宇宙彷徨記   作:山南修

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自分探しの旅に出かけても見つかるわけがない。自分が変わらなければ、どこに行っても一緒だ
藤宮官九郎



第三話 廃墟

A.D.3501/7/28/1256

New Frontier(ニューフロンティア)星系第四惑星Inspire(インスパイア)から0.01光秒上空

 

 空間に突如として穴が空き、一隻の船が飛び出してくる。船は勢いそのまま艦尾スラスタを使い惑星へ落下していく。

 

「FTL航法終了、惑星へアプローチする」

 

 〈エタニティートレッカー〉が重力に引かれ徐々に加速していく。慣性制御システムのお陰で船内は常に船体に対して垂直した方向に重力が発生しているが船外は惑星へ向かって引かれ、その重力の違いから余裕を持たせた船体から若干軋む音がする。

 

「重力制御システム補正値を修正、アプローチ適正速度は13km/sです」

 

 アマリアが報告してくる。個人的にはちょっと速い気もするが〈エタニティートレッカー〉(こいつ)の船首スラスタは重力の強い惑星対策で従来型より増強された上、重量が少し軽いから妥当なんだろう。

 

「ああ、増速及びアプローチ角度を修正。36度から55度へ」

 

 操縦桿を少し倒し惑星に対する角度を深くする。推力を調整しつつ、惑星に接近する。

 

「1000kmまで接近、13km/sから3km/sまで減速する」

 

 四つある大型船首スラスタが全力で噴射し輝きが船橋内で反射する。

 

「アプローチ角度55度から45度へ修正して下さい」

「アプローチ角度45度へ、目標地点確認。見事なものだ」

 

 船首望遠鏡が惑星上の残骸を捉える。計画的に作られた碁盤状の巨大な都市は管理者がいなくなりはや100年。見えている範囲でも倒壊したビルや橋、植物が侵食している地区、錆び付いた看板や飛ぶゴミなどが目につく。巨大な産業廃棄物を目にする恐らく今後唯一の機会だろう。

 

「まもなく大気圏に突入します」

 

 アマリアが警告してくる。私は受け答えシールドを強化し、下面に広く厚く展開した。

 

「大気圏突入。地表まで120秒です」

 

 前方で大気が圧縮されちょっとした熱を放ち赤く光っている。ちょっとしたと捉えた私に疑問を抱いたが、恒星や一部惑星の温度に比べれば充分低いためその表現で問題ないと判断した。どのみち脆い人間は生きていけないのだから。

 

「300m/sまで減速して下さい」

「300m/sまで減速。雲に入る」

 

 前方の赤い光が消えたところで視界いっぱいに雲が広がる。次の瞬間には雲に包まれ後方の雲が消えた。そんなに厚い雲では無いようですぐに雲が切れ廃墟が目の前に広がる。

 

「これが一時は興隆していたポーラ宙域中枢都市か。長安や平泉に通じるもの……いやこの場合はチェルノブイリか福島か?」

「人が廃れて廃墟になったという意味なら地球だけでも長崎の軍艦島、ペンシルバニアのセントラリアなど。第三次世界大戦以降なら幾つかありますがここまで巨大な都市で戦闘の後もなく廃墟になる例は他にありませんね」

 

 ふむ、この宙域の都市の多くは。いや人類が撤退した大きな都市の多くは末期、主に物資不足から戦闘が起きている。その規模はゲリラ戦から市街地戦、核攻撃など様々ではあるが戦闘が起きなかった場所はほとんどない。

 

「ここは計画的に住民が退去したお陰だな。生体センサーになにか反応はあるか?」

「植物以外若干数の鳥類、魚類以外何もありません。汚染が広く広がっているためと判断します。現在スペクトル分析や磁気反応などで汚染状況を調査中です」

 

 防護服は一応用意しておこう。そうだ、着陸場所だ。

 

「アマリア、〈エタニティートレッカー〉はこのまま上空からの調査を。私と君の義体は内火艇で地上降下する。いい着陸場所をさかしてくれ」

「了解しました。着陸場所は中枢都市中心部の公園跡地にします」

「公園跡地か。道路は車両と残骸で溢れているし妥当か」

「汚染分析結果が出ました」

 

 横にスクリーンが出てくる。産業廃棄物の山からの環境汚染物質が周囲を汚染。動物は生息できず現有の植物は環境汚染に適応した二種しか確認できない。恐らくその二種は繁栄する高さが違うため共存していると見られる。防護服は必須と。

 

