とある魔術の禁書目録-光と闇の間隙で-   作:なめたけいため

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一週間に一話を書ききれないこの遅筆。


第三話

 先程の、フラグになりかねない台詞にも関わらず、別段事件に巻き込まれたり事故に遭ったりすることもなく目的地に到着した。何ら変わった所のない、一般的なアパートの一室。

 ならば当然のように備わっている、インターホンのボタンを押す。

 ピンポーン。呼び出し音が響く。

反応がない。

 聞こえなかったのかと、もう一度ボタンを押す。

ピンポーン。再び呼び出し音が響く。

 二回も鳴らせば気付きそうなものだけれど、やはり反応がない。

 普通なら、ただ聞き逃しただけか、ともう一度鳴らすだけなのだろうが。

 

 つい、連打した。

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピンポーン、と。

 鳴らす方は愉しかろうが、鳴らされる側としてはたまった物ではない感じの良い具合に音が響いた。

 

 ・・・・・・これで出てこなかったらどうしてあげようかな、と少し楽しみに様子を伺っていたら。

 ドアの向こう側で足音が聞こえたと思った次の瞬間、何かが倒れる――――叩きつけられる?――――様な音がした。

 

 沈黙。

 

 少し間をおいて、ようやく目の前の扉が開いた。

 顔を覗かせたのは、ツンツン尖った髪型が特徴の、中肉中背の高校生。

 上条当麻。

 詩歌の実兄。

 詩歌から見て、身内の補正をプラスに掛けても、イケメンではない(外見は)。一方で、中身はおまえは何処のヒーローだよ、というレベルの"善人"だ。そのうち、誰か悪い人の騙されたりしそうだ、と詩歌は常々不安に思っている。

 その、上条当麻はとても眠そうだった。やはり眠っていたのだろうか。

 ツンツンした髪の毛も、心持ち萎れている。

そして、やたら穏やかな・・・・・・何か悟った様な眼差しが詩歌にはとても気になった。

 その上条当麻は、一度目を見開き、また穏やかな眼差しに戻って、

「おはよう。どうしたんだ、こんな朝早くから来たりして」

「あ、おはようございます。・・・・・・そんなに早い時間帯ではないと思いますけど・・・・・・?」

 むしろ遅めというか。

 平日に、そんなにだらだらと起きる生活はしていなかったと思う。

「いやいや、早いですよ?まだ早朝じゃねーか、その上休日だし」

 

 ・・・・・・。

 

「あの、兄さん」

「なんだ?」

「私が間違っているのでなければ、今は7時30分(月)ですよ?」

 ちなみに、上条当麻が通うの学校のHRは8時くらいだった筈である。

 

