これで望未達とみほ達が一緒に過ごした夏はおしまいです。
望未達が大洗学園艦に来て数日、いよいよ定期連絡船が来る日の朝になった。ここ数日間に望未達は他の戦車道履修者達に紹介され、ある時はバレー部に誘われ、またある時は好きな歴史上の人物について聞かれ、さらには乗ってきたバイクが魔改造されかけることもある濃厚な時間を送っていた。
テントをたたみ、荷物をバイクに収納して連絡船までの時間をグランドでぼーっと過ごす望未。なんとなく見つめてる視線の先にはバレー部と一緒にスパイク練習をしている逢衣の姿がある。もともとアクティブな逢衣はすぐにバレー部の面々と仲良くなった。ちなみに荷物の片付けを手伝わなかったことに関してはもう何も言わないことにした。バレー部員(廃部済)の佐々木あけびがトスをあげ、力任せに腕を振り、ボールに当てる。しかし球は遥か彼方の方向へ。
「いや〜、野球だったらランニングホームランだったかな〜!!」
わけのわからないこと言ってる、と思いながらため息をついてるとトコトコと千綾が近づいてきた。
「どうしたの? ちーちゃん。」
「写真、撮りたい、みんなで。・・・今日でお別れだから。」
「あっ、 いいね! 撮ろう撮ろう!! 結季奈ちゃ〜ん、逢衣ちゃ〜ん、みなさ〜ん!」
その場にいた全員に写真撮影の件を伝えるとバレー部員達が「じゃあ私達が全員を呼んできます!!行くぞ、お前達!根性〜!!」と別れて戦車道履修者を呼びに行ってくれた。その間に千綾のデジカメをセットしていると
「おはよう、望未さん。」
「あっ、おはよう、みほさん。みなさんも。」
「おはようございます!いい朝でありますな!!」
「おはようございます、望未さん。」
「おはよう、のぞみん!! 聞いたよ、写真撮るんだって?」
「・・・・おは・・・よう。」
「冷泉さんは死んでますね。」
「麻子は朝弱いから・・・それよりも写真!! 全員集まるまで時間がかかるからまずは4人だけで撮ってみたら? 撮ってあげるよ。」
沙織の提案に頷き、デジカメを手渡す千綾。戦車倉庫の前に並ぶ4人のバックにはⅣ号戦車、その前に望未、逢衣、結季奈、千綾が液晶画面に映る。
「はい、撮るよ〜。3、2、1。」
ピピッという電子音が聞こえ、思い出が1枚追加された。
「今度はあんこうチームのみなさんで撮ったらどうですか? ちーちゃん、いいよね?」
「うん。」
デジカメの持ち主の千綾に許可を取り、今度は自分が撮る側にまわろうと沙織からカメラを受け取ろうとするが、
「あっ、大丈夫大丈夫。全員で撮るときの練習としてタイマーで撮るから・・・セットしてと・・・」
慣れた手つきでテキパキとカメラをセットしてチームメイトに「並んで並んで!」と指示する。そしてレンズを見つめ
「多分これでOKだよね? よしっ!! 撮る・・・きゃ!!」
タイマーを押して一列に並んでいるメンバーの元へかけていく沙織。だが途中で盛大に転んでしまう。一同驚くがすぐに立ち上がり「ヘーキヘーキ」と言いながら頭に手をやり、もう片方の手でヒラヒラと空気を扇ぎ
「あっ‼タイマー切れるよ!みんなカメラ見て!!」
数秒後に先程と変わらない電子音が鳴り、カメラの容量が少し減る。液晶画面を見て、みほ達の微笑みが無事に収められているのを確認するとなんとなく嬉しくなる望未達4人。
「なあ、今度は9人で撮ろうぜ。」
「逢衣ちゃん、たまには良いこと言うんだね。」
「どういう意味だよ、望未。」
「お、落ち着いてください2人とも。」
「いつものノンスケとウータンとゆきっペのやり取りだ。」
千綾のツッコミにクスクスと笑いながら「そうみたいだね。」と返すみほ。それにつられるように笑い出すあんこうチーム。揉めていた3人もこの様子にお互いに見つめ合って笑い合うしかなかった。写真を撮るには最高の雰囲気のなか、すかさず千綾はタイマーを押し「みんな!!」と声をかけると全員そのままの笑顔で時を切り取る電子音が聞こえた。
「あっ、先輩達だけ先に撮ってる!」
「ずるーい!!」
