「凄かったねー、戦車道!!」
「力強さがいいよな。モサっぽくて!!」
「絵になりますよね!!創作意欲を掻き立てられます!!」
「いっぱい写真撮った!!」
大洗女子学園の練習試合が終わってから30分は経とうとしていたが、初めて見る戦車道に興奮冷めやらぬ4人はまだ試合の内容について盛り上がっていた。
「戦車道にハマってくれるのは嬉しいんだけどあなた達いいの? 大洗女子学園の人たちに用があるんじゃなかったの?」
「「「「あっ。」」」」
談笑していた4人の顔が固まる。
「もしかしたらあそこのまいわい市場で買い物している学生がいるかもしれないから行ってみなさい。」
「す、すみません!! ありがとうございました!!!」
大洗まで案内してくれたうえ、助け船を出してくれた老婆に感謝しながら別れの手を振り、急いで市場へ駆けていく望未たちだった。
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「この新作のアイスも美味しいですね。」
「も~う、華食べ過ぎ!!」
「うるさいぞ沙織・・・眠い。」
「練習試合とはいえやはり勝つと嬉しいですね。これも西住殿の指揮のおかげです!!」
「ありがとう、優花里さん。」
練習試合が終わり市場でショッピングを楽しむ大洗女子学園戦車道履修者のあんこうチーム。久々の陸地を楽しんでいると
「あ、あのっ!!」
突然後ろから声を掛けられる。振り向くと自分たちと歳が変わらないであろう制服姿ではない少女4人が立っており、バイク用のゴーグルを首に下げている子が紙を手に持って一歩前に出てくる。
「な、なんだろう。あっ!!もしかして私たちのファンかな? やだもーどうしよう!!」
「揺らすな沙織、それはないから安心しろ。」
はしゃぐ沙織にジト目で制止する麻子だが役目は果たせていない。
「何か御用ですか?」
先程まで食べていたコーンアイスをどこかに消した華が尋ねる。
「大洗女子学園の方ですよね?」
「はい、そうですが。」
「そちらの学園のつ、
「つのたに?」
聞きなれない名前に「はて?」と首をかしげる華。後ろにいた4人も互いに目をやり確認し合うが誰もはっきりとしない顔なのがわかる。
「ちょっとそちらの紙を見せてもらっていいですか?」
「あ、はい。どうぞ。」
此処、大洗まで来るきっかけとなった依頼書を渡す少女。少し距離を取っていた後ろの4人も興味がわいたようで受け取って熟読する華に近づいて手紙を覗き込む。
「ああ!!
「えっ?
「望未、だっせー!!名前間違えてやんの。」
「あ、逢衣ちゃんだって特に何もツッコまなかったじゃん!!」
「ま、まあまあ望未さん落ち着いて。」
「かどたにって読むんだぁ。」
軽く言い合いを始める者、それを止める者、マイペースな者。各少女たちの反応を呆然と見ていたあんこうチーム面々の視線に気づいたのか、咳払いをして各自横一列に並んで姿勢を正す。
「すみません。私達、所沢からその角谷さんの依頼で来たんです。私、
「
「
「
「これはご丁寧に。私、大洗女子学園2年の
「同じく大洗女子学園2年の
「
「・・・
「
全員の自己紹介が終わるかに思えた時、
「あーー!!さっき戦車から顔出してた人じゃん!!」
逢衣がみほの自己紹介を遮りみほの顔を指差す。失礼な行為と思い、望未が「ごめんなさい」と言おうとみほの方を向くが
「あっ!!本当だ!他の戦車をバンバン撃破してた戦車の人だ!!」
「あの奇襲は良かったですよね。」
「その時のモニターの写真撮ってあるよ。」
「ちー坊ナイス!!どれどれ?」
「「「おお~~!!」」」
またもや4人の世界に入ってしまう。みほが「あの~」と控えめに声を掛けるが写真に夢中で気がついていない。しかし対するあんこうチームも
「やだ!!私達褒められてるよ!!」
「褒められてるのは西住さんだ。おまえは褒められていない。」
「さすがです!!西住殿!!」
「バンバン撃破・・・何か素敵な響きですね。」
「あは、あははは。」
同じ世界に入っていたので乾いた笑いをするほかないみほだった。
