「大丈夫、大丈夫。ちゃんと定期連絡船はあるからそれで帰れるよ。私が呼んだせいだからね、手続きはこっちでやっとくから安心して~。」
杏の言葉に胸をなでおろすバイク乗り4人。しかし結季奈がある問題に気づく。
「それはそうと・・・泊まる場所、どうしましょうか。辺りは暗くなって来てますし早く決めないと。」
生徒会室から見える夕日はもうすぐ置いてけぼりにできそうなくらい小さくなってきていた。結季奈の言葉に「あー」と考え込む望未に杏は追撃をかまそうとする。
「ちなみにこの辺ホテルとかは無いからね。」
「あっ、それは大丈夫です。私達、テントを持ってきてるんで。どこか張れる場所があれば・・・」
「じゃあ学校に泊まりなよ!! グランド使っていいからさ!」
「ええええっ!! いやでも、悪いですし。」
「いいから、いいから。」
「あ、あの。こういうのって普通、先生とかに許可取らないといけないんじゃ・・・」
「ん? ああ、もしかしてみんな本土の学生なの?」
「はい。今夏休みで。」
「そっかー、じゃあ知らないかもねー。学園艦はね、生徒の自主性を重んじるから決め事の権限が結構生徒に任されてるんだよね。だから生徒会長の私が許可を出せばオッケー! ニシシッ、ブイ!! にしても夏休みかー、いいなぁ。」
「・・・学園艦って凄っ。じ、じゃあお言葉に甘えて・・・・」
突然の提案に一度は断ろうとしたものの、杏の押しと笑顔のVサインで急遽大洗女子学園に泊まる事が決定。しかしまだ何か大事なことを忘れているような気がする望未。その表情に気づいたのか結季奈が耳打ちをする。
(望未さん、月明かりの石の件!!)
「あっ、そうだった。会長さん、月明かりの石・・・・依頼内容とハート型の石の件なんですけど、具体的に私達は何をすれば・・・・」
「・・・うーん、そうだねぇ~・・・じゃあ明日、西住ちゃん達と練習試合してよ。戦車貸してあげるから。それで石あげるよ。」
「「「「「「「「「ええええええええっ!!!!!」」」」」」」」」
望未達4人のみならず後ろにいたあんこうチーム5人からも声が上がる。
「ちょっと待ってくれよ会長さん。私らは今日初めて戦車道を知った素人だぜ。勝てるわけないだろう!!」
逢衣がすかさず抗議を入れるが
「勝ったらあげるなんて一言も言ってないよ。別に勝敗は関係なしに引き受けてくれたらあげるよ。」
「じゃあやる。」
「決まりぃ~」
「ちょっと逢衣ちゃん!!」
毎度物事を勝手に決めてしまう逢衣が今回も決めてしまった。その後もお決まりコースで、望未による説教が始まったが状況は変わることはなく諦めた望未が後ろにいたあんこうチームに「すみません、明日よろしくお願いします。」と深々と頭を下げると「こ、こちらこそ。」と頭を下げ返す面々。そして少し重い空気が流れる。そんな空気を変えたい一心で優花里が望未たちに話しかける。
「あ、あの!!私もご一緒にキャンプしてもよろしいでしょうか? テントも自前のがありますので!! 野営ならお任せください!!」
ビシッと敬礼を決める優花里。突然の申し出に「あの、えーと」と答えあぐねていると
「面白そう!! ねぇ、みんなでテントの中でガールズトークしようよ!!」
「私、テントの中で寝たことがないので楽しみですわ。」
「ふむ、学校なら帰らなくていいから早く寝れそうだな。」
「でしょ? みぽりんも来るよね?」
「うん!! とても楽しそう!!」
かくしてバイク乗り4人とあんこうチーム5人が一緒にキャンプをすることになった。すぐに優花里の指示のもとグランドの隅にてんとを張り、焚き火を起こしてカレー作りが始まり、優花里のサバイバルグッズを見た逢衣が話し掛けてその話で盛り上がったり、学校に行ったことのない千綾が華に学校を案内してもらって喜んだり、沙織が結季奈に頼んで自分の絵を書いてもらい、その絵を見た麻子が腹を抱えて笑い、望未とみほは学園艦と本土の学校の違いについて普通に話したりして楽しく時が過ぎていき、あっという間に就寝の時間となり全員すぐに横になると穏やかな寝息をたてた。
「んっ・・・喉、渇いた。」
全員が寝静まって幾時間か過ぎた後、望未は睡眠欲よりも喉の乾きが勝ってしまい目が覚めた。目元を擦りながら全員を起こさないようにのそりと起き上がり、つま先を立てて移動し、テントの外に出る。夏の夜の風に肌寒さを覚えながらも潤いを求めてグランドの水のみ場まで歩を進める。