「まもなく降下地点です。内火艇を起動します」

「よし、下に降りよう」

 

 私は自動操縦装置を起動した上で操縦席をたった。まっすぐ船橋後部のエレベーターに向かい第三甲板まで降りる。格納庫構造上直通ではないためだ、船底の大型ハッチがあるため仕方ない。調査、探索用の甲板となっている第三甲板の通路を進みエレベーターに乗る。一層降りて格納庫だ。ここには一隻の内火艇と二両の陸上車がある。内火艇は連邦軍でも現役で私もさんざんお世話になった代物でやや四角い船体と飛び出た2つの翼が特徴的だ。陸上車は低重力下でも使いやすいようにスラスタがついていて六輪の虫のようなものと8輪駆動の装輪装甲車を改造した調査車の二両だ。今回は調査車を内火艇に載せて降りる。運転席に乗り込みエンジンを起動し内火艇に積み込む。積み込んだ後格納庫の一角の武器庫から適当に障害物撤去目的で爆薬と擲弾発射器を持っていく。護身用の拳銃は肌身離さず持っている。

 

「アマリア、化学防護服はどんな感じだ?」

 

 アマリアの声がイヤホンから聞こえる。

 

「現地の環境に最適化しました。場所によっては必要ないので脱ぎやすいようにしています」

 

 私は普段からボディースーツにタクティカルベスト、ベルト、更に足にホルスターとポーチをつけた格好をしている。収納できて動きやすく、ヘルメットをかぶれば簡易宇宙服にもなる優れものだ。化学防護服はそれを包み込むように着るので正直かなり動きにくい。脱げるならさっさと脱ごう。

 

「それはありがたいな、もう積み込んだか?」

「はい。搭載済みです」

 

 なら、すぐにでも出発しよう。私は内火艇の後部ハッチを閉め中央左のハッチから乗り込んだ。倉庫区画を抜けコックピットに入る。船体からせり出した視界の広いコックピットだ。個人的に製造元の船はかなり好きだ。シールドがない時に稀にコックピットがステーションや船にめり込んで操縦者が圧死するが視界の良さには勝てない。どうせ死ぬ時は死ぬ。

 

「下部ハッチオープン」

「下部ハッチ開きます。ガイドビーコン展開」

 

 目の前のハッチが開き荒廃した土地がよく見える。

 

「内火艇〈フェアトン〉出る」

 

 〈フェアトン〉が格納庫内のカタパルトのお陰で勢いよく飛び出る。私は操縦桿を押しそのまま降下体制に入った。この惑星の大気はまだ一気圧を保てているお陰かそんなに飛びづらくはない。前に数百気圧の中を偵察艦で行った時は激しい気流と水中にいると錯覚するほど舵が重く二度と飛びたくないものだ。

 〈フェアトン〉を公園跡地に降下させた時〈エタニティートレッカー〉は音を立てて別の場所に向かった。こっちが満喫する頃には全域で調査が終わっているだろう。

 

「とりあえず調査車を降ろそう」

 

 防護服を着込みながらアマリアに言う。調査車のドアを開け乗り込む。これ以降、乗り降りはエアロック兼消毒室がある後部を使わないと行けないのが面倒だ。後部ハッチを開きバックで下ろす。地面はタイルの隙間から雑草種が生えているが走りやすかった。操縦はアマリアの遠隔操作に任せ私たちは車を降りる。

 

「思ったより空は澄んでいるな」

 

 それが最初の感想だった。

 

「推測ですが空中に舞っていた汚染物質は既に降着したかと」

 

 そんなに早く降着するのか? と思いつつつ膝をつき植物を調べる。……各ELP惑星でよく見られるような雑草。耐性がつきやすく繁殖力が高いのが特徴。やはり他の動植物の多くには毒となる物質を生じている。これが地上の勝者か。面白い。適当に植物を刈り取り瓶に入れ蓋を閉じる。立ち上がり、調査車の側面小型ハッチに瓶を入れ標本として持って帰る。標本を手に入れたところで改めてあたりを見渡す。公園に木はなく周囲を囲っているビルがよく見える。窓が残っているものもあれば近くのビルの倒壊や飛んできた破片で割れているのもある。ベンチは骨組みだけになっていてゴミ箱は錆び付いて倒れている。

 

「ポストアポカリプスか……」

 興味深く、面白く、美しいが寂しいものだ。

 

 ステラ・ソリチュードは巨大な廃墟に心を奪われつつ調査の準備をするのであった。

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