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「なるほど。角谷会長のところに行きたいわけですね。」
「会長ならもう学園艦に戻ったと思うよ。多分学校にいると思うからよかったら案内しようか?」
「でも私達は移動手段が戦車だぞ。」
「あっ、それは大丈夫です。私達全員バイクなんで。」
「バイク!! 是非見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「いいぜ。その代りアンタが乗ってる戦車も見せてくれよ。」
「逢衣ちゃん自分のバイクじゃないでしょ!!!」
気を取り直して本題に入り、こんなやり取りをしつつ学園艦に乗り込むことになった望未たち。戦車に先導されながら大洗女子学園へ向かう。道中、初めての学園艦に視線を忙しくキョロキョロとさせて「船の上なのに住宅やコンビニがある。」といった感想を漏らしていた。そして目的地の大洗女子学園に着き、戦車倉庫の脇にバイクを止めさせてもらって生徒会室まで9人で歩く。
「すみませーん、会長。お客様をお連れしました。」
全員を代表して華が生徒会室のドアをノックする。ドア越しに「お客様?まあいいよー。」という楽観的な声が聞こえたのでドアを開けて、「どうぞ。」と望未たちを先に入室させる。部屋に入ると高い背もたれ椅子のある作業用の机ではなく、応接用の机の方の椅子に腰かける生徒会の3人が見えたので4人はその近くまで歩み寄る。
「はじめまして。私達、マッチャグリーンの代理で来ました平和請負人です。生徒会長の角谷さんは・・・?」
「私だけど・・・・マッチャグリーン?」
背丈の小さいツインテールの少女、杏が干し芋を手を使わず口だけで食べながら器用に喋り、訝しむ表情を浮かべる。
「こ、この依頼書を送られたと思うんですけど・・・」
その表情に望未が焦りながら杏に手紙を渡す。
「・・・・あーーー!!!!マッチャグリーンさんね!!はいはい!!」
いつもの明るい表情になりコクコクと頷く杏を見てほっとする望未。しかし
(何ですか会長? マッチャグリーンって?)
(いや、もしも戦車道で1回戦とかで負けた時の保険として所沢の平和請負人ってのをやってる人に手紙出しといたんだよ。廃校の件、相談に乗ってもらおうと思って。もしくはあの役人ぶっ飛ばしてくれないかなって(笑) まさか本当に来てくれるとは思わなかったけど・・・でも後ろに西住ちゃん達いるから理由話せないね。 )
(それに代理人って言ってましたよ。)
(そうなんだよね~。どうみても年齢が私たちと同じくらいだし、これは無駄足させちゃったかな? ちょっと聞いてみよ。)
「ちなみにマッチャグリーンさんは?」
「今ちょっと怪我で入院してまして・・・それで私たちが代理で。」
「なるほどなるほど。」
(これは詰みだね。せっかく来てもらって悪いけどこの石あげて帰ってもらおうか。)
(役人に呼び出された帰りに突然降ってきたあのハート型の石ですか?)
(そうそう。)
長いヒソヒソ話をする生徒会3人に不安を覚える望未たち。声を掛けようかと望未が手を挙げようとした時
「あーーーー!!!」
本日2度目の声での遮りをする逢衣。深くため息をつきながら望未は問う。
「逢衣ちゃん今度は何?」
「船が動いてる!!」
生徒会室のすべてガラス張りの窓を指してアワアワとする逢衣。
「「「えっ?」」」
思わず首を窓に向ける3人。そこに映るのは船が動いたことで発生する人工の白い波がゆっくりと海に溶けていき、そして港が小さくなっていく風景。まぎれもなく船が動いている証拠だった。
「あ、あの、学園艦って何日か停泊するって聞いたことがあるんですけど・・・」
結季奈が確認の為、恐る恐る杏に尋ねる。
「んー? ああ、今回は練習試合の為に無理言って大洗に一時的に停めてもらっただけだからね。すぐ出発するんだよ。ちなみにしばらくは大洗に戻らないし、他の港にも着かないよ。」
「「「「えっ・・・えーーーーーーー!!!!!!!」」」」
杏の返答に4人の叫びが生徒会室全体に響いた。