他の戦車履修者達も続々と集まり、デジカメはこの後大忙しだった。そして目的だった戦車道履修者全員とバイク乗り4人の集合写真は撮ることが出来た頃には出発にちょうどいい時間だった。
校門前にバイクを並べ、「ありがとうございました!」と数日間お世話になった大洗女子学園とみほ達に一礼する望未達4人。
「ちゃんと手続きはしといたから安心して。」
「ありがとうございます、生徒会長さん。」
「望未さん、気をつけてね。」
「ありがとう、みほさん。会えて、話が出来てよかった。準決勝頑張ってね。」
バイク運転用のグローブを外して右手を差し出す望未。それを両手で包み込むように握るみほ。過ごした期間はわずか数日だが、それでも、確かな友情の種は植えられた。
「でも・・・正直言うとやっぱり不安かな。この先の旅で何があるかわからないし、何が出来るかもわからないし。」
自分の心の声を正直漏らす望未。ネガティブな行動にみえるかもしれないが言いかえればそれだけみほのことを信頼しているのだ。
「大丈夫だよ。」
その信頼に応えるようにみほは言う。
「だって・・・1人じゃないから。私もみんなに出会えたから戦車道を続けられたの。」
後ろを振り返るみほ。あんこうチームの面々は照れ笑いを浮かべる。
「だから大丈夫。響さんと小坂さんと御園さんが一緒なら。」
強く望未の目を見つめて手を握るみほ。
「うん。」
短く、だけど力強く言葉を返し、手を離す。ヘルメットを被り、バイクに跨がってキックしエンジンをかける。その音が別れの合図。さよならは言わず、無言のまま手を振り、走りだす。どんどん小さくなっていく望未達の背中をみほ達は見えなくなるまで振り続けた。
大洗学園艦で過ごした望未達の数日の夏が今、終わった。
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Bonus Track
西住みほ様
お久しぶりです。お元気ですか?私は元気です。そして戦車道全国大会優勝おめでとうございます。まさか廃校がかかっていたなんて知らなくて後からニュースで知りました。だから余計に優勝して本当に嬉しく思ってます。私達の方はあの後、各地を転々として依頼をどうにか・・・こなせた、かな? 色々あったんだけど今度会えた時に直接言います。・・・そして私から大事なお知らせがあります。ちーちゃん・・・千綾ちゃんのことなんだけど、諸事情で急に自分の生まれ故郷に帰らなくちゃ行けなくなったの。千綾ちゃんは実は日本の生まれじゃなくて、もう多分会えないかもしれないの。でも千綾ちゃんが残してくれた写真がいっぱいあるの。大洗で撮った写真もあるので同封しときます。千綾ちゃんの件の詳細も直接会って話せたらと思っています。それではお体に気をつけて。
森友望未より
森友望未様
お久しぶりです。お手紙と写真ありがとうございます。とても嬉しいです。あんこうチームのメンバーも喜んでいました。そして・・・千綾ちゃんの件ですが残念でなりません。皆さんと過ごしたのは数日だけでしたがそれでも私、そして私達、大洗女子学園のメンバーにとっては宝物のような思い出だからです。是非、お会いした時にお話を聞かせてください。ちなみに大洗ではあんこう祭りという有名なお祭りが11月にやりますので皆さんで来てください。お待ちしています。
西住みほより
自室で手紙を読み終えた望未は送られてきた封筒に丁寧にしまい、「思い出コーナー」と書かれたコルクボードに立て掛け自室を後にする。コルクボードには望未達が各地を回ったときの写真が貼ってあり、その中の1枚に望未達4人とあんこうチーム5人の笑顔の写真があった。望未達が大洗女子学園で過ごした一夏の思い出の確かな証拠がそこにはあった。
その後、再び廃校の危機になったことを聞きつけ、大洗から北海道へ向かうフェリー、さんふらわあに乗り込むバイクが2台あったのは別のお話。
Secret track
「おーーい!!!みほさーん!!」
「あっ!!望未さん!! ようこそ大洗へ。そして、ようこそあんこう祭りへ!!!」