「・・・・・・え?」

 ポカンと、思考が止まった様子。

 瞬転。踵を返し、扉の向こう側へと姿を消した。

 すると必然、詩歌が独り、廊下に残されることになる。こんな殺風景で面白みの欠片も無い場所にいなければならない理由は無いので、当麻について部屋に入る。

 あーあ、と呟きたくなるくらいには散らかっている部屋の状態。

 当麻は急いで片付けようとしているけれど、当麻が動くたびに、逆に散らかっていくように見える。

 服は散乱しているし、漫画も塔になってしまっている。

 詩歌は、その中の一冊に目を止める。

「あ、まっ――――」

 体全部を綺麗に動かして、録画して電波に乗せたいくらいのスライディングをぶちかました上条当麻。

 その体の下に肌色成分多めの本が隠れたように見えた。

「・・・・・・」

「あ、あ痛たたた!痛いなあ、急にお腹が痛くなってきたなあ!!」

 蹲って元気に叫ぶ上条当麻。それを冷静な――――というか氷のような視線で見据える詩歌。

 氷系の能力者でもない妹のそんな視線に、氷以上の冷気を感じる上条当麻。

 蹲ったままなのでその様子は見えないけれど、怖い。凄く怖い。

「あの、兄さん・・・・・・。お年頃なので仕方ないのだろうなーとは思いますけど・・・・・・。せめて後始末くらいはしっかりやりましょう?」

「・・・・・・?」

 ふと視線を逸らした詩歌につられるように、同じ方向に目を向ける。

 蹲っている上条当麻と高く積み上げられた漫画の塔とのあいだ、ゴミ箱に詰まりきらずに溢れている、白っぽい何かが着いたティッシュの山。

 それと妹の顔を何度か往復して、

「・・・・・・っ!?いや、違うぞ!?普通に鼻をかんだだけだから!!おまえが想像してるのとは多分違う!!」

 冷や汗をかきながら弁明する当麻。

 それを聞いているのかいないのか、視線をそらして、

「まあそれはいいので、とりあえず部屋を片付けましょうか。揺れたら倒れてきそうですし」

「よくないですよ!?この会話に俺の尊厳とか色々懸かってるんだから!!」

 叫んだ瞬間、ドサドサと倒れてくる漫画。

「・・・・・・そして、ティッシュには溢れ出すリビドーがかかっている、と」

 ぼそりと詩歌。幸いそれは聞こえなかったようだが、

「もうやだ!!なんで朝から連鎖的な不幸に襲われなきゃならんのだ!!転ぶしマヨネーズ付くし変な誤解されるし!!」

 ちなみに、さっきの溢れているティッシュに着いていたのは、転んだ際に飛び出したマヨネーズを拭き取ったものであったり。

 けれど、それを知らない詩歌は嘆息して、

「わかりましたから。とにかく、早く片付けますよ。学校もありますし」

「へ?」

 そうだった。そのことを確かめるため、時計を確認しようと部屋に戻ったのだった。

 時計を見る。

 

 表示は土曜日となっている。

「今日はまだ土曜だぞ?」

「何言ってるんですか、今日は月曜日ですよ?ほら」

 言って携帯電話の画面を当麻に見せる。

 

 7時37分(月)。

 確かにそう表示されているように見える。

 

「ええ?」

 再度、自分の時計を確認する。

 6時29分(土)。

 よくよく思い返して見ると、さっき呼び出し音に起こされて見たときから、まったく変わっていないように思える。

 察するに、一昨日から停まっているのだろう。

 と、いうことは、だ。

「やばっ、急がねーと!」

 この寮から上条当麻が通う学校までは、全力疾走を続けても20分ほどはかかる。

 いくら鬼ごっこ(対不良の皆さん)で鍛えられているとはいえ、20分の全力疾走など進んでやりたいものではない。

 だがここは学園都市、学生だらけの街だ。もちろん、学生達のための移動手段であるバスなどは動いている。それも、大勢の学生が動くため、外よりも多くの数が走っている。

「まだ間に合うよな!?つーか間に合え!!」

そう言って猛烈な勢いで制服に着替える上条当麻。

「はぁ。じゃあとりあえず、適当にしまっておきますね」

そう言ってさくさくと整理整頓をしていく詩歌。適当にしまっているようにみえて、凄く綺麗に整頓されていた。

 片手間で当麻の制服を渡したりもしている。

「サンキュ、助かるわ」

「いえ、これくらい」

 すぐに着替え終わり、鞄をひっ掴む。そのまま靴を履いて飛びだす。それを追うように詩歌も扉をくぐった。

 もちろん、鍵を掛けるのも忘れない。

「相も変わらず大事な所が抜けているというかなんというか・・・・・・」

 何もしていなくても不幸に愛されているような上条当麻だ、偶然にでも家の鍵をかけ忘れてしまえば、どんなことになるかは想像に難くない。

 エレベーターのボタンを押す。ちょうどここの階で停まっていたようで、すぐに扉が開いた。

「ところで兄さん、今朝は朝食は摂られましたか?」

 この質問に大した意味はない。詩歌がインターホンを鳴らすまで、上条当麻はずっと眠っていたのだから、答えは殆ど決まっている。

「え?食べてる訳無いじゃないですか勿論」

 予想通りの回答である。というか、違ったら驚きだ。

「大丈夫ですか?」

「うーん・・・・・・まあ、休み時間にでも購買で何か買って食べるさ」

 チーン。

 エレベーターの扉が再び開き、外の光が入ってくる。

 すかさずバス停に向かってダッシュする。ここでバスに乗れないとなると、学校まで走り続けなければいけないのだ。

 いつもなら、バス停が見えた瞬間にバスが発車するというオチなのだが、今日はまだバス自体が来ていないのか、バス停にはなにもいなかった。

「おっ、珍しく不幸じゃないのか?」

 そう言って、バス停の少し前で走るのを止める当麻。それに対して、

「・・・・・・どうでしょう」

と言って小走りで時刻表を見に行く。

 自分の携帯電話に表示されている時刻とダイヤを照らし合わせて、

「・・・・・・あー」

苦笑い。

 その様子に嫌な雰囲気を感じた当麻が、

「・・・・・・え、何、まだバス来て無いよね?それとも何か、ひょっとして・・・・・・」

 ひきつった表情の当麻に対して、詩歌が苦笑したまま、

「えと、多分予想通りだと思います。今の時間的に・・・・・・」

詩歌の携帯電話と時刻表を見る。

・・・・・・バスはちょうど2分前に発車したようだった。

「不幸だぁー!!」

 