「んっ、んっ・・・・ぷはーっ。」
水道の蛇口で自分の欲を満たして一息つく。眠気も少しとれ、目も夜に慣れてきた。するとグランド脇にあるベンチに座り、星を眺める人物が目に入った。
「西住さん」
「あっ、森友さん。」
「望未でいいですよ、たぶん同い年ですよね?」
「じゃあ私もみほでいいよ。」
「えっと・・・みほ・・・さん」
「はい、望未・・・さん」
「「・・・・フフフフフフッ。」」
お互い呼び捨てで良いと言ったのに思わず敬称をつけてしまったことに笑う二人。じゃあ無理に変えることはないかと、このままでいきましょうという結論になった。何をしていたんですかと望未が聞くと、星を見てましたと答えるみほ。見上げた黒の天井には幾星霜も散りばめられた小さな光があった。感嘆の声をあげる望未にみほは微笑みながら、ふと浮かんだ疑問を投げ掛けてみる。
「あの、そういえばさっき聞き忘れてたんですけど、どうして望未さんは旅をしているんですか? 生徒会室で『平和請負人代行』とか言ってましたけど・・・」
「ああ、あれですか。えーと、実はですね・・・・」
バツの悪そうな顔をしながら頭を掻き望未は語りだす。
「私、近所に住んでる年上の凄い強いお姉さんがいて、その人が『平和請負人』という揉め事を解決する仕事をやってて、本当のお姉さんみたいに思って慕ってたんですね。向こうも本当の妹みたいに接してくれてたんです。でも昔その人が私をビックリさせようとして川で溺れているフリをして、それを本気にした私が助けようと飛び込んで私の方が本当に溺れちゃって・・・以来私に対して必要以上に過保護になってしまって私を守るために大怪我をしちゃったんです。各地から揉め事処理の依頼が来てるのに・・・・私、通知表に「普通です」って書かれるくらい何も取り柄がないんですけど、それが嫌で、何ができるかわからないけどその人のために何かしたくて、だから『平和請負人代行』として依頼があった場所を巡っているんです。他の3人とは成り行きで一緒に旅してるんですけど。」
言い終わってから数秒たって「しまった。話が重すぎた。」と望未は思っていた。しかしみほから発せられた言葉は
「・・・似てる。」
という意外な言葉だった。
「えっ?」
思わず聞き返す望未に「ご、ごめんなさい」と手を振るみほ。首を横に振り、気にしていない意を伝えると「今度はみほさんの話が聞きたい」と言葉を続けた。ゆっくりと深呼吸してみほは自分の過去を語り始める。
「えっと、どこから話そうかな? 私にも自慢のお姉ちゃんがいてね・・・私ね、本当は戦車道、やめたかったの。実は私、戦車道の2大流派と言われてる家元の娘で、昔から色々と厳しくて・・・前はこことは別の学校に通ってて、そこは戦車道大会9連覇してる名門校だったの。でも10連覇がかかった決勝戦で、川に落ちた戦車を助けようとして・・・・ううん、私のせいで負けちゃったの。それからお母さんにたくさん怒られて、戦車道のみんなにも合わせる顔がなくて・・・逃げるように戦車道のない大洗女子学園に「普通」の生活を求めて転校して来たの。でも今年から戦車道復活しちゃって・・・って感じで。今のチームも成り行きで出来たようなもので・・・。」
そこで言葉を切るみほに望未はもう一度空を見上げて言う。
「確かに何となく似てますね、私達。飛び出した理由は正反対ですけど。」
「あっ、本当だ。」
「「・・・フフフフッ。」」
本日2度目のお互いに笑い会う二人。そして
「明日は試合、お願いします。」
「こちらこそ!!」
握手を交わしてテントへ戻るのだった。
翌朝、あんこうチームⅣ号 VS 戦車を借りた望未達チーム(ルノーB1)の練習試合が始まろうとしている。
ちなみに 車長、望未 砲手、千綾 装填手、逢衣 操縦手、結季奈 である。
まあ結果がわかりきっている試合ではあるが唯一の予想外があるとすれば、
「パンツァーフォー!!」
「パ、パンツァー・・・結季奈ちゃん!! 反対方向に向かってる!! 逢衣ちゃん!!ちーちゃんを煽らないで!! ちーちゃんも落ち着いてからでいいから・・・・今撃っちゃダメーーーー!!!!!」
学園長の車がまた壊されたことであろうか。