が詰まったマヨネーズ。
「・・・・・・ああ」
何かの境地に達したような声を出した少年。
直後。
ぶちゅうっ。
「・・・・・・」
先程の激情は幻か、というように穏やかな表情になった上条当麻は、立ち上がり、ドアに向かった。
「・・・・・・新聞なら間に合ってます」
そう言いながら開けたドア。
若干俯いていたため、真っ先に視界に飛び込んで来たのは足。スーツに黒い靴という組み合わせを予想していたが、実際に見えたのは茶色い皮靴に白いソックス。
・・・・・・あれ?
段々と視線を上げていく。
何か見覚えがある。
そう思いながら顔を確認。
常盤台に通う妹。
上条詩歌の姿が、普段より一時間半程早く、そこにあった。
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