「はぁー・・・・・・」

 溜め息をついて、トボトボと歩いて行く当麻。

「・・・・・・はぁ」

 それを見送っていた詩歌も、小さく溜め息をつき、当麻の横に並ぶ。そして

「・・・・・・仕方ないので、学校まで運んであげます」

「え?運ぶって

 

 ビュオッ!!!!!!と。

 唐突な風を切る音と共に、世界が変わった。

 

 数人の人と数台の車だけを水平に見ていた筈が、いきなり視界が青空だけで埋め尽くされた。

 地球による束縛もない、自由な世界。

 ちらりと下を見れば、風にたなびく洗濯物。どうやら寮の屋上よりも高くにいるようだ。爽やかに吹いている風が心地よい。

 その、完璧な浮遊の感覚に浸るまもなく、

「・・・・・・っ!?」

当然のように重力に引かれ、落下していく。

 そう感じてから理解するまでにも、景色は高速で移ろっていく。さながら映画のワンシーンのように、窓ガラスが何度も何度も目の前を通りすぎていく。まともに目で追っていたら酔ってしまいそうだ。

 顔をひきつらせて、こうなった元凶である自らの妹の方を向く。その表情を見ると、完全にいつも通りの落ち着いたものだった。

「酔わないで下さいね?」

 一言、そう呟いた直後。詩歌の足が道端に立っている街灯を蹴り、それまでの下から引かれる感覚が一転、ジェットコースターのような前方への急加速を感じた。落下の慣性が消えないままの急加速によって強い力がかかり、一瞬、意識を手放しそうになる。

 それになんとか耐えている間に、そんな当麻の様子はつゆ知らず、次々と街灯を蹴り、跳躍して行く。タンッタンッ!という音と共に結構――――というかかなり速いスピードで進んでいるらしく、どんどん建物や、道路を走っている車達を追い越して行く。どう考えても、少女が――――いや、人間が出せる速度ではない。

 この街では異常ではない超常、異能のチカラ。

 超能力。

 身体操作。

 その名の通りに、自らの身体を操る能力。

 レベルは4、大能力者。肉体変化のように身体を変化させて他人に成りすますことも出来るし、身体能力を変更して今のようなあり得ない動きをすることもできる。この能力を持つものは少なく、割とレアな能力だ。

 その能力をもって、詩歌は当麻――――自分より一回り以上大きい男子高校生を抱えて軽々と跳躍を繰り返しているのである。

 だが、この能力はあくまで自分の身体を自由に操るものだ。自由度はかなり高い能力だけれど、その効果は自分以外には及ばない。

 つまり。

 

 上条当麻は、普段ならあり得ない動きによってシェイクされまくる。

 

 ゴゴッ!!

「・・・・・・はっ」

 鈍い音と共に我に返った。

 いつの間にかジェットコースターのような動きは止まっており、目の前の風景が切り替わっていた。

 爽やかな風が吹いている澄んだ青空の下から、同年代の少年少女が集い、様々なことを学ぶ場所。すなわち、学校の教室へと。

 それも、どうやら上条当麻が在籍するクラスのようだ。

 周囲を軽く見回してみるが、宣言通りに自分をここまで運んできたのであろう詩歌の姿は見当たらなかった。

 代わりに目の前には、見慣れた二人のクラスメイトの姿。先程の鈍い音の原因は、この二人だったようだ。

 最初に、金髪にサングラスをかけたチャラそうな少年――――土御門元春が口を開く。

「よーやくお目覚めかにゃーこのくそリア充めが!!朝っぱらから見せつけてくれやがって、一体どれだけカノジョ作れば気がすむんじゃボケがぁ!!!!」

 第一声がこれである。

 続いて、その隣にいた青髪とピアスが特徴の大柄な少年が、

「つーか自分より遥かに小柄な女の子にお姫様だっこされて登校とか、どんなブルジョワ様ですかっちゅー話ですよ!今すぐ頭全力でぶつけたれば入れ替われるかな!?いやむしろ、ぶっ殺して剥いで被った方が正確か!?」

「何を剥いで何を被る気だ!?ってか、そもそも殺すんじゃねえ!!朝から物騒すぎだぞお前ら!?」

「うるさいにゃー!自分の妹(小柄な美少女)に自分を運ばせるなんつー鬼畜な真似をした上やんには正義の鉄槌をくれてやるぜい!!」

「善意と好意と嫉妬と願望と逆恨みの怖さを思い知らせてやるわー!!!!」

「くっそ・・・・・・!!人が気絶している間の出来事なのに理不尽すぎるぞテメェら!!まずは他人の話を黙って聴きなさい!」

 こうして始まった戦は、担任教師である月詠小萌が教室に入ってくるまで続いたのだった。

 

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